「は?」
ミストのあげる素っ頓狂な声に、他の客が振り向いた。普段の彼女からはあまりありえない(感じがある)し、また音量が大きかった。
「いやだから・・・ これやってみない?」
彼女と話している、あまり良い格好とは言えない男、アロルドが手に持った小箱をしきりに薦めていた。
「これさえ飲めば理想の肉体とお肌のツヤが手に入る! 名づけてアロルドリンFX2(仮)! 小さい胸だってちゃごはぁ!?」
ミストの鉄拳が顔面にクリーンヒットする。
「・・・・・・」
衝撃で倒れるアロルドを、彼女は怒りのこもった笑顔で見つめていた。
「い、痛ったいなぁ・・・ なにもグーでぶつ事はないでしょうよ」
頬をさすりながら起き上がる。
「・・・で、何で僕にそれを薦めるワケ? それにね、そんな変な薬作るのは月だけで十分なの」
「月・・・・・・ ハッ、いかんいかん」
「? どうしたの?」
「はっはっは、気にするな。それよりもこれ」
「い・ら・な・い」
にっこりと、満面の笑みでミストは拒否する。因みに月と言う名を聞いてアロルドがひっそりと対抗心を燃やしたのは秘密である。
「・・・・・・第一さぁ」
溜息を一つもらし、心を落ち着かせた後、ミストが口を開く。
「今のままで満足してる・・・ って言い切っちゃったら嘘になるけど、このままでも僕は十分なの」
「そんなもんか・・・・・・?」
「君だってそうじゃない?」
「 ・・・・・・あ〜 」
「なに、その間」
間抜けな顔で答えたアロルドに、苦笑する。
「とりあえず、この話は無かった事に・・・ 変な話して悪かったな」
ふ、と緩んだ顔をある程度引き締め、小箱を小脇に抱え立ち上がる。
「アルは元から変だから気にしてないよ」
「あらら」
ズッコけるアロルドに、ミストは思わず噴出す。
「・・・んま、俺はこれで」
「ん。もう帰るの?」
「これでも一応、忙しいんでね」
へらへらと笑いながら、アロルドは去っていった。
ミストは彼の後姿を見送りながら、小さく溜息をついた。
――――後日、月が似たような効果の薬をこっそりミストに飲ませたのは秘密だ。
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