[遊bbs]
―SS/詩―
小説や詩、イラストなど、どしどし投稿してください。
画像のアップロードも出来ます。

Reply to the Message [41]



[HOME]  [BACK]  [返信を書き込む]  [記事検索]  [管理用]


現在主流のストーリーの話 2014/06/17/21:50:23 No.41  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 顔を上げたとき、少女の目の前には鬼がいた。
 両親を交通事故で亡くし、遠縁の親戚だという会ったこともない人物たちの家に引き取られた。両親を亡くした悲しみと、見知らぬ人々との生活という息苦しい毎日の中で、時々する夜の散歩だけが少し彼女の気持ちを楽にしてくれていた。
 霧の出ている夜だった。その日も同じような息抜きでこっそりと家を抜け出したのだ。家の周りを少し歩き、コンビニにでも行って帰ってくる。ただそれだけのいつもと同じ散歩の道程……のはずだった。
 輪郭は周囲の霧と同じようにぼんやりとしている。だが、霧と同化することなく、目視できるレベルでソレは確かにヒトの形をしていた。身長は2mは超えようかという巨体。丸太のように太い腕や脚。頭部は霧で覆われているかのように白く、顔は判然としない。しかし、その霧を突くようにして伸びる角のようなものがある。
 鬼だと、再度彼女はそう思った。コンビニからの帰り道、1m先も見えるか見えないかという濃度の霧に包まれた。思わず近くの家の塀まで手探りで進み、一度立ち止まり下を向けていた顔を上げたらそこにいた。

 「……ァ。」

 喉の奥から掠れた声が出た。本来なら叫び声を上げて逃げ出したいのだが、身体はまるで金縛りにあったかのように動かない。目をそらしたいのに、ソレの動作から目が離せない。
 鬼が腕を振り上げた。次の瞬間、それが振り下ろされる。
 彼女の意識はそこで途絶えた。

2回目 2014/06/17/21:52:09 No.42  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 アシハラ国東区第一都市。国の主要組織が集まる都市区画。退魔組織「タカマガハラ」の拠点となる事務所もまた、そこにあった。
 先代の総代が急死し、その引き継ぎ問題などもようやく一段落した初夏の昼下がり。その一報が舞い込んできた。

「鬼が出た?」

 小柄な体躯には不釣り合いともとれる重厚な執務机に向かい、書類に目を通していた着流し姿の少女が顔を上げた。
 タカマガハラ総代、東方院八千代。流れるような黒髪と少し紫みを帯びた黒瞳が印象的な少女だ。四方の壁を本棚で覆い尽くし、執務机や来客用のソファにテーブル、絨毯の敷かれた洋風の室内にもかかわらず和服を着ている姿はなんとも言えないが、それを指摘する者はこの組織にいない。

「はい。西区第二十都市での出来事のようですな。今朝方の第一報でそのように。詳細は向こうでも掴みきれていないようですが、退魔士が10人ほど病院送りになったとの報告がありました。幸い命に別状はないようですが、しばらく復帰は無理だと。」

 それに対するは型どおりの執事服を一分の隙もなく着こなした初老の男。このタカマガハラにおいて東方院家に仕える執事セルジュ=ハウンドだ。

「西区の第二十都市と言えば、破魔と鳳凰院の管轄でしょう。どちらも退魔家としては古参ではないですか。いくら相手が鬼とは言え、そのような下手をうつとは思えませんが?」

 八千代は書類の紙を机へと置き、眉をひそめる。この国の退魔の歴史の中でも特に古くから存在する二家の名はその界隈では知らぬ者がいないくらいの有名どころだ。どちらの家の退魔士も一線級ばかりが揃っている。いくら鬼が魔の中でも高位に位置する存在とは言え、10人もの人員を投入して何の成果も得られないとは考えにくい。彼女の反応ももっともだった。

「はい。ですので、再度こちらより情報開示の要求を打診しております。また、念のため平行して独自に調査を開始しております。結果は後ほどまた報告にあがりますが、まずはお耳に入れておこうかと思いまして。」
「なるほど。相変わらずの対応です。では、何かわかればお願いします。私はもう少しこちらの書類を片付けておきますので。」

