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イラスト 2012/04/25/09:57:17 No.1  
案内  
イラストはこちら

※添付ファイルの大きさは48KB以下だから気を付けて下さい
ドット絵(13×13) 2022/11/18/14:10:18 No.56  
辞書の虫  
ヒト型ドット絵を
限界まで小さく描く挑戦をしてみました。
(左は原寸。右は拡大)
削除済み 2022/11/30/19:02:05 No.57  
削除済み  
この記事は削除されました。

小説 2012/04/25/10:40:51 No.3  
案内  
小説はこちら

※文字数は約3000文字くらいまで
 txtも添付できます
忘れられぬ夜…の後のお話 2012/05/29/21:11:40 No.12  
えむ  
「おかえr……シズマ…?」

 その日の夜。自宅にいたアリーゼは目を疑った。パートナー件彼氏であるシズマの変わり果てた様子にである。
 一言で言えば疲れていた。だが、それ自体は大したことではない。仕事がハードならよくあったことだから。
 だが今夜は異常であった。なんというか心身共にズタボロにされたような様子だったのである。

「…何か…あった?」

 とりあえず尋ねる。いや尋ねないわけには行かない。それに対し、ふらふらの足取りで部屋に上がったシズマは力なくソファーに倒れこむ。心なしか、げっそりとしているようにも見える。
 声をかけて数分後。シズマの第一声はこれだった。

「……異世界って、怖いな」

 自分が見た限り、色々カルチャーショックはあるが怖いとは思わなかった。ましてシズマがこうなるほどの恐ろしさがどんなものが思い浮かばない。

「…ホント、何があった?」
「あー……」

 改めて尋ねる。するとシズマは片手で頭を抑え、天井仰いでからアリーゼに向かって一言答えた。

「先に言うけど、怒るなよ?」

 そしてシズマは静かに一部始終を話した。
 アリーゼが最近話すようになった異世界と思しき場所に行ったこと。そこで、とんでもない美女二人から好意を向けられて、めちゃくちゃ心が揺らぎまくった事。

「……そんなに美人さんだった?」
「あれは、もはや別次元のものだ。見た目も性格も、誰もが浮かべる理想の女って奴だったな」
「…ん、最後の言葉はしっかり受け取った」
「ちょ?!待て!!銃なんか抜いてどうするつもりだ、お前!?」
「…シズマを殺して、私も死ぬ」
「いやいやいやいや、落ち着けって!!ちゃんとオチもあるんだからっ」

 なにやら目がマジでホルスターから銃を抜くアリーゼをあわてて留め、シズマはさらに言葉を続ける。

「―――ところがな、どっちも男…いや片方は一応女だったんだけど、なんというか本当は全然イメージと違う奴で、どっちが男を落とせるかって勝負のために演じてただけだったんだよ…っ」

 そう言いながら、シズマの手が微かに震え始める。その時のことが再び脳裏に浮かびだしたらしい。

「あぁぁくそっ。今度会ったら、絶対覚えてろよ、あいつらっ…!!本当に、マジで抗うの大変だったんだからなっ!! 挙句に勝ち負けハッキリさせたいから選んでくれとか、ふざけるなって言うんだ。あんなの選べるわけねぇだろ…っ!!てか、無駄にレベル高いんだよ、なんなんだよ。リアクション一つ一つが男心を揺さぶる威力なのに、それをわざと演じてやってたとか、冗談にも程があるぞ?!もういっそ役者にもなっちまえって言いたい、声を大にして言いたいくらいだ!!しかも、片方は思いっきり男だったじゃねぇか。俺は…、俺は…男からのアプローチにあそこまでどぎまぎして、狼狽して―――うぁぁぁぁぁ…」
「……?! シズマ、落ち着く」
「うがぁぁぁぁぁぁ!!やってられるかぁぁぁぁぁっ!!」
「…えい<打撃音>」
「がはっ?!」

 なにやら溜め込んでいたと思われる胸中の一部が噴出したらしく、再び声も大にして独り言を言い出すシズマ。そのうち、テーブルに連続頭突きまで始めたため、やむなくアリーゼは銃のグリップで一撃を食らわせ、大人しくさせることにした。
 少しばかり要領をえないが、ともかくシズマが相当大変な思いをしたということはわかった。基本的に彼は、他の女性に好意を向けられても動じないほうだ。一重に自分と言う存在がいるからというのもあるだろうが、それにも関わらず、心が揺らいだというのだから、彼の言う二人は相当に良い女だったのだろう。
 そして不本意ではあるが、自分に女としての魅力があまりないことは自覚もしている。そもそも必死に抗っていたということは、やはり彼にとっては自分が一番だという事。それはそれで嬉しい。
 それでも心が揺れたことに対しては、軽く(?)嫉妬もしてしまったが、恋人である以上は仕方なのない事だ。これで本当になびいた日には、銃弾で蜂の巣確定でもあるのだけど。
 一応今までになくすごく大変だったことはわかった。それならそれで心が揺れたことについては水に流すとしよう。そして気を失ったシズマの頭をそっとなで、アリーゼは労いの言葉を送るのであった。

「……えと、うん。どんまい」








 余談として、その日の夜以降。しばらくの間、毎晩…シズマは二人の美女から「どちらか絶対に選んで」と迫られる夢(シズマいわく悪夢)に悩まされる事になるのだが、それはまた別の話である。

~おしまい~
いつか君へ届けんが為 2012/07/09/17:30:39 No.13  
猫又  
――これは、とある夏の、月明かりの草原での一幕。






侘しき三つの緒職人ありき
日々飢え渇こうと 通う泥猫や
やるものなぞなしと蹴り
山へ追うも茶飯事
遂ぞ 蓄えも尽き
孤独に伏す 三つの緒職人

月の夜 訪えた白き雌猫
「我が身を三味線に」と ひとつだけ鳴く
いと美しき毛並みたるや
値が付くかと 張り切れど
翌も翌々も来ぬ 泥猫や
届かぬ報謝

青き空 普く響き渡る
優しき音色
君よ 八千代に在れと
願い詠う猫三味線




「おっしょさま、そのうた、なぁに?」

 満月を望む丘の上――
草の上に座っていた十数の猫のうち一匹が、青灰色の羽織を着た一際大きい白猫を見上げ、問うた。
問うた猫はまだ口を利けるようになって間もないぺーぺーの野良猫妖怪。
「お師匠さま」の発音が拙いのも、白猫にとってはかわいいもんである。

 羽織を着た白猫は、問いかけに反応して咥えかけた煙管を下ろすと、その猫へ顔を向けた。
さっきまでそこの仲間と遊んでいたのだろう。茶トラ柄の小さな身体のところどころに、細い草が付いたままだ。

「こいつぁな、あっしのお師匠さまから習った歌さ。」

 満月と同じようにまんまるな瞳をやんわりと笑みに緩め、茶トラに付いた草を剥がしながら、白猫が言う。

「旅の三味線法師さまが歌っていたのを、いつも横で聴いて覚えたんだとさ。」

 告げる最中、その瞳は再び満月を捉えた。
ただし眼差しは、もっと ずっと 遠いように感じられる。

「いいかい、お前さん達。どんな不遇に遭っても、人様を憎んじゃいけねぇよ。
かわりに、その分だけ優しくしてやんな。そうすりゃあ、いつか気持ちが伝わって、大切にしてくれる時がきっと来る。」

 虫の声に紛れて、お月様の寝息が聞こえるんじゃないか という程静まりかえった夜闇に、白猫の声が染み入ってゆく。
煙管から放たれた紫煙が、お星様の吐息と見紛う夜風に靡いて、ゆらり、ふわり、消えてゆくように。

 その普段とは少し違う様子に、いつの間にか十数の猫達はみんな集まって、目をぱちくりさせながら白猫の話を聞いていた。

 ざざぁ と、少しだけ強い風が草原を撫でる音だけが、辺りに響き渡る。

 やがて、白猫が笑顔で猫達を見下ろして 「いいな?」と訊ねると
ぽかんとしたままだった彼らは 「はい」なり、「にゃあ」なり、其々の返事をして、心に留めた事を伝えるのだった。

 ――気持ちの優しい立派な妖怪に育ってくれりゃあ、重畳よ。

 いい返事を聞き 満足気に頷いて、再びお月様と向かい合う。
しかし煙管を咥えたところで、白猫は ふと考えた。


風来坊の親方が、一人の人間と旅をするなんて、珍しい事もあったモンだ。と―――



ある男の最期 2012/07/17/23:03:05 No.16  
hiko  
ある山に鬼が住んでいた。

鬼は四百年もの間、その山を護り続けていた。

数百年前は山の他に護るべき村と、人々が居た。

時代と共に人々は死に、村は絶え、山が残った。

山に住む妖怪達も、荒み淀んで行く自然と環境の中、少しずつ姿を消して行った。

鬼は一人になった。

ソレでも鬼は山を護り続けた。

ソレは鬼の運命であり、鬼の意思でもあった。

仲間と、家族と、愛すべき人々が眠る山を護る。

人々は困窮していた。

数百年積み重ねた業のツケが回ってきたのだ。

他の山々は開発により裸に剥かれ、緑が消え、空気が汚れた。

人々はとうとう、鬼が護る山にも手を伸ばした。

鬼の力を恐れ、遠ざけて来たその山に。

人の言葉を殆ど忘れ、見てくれも恐ろしいその鬼が、

元は自分達の先祖を護り、元は人々と同じ形をしていた等と

人々は知る由も無かった。

鬼は戦った。多くの人々が傷付いた。

しかし幸いにも、命を落とす者は今の所居なかった。

鬼は左腕と、片方の目を失った。

人々は確信する。

これなら勝てると。

人々は古今東西の退魔師を引き連れ、最後の攻撃に出た。

鬼は知っていた。

人々がこの山を訪れた事情を知っていた。

鬼は、人間が好きだった。

------------------------------------------------------------

鳥たちのさえずりが頭上から聞こえ、鬼は目を覚ました。
体を預けている巨木の太い幹から、数羽の鳥たちが飛び立って行く。
立ち上がる力は、もう残されていなかった。
恐らくは胸と首に深く突き刺さった破魔矢の力に寄る物だろう。
―死。
それ自体は怖くは無かった。
ただ、使命を果たせない後悔だけが残った。
鬼の居る場所は、元々は大きな屋敷があった場所だ。
今はその土台部分だけが苔むして残っているばかりだが。

「居たぞ!!こっちだ!!」

人々の声が聞こえた。
と、同時に、己自身の意識が遠のいていくのも、感じた。

―もう頑張るな。消えてやるから。

―大事に使ってくれよ、この山の、木を、土を。

『―善君。』

声が聞こえた。
数百年、言葉すら忘れても、忘れぬ声。
いまわの際の幻かと思った。

『―善君。迎えに来たよ。』

もう一度声がした。
目の前に女が立っていた。
何百年も、色褪せる事の無い記憶の中の姿、
出会った頃の、姿のままで。

「あ…。ぁ・・・。」

声はもう出ない。
女の伸ばしたその手を、鬼は静かに握った。

------------------------------------------------------------

「居たぞ!こっちだ!矢を構えろ!!」
「いや、待て…!」
「・・・もう死んでる。」

大きな戦いが終わったと、人々は歓声を上げた。
生きる為の糧を得る為だ。
人々もまた、必死だった。

「なァ。アイツ・・・。」
「あぁ、泣いてるな。ありゃ涙の痕だ。」
「・・・なァ、俺達よォ。」
「考えるな。生きる為だ。お前にも子供や女房が居るんだろうが。」
「・・・そォだな。往生してくれよ。」


------------------------------------------------------------

「ここは・・・」

見慣れた景色がそこにあった。
数百年ぶり、だが懐かしさは感じない景色。

一本の道。
両側には稲穂の成る田園。
道の先には、大きな屋敷があった。

『皆善君の事待ってたんだよっ。』

見つめた手の平には傷など無かった。
済んだ水に映った己の姿は、人の姿をしていた。

―そうか、やっと―

『早くっ』

女が男の手を引いていく。

―あァ、帰ろう、サハク―

『おかえり、善君っ。』

―俺達の家に―

ある男の最期。
修練場・上 2012/07/30/22:25:34 No.17  
一白  
「お嬢さん。どうでしょう、私と一戦?」
――世界の狭間に存在する神隠しの森の奥。偶然の出会いの後、ダンスでも誘うかのように冗談交じりに発せられた言葉は、
「まあ、良いだろう。時間はまだある」
 彼の予想に反し、現実となった。


