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日記。
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2013/09/13
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何日振りかしら。 こうして、文字を書くのもとても久しぶり。 随分と間が空いてしまったけれど、思い出しながら綴ってみましょう。
あの日、数日分の買い物を済ませて、私は馬車で送ってもらっていた。 店の店主は親切で、良くこうして、ツリーハウスのあるあの場所の近くまで 荷物を運んでくれていた。 あの日も夕焼けがとても綺麗で、私は店主の操る御者台の隣に座っていた。
「夏ももうじき本番だねぇ。今年は雨がもう少し降ってくれりゃぁ、この地の作物もちったぁマシになるだろうに。」
そんな店主の他愛も無い話に相槌を打ちながら、私は彼の隣に座り、馬の背の向こうに見えてきた集落と、迎えに出てきてくれた子供達をとても幸せな気持ちで眺めていた。
いつもの、風景だった。
急に眩暈がして、力が吸い取られる感じがして、私の魔力が消えた。 人の姿が崩れるのが、判った。 何故?どうして、急に? 胸がどきどきして、息が詰まった。
けたたましい馬の嘶き。 軋み、折れる馬車の御者台。 店主が悲鳴を上げてもんどりうって御者台から転げ落ちる音が聞こえた。 少し先で、目を見開いて、明らかに怯えの色を浮かべ、トッドにしがみ付いて泣き出したのは、まだ幼いライアンとジェミニカ。 口を押さえ、息を呑むのは大人しいマリー。 怒った様な、青ざめた顔はトッドとラリィ。
『バケモノ』 あの声は、誰が発したものだったんだろう。
飛んできたのは、石。 店主が叫びながら逃げていくのが目の端に映った。
「バケモノだ」
私は慌てて森の中に逃げ出した。 走って、走って、走って、目に飛び込んできたのは イーザクとセドリック、ダニーの姿。 イーザクの手には、私の核の入った箱が抱かれていた。
セドリックと、ダニーの悲鳴。 イーザクの青ざめた顔。
ああ、核を持ち出したのだと、奪ったのだと気付いた。 渡すまいとするように、イーザクがあの箱を、しっかり抱きかかえて、今にも泣き出しそうに顔を歪めて、踵を返して駆け出すのが見えたから。
理由は判らなかったけど、何か事情があるのは、判った。 悪戯をする子じゃあ、無い。 そっけない子ではあったけど、優しくて、真面目な子だったから。
だから、ただ逃げた。 核は、諦める事にした。 あの子から、核を奪い返す気には、なれなかった。
そうして罵声を背に、飛び込んだ。 昔、イルと出合った、あの空間の歪へと。 あそこに行けば、イルが居ると、そう思ったから。 あの頃の様に、美しい泉と、倒木に腰掛けて本を手に、いつもの冷たい無表情で此方を振り返る彼女の姿を思い浮かべて。
飛び出したその場所は、見知らぬ景色だった。 イルと出合ったあの泉は、何処にも見当たらなかった。 変わりに、広がっていたのは一面の花畑。
何だか、気が抜けてしまった。
卵から孵ってから、ずっと居たあの場所は、もう戻れない。 イルの気配は僅かにあった。 此処に居るのは間違い無さそうだが、何処に居るのかまでは判らなかった。
花は咲き乱れているから、飢える事も無さそうだし、此処までは追いかけてこれない筈。 もう、どうでも良いと思った。
2日目の夜、人の気配がした。 脅かしてはいけないと、身を伏せた。 それでも、人の気配は嬉しくなる。 気付かれなければ、此処からそっと様子を眺めようと思ったけれど 聞こえたのは、子供の声。
「何だろう?誰かいるのか・・?」
そんな事を言いながら、子供は私に近づいてきた。 なんて物怖じをしない子だろう。 可笑しくなって、つい笑ってしまう。
怖がるか、逃げ出すかと思っていたら、思いも寄らない声が飛び込んできた。
「竜の方ですね!!あ、あの!こんばんわ・・!」
弾んだ様な子供の声。
いつもの様に、仰々しく話す。 人間は畏怖する者。 そう教えてくれたのは、イルだった。 だからそれからはずっと癖のように。 人間と話す時は、いつもこうして話していた。 私は武器を持たないから、身を守る為の虚勢だった。
少年は、竜と友達だったと言った。 竜であっても物怖じをしない、寧ろ目を輝かせる少年。 私はその竜が羨ましくなった。
私を竜と知っていて、親しくしてくれる者なんて、私には1人も居なかったから。 唯一私を竜と知っていた、同族であるイルさえも、私を疎んじているようだったし。
だから、冗談半分に言ってみた。
「私の最初の友達になってくれまいか?」
少年は、直ぐに返事をくれた。是非、と。 あまつさえ、涙まで浮かべて。 そうして私の頭を撫でてくれた。
暖かくて、優しい手だった。
…あら、いやだ。 まるでこれじゃ、小説ね。 続きは、明日書くことにしましょう。 ゆっくり、ゆっくり、綴れば良いわ。
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