 穏やかな笑みを浮かべるセルジュに、八千代もまた微笑を返した。この執事の有能さは疑うべくもない事なので、今日中にはだいたいの概要は把握できることだろうと内心で頷く。

「畏まりました。では、昼食はいつもの時間にお持ち致します。」

 一礼をして去って行く執事を見送り、八千代は再度先程の書類へと目を落とす。書類の内容はどれも緊急性のない事務的なものばかりだった。目を通し、「可」であるか「不可」であるかの判断を下すだけなため、10分もすれば片が付く。

「ん……。」

 手を組み、イスの背もたれに身を預けて伸びをする。事務作業に凝り固まった身体の各所からポキポキと音が鳴る。一つ息を吐くと、彼女は軽く首を回して立ち上がった。窓辺まで歩いて外を臨めば、晴れ晴れとした空の下を行き交う人々の姿が見える。
 平和なその情景をなんとはなしに眺めていた彼女の耳を電子音が震わせた。袂に入れている携帯電話からのようだった。

「はい。東方院八千代です。」

 取り出した二つ折りの携帯を開く。そのディスプレイに表示された名前に少し驚き、彼女は通話ボタンを押すと軽く髪を払いながら携帯を耳に当てた。

「……。それは本当ですか?」

 携帯から聞こえる声を懐かしむ暇もなく、八千代は眉をひそめたのだった。

3回目 2014/06/17/21:52:32 No.43  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 彼女が目を開けばそこは知らない天井だった。
 かつて慣れ親しんだ実家でもなければ、両親が死んだ後に引き取られた家の自室でもない。その二つともが洋室で、自分はベッドで寝ていた。しかし、今自分が寝ているのは布団で、その部屋は確かに和室だった。
 疑問が身体に浸透し、現状の把握ができない頭が混乱に揺れる。自分はどうしてここにいるのか……?
 それを思い出そうとして、すっと開かれた襖から入ってきた光に思考は中断させられた。今まで寝ていたせいか、随分と光がまぶしく感じる。手で目を庇いながら、そこに立つ人物へと視線を送る。

「お。起きてたか。」

 その声は少年だった。姿は逆光でどうにも判別しない。

「おはようさん。っと、悪い悪い。眩しかったか。」

 少年が部屋に入ってきて襖を閉める。それで目を差す光は遮られ、ようやくその姿を確認することができる。
 背は割と高い方か、170cmの中盤から後半はある。癖のある髪の毛と、微妙に波打ったモミアゲが特徴的だ。胴着に身を包み、タオルを肩からかけているところを見ると、何かの武道をやっていてその練習後のように見える。ともあれ、自分とは違ってこの和室にはよく似合った人物に思えた。しかし、その姿には確かに見覚えがある。

「武島くん?」

 その名前を口にする。武島優司、同じ学校でしかもクラスメイトだ。だが、今まで特に接点を持ったこともなければ、しゃべったこともあまりない。そんな彼が何故か今目の前に立っていた。

「おう。麻生さんだよな。って、なんかえっらい不審な目で見られてないかオレ。まぁ、待て。落ち着きなって。ほら、昨日のこと覚えてないか? 覚えてたらそんな目しないよなぁ。あーっと……。」

 訝しげな表情をしていたのだろう自分の顔を見て、優司は急に慌てだした。最終的に後ろ頭をかきながらなんと言ったものかと考え込んでいる。

「えっと……。」
「あー。まどろっこしいのは好きじゃないんで単刀直入に言うとだ。昨夜の話、暴漢に襲われそうになったのをオレが助けたんだけどな、すぐに気を失っちまったんでとりあえずオレの家に運んだってことだ。やましいことは何もないぞ。うん、何もないぞー。」