 森に囲まれた石畳の広場があった。古びた煉瓦色の石畳が円を描くようにしきつめられ、石造りの小屋が隅にぽつんとあった。
 その広場の中央。
「よろしくお願いします、アルビノ嬢」
 男は会釈をした。日が陰る中、男の黒いコートは宵闇に溶け込もうとしている。
 アルビノと呼ばれた銀髪の女性が男と向かい合って立っていた。黒尽くめの男とは対照的に、白く露出の多い直線的な服で身を固めている。足を覆う白い甲冑。遠目から見れば白と黒が対照的に、夕日の中で映えるだろう。
 アルビノは剣を中段で切っ先を相手の喉に向けるように構えている。剣身はやや太い。刃は切れないように潰されている。
 その表情は冷たかった。剣を含めた彼女全体が一つの武器のような、そんな緊張感が漂っていた。
 アルビノは剣を振って構えなおす。刃が風を鋭く切る。
「……斬りはしない。安心しろ」
「お互いにね。あくまでこれは『模擬戦』なんだから」
 男の右手にも剣が握られていた。アルビノと同様、刃は潰されている。彼の得物は細く華奢だった。そして、彼の左手の黒塗りの杖が、コートに包まれた身体を支えるように立っている。
「…………」
 アルビノの痛いほどの沈黙が広場を覆う。
 石畳はあちこちが欠けて雑草が伸び放題になっていた。その周りを石くれがいくつも転がっている。男は剣を構えず一礼をした。礼をして顔を伏せたその瞬間に、男は瞳だけを動かして周囲の地の様子を頭に叩き込んだ。そして顔を上げ様に、
「では」
 杖で地を踏み、右足と杖を軸に左足を振りかぶり、足元の拳大の石をアルビノの膝頭めがけて蹴り飛ばした。
「!」
 その行動は彼女にとって予想外だった。ほとんど本能的に素早く左足を踏み込み一歩後ろへ引く。その真横を石が通り過ぎた。
「場慣れしてるな」
 男が独り言のように呟く。石が石畳に落ちるのと同時に、アルビノの両足が強く地を蹴った。剣を両手で握り全身がばねのように弾いて、切っ先が男のコートに覆われた懐に飛び込んだ。食らえば肋骨と肺は無事では済まない。
 アルビノは着地して目を細めた。彼女の握る剣の先には黒いコートのみが引っかかっている。そのまま目を横に流すと、数歩離れた先にコートを脱ぎ捨てた男が石畳に転がっていた。
 アルビノはコートを掴み男に向かって投げる。男は杖を投げ捨て剣を抱えて彼女と距離を取るように再び転がり、その勢いで膝をついた。そして杖を左手でしっかり握り、体重をその棒きれにかけて立ち上がる。
「……加減は、しない」
 地に舞い落ちたコートを挟んでアルビノと男は対峙する。怜悧な表情を保ったままのアルビノに対し、剣を構えながら男は微笑みさえも浮かべて、
「レディに手加減されたら私の立つ瀬がないよ。遠慮なくどうぞ、お嬢さん?」
「遠慮など最初からしていない」
 アルビノの言葉を合図に男が動いた。杖を支えに左足で地を蹴り、右手の剣を相手の胸に突き出すように跳ぶ。
「遅いぞ」
 アルビノは冷静だった。鋭い刃が胸に届く前に、すっと己の剣を胸元で寝かせる。
「何っ?」
 男がそう短く言うのと同時に、盾となった彼女の剣身は容易に細身の剣をはじいた。男はとっさに剣を引いて身を引き、剣を石畳の隙間に突き刺して着地する。そして杖を握り直し、剣で身体の均衡を保ったまま、アルビノのふくらはぎへ杖を振るった。
 自然、彼女の足を覆う白い甲冑に杖が当たる。固い音と衝撃が男の手に伝わった。アルビノは甲冑からの振動にも微動だにせず、正面の男の脳天に剣を振り下ろす。とっさに男は細身の剣で重い刃を受け止めるが耐えられるはずがない。
 バキッ。
 呆気なくか弱い剣は真っ二つに折れた。切っ先が弾け飛んでくるくると宙を舞い、石畳に触れて乾いた音を立てた。
「…………」
 ほんの一瞬、アルビノは男の降参を待った。男は半分になった剣を捨てた。
 その間、彼とアルビノの目が合った。アルビノの瞳は冬の湖のように静まり返っていた。
 そして、男の瞳は、
「まだ終わっていないよ」
 琥珀色の瞳は、狐のように狡猾な気性を映し出していた。
修練場・下 2012/07/30/22:28:21 No.18  
一白  
「!?」
 アルビノは息を呑んだ。彼女が剣を振りかぶるのと男が斜め後ろに倒れ伏せたのはほぼ同時だった。杖を地に立て男は身体を起こそうとするが、
「そんな隙を与えると思うな!」
 アルビノの振るう剣が細い身体を支える杖を薙ぎ払おうとする。避けても避けなくても男の体勢が崩れることは必至だった。彼は躊躇無く、杖から手を離した。その手の下を、一閃、剣が唸りを上げて通り過ぎた。
 黒塗りの杖が潰された刃に当たり、折れはせずとも男の手の届かぬ所まで飛ばされる。彼はそれに目もくれず重力に従って地にうつ伏せに倒れる。
「失礼」
 それと同時に男の手が伸び、アルビノの甲冑に覆われた足首を掴んでいた。男は腕を一気に引き上げる。
 男にとってそれは簡単に対抗されるであろう牽制のつもりだった。だが、彼の読みは外れていた。
 アルビノの両足は軽々と持ち上げられた。そして一瞬宙に浮いたその身体は、引力によって男の背中へと落下する。
 間一髪で男は横へ転がった。そのまま石畳と顔を突き合わせたアルビノは、素早く左手で地を着いて、軽々と空中に跳び上がった。しなやかに身体を捻らせ、今起き上がったばかりの男の胸元へ、
 ヒュッ!
 右手首のスナップを利かせて投げた。
 身幅の広い剣は寸分違いなく男の胸の中央に命中し、
「ガハ……ッ!」
 彼の肋骨が嫌な音を立てて、その身体が後方に突き飛ばされた。
 仰向けに叩きつけられて男はすぐに受身を取った。杖が手から離れる。アルビノは猫のように着地し、男の様子を見た。しばらく男は空を見上げたまま動かなかったが、
「あぁ、降参だよ、降参。見事だ、お嬢さん」
 のろのろと手を上げ、掠れた声で宣言した。
 白磁の肌に薄っすらと浮かぶ汗をアルビノは袖で拭った。敗者の元へ歩み寄り、未だ空を見上げる男の顔を覗き込む。
「その身体でよく戦ったものだ」
 男は胸を手で押さえつつ、よっこらせっとため息を吐いて上半身を起こした。
「それはどうも」
 そしてそのまま手を地に素早く伸ばす。手の先には、先ほどアルビノの剣によって真っ二つに折られた、細身の剣の切っ先が転がっていた。それを手で掴んだ。アルビノが彼の怪しい動きに目が行ったときには、
「ハイ。私の勝ちかな?」
 既にその白い喉に剣の切っ先が突きつけられていた。
 アルビノは一度目を瞬かせ、変化の乏しかった顔が珍しく不快そうに歪んだ。
「降参と言った時点で勝負は終わりでお前の負けだっ!」
 上ずった声と共に男の手が平手で叩かれる。切っ先が男の傍に落ち、跳ねて静止する。
「ふふ、悪かったね。お嬢さんの勝ちだよ」
 男は赤い痕のついた手をひらひらさせて微笑みさえも浮かべた。アルビノは鼻を鳴らしてそっぽを向く。だが、男が胸に手を当てて眉をしかめているのを見ると不意に傍に跪いた。そしてほっそりとした両手をすっと男の胸にかざした。
「じっとしてろ」
 すぐに変化は現れた。両手と男の胸元の間に淡い青色の光が灯る。男が目を見開いている間に、ぴしり、と彼の身体のうちで何かが結合する音がした。数分後、男はほうと安堵の息を吐いた。もう痛んでいる様子は無い。
「……ありがとう。もう大丈夫だよ。魔法ってのはやはり便利なものだな……。ああ、すまないが、コートと杖を拾ってくれないかい?」
 アルビノの顔は元の静まり返った表情に戻り、やれやれといった様子で周囲に散らばったコートと杖を拾い上げて男に差し出す。軽く頭を下げて男は受け取り、コートを羽織り、杖をついて立ち上がった。彼は苦笑いを浮かべ、
「年若いお嬢さんに負けてしまうとは、私の腕も鈍ったものだな」
「…………」
 アルビノは無言のまま一瞥し、床に落ちた彼女の剣を拾って小屋の中へ歩いて戻した。そして小屋の扉の前で、森へ向かって何かを呼んだ。
 すると森から足音も無く巨大な白い獣が姿を現した。戦いの前から控えていた、彼女の使い魔だった。堂々たるその体躯に男が圧倒されていると、アルビノはひらりとその獣の背に飛び乗る。
「……お前の、」
「?」
「お前のその足がよく動いたなら、此処でも一人で生きていけただろうな」
 ぽつんと発せられた言葉に、男は押し黙った。アルビノは構わず続ける。
「私は戻る。次に会う時は、死体になっていないことを祈っておいてやろう」
「……ああ。不必要かもしれないが、私も祈ろう。お元気で」
 彼女はその言葉に振り返らなかった。獣に跨ると、獣の白く太い四肢が躍動し宙を舞う。さながら空気を踏みしめるかのように、夜の帳の下りる空の下を白い獣は主を乗せて駆けていく。小さくなっていくその姿を、男は静かに見送った。


「足、か」
 黒尽くめの人形師は、杖をついて元の世界へ帰っていく。

――願わくば、彼女と再び逢わんことを。

 そう心内で呟きつつ。
ficnofic 2012/09/03/15:48:43 No.19  
カタリ  
ガタン!と椅子が鳴った。
また争いだ。
何時も争いが耐えない。
それを当たり前に受け止めている店員、客。
青い髪の青年はそちらも見ずに溜息をついた。
痩せ型の黒い髪の青年…少年と呼んでも差し支えない。
彼は恐怖に怯えた顔をしながらも争いを止めようと、椅子を引き立ち上がった。
「お、おい!何があったか知らないけど、争いは良くないよ!」
精一杯の虚勢を張りながらも、声が震え手も震える。
泣きそうな顔をしながら止める光景は、異様に見える。
喧嘩の主の二人は呆気に取られていたが、我に返ると、黙っていろ、関係ないだろと口々に言った。
いよいよ掴みあいの喧嘩が始まろうとした時、唐突に当事者の二人がもんどり打って床に転がった。
二人を止めに入った震えている黒い髪の青年の横に
青い髪の青年がソードを手から下げた状態で立っていた。
「ほう…かなり早いのお」
少し離れた席に座って居た着流しを着た男が息を吐く。
手に持って居たぐい呑みを口に運んだ。
「ええ、あの位置からの移動、抜刀、残心。流石です。」
じっと動向を見つめて居たのは銀の髪の男だ。
もんどり打って倒れた男らは、何をされたのかも分からないまま、狙いを黒い髪の青年に変えた。
襲い掛かろうとした瞬間、彼らは再び床に転がる事となる。
片方は着流しの男に顔面を蹴られ
片方は銀の髪の男によって顔面に拳を見舞われ
顔を抑えて転がる男達は訳も分からず、店の外へ逃げていった。
「…余計な事を。」
青い髪の男が溜息をつく。
しかし少しだけ笑顔を見せて
「久しぶりだな」
お互いにそう言った。
これはある時代の四重奏の話し。
ある期間だけ鳴らされた音の話し。
今はもう鳴っていない、音の話し。
ficnofic 2012/09/05/14:55:31 No.20  
カタリ  
いつからだろう。
歩みを止めたのは。
いや、歩き出したのか。
少なくとも、今手の内にあるグラスの氷が音を立てるまでの間位は、考えに浸りたいのだが。

思えば、何時も一人だった。
放浪し、依頼の名の元に魔物を斬り
その報酬で次の街へ。
近寄ってきた奴もいたが
俺の態度に皆離れて行った。
無口なのは元来の性格だし、無表情と言われても
可笑しくも無いのに笑える訳がない。
だから俺は一人だったし
そっちの方が気が楽だった。

何が変わったのかは分からない。
ただこの場所には長く居る。
それだけなのに、離れる気がしない。
仲間、なんて酷く幼い言葉が
今は心地が良い。
「何か良い事でも?」
そう聞かれて、初めて笑っている自分に気がついた。
からん、とグラスの中の氷が音を立てた。
「いや、別に」
そう言ってグラスを口に運ぶ。
隣で、うっすら笑んだ気配がする。
「私にも同じものを下さい」
カウンター越しにそう言った。
お互いに会話せず、静かに時を流す。
そういう関係も、悪くない。
静かに、夜は更けた。

狼と狐のその後1 2013/07/23/22:59:24 No.26  
K  
あの時、あの場所で逃げた事。それが後悔の念として現れる事がある。狼は深い後悔に包まれていた。



どうしてあの時に逃げてしまったのか。それを考えれば考えるほど悔やみきれない。その様に考えた狼は――あの闇に包まれた場所へと再び赴くのだった。理由は簡単である。彼女を探す為であった



天狐と言う種族は強大な魔力を有している。あの時に見えた七色の魔力は尋常じゃなく大きい。しかし、大きいがゆえに判別もたやすい事である。



「この魔力…だな」



闇の中、その独特な魔力を見つける事はいくら視界が遮ろうと簡単な事であった。僅かに鼻をひくひくとさせながら歩みを進めていく。



しかし、その足取りは突如として止まってしまう。まるで鋭利な刃物で寸断されたかの様に、魔力の糸がプッツリとこの場で無くなっていたからであった。



「どう言う事だ…?」



狼は呟いた。まさかここで果てたのだろうか。そうであるならば悔やみきれない。不安がよぎる。その瞬間であった。



狼の視界が開けた。闇を切り払うかの様に開かれた視界。一歩だけ足を踏み入れればそこは――光に満ちていた。闇の欠片など一つも無い。



四方は山々に囲まれて自然の恵みをもたらしている。それに空気も非常に良い。まるでここにいるだけでも疲れが癒えそうな、そんな気のする場所であった。



「…これは…」



魔力の糸が、再び現れる。間違いない。彼女はこの地にいる。ここが何処であるかは解らないが間違いなくここにいる事が解った。また再び狼は足を進める。



しばらく足を進めた所であった。目の前にはそびえ立つ建造物があった。



「…なんだ?これは…」



一見すると城であった。建築方式からすれば東洋の城であろう。しかし、城砦の様な堅牢さは微塵にも感じられない。寧ろ、建築美を追求した様な、そんな奇妙な城であった。



魔力の糸はこの城の中へと続いている。入り口は開いていた。無用心であるのか、それとも確固たる自信があるのか。それとも誰も拒まないのか。様々な憶測が流れる。



ただ、優先しなければならない事が一つだけあった。



「…体を小さくしなければ入れない…」



狼はゆっくりゆっくりと体を小さくする。見る見るうちに体は人間サイズかそれ以下へと変貌する。これならばこの城の中に入る事はたやすいだろう。開いている入り口から魔力の糸を追いながら城の中へと入って行った。



城の中は格別、迷いやすい構造ではなかった。所々から木々の良い香りがする。ある部屋では両開きの扉を開けると草の様な心地良い香りのする部屋もあった。



魔力の糸は上の階へと通じていた。音を立てない様に慎重に階段を登っていく。その糸を辿っていけばあっという間に最上階であった。恐らく、彼女はここにいるのだろう。



ゆっくりと、扉を開けた。中は、奇妙そのものであった。見たことも無い箱型の物には動く何かが映っている。その箱には何本も何本も線の様な物が繋がっている。



その線は部屋の壁に差し込まれていた。何の目的で使っているかは解らない。ただ、この部屋は今まで見てきた木々と草で出来た空間とはまるで異なる空間を作り出していた。



果たして。彼女はやはりこの部屋にいた。ベッドの上で横になっている状態であった。狐の耳、そして狐の尻尾。人間の姿でないまま。その彼女が狼の存在に気づいたのか、薄らと目を開けて狼の方を見る。そのままゆっくりと上半身を起こせば、傍にあったスケッチブックとペンを手に持ちさらさらと文字を書いて狼へと見せる。



『何者じゃ……そなたは』



中々達筆で綺麗な文字であった。僅かに感嘆の息を漏らす狼であったが、すぐさまこの様に答える。



「俺が解らないのか?……そんなに邪険になるなって、看病しに来ただけだ」



狼はその様に答えた。この場所に驚きの色を最初は見せた。しかし、目の前で弱弱しく倒れているのならば当初の目的を果たすだけである。彼女はまたペンを進めた。



『…あの時の狼、か…なるほど。だが必要は無い。わらわはこうして安静にしておれば大丈夫じゃ』



「おいおい…お前は死にかけてるんだ。あの女の警護も兼ねて狼を雇うのも悪くない、そう思わんか?」



ペンを取る天狐が何かを書こうとして――止める。やれやれと小さく息を吐きだしてから諦めたかのようにごろんと横になり小さく頷いた。



腹ばいになる黒い天狐の姿を見ればクロウはようやく治療の許可が下りたことに不安が拭い去れると同時に安堵を感じた。幾ら彼女が痛めつけられたのを知り治療をしたいと思っていても、魔力の糸を辿って彼女の家を探し、そして黙って入ったのだ。不法侵入に他ならない。殺されても文句は言えないだろう。実際その覚悟でここにやってきたのだ。拒否の意思を見せたが、自身の言葉に身を委ねる様を見ればこの狼の後悔も薄れる物である。早速彼女の傍に駆け寄って傷を見る。
狼と狐のその後2 2013/07/23/23:00:32 No.27  
K  
彼女の状態は悲惨であった。喉を切り裂かれ、血は垂れ流し放題。並の獣ならばあっという間に死に至る状態と言えよう。巻かれている包帯だけが治療を施した跡と解るぐらいだ。死ななかったのは彼女が天狐であり、自らの魔力で遠ざかる魂を懸命に引き止めたからにほかならない。




もちろん肉体の回復も早いのだろうが、まずは使っている大量の魔力の消費を抑えてやる事が先決だ。



「魔力、俺の使っていいからお前は休んでろ。目を閉じて眠れ。何、そう簡単に逝きはせんだろう」



『……すまぬな…』



彼女は喉を引き裂かれていたので筆談だ。スケッチブックにさらりとそう書けば、次の瞬間から自らの魔力が消費されていくのがわかった。




「ッ、ぅ……」



スーッと体中の魔力が引き抜かれていく感覚。自らの血を彼女に輸血しているようなもので、想像を遥かに超える魔法消費量に彼女には気づかれないように思わず牙を咬む。



彼女の残り少ない魔力では傷の治りも遅かったのだろうが、今では――本当に微かにだが、傷の治りが目に見えるようになった。やはり魔力の多さは傷の癒しを早くするらしい。



『魔力は大丈夫かえ?』



「問題ない。ドンドン使っていい」



『……無理はせぬ事じゃ……しかし、今は有り難い……』



筆談でも表情でもわかる。彼女は本当に申し訳ないのと同時に感謝の気持ちをつづっているのだろう。



「俺の事は心配しなくても良い。俺は、俺がそうしたいからやってるんだ」



『しかし、見ず知らずで初見のそなたに命を助けられるとは思ってもみなかったからのう。初見の相手に遠慮するなという方が難しい話じゃ』




否定はできない。まだ不法侵入でしか彼女の傍に近づけない程度の顔見知りでしかない狼だ。



「……はじめから話を聞いた時、放っておけないなと思っただけだ。それに、俺はこっちに来てまだ日も浅いのは言ったとおりだ。もう少しで友人になれそうな化け狐が目の前で死にかけたら、そりゃ助けたくもなるだろうが」



『軍勢を率いているというのに友達が少ないのかえ?』



「軍の仲間と友人はまた別のカテゴリーだろ。戦闘なんて全く関係なしに気ままに接することができるのが友人、戦闘を介してでしか関係が無くなっちまうのが軍人の仲間だ」



語気の荒くなったクロウの言葉に天狐が鳴らなかった喉をクツクツと鳴らす。



「そなたとの会話は面白い。スケッチブックとペンでの会話は不便じゃ」



そう言って天狐は持っていたスケッチブックとペンをぽーんと投げ捨てる。続けて、あ、あ、と喉の調子を確かめるかのように声を発し、んんっ、と咳を払う。



見れば、包帯の合間から見えていた喉元の傷が癒えていた。集中して治癒させていたのだろう。



「……治ったのか」



「正確には治したと言ったほうが正しい。そなたの強い魔力のおかげじゃ」



人差し指一本立てながら『にぃ』と牙を見せる天狐に否応なしに――その耐性の無いクロウは視線を逸らして頬を赤く染めてしまう。



何百年と生きているのに馴れ初めの経験が無いと言えば笑われるだろうか。



しかしそんなことを言わずとも態度でバレたらしい。天狐がからからと喉を鳴らして笑う。



「そなたは本当に……雌に対して臆病じゃのう。相手が雄ならば勇猛果敢でも雌が相手では牙の抜けた犬のようじゃとて…」




「……犬って言うなマジで」



ふん、と鼻を鳴らして視線を逸らすと、その喉元に暖かな毛並みが寄り添った。



一瞬何事かと思ったし、それがどういうことかもわからなかった。なので、恐る恐るその暖かな感触へと瞳を落とすと――そこにはやはり、と言うべきか。



天狐が身を寄せていた。



「全く何の気も無く接することができるのが友人で、わらわは友人なのじゃろう?」



こくこくと頷く。そうでありたいと思っていたことだ。



「ならば、こうしても構わぬじゃろう?」



またこくこくと頷く。しかし、胸の高揚が抑えきれない。



身を近づけ、預けられると彼女は思いの外軽かった。



狼、狐という種族の違いもあろうが、雄と雌の体格の違いが顕著に出ている。凛々しく、それでいて柔らかな丸みを帯びた身体を持つ天狐は雌の体つきだ。対する自分の身体はしなやかで頑丈な筋肉が発達している。



狐がどうかは知らない。群れを作るのかは知らない。だが、狼は群れを作り、その秩序を守る文化があり様々な仕来りがある。雄は好んだ雌と一生を共に過ごし、その身を寄せ合えるのも生涯でただ一匹のみだ。つまり、狼的には身を寄せ合うのは友人をも飛び越えた関係になってしまうわけで。



どうしたら初見の次がこういう展開になるのだろうかと頭が混乱している。



「……毛並み」



ぽつり、と彼女の口から小さくつぶやく声が響く。



「舐めて、梳かしてくれぬかのう?」




多分狐的には普通に問題ないことでも雄が雌の毛並みを梳かすなんて、それはやっぱり友人をも飛び越えた関係になってしまうということで。



真っ赤に頬を火照らせながら彼女の血に塗れた毛並みを丁寧に舌で拭ってやる。俺と違って柔らかい。毛並みも、その下の脂肪がついた体も。



「そう、同じ黒い毛並みを持つ者同士――こうやっていると、番にもみえなくもない。そう思わぬかえ?」



確信犯だ。絶対に面白がってやっている。



「……の、喉渇いたから近くの小川に行ってくる!」



確かこの近くには小川が流れていたはずだ。この空気から逃れる為にも一度ここから離れなければならない。



彼女からパッと離れ魔力を置き去りにすると、狼は部屋の窓を開けてそこから大きくジャンプをする。十数mはあっただろうか。しかし、これぐらいの高さならばなんら問題はない。スタッと着地をすれば狼は近くの小川へと駆け出した。



その時、城の上方から低くほっほっほと笑う声が聞こえて――まんざらでも無い、と思ってしまう程度には心惹かれている狼なのだった。



「…初心な狼じゃ。しかし、これもまたわらわの『戯れ』じゃよ…」



部屋の中では天狐がそんな風に呟いた。そしてまた横になればふぅと吐息を零す。残してくれた魔力と自身の魔力があれば回復は早い。



次に会った時はどんな風にからかってやろうか。そんな事を考えながら狐はゆっくりと目を閉じる。心地良い夢の中へと身を投じる為に。







 fin.
削除済み 2013/07/25/14:53:13 No.28  
削除済み  
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未熟な少年期、未だ未熟な青年 2013/08/05/14:50:35 No.29  
いくとみ  
早朝。朝の五時頃だろうか。
がつんがつんと硬質な物体がぶつかり合う衝撃音が響きわたっていた。
その音が響くのは、とある没落貴族の邸内。他の貴族に比べ、明らかに華美ではなく手入れも足りていない庭。
さらに、庭の中心の芝は所々が禿げ、足あとが地面を陥没させている。

そんな悪環境でぶつかり合うのは、二人の少年。
一人はもう青年になり掛かっているだろう、鍛えられた長身の青年だ。
身の丈ほどある木剣を自在に操り、眼前の相手を全力で打ち据え、逆に青年に対する攻撃は全てを撃ち落とす。
みすぼらしい庭と邸には似合わぬその流麗な体捌き、剣捌き、足捌きは貴族としても剣士としても一流のもの。

「どうしたミヒャエルッ! お前にハンデがあるのは知っているが、だからといってお前が負けて良い理由にはならん!
剣を拾って早く立てッ、泣いている暇はないッ、諦めるな、泣くな。無く位なら激昂して俺にかかってこいッ!」

いい一撃がみぞおちに入り吹き飛び、胃液を吐き捨てながら涙を流す少年。
その少年の足元に手放した木剣を蹴り込み、構えを撮り直す。
青年の視線の先には、もう吐くものも吐き尽くした汗だくでアザだらけの赤毛の少年。
同年代の少年に比べても明らかに小柄な少年は、しかしながら青年と同じサイズの木剣を持っていて。

「……っ、と、とーぜんだっての!」

口元を拭い、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま、足元の剣を拾い立ち上がる。
そして、身の丈以上の剣を持ったまま、ミヒャエルと呼ばれる少年は雄叫びを上げ、駆ける。
地面を踏みしめる重心の捉え方は、この年齢にしては明らかに練度が高い。
そして、身長以上の剣もまたブレること無く握られている当たり、身体能力も一級品。

「良い心意気だ、だが心意気だけでは勝てないッ! 騎士にッ、なりたいとッ、言うのならばッ!
心を貫くだけの力を持てッ、力だけではダメだ、心だけではダメだ……! お前に今必要なのは、力ッ!」

全力の唐竹割りも、青年の隙を突いた突込みにより喉を穿たれ潰されて。
口から血を吐きながら尻餅をついた所に、こめかみへの打撃が叩き込まれる。
ごろん、と意識を失い地面に転がるミヒャエルへ、青年はバケツの水をぶちまける。
跳ね上がる様に身を起こした少年は、そのまま手を伸ばして木剣を探り、震えながらも木剣を支えに立ち上がる。
泥と涙と鼻水と血と汗と水が綯い交ぜになった顔は、無様という他無い。だが、目だけはまだ諦めていなくて。

「――剣は杖ではないッ!」

全身の力を振り絞って立ち上がった少年の剣へと剣が振りぬかれ、支えを失った少年はまた崩れ落ちて。
手で体を支えようとするも、手から力が抜け、そのまま泥水に沈み、口の中に泥水が入る。
顔は打撃で腫れ、所々の骨には罅が入っているかもしれない。力のはいらぬ四肢で泥水を蠢く姿は、見苦しい様。
少なくとも、皆が想像する騎士の姿とは全く違う、文字通りに泥臭い姿だ。
泥水を吸い、咳き込む少年に目線を合わせるようにしゃがみ込む青年は、先程までと違い、優しい顔をしていた。

「怖いか、痛いか、諦めたいか、逃げるか、負けるか。どうする、ミヒャエル。お前は、どうしたい?」

そう、やめるかどうかを問いかける青年の声に、少年は全身の力を振り絞りながら、声を吐き出す。

「っ……、わが……、あるじよ……! わが、たましいに、……ッ。
けがれ、なしと。だんずるならば――、ッ。……わが、やいばに、わが、みにッ! 光を、光を与え給え――ッ!!」

弱く、それでもまだ諦めていないことが分かる、弱いながらも力のこもった声。
僅か、ごくごくわずかの光が少年の身体に集まっていく。
魔術、聖なる力、光の魔術。ミヒャエルが生まれ持った時点で適性を持っていた、数少ない才能。
収束していく光は、近くの木に立てかけられているボロボロの剣に奪い取られていくが、それでもわずかに身体に収束していき。

「それで良いッ! 弱いのだから体裁もルールも気にするな!
騎士は気高いもの、だがしかし、気高さのために負けるのは騎士以前の問題ッ!
一に勝利、二に忠誠、三に誇りだ! 使える全てで俺に一太刀入れてみろ、それで今日の鍛錬は終了にしてやる!」

その声を聞いた瞬間に、少年の身体が跳ね上がる。
目に強い光が宿り、地面を陥没させるほどの全力の踏み込みは、肉体の限界を超えたもの。
激痛が体を蝕み、心を折ろうとしてくるが、心が折れる前にすでに少年の身体は駆動する、地面を蹴る動作の結論は前身。
全身を前進させる為に全てをなげうち、この一撃へと繋ぐために足が折れても良いと覚悟し、出せないはずのもう一歩へと繋いでいく。