 こちらが疑問を投げかけるよりも早く、優司が本当に単刀直入な解答を出してくれた。が、その最後は何故か目を泳がせながらの弁明になっていた。
 しかし、彼女にそれを気にかけている状況ではなかった。暴漢、その言葉で去来する記憶があったからだ。
 霧の道路、脇道から出てくる人物。何事かを喚きちらしながら向かってくる。その恐怖。
 知らず、自分の身を抱いていた。迫り来るその人物に抱いた恐怖は、思い出しただけで身を震わせるに足るモノだった。

「あー、あー。心配すんなって。ここはもう安全だから。いや、オレが安全じゃないとか言われたら困るんだが……。こういう場合同性が最初に見に来ればいいんだが、あいにくお袋と妹はさっき出かけちまってなぁ。くっそもうちょい出発遅らせてくれても良かっただろ。ま、まぁ、とにかくここは無事だ。心配ご無用ってな。」

 そんな彼女の様子にわたわたと手を動かしながら安心させようとする少年の姿を見て、

「ふふっ。うん。ありがとう。」

 麻生ラピスは恐怖も忘れて思わずの笑みを浮かべていた。

4回目 2014/06/17/23:49:31 No.44  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
「お、おう。あー、喉渇いてないか。水でも持ってくるわ。それと、落ち着いたら家の方に連絡な。一応、名簿で調べて昨日のうちに連絡は入れといたけどさ。どうも、家の電話の方は留守電のままで直接連絡は取れてないんだ。メッセージは入れといたけどな。」

 その笑みに何やらドキっとしたとかしないとか、口早に告げると返答も聞かぬままに優司はそそくさと部屋を出た。
 クラスでは大人しめであまり目立たないキャラだったが、笑うと結構かわいかった。

「って、そーじゃねーよ。」

 何を一目惚れっぽい描写をしているんだオレ、落ち着けオレ。と、自身に言い聞かせながら、止まっていた足を思い出したように動かす。純和風の屋敷を少し歩けばそこだけ洋風なキッチンとダイニングが存在している。一家四人で暮らすにはいささか以上に広いこの屋敷には他にも時代錯誤な竃やらなんやらが置いてある台所もあるが、基本的には現代風のこちらを使うのが普通だった。

「水と……。一応なんか軽いモノでも持ってくか。なんかあったっけか?」

 コップを用意して水を注ぎ、即席で食べられるようなものがあったかと冷蔵庫を開ける。

「優司。あんまりつまみ食いしなさんなよ。」

 冷蔵庫の中を覗いていれば、後ろからかかる声。優司が振り返れば、そこには自分とよく似た髪型とモミアゲを持つ、自分よりちょい老け気味の男が立っていた。ぶっちゃけると父親だった。
 武島龍治。この武島家の家主であり、退魔士としての武島家の長でもある。
 武島家は古くからこの地にある退魔の家で、昔から「タカマガハラ」の総代である東方院家との繋がりもある。とは言っても、今の武島家は没落したと陰口をたたかれるレベルで弱体化している。かつてはこの広い屋敷に構成員がごまんといたという話だが、先々代あたりからはその数を減らし、今では一家4人しかいないという始末だ。おかげで大きな事件にもほとんど関与せず、街の治安維持程度の仕事がほとんどだった。
 昨晩、麻生ラピスを助けたのもその関連での話だった。

「違う。あの子が目を覚ましたから水となんか食べ物でもと思っただけだよ。」
「ああ。目を覚ましたのか。それは良かった。んじゃ、野菜室にゼリーがあったと思うから持ってってやりなさい。」

 父親の言葉に従えば、確かに野菜室に器に入ったゼリーがあった。確か2日前くらいに知り合いの喫茶店の店主が送りつけてきた新商品だったか。味は上々だったが、この家の人間を新商品の試食係にして勝手に送りつけてくるのはどうかと思う。しかも着払いで。

「お袋とシャロが全部食べたと思ってたんだが、まだ残ってたのか。」

 ラップをはがし、水の入ったコップと一緒に盆にのせる。スプーンも忘れずに添えておかなければならない。

「んで、電話の方は終わったのか? なんかあったんだろ? 仕事の方で。」

 優司は戸棚からスプーンを取り出して、置きながらさっき日課のトレーニング前にどこぞに電話すると言って長電話モードに入った父親のことを思い出し、聞いてみる。

「ん? ああ。すんだよ。しばらく賑やかになりそうだけどね。」
「は?」

 含みのある龍治の言い方に、首を傾げる優司だったが、ウィンクと人差し指を口元に当てる「それは秘密です」ポーズを繰り出した父親に対してはさすがに口を引きつらせるしかなかった。