「う、お……おおおおおおおおおああああああああああああああァ――――――ッ!!」

声と形容することすらおこがましい、それ。
恥も外聞もかなぐり捨て、誇りを置き、ただ意地と意志だけで放たれる攻撃に付随するのは、咆哮。
そこからは、速かった。

踏み込む右足の骨が砕け、神経に激痛が駆け抜けていく。そう、激痛だ。
だが、痛みで身体がすくむのは、脳にその痛みの情報がたどり着くからである。
要するに、痛みが伝わるまでの間は、痛みを感じていないということになる。だから、問題はない。
腰を捻り、腕も足も何もかもボロボロのままに今放つことのできる全開で、少年は突きを放つ。

「――っ、~~~~~~~!?」

受ける青年。幾ら少年が全力で、限界を超えた力を発揮しようと、そこで止められる筈だった。
だが、違った。
少年の木剣に、光が収束し収束した光が切っ先に集中。
そして、木剣と木剣が衝突し――。

音が一度、二度、三度。

一つ目は、木剣が砕けた音。
二つ目は、青年が吹き飛ばされ木に叩きつけられた音。
三つ目は、少年がそのまま前のめりに地面に倒れた音。

青年を吹き飛ばした少年の意識が吹き飛ぶ直前、少年の視界にはきらめくボロ剣が有って。
走馬灯のように、これまでの思い出が蘇り、そして笑う。

(なぁんだ。お前、案外気が利くのな。いいぜ、耐えてやるさ。
初代様以外誰も、お前使ってなかったんだしな。寂しいだろ。俺が使ってやる、だから。
――待ってろ、お前に相応しい奴になって迎えに行くから)

剣にそう語りかけ、いつか試練を超え、認められてやると心に決めて。
少年の意識と身体は、泥のように沈んでいくのだった。
それを見守るのは、青年と剣だけ。――十年後、少年がどうなるかはまだだれも知らないまま。


■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■


「……ん、あ?」

いつの間にか、寝ていたのだろうか。
ずいぶん懐かしい夢を見ていた気がする。俺はカウンターから身体を起こし、あふぅ、とあくび。
ふと見てみれば、カウンターには自分の愛剣たる、神意の剣が有り。それを枕にしていたことが分かる。
酒場のマスターは寡黙で、俺が寝ようが起きようが何一つ干渉することはない。
存分にあくびをした後、もう氷が溶けて汗を欠いた安酒のロックに手を伸ばし、一気飲み。
喉を通るぬるい水割りの感覚に顔を顰めつつ、幾つかの硬貨をカウンターに置くと、席を立つ。

「たまにゃ、一刀流も悪くねぇかな――、なあ、相棒?」

腰にボロ剣を挿しなおして、俺は無愛想な店主に笑いかけ店を後にする。
サビだらけの良く手入れされた呪いの聖剣は、僅かにチカリと光って、いつも通りに俺の生命力と魔力を吸い上げ、肉体に枷を駆ける。
かつてと違い、今の俺は騎士にはなれなかったが、当時の心をそのままに強くなっている。……たぶん、きっと、おそらく。
それでもまだ、俺の剣は微笑まない。何処まで鍛えれば力を貸してくれるかは分からない。
だけど、努力は裏切らないことだけは知っているから。この一人ぼっちの剣の使い手になる日を夢見て、俺は闘おう。
きっと、頑張ってりゃ誰かが俺を見てくれる。少なくとも、俺だけは俺に対して真剣で居たいから。
だから、今日も鍛錬だ。今日は基本に帰って一刀流、偶にはコイツを確り使ってやんなきゃな。
俺は、腰の剣の重みを感じながら、どこか開けた場所を探しに行くのであった。
時にはセーラー服以外のスカートを 2013/08/06/15:26:27 No.30  
一白  
 せみがうるさい。
 エアコンの無い部屋で、少女はじっとりと額に浮き出した汗を腕で拭った。

 白い壁紙。六畳ほどのその部屋に、少女はひとり立ち尽くしていた。
 プラスチック天板の古臭い学習机に、灰色のオフィスチェア。傍のカラーボックスの上には古いノートパソコン。床に敷かれた薄ねずみ色の絨毯の上には、本やプリント、鞄の類が散らかっている。ベッド下の平たい引出しが開けられ、納められていた洋服が剥き出しになっていた。
 少女は眉間に指をあてた。
「ガキ相手だし……かといって何も考えずに行くのは負けた気分がする」
 洋服は全て薄っすらと埃を被っている。壁にかかっているセーラー服のひだスカートの汗染みが、それを履いた回数を物語る。
「みんなもっと服持っとるのかなぁ。夏休みにならんとそんな着ないよねえ」
 少女は片っ端から薄手の洋服を引っ張り出した。桃色の半そでシャツ、白いレースのボレロ、モノトーンや紫、ピンク色のタンクトップ数着、薄手の水色のジャケット、カラフルな英字入りTシャツが何枚も――ジャージ生地のハーフパンツに、丈の長いのから太ももが丸出しになるまで、色んな長さのジーンズパンツが一本ずつ。
 それらの洋服を、少女は絨毯の上にずらっと並べてみた。なかなか壮観だ。埃を被った色とりどりの洋服たちが、私を着ろと主張してくるようだ。
 少女は唸ってオフィスチェアに座る。腕を組む。机を蹴って、椅子ごとくるりと一周する。
 一周、二周、三周ほどしたところで、少女は立ち上がった。床上を埋めている本や鞄を蹴ってどかす。人が丸くなって寝られるほどのスペースが開けば、そこにまず、七分丈のジーンズパンツを置いてみた。
「コレ、かなあ」
 次にボーダー柄のタンクトップを、ジーンズパンツの上に置く。並べられた服へと腕が迷い、薄紫のジャケットを、着せ替え人形の要領でタンクトップに着せた。
 悪くない。
 少女は呟いた。
「……でも、こんな格好、いつもしてるし……」
 紫のジャケットを取り払う。
 少女の視線が鋭く服の群れへと向けられる。ピンク、青、赤と黒のチェック柄――そしてその中のひとつ、いっとう分厚く埃を積もらせた白いレースのボレロを手にとった。
 ぱん、とボレロを振った。ぶわっ、と埃が舞った。この夏に部屋に雪が降ったようだ。
 くしゅっ。少女はくしゃみをした。
 それをタンクトップに着せてみた。悪くない、が、ボーダー柄が目にちかちかする。タンクトップの方を、黒に細かい白のドットが入ったものに取り替える。
 おっ。少女は立ち上がった。
「けっこう良いじゃない」
 遠目から見ても、それなりに映える組み合わせだ。白いボレロに黒地のタンクトップがよく似合う。白の細かいドットも、程よく明るさを添えていた。

 しかし少女は眉をしかめた。
 下にあわせている、七分丈のジーンズは、随分とよれよれだ。お気に入りで長らく履いているのだから仕方ないが、出かけ用としてはどうにも格好が悪い。
 少女は他のジーンズを漁った。けれども少女の持っているジーンズは、どれも同じか、もっと酷いよれ具合だった。
「こんなんだったら、新しいの買っときゃよかった」
 ぶつぶつと文句を垂れても新しいジーンズはやってこない。
 逡巡する。このままこのジーンズで行くべきか。あの疎いクソガキはきっと気にも留めないだろうが、少女のプライドが邪魔をした。
 つと少女の目が動いた。ベッドの引き出しの奥。引き出しの縦幅はベッドと同じだけあるので、奥の奥まではここからでは見えない。
 少女は記憶を辿る。そして、屈んだ。床の絨毯に頬が触れるぐらい身体を伏せた。じりじりと腕を伸ばし、引き出しの奥の奥へと手を差し込む。
 指先はしばらく空を切っていたが、やがて柔らかな感触にぶつかった。数度、指を動かす。くしゃりとした生地。その布の塊をつかみ、一気にずるっと引っ張りだした。
 ぶわっ。埃が舞った。くしゅっ。少女はくしゃみをした。くしゅっ。くしゅっ。三回も。

 少女は布の塊を振った。埃と共に、ばさりと解かれたのは、足首までのロングスカートだった。シックな藍色のパッチワーク柄のそれは、埃にまみれ、折りじわがよっているものの、染みひとつついていない。
「コレ、全然着てなかったわ……スカート私服じゃ履かないし、チャリこげないもんコレ」
 さっきの七分丈のジーンズパンツを、このロングスカートに取り替えてみた。落ち着いた藍色のロングスカートは、白のボレロと、まるで初めからセットで売られていたかのようによく似合った。
 よしっ。少女は拳を握った。
 問題は、自分のロングスカート姿を見たクソガキが、どんな反応を返すのかということだけだった。
普通じゃない女子高生の普通じゃない普通の日常 2013/08/06/16:07:18 No.31  
いくとみ  
明かりのない部屋。普通の人だったら、きっと何も見えなくてタンスの角に小指をぶつけること必至の環境。
そこを駆けるのは、私。夜を駆ける黒猫の暗殺者――なんちゃって。
まあ、ちょっとご視聴の皆様に自己紹介でも。
私は斧鉈刀子、16歳。要するに、ピッチピチの今をときめくナウい女子高生だ、強調するがピッチピチである。ピッチピチだけどビッチじゃないよ!
普段はスイーツ食い漁ったり新しい服買い漁ったりてきとーに恋バナしてたりする何処にでも居る女子高生だ。
ま、それは普段の話で今の私は普段じゃない私。
そう、今私は家業の手伝いをしているのである、ぶっちゃけ深夜一時に女子高生を働かせるとかちょっとどうかと思う。
労働基準法的に未成年のこんな時間の就労ってダメじゃなかったかなー、なんて考えたりするけど、そもそもウチって労組とか無かったかも。
まあ、私が一番有能だから引く手数多なのは仕方ない。ちょっと嬉しいし、褒めてもらえるし、お小遣い増えるし。
そう思いつつもふもふのじゅうたん(家の布団よりすごい!)の引かれた廊下を走っていると、見回りの警備員さんと鉢合わせ。
こりゃ困った、そりゃあもう私はビビりだし、ちょっと予想外だったもんだから、ちょっと指先をコキリと動かして。

「あ、こんばんはー」

挨拶しながら、相手の返答もまたずに殺害することにした。
相手の視界に入った瞬間に壁を蹴り三次元軌道で私は移動、ちょいっと蹴りを首筋に叩きこむ。
少し力を入れてみれば警備員さんの首がぽーんと飛んで。床に落ちて音を立てる前に頭を掴んで回収してゆっくりと地面に置く。
なむなむー、と手をあわせてから私はまずは守衛室からかー、と作戦変更。
ここまで見てくれた視聴者の皆(視聴者って誰なんだろう?)はお気づきかと思うんだけどね、ぶっちゃけ私は暗殺者なのである。
別に人殺しが好きとかそういう訳じゃなくて、ひいひいひいひいひいおじーちゃんの頃からずっと人殺ししてきたから私も殺すってだけ。
不満とか特に無いし、悪いことって言われたら悪いことかもしれないけど、なんだっけ……えーっと、必要悪ってやつだと思ってるし。
だから今日も私はちょっと悪い人をぶっ殺しにきたのである。依頼は全員皆殺し、調べたけど家広いから結構大変そう。
おっと。どうも警備員さんはトランシーバーを持っていたようで、通信が繋がっているよう。こりゃ大変だ。
でも、逆に他の人が様子見に来るのを待てば良いのかな。警備員さんは撒き餌ってことだ。
そう思って、腰から下げたお菓子袋から飴を取り出し、飴を口に放り込みながら他の警備さんを待ってみる。あ、オレンジ味だ、おいしっ。
警備員さんの首から下は適当に廊下に放り出しておいて、私はちょいと飛び上がって天井に張り付いておく。
割りと運動は得意。結構毎日真面目に鍛えてるから、壁を走るくらいは結構朝飯前で、ちょっとした自慢だったりする。
でも普通の女子高生って壁走れないみたいだから、普段は壁走ったり天井に張り付いたりはしていない、ぱんつ見えるし。
飴をなめなめしつつぼんやりと今日の授業の内容を思い出しているうちに、人の気配が近づいてくる。足音の数と間隔から、結構固まって4人くらいかな?
普通の警備会社の人達みたいで銃とかは持ってないみたい、じゃー簡単だっ。
そう思って天井をかさかさ移動して警備の人たちの真上へ移動すると、私は落下。

「えいっ」

夜だしちょっと囁き気味に掛け声を出しつつ、腕をひょいっと振りぬく私。
手の中には四つの千切られた脊髄がある。よーっし、成功だ。
多分痛くなる前に死んだだろうから、下手な人で無くてよかったね、と思いつつ倒れる皆さんを抱きとめて廊下の隅っこに殺しておく。
流石にこの規模のお屋敷だとこれ以上警備が居るとは考えづらいし、とりあえず女中さんとかも殺っちゃおっかな、殺って殺るですー!
足音を立てないように気をつけつつ、一階を巡ってきた私。
いやー、広いっ! 私ん家もちっちゃくはないんだけど平屋だしね、同じ広さで三階建てだとやっぱりレベルが違うなーって思うな。
とりあえずこれで一階分は全部終わりかなーって思ってたらちっちゃい子がトイレから出てきた。
これはうっかり。枕を抱えたまま不安そうに廊下を歩く女の子は、私の姿を捉えることは無い。

「おやすみー」

こんな小さな子を苦しませるのはちょっと怖いから一撃で終わらせようと思ったから気配を消して人差し指で貫手だ。
背後から攻撃を入れたから後頭部だし傷はわかりづらいだろう。可愛かったし、女の子の身体はあんまり傷つけたくないしね。
女の子の目を閉じつつも、こんどこそ一階には人が居ないかを確認。二階は寝室とかが無いはずだから、きっとだいじょうぶ。
二階に上がると、やっぱり人の気配はない。良かったー、仕事が増えなくてと私はちょびっと感謝。
明日も学校だからさっさと終わらせて帰って寝たいのだ。夜更かしはお肌に毒だし。自慢の赤ちゃん肌がダメになったら大分悲しい。
たしか、あと残っている人は旦那さんと奥さんと一人っ子だけ。んじゃーちょいとがんばりますかっ!
音を出すのは厳禁なため、心のなかで気合を入れつつ、三階へと私は駆け上がる。
すんすんと鼻を鳴らし、耳を澄ませて寝息を確認。
おおう、一つの部屋から三つの音と匂いってことは、文字通り川の字で寝てるってことだ!
これはこれは、仲の良いご家族ですなー。ウチの家族とは大違いだし! ちょっとうらやましい!
抜き足差し足忍び足、ってノリで寝室におじゃまする私。おーおー、ぐーぐー寝ちゃって。
でも悪いね、お仕事だから殺さなきゃならないのだ。と、軽く手をあわせて謝っておいてから、さくっと三発叩きこむ。
ふぅ、これでお仕事は終わり。じっさまに後は報告だけだねー、と私は寝室をあとにする。
え? 胸の躍るアクション展開とか、血みどろの戦闘展開はって?
あっはは、いやだなー! そもそも暗殺者なんだから派手にアクションしたり、真っ向から戦闘しちゃダメでしょって。出来ないわけじゃないけどね?
兎にも角にも、今日の私のバイトは終わり。月に2,3回だし今月はもう無いかなーなんて。お小遣いは結構貰えそうだ、沢山殺したし。

「ふぅ、カリカリ君おいしっ!」

家路につく私は、頑張った自分へのご褒美ってことでアイスを食べている。やっぱりこの時期に外で食べるアイスは美味しい。
なんでシャーベット系かと言われると、そりゃ女子高生だもん甘いもんは食べたいけど体系にも気を使いたいのだ。
ただでさえ私は……その、なんだ……、ぼんきゅっぼーんからはかけ離れているもんだから、やっぱりもっと肉が欲しい。お腹はいらないけど。
カリカリ君を食べ終えて、棒を確認してみると外れだった私は嘆息をつきつつ空中に棒を放り投げ、裏拳で粉々に粉砕しておいた、憂さ晴らしだ。
丁度それくらいで家の門扉にたどり着いて、無駄にでかいよなーっと、ちょっとさっきの家と比べつつも塀をひょいっと飛び越えて家の中に。
じっさまの居る和室へと小走りで行き、中に入ってみるとじっさまはまだ起きていた。このじっさま爺なのに夜更かしだなー。
そう思いながらも、おじーちゃんを早く寝かせるためにもお仕事をご報告。

「以上っ、しっかり全員殺してきたよ!」
「よーし、よくやったぞ刀子。ご褒美に今度一緒に山に修行に行くか。最近熊食べてないだろう?」
「いいねー、熊!」

おじいちゃんの膝の上でゴロゴロしながら、頭を撫でられて居る私。そう、何を隠そう私はスーパーおじいちゃんっ子だ。恥ずかしくないっ!
今度おじいちゃんと一緒に修行なんて、ちょっとどころかかなり嬉しい! 金曜の放課後から行けば、月曜の朝までは修行漬けだし!
そして、ちょびっと上目遣い(おじいちゃんは孫に甘い)で、おじいちゃんに目線をあわせて、私は口を開き。

「今日は一緒に寝ていい? なんていうか、ちょっと寂しくて」
「……刀子ももう良い歳だろうに。ま、良いだろう」

おじいちゃんと一緒の布団に入りつつ、私はさっきの川の字の親子を思い出す。
ちょっと、最近お仕事多かったし、お父さんたちも居なかったから、寂しかったみたいだ。
でも、こうやっておじいちゃんと一緒に寝れるのは、嬉しい。もっと、ずっと、こういう日々が続けばいいなー。
なんて思ってるうちに、さくっと私の意識は落ちていってー。幸せな暗黒に飲み込まれていくのだったのだー。
不連続的無意味短編 2014/01/20/02:56:46 No.35  
手鞠のひと  

「このひと だれだか しりませんか」

鏡に話しかけても何も答えてくれない。

「このひと だれだか しりませんか」

鏡に話しかけても不思議な顔をするばかり。

「このかお だれだか しりませんか」

鏡に話しかけても苛立たしげな顔をするばかり。

「わたしのかお だれか しりませんか」

顔を指した指を返すだけ。
そうか、わたしの顔は、この顔なのか。この顔は、わたしの顔なのか。
何度考えてもそうだとしか思えないのだが、漠然とわたしとわたしが一致しない。
わたしはわたしだろうか。よくわからない。
ふと、鏡のひとの輪郭を何かが伝った。

「だいじょうぶですか なみだが でていますよ」

鏡のひとは、わたしを心配してくれる。
わたしは鏡のひとを心配していない。
そんなに他人に優しくない。
頬を伝ったものはなんだろう。
夢や愛のような、綺麗なものだったらいい。

「…泣き、止んで……くだ、さい…っ」

止めどなく。
感情が溢れていく。わたしの感情に違いない。
泣いているのはわたしなのだと思う。よくわからない。
何かが悲しくて泣いているのだろうけれど、なんだか、よくわからない。
意味もわからず、夢や愛があふれて止まらない。
涙は綺麗だから好きだ。涙腺で色を抜かれて、本当は血の色をしていたはずなのに。
わたしの体から垂れ流されるのは、全部夢と愛だから、本当は血の色をしていたはずなのに。
それを眼球が無色に変えてくれる。だから、涙は奇麗。
今日もわたしはわからずじまい。
わたしが死んで、わたしが生きている?
ひゅるるるる。どうだっていい。
今日もお仕事だ。







神様はわたしが大嫌いなんですね。






ゆらゆら。




今日は寒い夜で、毛布が一枚だけでは足りなくて、体を丸めて眠っていた。
嘘。
お仕事の時はいつだって一睡もできない。
わたしが怖がってるから少しも眠れやしない。
わたしは眠れる時に寝ておきたいのだけど、わたしが怖がってるからそれをずっとあやしてる。

わたしが何度、生きていく為だから仕方ないよ、と言っても、わたしはずっと泣いている。
あの人達は、…えっと、「ハァァヤキュナルレレレモ」とかよくわからないコトをずっと言ってる。
何を言っているのかさっぱりわからなくて、あの人達は嫌いだ。
だけどあの人達がお仕事を持ってこないとわたしは稼ぎがないので、仕方なく一緒にお仕事する。
「フォリャティイチョルヌィ」あ、お仕事来た。

「おねがい します」

しばらく眠っててね、わたし。お仕事だから。


………。





「……はぁ…」



もの好き。



シャワーは好きだ。
身体の疲れが取れるのも、ほっとするのも。
腕が片方しかないから体を奇麗にするのに少しだけ手間をとっちゃうけど。

傷だらけ、痣だらけのわたしの身体を、姿見に写す。
少しも奇麗じゃない、浅ましい身体。
生きる為に何でもする汚らわしい身体。
返り血も、泥も、自分の血も全部洗い流せるのに。
いつだって這う血の匂いが消えない気がしてならない。
生きる為なら何でもしてまでも生きたいわたしの身体。
死ぬことは怖い。怖いよ。
そうやって震えてる時だけ、わたしは勇気を出して、わたしを抱きしめてくれる。
わたしも死にたくないんだね。その点で、わたしとわたしは一致してる。
わたしもわたしを死なせたくないから、わたしは死なない。
何でもしてやる。わたしがしたくない事だって、わたしの為だと思ってやり遂げる。
死にたくないと純粋に願っている事の、何が悪い?

わたしはわたしを元気づけてくれる。
わたしはわたしに何もしてやれないのに。
わたしの腕も、わたしが切り落としたそうだ。
わたしもきっと、生きる為に何でもしたんだと思う。
ただわたしと違って、あれだけは許さなかった。
わたしはわたしと違って、あれをしてでも生き延びたい。
わたしはそれだけはダメだと言ったけれど…あれ、わたしって誰だっけ。

それでもわたしは、生きる為に粘りを生む。
えへへ。
削除済み 2014/02/14/01:02:04 No.36  
削除済み  
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チョコレートに至るまでの一考察 2014/03/14/10:16:21 No.39  
一白  
 わたしはパソコンの画面から目を離した。眼鏡を外し、伸びをする。時計を見る。もうすぐ明日になる。
 受験が終わってからと言うものの、わたしの生活はすっかり荒れていた。
 朝は八時過ぎないと起きない。夜は二十三時越えないと寝ない。
 人に言わせれば健全なほうかもしれないが、早寝早起きを信条としていたはずのわたしにとって、これは由々しき事態だった。

 そのおかげで、元気に時狭間にも行けるのだけれど。

「…………」

 そっと下腹に手を這わせる。あざはもう無い。とっくの昔に消えている。
 墨汁と名づけた奇妙な小鳥も、いつの間にかいなくなっていた。

 わたしは立ち上がる。
 セーラー服が壁にかかっている。もう必要ない。
 わたしはハンガーからセーラー服を外した。洗濯すれば、母親が勝手に取っておくだろう。

 暗い階段を降り、暗い廊下を渡り、暗い脱衣場に行き、脱衣籠にセーラー服を放り込んだ。

 わたしは振り返った。
 何もいなかった。

 こんな暗いのだから、あの影から何かが出てきてもおかしくない。
 わたしは胸を押さえる。あの小さな影の手は、あれ以来まったくお目にかかっていない。けれど、存在を忘れることはできなかった。

 わたしは何者なのだろうか。

 元・女子高生だとか、正しいが腹の立つ呼び名をつけた、あの男からも同じ手が生えていた。
 だがわたしはあの男と同類ではない。人間の女から産まれた由緒正しきただの人間のはずだ。天狗だとかとは無縁だし、ましてや死んでもいない。
 あの世界に行くまでは、この世界の法則が全てだと思っていた。
 わたしの知らない法則は、この世界の誰かが知っているか、それとも知られていないか、それともまったくの空想の中にしか存在しないと思っていた。
 その法則のなかでは、わたしは人間だった。

 だけど、今は違う。
 わたしは何者にでもなれてしまう。

「きょうや?」
 わたしは名を呼んだ。返事はなかった。
 馬鹿馬鹿しくなって、わたしは暗い脱衣場から出て、暗い廊下を歩み、暗い階段を上がった。

 そうだ、チョコレートの作り方を調べよう。まだ二月には程遠いけど、チョコレートの作り方を調べよう。
 あの男は甘いチョコレートが好きだろうか。
 わたしはとても苦いチョコレートが好き。
 砂糖なんて全然入っていないようなチョコレートが。


 ひたひたと、影に溶け込んだ影がついてくる。
【外道回想】【序 阿斬の章】 2014/05/18/02:20:23 No.40  
hiko  
-1-

其れはこの話の主となる男が誕生するより遥かに大昔の事。
人間がその手に刀を持ち各々の住む土地を奪い合う、後に戦国時代と呼ばれる時代。
コレはそんな時代が始まって間も無い頃の話である。
この話の舞台となる『日本』なる風光明媚なこの国には、人間とそれ以外の動物の他に
妖(アヤカシ)と呼ばれるバケモノ達が共存していた。
妖は人の世の陰に潜み度々人の世を脅かし、また時には人を助けた。

『錠王(じょうのう)』と言う妖が居た。
錠王は人知を超えた力を持つ妖達の中でもケタ違いに図抜けた力を持ち、
そして悪い事にその思想は正に唯我独尊、非常に排他的かつ独裁的であった。
錠王は多くの妖をその強大な力を持って従え、巨大な軍勢を作り上げた。
人の影と夜の闇に潜む妖達の中で、錠王とその僕達だけは我が物顔で人の世を跋扈し、
人々はおろか同じ妖達さえも脅かした。

阿斬はそんな錠王配下の妖の一人、等級の低い云わば”足軽”に等しい身分の妖である。
錠王軍は人間達と同じく他の妖達の住処へ攻め入り、ゆくゆくは国を支配する事を目的としており
阿斬もまた、仲間の妖怪達と共に各地で忌憚なく蛮勇を奮っていたのである。

妖もまた人と同じく性格という物がある。
人を脅かす事を好むもののイタズラ程度で命を奪う事まではしない者、
そもそも人里に姿を現す事をしない者、或いは人間を好み、人間との和合を望む者。
彼らは実に様々な性格を持っており、人もまたある程度の距離感を取りながら彼らを理解していた。

そんな妖怪達の中で、阿斬は実に荒々しい性格を持った妖であった。
争いを好み、己の力を奮う事に楽しみを覚える。ある意味では錠王配下に非常に相応しい性格をしており、
その相手は人間、妖と種族を選ばなかった。

率先して戦地へ赴きその体に傷を刻む程に阿斬は強くなった。
一個の武力の大きさだけを言うならば、阿斬の力は雑兵の範疇を遥かに超えていただろう。

そんな阿斬の噂が錠王の耳へ届いたのかどうかは定かでないが、
ある時阿斬は西方の大妖、獏獅(ばくし)の討伐を命じられる。
獏獅の住む霊山は妖に強大な神通力を与えると言われ、錠王はこの霊山を手中に収めようとしていた。
他の大勢の妖と共に、阿斬一味はそこでも例に漏れず実に猛々しく暴れ回り大きな戦果を挙げた。
獏獅軍の抵抗もまた凄まじく、錠王軍も大半の兵を失う事となったが、結果は錠王軍の勝利であった。

生き延びた僅かな妖達との祝宴も終わり夜も更け始めた頃、阿斬は一人周囲の不穏な気配に気付く。
獏獅の残存兵の数を考えれば異常な数の気配が息を殺し、こちらを伺っているのが解った。
阿斬は彼らに気取られぬ様、そっと周囲の仲間達に異常を知らせようとした。
しかし、仲間達は深い眠りの中、誰一人目覚める事は無かった。