「ぜんっぜん、似合わないからな。それ」
「うん。知ってた。ま、それはともかく、オレはちょっと準備やら買い出しがあって少し出かけてくるから、その間留守番よろしくな。言っとくけどお嬢さんに手を出すなよ青少年。」
「しねーよ! 行くならはよ行け。ったく」

 はっはっは。と笑いながら去る父親を手で追い払い、優司は盆を持って部屋へと戻るのであった。

5回目 2014/06/18/23:56:59 No.45  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 何やら少し遠くで騒ぐ声と笑い声が聞こえた気がした。
 この家の住人の生活音というものだろうかと、ラピスは考える。考えて、ふと胸に去来する感情があるのに気づき、慌ててその考えに蓋をした。
 普段は考えないようにしていることがふと出てくるのは寝起きだからか、それとも昨晩の出来事が祟っているのか。ため息を一つつき、彼女はゆっくりと布団から出た。衣装はいつもの自分の服ではなく、温泉宿などに置いてあるような浴衣姿だった。
 そんなことにも今気づき、自分の服はと視線を巡らせれば枕元にきちんと折りたたんで置いてあるのを発見する。たぶん、さっき会話に出てきた優司の母親ないし妹が着替えさせてくれたのだろう。間違っても優司自身が着せ替えたなどと言うことはないはずだ。

「ない、よね……。」

 思わず何かを想像しかけてブンブンと頭を振る。いかんいけないダメだ。どうも寝起きのせいかおかしな考えが右から左へ流れている。ここは一つ朝日を浴びて気分を変えよう。そうしよう。
 と、ラピスは立ち上がって襖を開けた。
 眩しい。
 日の光はこんなに眩しいモノだっただろうかと、手でひさしを作りながらそう思う。単純に目が慣れていないだけなのだろうが、その感覚がなんとも新鮮だった。
 日の光に清められるとでも言うべきか。そんな感覚があって、それに身をゆだねていれば徐々に目も慣れた来た。
 改めて見回したそこは中庭のようだった。寝ていた部屋からも想像できる和風な庭園だ。よくは知らないが木が植えられていたり茂みがあったり池があったりしている。シシオドシといったか、あのカコーンとするようなやつは見当たらないが。彼女が抱く感想は一つだ。

「広い……。」

 あまり接点はなかったとはいえ、普段の振る舞いなどから見るに武島優司は学校ごく普通のクラスメイトだと思っていた。しかし、こんな武家屋敷のような広い家に住んでいるとは、武島家はお金持ちの家庭のようだった。
 縁側に立ってそんなことを考えていると、横から足音が聞こえる。

「お。もう立っていいのか……って、別に怪我でも病気でもなかったな。水持って来たぞ。あと、食べ物な。ゼリーだけど。」

 彼女が振り向くよりも先に、足音の主である優司が声を発した。そちらを向けば盆の上にコップと容器を乗せた彼が横に来るところだった。

「部屋に戻るのも面倒だし、ここで食べてしまってもいいぞ。昼前だからまだそこまで暑さもないしな。」
「えっと。じゃあ、ここで。」

 どうする? と首を傾げてくる優司に、もう少しこの日差しを感じていたかったラピスは希望を告げる。「あいよ。」の声と共に彼が腰を下ろしたので、同じように縁側に座り、差し出された盆を膝上に乗せた。

「い、いただきます。」

 まずはコップから水を一口。冷たいものが喉を通る感覚で自分が空腹だったことを思い出すかのように胃が活動を始めたのがわかる。なるべく、お腹が鳴らないようにと願いながら、次にスプーンを手にゼリーを食べる。