何かがおかしい。
多くの修羅場を経験した阿斬の中で、命の危機を知らせる警鐘がけたたましく鳴り響く。

次の瞬間。

阿斬が目にしたのは此方に今正に弓を引かんとする大勢の同胞達の姿だった。

忘れられた記憶 2015/01/31/22:27:15 No.54  
---  

―嗚呼、やっと見つけた。

闇よ。

この世の全ての物にまばゆい命が宿った時、

その向こう側に生まれた深い闇よ。

今はまだこちらを恨めしげに見つめるだけの大きな瞳は、
自分で考える力さえ持たないのでしょう。

闇よ。

私の意思をあげましょう。

私の命をあげましょう。

その代わりに、闇よ、私の願いを聞いておくれ。

この醜い世界に、

私から全てを奪った世界に、

その世界に生きとし生ける全ての者に、私と同じ苦痛を与えておくれ。

絶望を、気の狂う様な心の破滅を与えておくれ。

生かす事をせず、殺しもせず、

生きたまま足元から焼かれる様な苦しみを与えておくれ。

そして、そうして生まれた心の闇を、あなたは食べなさい。

憎しみの心を、

絶望の記憶を、

煮え滾る怒りを、

ありとあらゆる心の闇を喰らい、大きくなりなさい。

そしていつか、この世界の全てを飲み込んでおくれ。

さぁ、終わりの時が来たようです。

きっと、私の思いを叶えておくれ。

私の見た闇の全てを喰らうがいい。

さぁ、目覚めの時です。

シャル=ア=モス

無限の闇よ。
東倫敦 2015/12/08/13:59:57 No.55  
芦屋  
 彼の故郷の人は皆疲れていた。十分ではない流通に激しい貧富の差。凍える街角に横行する犯罪は多く、また彼も軽犯罪に手を染めながら暮らしていた。生きる為に彼は盗みに対する罪悪感を失っていた。それでも最悪殺しだけはするものかと胸に誓ってもいた。それをしていいのは殺されてもいい覚悟を持った者だけだと誰かが言っていたし、彼は殺される覚悟なんて全くできていなかったうえ、する予定も無かった。只々生きたかった。
 そんな疑心暗鬼五里霧中な人々に、実に胡散臭い宗教から手が差し伸べられた。彼らは無償で人々に食べ物を与え、治療をし、住居を与え、修繕した。莫大な富を持つスポンサーがいくつもついているらしいその宗教はキリストを祭ったものではなかったので、殆どの人が今まで縋っていた神を捨て、見知らぬ彼らを崇めるようになった。暮らしが豊かになったと錯覚するほど、街では事件が減った。
 しかし矢張り裏がないわけがなかった。彼が気づいた時には、仲間が幾人かいなくなっていた。そればかりではない、姉と末の妹、幼馴染、優しい隣人、色々と居なくなっていた。
 彼らは最後に、その胡散臭い宗教団体の本部に出かけると揃って言い残していた。そこまでのヒントを残されて、彼が彼らに疑心を抱かぬ筈もなかったのだが、彼はとりあえず果物ナイフをポケットに忍ばせてそこの門扉を叩くことにした。



「残念だが、お前の言った奴等は全員、俺をこの世に留める為の供物だかってコトで、男は全員溶鉱炉に落とし、女はさっき教団の男達が全員犯して殺しちまったよ。そこに並んでる臓物のどれかがお前の姉で、妹だ」
「お前が奴等に生かされてる理由はただ一つ、俺が見え、俺の声が聞こえるからだ。奴等はお前の事を『御子』だのと呼んでいたが、ロクでもねえ事にコキ使われるだろうな。ただお前にあるのはそんな小洒落た字名で呼ばれる代物じゃあねえのさ」
「何って、俺は神じゃねえ、どうみても悪魔だろう。奴等が俺を留めるためにやってる事も悪魔召喚の儀式だ。お前にあるのは悪魔使いの才能だ」
「…はあ、命を使ってでもあいつらを殺したい?…なるほど、それが願いか、中々つまらん願い事だな。怒るな怒るな、何百年も生きてるとそこらへんの感覚がマヒしててな。一々お前ら人間のナイーブな心境に合わせてやれん」
「一度、意識だけ異世界に飛ばしてやる。そこでお前、魔術を身に着けて来い。人の良さそうな誰かにいろはを聞くんだよ。せめて飛空の術がつかえんことにはこの祭壇から逃げる事はできないな」
「俺はお前に憑いてってやることはできん、それまでここで神様ごっこをしていてやるから、俺の魔術書(グリモア)ぐらいは読めるようになってきてくれよ」



 彼は宗教団体の事をよく知らなかった。彼らは表では霊鳥を崇め奉るもののように吹聴していたが、実際に踏み込んだ先で彼が見たものは、巨大な山羊頭の男性像が祭られている邪悪な神殿だった。彼は口封じの為に殺されそうになるが、ひとつの契機によってそれを免れる。
 彼は、彼らが呼び出しておいて視認できない、悪魔の姿を認識したのだ。幻惑と熱病を操る禍々しい存在は、人の簡単な願いなら即座に叶えた。本職の職能でなくとも生命の進退について弄れぬ悪魔はいない。植物の生長を早くさせるという能力だけで物資は足り、哀れな命を使えば黄金と交換ができた。

 悪魔曰く「こんな願いで寿命を使う人間は本当に馬鹿だ」。

 そうして悪魔に彼はすべてを失っている事を教えられた。油断をしたろう、甘かったろう、怪しい事をわかっていながら目を瞑っていたのはお前の怠慢だろう。悪魔の口車に乗せられるよう、彼は自分を追い込んだ。そうして彼は絶望し、とうとう口にする。

「おれはどうしたらいい?」

 悪魔が笑う。好きにしたらいいのだと。本当に好きにやらばねればお前が生きている価値はないのだと。
 彼は、悪魔に魂を売った。安い人生に後味を残さない為だけに、魂を使う事にしたのだ。

現在主流のストーリーの話 2014/06/17/21:50:23 No.41  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 顔を上げたとき、少女の目の前には鬼がいた。
 両親を交通事故で亡くし、遠縁の親戚だという会ったこともない人物たちの家に引き取られた。両親を亡くした悲しみと、見知らぬ人々との生活という息苦しい毎日の中で、時々する夜の散歩だけが少し彼女の気持ちを楽にしてくれていた。
 霧の出ている夜だった。その日も同じような息抜きでこっそりと家を抜け出したのだ。家の周りを少し歩き、コンビニにでも行って帰ってくる。ただそれだけのいつもと同じ散歩の道程……のはずだった。
 輪郭は周囲の霧と同じようにぼんやりとしている。だが、霧と同化することなく、目視できるレベルでソレは確かにヒトの形をしていた。身長は2mは超えようかという巨体。丸太のように太い腕や脚。頭部は霧で覆われているかのように白く、顔は判然としない。しかし、その霧を突くようにして伸びる角のようなものがある。
 鬼だと、再度彼女はそう思った。コンビニからの帰り道、1m先も見えるか見えないかという濃度の霧に包まれた。思わず近くの家の塀まで手探りで進み、一度立ち止まり下を向けていた顔を上げたらそこにいた。

 「……ァ。」

 喉の奥から掠れた声が出た。本来なら叫び声を上げて逃げ出したいのだが、身体はまるで金縛りにあったかのように動かない。目をそらしたいのに、ソレの動作から目が離せない。
 鬼が腕を振り上げた。次の瞬間、それが振り下ろされる。
 彼女の意識はそこで途絶えた。
2回目 2014/06/17/21:52:09 No.42  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 アシハラ国東区第一都市。国の主要組織が集まる都市区画。退魔組織「タカマガハラ」の拠点となる事務所もまた、そこにあった。
 先代の総代が急死し、その引き継ぎ問題などもようやく一段落した初夏の昼下がり。その一報が舞い込んできた。

「鬼が出た?」

 小柄な体躯には不釣り合いともとれる重厚な執務机に向かい、書類に目を通していた着流し姿の少女が顔を上げた。
 タカマガハラ総代、東方院八千代。流れるような黒髪と少し紫みを帯びた黒瞳が印象的な少女だ。四方の壁を本棚で覆い尽くし、執務机や来客用のソファにテーブル、絨毯の敷かれた洋風の室内にもかかわらず和服を着ている姿はなんとも言えないが、それを指摘する者はこの組織にいない。

「はい。西区第二十都市での出来事のようですな。今朝方の第一報でそのように。詳細は向こうでも掴みきれていないようですが、退魔士が10人ほど病院送りになったとの報告がありました。幸い命に別状はないようですが、しばらく復帰は無理だと。」

 それに対するは型どおりの執事服を一分の隙もなく着こなした初老の男。このタカマガハラにおいて東方院家に仕える執事セルジュ=ハウンドだ。

「西区の第二十都市と言えば、破魔と鳳凰院の管轄でしょう。どちらも退魔家としては古参ではないですか。いくら相手が鬼とは言え、そのような下手をうつとは思えませんが?」

 八千代は書類の紙を机へと置き、眉をひそめる。この国の退魔の歴史の中でも特に古くから存在する二家の名はその界隈では知らぬ者がいないくらいの有名どころだ。どちらの家の退魔士も一線級ばかりが揃っている。いくら鬼が魔の中でも高位に位置する存在とは言え、10人もの人員を投入して何の成果も得られないとは考えにくい。彼女の反応ももっともだった。

「はい。ですので、再度こちらより情報開示の要求を打診しております。また、念のため平行して独自に調査を開始しております。結果は後ほどまた報告にあがりますが、まずはお耳に入れておこうかと思いまして。」
「なるほど。相変わらずの対応です。では、何かわかればお願いします。私はもう少しこちらの書類を片付けておきますので。」

 穏やかな笑みを浮かべるセルジュに、八千代もまた微笑を返した。この執事の有能さは疑うべくもない事なので、今日中にはだいたいの概要は把握できることだろうと内心で頷く。

「畏まりました。では、昼食はいつもの時間にお持ち致します。」

 一礼をして去って行く執事を見送り、八千代は再度先程の書類へと目を落とす。書類の内容はどれも緊急性のない事務的なものばかりだった。目を通し、「可」であるか「不可」であるかの判断を下すだけなため、10分もすれば片が付く。

「ん……。」

 手を組み、イスの背もたれに身を預けて伸びをする。事務作業に凝り固まった身体の各所からポキポキと音が鳴る。一つ息を吐くと、彼女は軽く首を回して立ち上がった。窓辺まで歩いて外を臨めば、晴れ晴れとした空の下を行き交う人々の姿が見える。
 平和なその情景をなんとはなしに眺めていた彼女の耳を電子音が震わせた。袂に入れている携帯電話からのようだった。

「はい。東方院八千代です。」

 取り出した二つ折りの携帯を開く。そのディスプレイに表示された名前に少し驚き、彼女は通話ボタンを押すと軽く髪を払いながら携帯を耳に当てた。

「……。それは本当ですか?」

 携帯から聞こえる声を懐かしむ暇もなく、八千代は眉をひそめたのだった。
3回目 2014/06/17/21:52:32 No.43  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 彼女が目を開けばそこは知らない天井だった。
 かつて慣れ親しんだ実家でもなければ、両親が死んだ後に引き取られた家の自室でもない。その二つともが洋室で、自分はベッドで寝ていた。しかし、今自分が寝ているのは布団で、その部屋は確かに和室だった。
 疑問が身体に浸透し、現状の把握ができない頭が混乱に揺れる。自分はどうしてここにいるのか……?
 それを思い出そうとして、すっと開かれた襖から入ってきた光に思考は中断させられた。今まで寝ていたせいか、随分と光がまぶしく感じる。手で目を庇いながら、そこに立つ人物へと視線を送る。

「お。起きてたか。」

 その声は少年だった。姿は逆光でどうにも判別しない。

「おはようさん。っと、悪い悪い。眩しかったか。」

 少年が部屋に入ってきて襖を閉める。それで目を差す光は遮られ、ようやくその姿を確認することができる。
 背は割と高い方か、170cmの中盤から後半はある。癖のある髪の毛と、微妙に波打ったモミアゲが特徴的だ。胴着に身を包み、タオルを肩からかけているところを見ると、何かの武道をやっていてその練習後のように見える。ともあれ、自分とは違ってこの和室にはよく似合った人物に思えた。しかし、その姿には確かに見覚えがある。

「武島くん?」

 その名前を口にする。武島優司、同じ学校でしかもクラスメイトだ。だが、今まで特に接点を持ったこともなければ、しゃべったこともあまりない。そんな彼が何故か今目の前に立っていた。

「おう。麻生さんだよな。って、なんかえっらい不審な目で見られてないかオレ。まぁ、待て。落ち着きなって。ほら、昨日のこと覚えてないか? 覚えてたらそんな目しないよなぁ。あーっと……。」

 訝しげな表情をしていたのだろう自分の顔を見て、優司は急に慌てだした。最終的に後ろ頭をかきながらなんと言ったものかと考え込んでいる。

「えっと……。」
「あー。まどろっこしいのは好きじゃないんで単刀直入に言うとだ。昨夜の話、暴漢に襲われそうになったのをオレが助けたんだけどな、すぐに気を失っちまったんでとりあえずオレの家に運んだってことだ。やましいことは何もないぞ。うん、何もないぞー。」

 こちらが疑問を投げかけるよりも早く、優司が本当に単刀直入な解答を出してくれた。が、その最後は何故か目を泳がせながらの弁明になっていた。
 しかし、彼女にそれを気にかけている状況ではなかった。暴漢、その言葉で去来する記憶があったからだ。
 霧の道路、脇道から出てくる人物。何事かを喚きちらしながら向かってくる。その恐怖。
 知らず、自分の身を抱いていた。迫り来るその人物に抱いた恐怖は、思い出しただけで身を震わせるに足るモノだった。

「あー、あー。心配すんなって。ここはもう安全だから。いや、オレが安全じゃないとか言われたら困るんだが……。こういう場合同性が最初に見に来ればいいんだが、あいにくお袋と妹はさっき出かけちまってなぁ。くっそもうちょい出発遅らせてくれても良かっただろ。ま、まぁ、とにかくここは無事だ。心配ご無用ってな。」

 そんな彼女の様子にわたわたと手を動かしながら安心させようとする少年の姿を見て、

「ふふっ。うん。ありがとう。」

 麻生ラピスは恐怖も忘れて思わずの笑みを浮かべていた。
4回目 2014/06/17/23:49:31 No.44  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
「お、おう。あー、喉渇いてないか。水でも持ってくるわ。それと、落ち着いたら家の方に連絡な。一応、名簿で調べて昨日のうちに連絡は入れといたけどさ。どうも、家の電話の方は留守電のままで直接連絡は取れてないんだ。メッセージは入れといたけどな。」

 その笑みに何やらドキっとしたとかしないとか、口早に告げると返答も聞かぬままに優司はそそくさと部屋を出た。
 クラスでは大人しめであまり目立たないキャラだったが、笑うと結構かわいかった。

「って、そーじゃねーよ。」

 何を一目惚れっぽい描写をしているんだオレ、落ち着けオレ。と、自身に言い聞かせながら、止まっていた足を思い出したように動かす。純和風の屋敷を少し歩けばそこだけ洋風なキッチンとダイニングが存在している。一家四人で暮らすにはいささか以上に広いこの屋敷には他にも時代錯誤な竃やらなんやらが置いてある台所もあるが、基本的には現代風のこちらを使うのが普通だった。

「水と……。一応なんか軽いモノでも持ってくか。なんかあったっけか?」

 コップを用意して水を注ぎ、即席で食べられるようなものがあったかと冷蔵庫を開ける。

「優司。あんまりつまみ食いしなさんなよ。」

 冷蔵庫の中を覗いていれば、後ろからかかる声。優司が振り返れば、そこには自分とよく似た髪型とモミアゲを持つ、自分よりちょい老け気味の男が立っていた。ぶっちゃけると父親だった。
 武島龍治。この武島家の家主であり、退魔士としての武島家の長でもある。
 武島家は古くからこの地にある退魔の家で、昔から「タカマガハラ」の総代である東方院家との繋がりもある。とは言っても、今の武島家は没落したと陰口をたたかれるレベルで弱体化している。かつてはこの広い屋敷に構成員がごまんといたという話だが、先々代あたりからはその数を減らし、今では一家4人しかいないという始末だ。おかげで大きな事件にもほとんど関与せず、街の治安維持程度の仕事がほとんどだった。
 昨晩、麻生ラピスを助けたのもその関連での話だった。

「違う。あの子が目を覚ましたから水となんか食べ物でもと思っただけだよ。」
「ああ。目を覚ましたのか。それは良かった。んじゃ、野菜室にゼリーがあったと思うから持ってってやりなさい。」

 父親の言葉に従えば、確かに野菜室に器に入ったゼリーがあった。確か2日前くらいに知り合いの喫茶店の店主が送りつけてきた新商品だったか。味は上々だったが、この家の人間を新商品の試食係にして勝手に送りつけてくるのはどうかと思う。しかも着払いで。

「お袋とシャロが全部食べたと思ってたんだが、まだ残ってたのか。」

 ラップをはがし、水の入ったコップと一緒に盆にのせる。スプーンも忘れずに添えておかなければならない。

「んで、電話の方は終わったのか? なんかあったんだろ? 仕事の方で。」

 優司は戸棚からスプーンを取り出して、置きながらさっき日課のトレーニング前にどこぞに電話すると言って長電話モードに入った父親のことを思い出し、聞いてみる。

「ん? ああ。すんだよ。しばらく賑やかになりそうだけどね。」
「は?」

 含みのある龍治の言い方に、首を傾げる優司だったが、ウィンクと人差し指を口元に当てる「それは秘密です」ポーズを繰り出した父親に対してはさすがに口を引きつらせるしかなかった。

「ぜんっぜん、似合わないからな。それ」
「うん。知ってた。ま、それはともかく、オレはちょっと準備やら買い出しがあって少し出かけてくるから、その間留守番よろしくな。言っとくけどお嬢さんに手を出すなよ青少年。」
「しねーよ! 行くならはよ行け。ったく」

 はっはっは。と笑いながら去る父親を手で追い払い、優司は盆を持って部屋へと戻るのであった。
5回目 2014/06/18/23:56:59 No.45  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 何やら少し遠くで騒ぐ声と笑い声が聞こえた気がした。
 この家の住人の生活音というものだろうかと、ラピスは考える。考えて、ふと胸に去来する感情があるのに気づき、慌ててその考えに蓋をした。
 普段は考えないようにしていることがふと出てくるのは寝起きだからか、それとも昨晩の出来事が祟っているのか。ため息を一つつき、彼女はゆっくりと布団から出た。衣装はいつもの自分の服ではなく、温泉宿などに置いてあるような浴衣姿だった。
 そんなことにも今気づき、自分の服はと視線を巡らせれば枕元にきちんと折りたたんで置いてあるのを発見する。たぶん、さっき会話に出てきた優司の母親ないし妹が着替えさせてくれたのだろう。間違っても優司自身が着せ替えたなどと言うことはないはずだ。

「ない、よね……。」

 思わず何かを想像しかけてブンブンと頭を振る。いかんいけないダメだ。どうも寝起きのせいかおかしな考えが右から左へ流れている。ここは一つ朝日を浴びて気分を変えよう。そうしよう。
 と、ラピスは立ち上がって襖を開けた。
 眩しい。
 日の光はこんなに眩しいモノだっただろうかと、手でひさしを作りながらそう思う。単純に目が慣れていないだけなのだろうが、その感覚がなんとも新鮮だった。
 日の光に清められるとでも言うべきか。そんな感覚があって、それに身をゆだねていれば徐々に目も慣れた来た。
 改めて見回したそこは中庭のようだった。寝ていた部屋からも想像できる和風な庭園だ。よくは知らないが木が植えられていたり茂みがあったり池があったりしている。シシオドシといったか、あのカコーンとするようなやつは見当たらないが。彼女が抱く感想は一つだ。

「広い……。」

 あまり接点はなかったとはいえ、普段の振る舞いなどから見るに武島優司は学校ごく普通のクラスメイトだと思っていた。しかし、こんな武家屋敷のような広い家に住んでいるとは、武島家はお金持ちの家庭のようだった。
 縁側に立ってそんなことを考えていると、横から足音が聞こえる。

「お。もう立っていいのか……って、別に怪我でも病気でもなかったな。水持って来たぞ。あと、食べ物な。ゼリーだけど。」

 彼女が振り向くよりも先に、足音の主である優司が声を発した。そちらを向けば盆の上にコップと容器を乗せた彼が横に来るところだった。

「部屋に戻るのも面倒だし、ここで食べてしまってもいいぞ。昼前だからまだそこまで暑さもないしな。」
「えっと。じゃあ、ここで。」

 どうする? と首を傾げてくる優司に、もう少しこの日差しを感じていたかったラピスは希望を告げる。「あいよ。」の声と共に彼が腰を下ろしたので、同じように縁側に座り、差し出された盆を膝上に乗せた。

「い、いただきます。」

 まずはコップから水を一口。冷たいものが喉を通る感覚で自分が空腹だったことを思い出すかのように胃が活動を始めたのがわかる。なるべく、お腹が鳴らないようにと願いながら、次にスプーンを手にゼリーを食べる。

「おいしい。」

 口の中に広がるリンゴのさわやかな酸味と甘み、冷たいゼリーの食感が実に心地良い。

「口に合ったようで何よりだ。っても、別にオレが作ったわけじゃないんだがな。知り合いのが作って送ってきたヤツなんだが、今度感想は伝えておくさ。あいつも喜ぶ。」

 カラカラと笑いながら、優司が廊下に後ろ手に手を突いて空を見上げた。
 初夏の空は青く、白い雲が悠々と泳いでいる。休日の朝ということもあって、穏やかさを象徴するかのようだった。
 しばしの沈黙。会話が途切れる。ラピスはゼリーを黙々と口に運び、優司は空を見上げてぼーっとしている。

「なんか、晩年の老夫婦みたいな空気になってるが、大丈夫か?」

 そこに割り込む第三者の声に、二人は飛び上がった。

「って、親父かよ。驚かせるなよ。買い出しに行くんじゃなかったのか?」

 振り返り、いち早く復帰した優司が声の主である龍治に半眼を向ける。

「武島くんの、お父さん? あ、お邪魔、してます。」

 次に我に返ったラピスがわたわたと会釈を送る。

「はい、おはようございます。その様子じゃ特に問題はなさそーね。よかったよかった。」
「こっちは無視かよ。買い出しはどうしたかって聞いてるんだよ。」
「そりゃこれから行くに決まってる。行く前に一応、お嬢さんの確認をと思っただけさ。」

 立ち上がって父親の前に立った優司をなだめすかし、龍治がその頭に手を置いている。
 その様子を眺めながら、ラピスはなんとはなしに思い浮かべた言葉があった。

「あの、武島くん?」
「「はいな。」」

 が、苗字で呼んだのが行けなかったのか、二人の武島が反応した。確かに、二人とも武島だが。

「って、親父じゃねーよ。何で麻生が親父を武島君って呼ぶんだよ。」
「おっとっと。つい反射的にね。でもまぁ、ややこしいんだし、ここはいっそのこと名前で呼んだらどうかな?」
「え?」
「……え?」

 思わずな発言に、少年少女が一瞬停止した。

「何を驚きなさるよ。ここは武島家だから、武島君じゃあ誰が誰だかわからないってわけだ。そういうわけで、ここはいっそこいつのことは「優司」って呼んでやってちょうだいな。」

 そんな停止している息子の頭に手を置いてグリグリとやりながら、龍治が含みのある笑みを浮かべて困惑顔のラピスを見る。

「おいこらクソ親父。何を勝手に「はいはい。遠慮はいらない。こっちとしても、その方がわかりやすくてありがたいんだ。」
 頭を上げようとする優司を押さえつけ、龍治が促す。結構な力が入っているのか、優司の頭はびくともしない。しかし、押さえつけている龍治のその表情は余裕のにやけ顔だ。

「あっと……。その……。えっと……。優司……くん?」

 どうにも呼ばなければ場が進まないようだったので、ついに根負けしたラピスはその名を口にする。そして、異性の名前呼びとか実に恥ずかしいです。助けて下さい。と言う感じにもじもじしていた。

「ビューリホー。ナイスショット。ま、ここにいる間だけでいいからよろしく頼むよ。」

 ラピスの言葉に、似合わない気がするのに妙に様になっている茶目っ気たっぷりなウィンク一発、龍治は息子の頭を解放すると、二人に背を向けて去って行く。

「っておいこらクソ親父待てゴルァッ!」

 ようやく解放された優司がその後ろ姿に怒鳴るが、もちろん立ち止まる気配など微塵もなかった。
6回目 2014/06/19/00:53:08 No.46  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
「お父さんと仲良いんだね。」

 龍治が去った後、優司は疲れた様子で再び座り込む。その背中に苦笑の気配と共にラピスの声がかかった。

「完全に息子いじめだろアレ。結構本気で頭ホールドしてたぞ。」
「でも、そういうスキンシップができるのは仲の良い証拠だと思うよ。」

 少し痛む頭頂部をさすり、優司は一瞬ハゲる心配をする。いや、大丈夫だぞーう。うちは今のところ誰もハゲる気配はないからな。

などと、心中の一人掛け合いなど知るよしもなく隣に座り直すラピスに視線を投げる。
 日の光を浴びてキラキラと輝く銀髪。アシハラではあまり見られない瑠璃色の瞳。顔立ちもどちらかというとアシハラではなく大陸

系な感じがする。名前から察するにハーフということなのだろう。あまり前に出たがらない性格のせいか、クラスでは目立たないポジ

ションにいるが、よくよく見てみると目立つ容姿だ。

「そういえば、昨晩名簿で見た麻生の今住んでいる家って苗字が違うよな。下宿か何かか?」

 そこまで考えて、ふと名簿を見たときの違和感を思い出した。麻生ラピスの現住所には、最後に「八馬家」という注釈が入っていた

のだ。
 軽い気持ちの質問だったが、その効果は劇的だった。先程まで笑みを浮かべていたラピスの表情が一度凍り付き、少しずつ笑みの形

が抜けていく。それから少しの間を置いて、今度は張り付いたような苦笑が浮かび上がった。

「え……。あ、う、うん。親戚の家……かな?」

 そして、出た言葉がそれであった。今の質問に彼女が何を感じたのか、そしてあの間に一体何を考えたのか、まともに言葉を交わし

たのもこれが初めてな優司にはわからないが、触れてはならない話題だったことだけはよくわかった。

「あー。うん。すまん。これ以上この話はなしな、なし。っていうか連絡だよ。昨日連絡つかなかったんだから、一日遊び歩いてたこ

とになってるかもしれないぞ。ほら、早く連絡したほうがいいって。」

 本当は家の話題から離れたいが、離れられないこの悲しさよ。己がボキャブラリーの貧しさに内心で涙を流し、優司は貼り付けたぎ

こちない笑みで話題を微転換した。

「あ。そ、そうだね。連絡しないとね。えっと……携帯は。」

 そんな優司の心情を悟ってか、ラピスもまた同じような笑みを浮かべ、自分の衣装を触って携帯を探す。しかし、今彼女が着ている

のは本来のものではなく、この家で用意された浴衣だ。携帯が見つかるわけもない。

「携帯? あー、確かシャロが洋服の横に置いてたと思うが。ほら、枕元の。」

 その様子に、優司は妹の言葉を思い出し、親指でラピスが寝ていた部屋を示す。ラピスがその指の先を目で追い、立ち上がると部屋

へと入っていった。

「あ。あった。えっと……。」

 部屋の中からそんな声が聞こえ、携帯を握りしめて戻ってきたラピスが三度縁側に腰掛けて二つ折りのそれを開く。

「へぇ。今時の女子陣ってみんなスマートホン持ちだと思ってたんだが、麻生さんはガラケー派か。」
「うん。使いこなせそうにないし。変えてる暇もなかったし。あれ?」

 苦笑しながら画面を見たラピスの表情が曇る。その液晶に表示されているのは着信履歴で、昨晩から立て続けに着信があったことを

示していた。表示名は「八馬 柾木」、彼女が厄介になっている八馬家の長男からだった。

「柾木さんからだ。」
「家の人か? そりゃ、年頃の女子が連絡もなしに一晩帰ってこなかったら心配するだろうさ。何で家の方の電話に出なかったのかは

わかんないが、ラピス本人にはかかってきてたんだな。早くかけ直した方が良いんじゃないか?」
「うん。そうだね。」

 優司の言葉に頷き、ラピスが携帯を操作して電話をかける。コール音がしばらく鳴った後、向こうとの通話が繋がった。

「あ。柾木さん。ラピスです。」
7回目 2014/06/21/23:31:28 No.47  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 「タカマガハラ」事務所にて八千代の元に電話がかかってきてから4時間が経過していた。
 事務所内、執務机の前には八千代を含め同年代の少年少女が五人、そしてセルジュの合計六人が集まっていた。
 集まった面々は「タカマガハラ」の中でも彼女が個人的かつ秘密裏に動かせる少数だ。総代とは言え、若輩である八千代に反発する古参陣は多い。少し前にも跡目争いが起こったくらいだ。今は落ち着いているとは言え、そういった面々に協力を仰ぐ場合は正式な手続きを必要とする。そうなると彼女自身の動きも察知され、隠密行動というわけにはいかなくなる。