「おいしい。」

 口の中に広がるリンゴのさわやかな酸味と甘み、冷たいゼリーの食感が実に心地良い。

「口に合ったようで何よりだ。っても、別にオレが作ったわけじゃないんだがな。知り合いのが作って送ってきたヤツなんだが、今度感想は伝えておくさ。あいつも喜ぶ。」

 カラカラと笑いながら、優司が廊下に後ろ手に手を突いて空を見上げた。
 初夏の空は青く、白い雲が悠々と泳いでいる。休日の朝ということもあって、穏やかさを象徴するかのようだった。
 しばしの沈黙。会話が途切れる。ラピスはゼリーを黙々と口に運び、優司は空を見上げてぼーっとしている。

「なんか、晩年の老夫婦みたいな空気になってるが、大丈夫か?」

 そこに割り込む第三者の声に、二人は飛び上がった。

「って、親父かよ。驚かせるなよ。買い出しに行くんじゃなかったのか?」

 振り返り、いち早く復帰した優司が声の主である龍治に半眼を向ける。

「武島くんの、お父さん? あ、お邪魔、してます。」

 次に我に返ったラピスがわたわたと会釈を送る。

「はい、おはようございます。その様子じゃ特に問題はなさそーね。よかったよかった。」
「こっちは無視かよ。買い出しはどうしたかって聞いてるんだよ。」
「そりゃこれから行くに決まってる。行く前に一応、お嬢さんの確認をと思っただけさ。」

 立ち上がって父親の前に立った優司をなだめすかし、龍治がその頭に手を置いている。
 その様子を眺めながら、ラピスはなんとはなしに思い浮かべた言葉があった。

「あの、武島くん?」
「「はいな。」」

 が、苗字で呼んだのが行けなかったのか、二人の武島が反応した。確かに、二人とも武島だが。

「って、親父じゃねーよ。何で麻生が親父を武島君って呼ぶんだよ。」
「おっとっと。つい反射的にね。でもまぁ、ややこしいんだし、ここはいっそのこと名前で呼んだらどうかな?」
「え?」
「……え?」

 思わずな発言に、少年少女が一瞬停止した。

「何を驚きなさるよ。ここは武島家だから、武島君じゃあ誰が誰だかわからないってわけだ。そういうわけで、ここはいっそこいつのことは「優司」って呼んでやってちょうだいな。」

 そんな停止している息子の頭に手を置いてグリグリとやりながら、龍治が含みのある笑みを浮かべて困惑顔のラピスを見る。

「おいこらクソ親父。何を勝手に「はいはい。遠慮はいらない。こっちとしても、その方がわかりやすくてありがたいんだ。」
 頭を上げようとする優司を押さえつけ、龍治が促す。結構な力が入っているのか、優司の頭はびくともしない。しかし、押さえつけている龍治のその表情は余裕のにやけ顔だ。

「あっと……。その……。えっと……。優司……くん?」

 どうにも呼ばなければ場が進まないようだったので、ついに根負けしたラピスはその名を口にする。そして、異性の名前呼びとか実に恥ずかしいです。助けて下さい。と言う感じにもじもじしていた。

「ビューリホー。ナイスショット。ま、ここにいる間だけでいいからよろしく頼むよ。」

 ラピスの言葉に、似合わない気がするのに妙に様になっている茶目っ気たっぷりなウィンク一発、龍治は息子の頭を解放すると、二人に背を向けて去って行く。

「っておいこらクソ親父待てゴルァッ!」

 ようやく解放された優司がその後ろ姿に怒鳴るが、もちろん立ち止まる気配など微塵もなかった。

6回目 2014/06/19/00:53:08 No.46  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
「お父さんと仲良いんだね。」

 龍治が去った後、優司は疲れた様子で再び座り込む。その背中に苦笑の気配と共にラピスの声がかかった。

「完全に息子いじめだろアレ。結構本気で頭ホールドしてたぞ。」
「でも、そういうスキンシップができるのは仲の良い証拠だと思うよ。」

 少し痛む頭頂部をさすり、優司は一瞬ハゲる心配をする。いや、大丈夫だぞーう。うちは今のところ誰もハゲる気配はないからな。

などと、心中の一人掛け合いなど知るよしもなく隣に座り直すラピスに視線を投げる。
 日の光を浴びてキラキラと輝く銀髪。アシハラではあまり見られない瑠璃色の瞳。顔立ちもどちらかというとアシハラではなく大陸

系な感じがする。名前から察するにハーフということなのだろう。あまり前に出たがらない性格のせいか、クラスでは目立たないポジ

ションにいるが、よくよく見てみると目立つ容姿だ。

「そういえば、昨晩名簿で見た麻生の今住んでいる家って苗字が違うよな。下宿か何かか?」

 そこまで考えて、ふと名簿を見たときの違和感を思い出した。麻生ラピスの現住所には、最後に「八馬家」という注釈が入っていた

のだ。
 軽い気持ちの質問だったが、その効果は劇的だった。先程まで笑みを浮かべていたラピスの表情が一度凍り付き、少しずつ笑みの形

が抜けていく。それから少しの間を置いて、今度は張り付いたような苦笑が浮かび上がった。

「え……。あ、う、うん。親戚の家……かな?」

 そして、出た言葉がそれであった。今の質問に彼女が何を感じたのか、そしてあの間に一体何を考えたのか、まともに言葉を交わし

たのもこれが初めてな優司にはわからないが、触れてはならない話題だったことだけはよくわかった。

「あー。うん。すまん。これ以上この話はなしな、なし。っていうか連絡だよ。昨日連絡つかなかったんだから、一日遊び歩いてたこ

とになってるかもしれないぞ。ほら、早く連絡したほうがいいって。」

 本当は家の話題から離れたいが、離れられないこの悲しさよ。己がボキャブラリーの貧しさに内心で涙を流し、優司は貼り付けたぎ

こちない笑みで話題を微転換した。

「あ。そ、そうだね。連絡しないとね。えっと……携帯は。」

 そんな優司の心情を悟ってか、ラピスもまた同じような笑みを浮かべ、自分の衣装を触って携帯を探す。しかし、今彼女が着ている

のは本来のものではなく、この家で用意された浴衣だ。携帯が見つかるわけもない。

「携帯? あー、確かシャロが洋服の横に置いてたと思うが。ほら、枕元の。」

 その様子に、優司は妹の言葉を思い出し、親指でラピスが寝ていた部屋を示す。ラピスがその指の先を目で追い、立ち上がると部屋

へと入っていった。

「あ。あった。えっと……。」

 部屋の中からそんな声が聞こえ、携帯を握りしめて戻ってきたラピスが三度縁側に腰掛けて二つ折りのそれを開く。

「へぇ。今時の女子陣ってみんなスマートホン持ちだと思ってたんだが、麻生さんはガラケー派か。」
「うん。使いこなせそうにないし。変えてる暇もなかったし。あれ?」

 苦笑しながら画面を見たラピスの表情が曇る。その液晶に表示されているのは着信履歴で、昨晩から立て続けに着信があったことを

示していた。表示名は「八馬 柾木」、彼女が厄介になっている八馬家の長男からだった。

「柾木さんからだ。」
「家の人か? そりゃ、年頃の女子が連絡もなしに一晩帰ってこなかったら心配するだろうさ。何で家の方の電話に出なかったのかは

わかんないが、ラピス本人にはかかってきてたんだな。早くかけ直した方が良いんじゃないか?」
「うん。そうだね。」

 優司の言葉に頷き、ラピスが携帯を操作して電話をかける。コール音がしばらく鳴った後、向こうとの通話が繋がった。

「あ。柾木さん。ラピスです。」


現行ログ/ [1] [2] [3]



Reply to the Message [41]

Name E-Mail
U R L Pass半角英数8字以内
Title
Message
<A>,<FONT>,<B>タグのみ使用出来ます。
文字色
File1
File2
File3
File4
添付ファイルは 大きさ97KB以下、 拡張子を jpg, gif, jpeg, mid, png, txt, mp3 )にして下さい。
問題が解決したらチェックして下さい。


No. PASS
No. USER PASS

[前の画面に戻る]
[TOP] [Admin]