「今回、あなた方に集まってもらったのは、私の西区遠征への同道、並びに私が不在時の業務対応について話すためです。」

 集まった五人、向かって右から「神在月 桜花」「出雲 雪花」「冬月 桔梗」「真霜 刻夜」「セルジュ=ハウンド」へと順々に視線を投げていく。

「と言っても、同道するのは一名だけです。今回は刻夜に来てもらいます。他の四名は雪花が私の影武者として、桜花と桔梗はその護衛、セルジュは雪花の補佐を務めてもらいます。」

 八千代は淡々と内容を告げていく。五人は無言でそれを聞いていたが、一番右にいる桜花の表情はありありと不満を称えていた。自分が同行できないのが気にくわないという顔だ。

「出発は今から一時間後です。それまでに刻夜は準備を整えて下さい。雪花たちに関しては普段通りで結構ですが、私の不在を気取られることは避けて下さい。特に西区の退魔四家には私が動いていることを悟られたくはありません。同じ「タカマガハラ」ではありますが、西区の四家は特に古い家系です。いかに総代とは言え、東区の人間の関与にいい顔はしないでしょう。」

 そんな桜花の表情には気づいているが、あえてスルーを決め込み、八千代は話を続ける。

「という建前もありますが、実際の所は今回の一件で向こうに貸しを作れるのならば作っておこうというのが本音です。東西の関係は今のところ波風が立つようなことはありませんが、良好とも言いがたいものがあります。ただ、私が動いたと悟られれば貸しを作るどころか行動制限を課せられる可能性が高いので、それ故の少数隠密行動だということを念頭において下さい。もちろん、異論は認めません。各員が最善を尽くすことを願います。」

 そうして、八千代は桜花の方を見てくすりと笑みを浮かべる。

「では、帰ってくる時には向こうのお茶菓子でもお土産にして来ますので、皆さん楽しみにしておいて下さい。」
「ばんざーいっ!」

 最後にそう締めくくった八千代の目の前で、最年少である桔梗がうれしさ弾けよと言わんばかりの表情で両腕を振り上げた。隣にいた雪花がそれを窘めるが、聞く耳もたずな桔梗が桜花を巻き込んではしゃぎ出す。それにより、桜花の不満は吐き出されることなく桔梗タイフーンに飲まれることとなった。

「すみません、桜花。今回ばかりは我慢して下さい。」

 そんな3人娘を余所にいつの間にかその場から姿を消している刻夜を確認し、セルジュと目配せを交わすと、八千代は誰にも聞かれることのない呟きを自身の口の中で作った。
8回目 2014/06/29/00:13:08 No.48  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
「んで、うちに泊まれって?」
 夕刻。長い買い出しから帰宅し、夕飯を作りながらのキッチンで、武島龍治は三人で食べるにはかなり多い量のカレー鍋をかき混ぜながら背後に立つ二人に振り返った。
 発端は今朝の話に遡る。携帯で連絡を取ったラピスに対し八馬柾木はその無事を喜んだ。だが、その後に付属する話が少しばかり今の状況を厄介なものにしていたのだ。

「はい。私が厄介になっている八馬のおじさんが昨晩の霧で交通事故に遭ったらしくて。幸い命に別状はないらしいんですけど、しばらく入院しないといけないということで、おばさんはそれにつきっきりになるそうなんです。加えて一人息子の柾木さんは明日から大学の研修で家を空けてしまうので、私独りだけだと不便だろうと。」

 龍治に携帯での会話内容を説明するラピス。その表情は実に居たたまれないものだった。

「なるほどね。そんな申し訳なさそうな顔しなさんなって。うちは無駄に広いから部屋は余ってるし、しばらく泊まるくらいならまったく問題はないよ。」

 そのラピスの表情を見た龍治が、穏やかな笑みを浮かべた。

「いやいや待て。お袋とシャロがいるならともかく、今の男所帯に年頃の娘一人を置くってのは正直問題がありませんかねぇ? ていうか、その柾木って人もどこにいるかくらい確認してから電話切ってくれよ。慌ててたのかもしれないけどさ。「友だちの家」=女友達の家だと思ってるよな絶対。」

 そんな父親の態度に、待ったをかける優司。

「ん? 別に問題行動を起こさなければ無問題じゃないか? それとも、襲うのか?」
「え?」
「襲うか! 麻生さんも真に受けない!」

 しかし、どこ吹く風の龍治はさらりと問題発言をかまし、笑っている。

「オレが言っているのは対外的な話だ。内で問題が起きなくても外で何言われるかわかんないだろうが。うちの家は今更噂の一つ二つはどうでもいいだろうが、そういうことになったら麻生さんは困るだろう。女の子なんだからもっと自分の身を大事にしなさいっ。」

 飄々としている父親に噛みつく優司。無駄に母性っぽいものが出ているが、それは生来の気質かなんなのか。

「男二人に女一人の比率が問題なら、心配はいらない。もう少ししたら女率増えるから。しかも、襲おうとしても返り討ちに遭うようなお方が。」
「は? 誰が来るって……。」

 なおも言いつのろうとする優司を手で制す龍治。心配するなと言いたげにその手でラピスの頭を軽くなで、鍋の様子を確認してコンロ火を落とす。

「ほれ。我らがクイーンのご到着だ。」

 そう告げるのと家のインターホンがなったのはほぼ同時だった。
9回目 2014/07/09/21:13:12 No.49  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 西区、武島邸の門前に一台のタクシーが停車する。後部座席の扉が開き、そこから一組の男女が降り立った。

「懐かしいですね。」

 郷愁に浸るように目を細めて眼前の門を見上げるのは黒一色のセーラー服を着用した東方院八千代だ。変装のためか髪を後ろで結い上げてポニーテールにし、伊達めがねをかけている。

「昔はよくこちらに来てたんでしたっけ? お嬢。」

 その後ろ、運転手に代金を支払い終わった学生服姿&メガネ姿の真霜刻夜が並ぶ。何を思ってチョイスしたのかわからないビン底めがねとその特徴のない容姿が相まって、昔のアニメに出てくるような目立たないガリ勉タイプのテンプレートのような出で立ちだった。もっとも、両手と背中を塞ぐ二人分の荷物に関してだけはあきらかに異彩を放っていたが。

「ええ。武島とは古くから交流がありましたから。お父様同士は特に気が合っていたようですし。」

 二人は言葉を交わしながら、門横に備え付けてある戸口に立ち、インターホンを鳴らす。程なくして内側から鍵が開けられ、武島龍治が顔を出した。

「ハロー。クイーン&ナイツ……って、二人だけか。もうちょっと人数連れてくると思ったんだが。」

 大仰に両手を広げて歓迎の意を示す龍治だったが、目の前に居る人数が予想より少なかったことに苦笑を漏らした。

「お久しぶりです龍治。今回はなるべく目立ちたくなかったのでこのようになりました。しばらく厄介になります。」
「真霜刻夜です。お嬢ともどもよろしく願います。」
「はいよ。いらっしゃい。ま、くつろいでいってくれ。まずは簡単便利な夕食を用意しておいたから、話はそれからな。」

 記憶と変わらぬ龍治の様子にくすりと笑みを漏らし、八千代が頭を下げる。それに続く刻夜。
 龍治は笑顔で二人を家の中に招き入れ、ひとまずの食卓を囲むために先導する。
 靴を置いて玄関を抜け、ダイニングへと移動する。途中荷物はひとまず玄関脇に置き、後ほどそれぞれの部屋に運ぶことにした。
 廊下を歩けば漂ってくる香りはみんな大好きご家庭の味。カレーだ。

「カレーですか。」
「ま、変に気合い入れるのもキャラじゃないしな。こういう方が八千代もそっちの刻夜君も気楽だろ?」
「そうですね。」

 襖を開ければ洋風のダイニングというのも変な構造だが、先導していた龍治が襖を開けば、ダイニングでは皿を並べる優司とラピスの姿があった。

「ああ。親父。で、結局何人分……。」

 テーブルに付け合わせのサラダを盛った皿を置いた優司が襖の開く気配に振り返り、停止する。

「たけ……優司くん?」

 カレー用の皿を重ねて持って来ていたラピスが、その挙動不審さに彼の視線を追う。そこには龍治を含めて三人。もちろん二人は知らない顔だ。

「へぇ。鈍いと名高い我が息子が一発で気づいたっぽいぞ。」
「おかしいですね。一応変装はしているはずなのですが。」
「いや、お嬢。出がけにも言いましたけどこれほとんど変装になってませんから。」

 その三人が何やら言葉を交わしあい、全体的に黒い(衣装とか髪とか)印象の少女が一歩前に出る。

「久しぶりですね優司。しばらく厄介になりますよ。」
「やっぱ八千代か!?」

 たおやかな笑みとともに告げられる言葉に、あんぐりと口を開けたままの優司の言葉が被さった。
10回目 2014/07/24/16:17:40 No.50  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 武島家の一室。居間から離れた家屋の一番奥にあるその場所で東方院八千代と武島龍治は向かい合っていた。
 夕食後から一時間ほどたった午後八時を回った頃の話である。それぞれの自己紹介や部屋割など和気藹々とした団らんムードだった食事の席とは異なり、その部屋はピリピリとした空気があった。それもそのはず、今この場で交わされようとしている会話は退魔士としての仕事の話だからだ。

「それで龍治。今朝の電話の件についてですが。詳しい事を聞かせたいただきます。」
「そいつはいいんだが、あの刻夜って子は同席しないのか?」

 龍治の言うとおり、夕食後に荷物の運搬や部屋の片付けを買って出た真霜刻夜はこの場所にはいない。退魔士としてこの西区に参上したからには、彼もまた事情を知っておくべきなのではないかと思うのは至極当然である。

「心配には及びません。彼との情報共有は簡単ですので。」

 首を傾げる龍治に、八千代は含みのある笑みを返す。が、その言葉の理由までは明かすことはなかった。

「ま。お前さんがそう言うならいいんだけどな。それじゃ、本題に入るか。」

 そうして龍治から語られた内容は要約すると次のようなことであった。
 まず昨日の事件について、被害に遭ったのは全て破魔家の退魔士であったこと。人員の詳細はまだ調べられていないが、数はセルジュの言った通り10人。2人1組(ツーマンセル)で構成された4組とリーダー1人での巡回中に霧が発生し、それと同時に突如現れた魔……鬼との遭遇戦に突入。最初に遭遇した2人の救援要請に従って戦力を集中させた結果、死人は出なかったものの全員が何らかの負傷を負い、鬼も取り逃がしたのだという。

「なるほど。しかし、10人全員が負傷ということは、リーダーを含めた全員でかかったということですよね。戦力の逐次投入をしたわけでもなく。それで、目標を取り逃がし、全員が負傷というのは余程の強さの魔ということでしょうか。」
「さてな。霧が発生していた時刻はオレたちも見回りをしていたんだが、残念ながら霧に巻かれることはなかったんだ。唯一、優司が体験したんだが、1m先も見えないレベルだって言っていたからその視界の悪さが作用したのかもな。」

 腕を組み、眉をしかめる八千代に対し、龍治も肩をすくめた。

「何にせよ、実際に負傷した破魔の退魔士の名前なんかはまだわかっていないんだ。明日中にはその辺りも含めて探っておく。そうすれば、より詳細な鬼と遭遇した状況がわかるだろ。」
「そちらは任せます。私は明日の昼にでも街を回って見ましょう。以前とは様変わりしている所も多いでしょうし、日が出ている内に
マップを覚えたいところです。あとは、霧が出たという地域のだいたいの場所がわかれば……、後で優司に聞いてみましょう。優司は鬼に遭遇はしていないのですよね?」
「ああ。霧だけで、鬼には遭遇しなかった。代わりに麻生ラピスと酔っ払いの一幕に出くわしちまったようだが。」
「不幸中の幸いと言うことですか。しかし、年頃の女子がそんな夜中に1人で出歩くのはどうなのでしょうね。」
「コンビニにでも行ってたんだろう。最近はよくあることさ。」
「よくあるんですか。」
「ああ。よくあるのさ。」

 2人の会話が途切れる。難しい表情を見せる八千代に、龍治は苦笑を漏らした。おそらく、彼女は「夜の怖さ」を知るが故に麻生ラピスの無防備さを憂慮しているのだろうが、その思考は退魔士のものであって、魔を知らぬ一般市民とは縁遠いものだ。

「ま、なんだ。そういう一般人が夜出歩いても大丈夫にするのが退魔士の役割だろ。今回は何故か警察のまねごとみたいになっちまったが、そういうのも含めて対応できる腕っ節はあるわけだしな。ちなみに酔っ払いさんは昏倒させて、霧が晴れてから近くの公園に運んでおいたらしい。本来なら警察に引き渡すんだが、優司が言うにはあちらさんも霧に巻かれてパニクってたらしいからな。それに、クラスメイトの手前、ことを大事にしたくはなかったとさ。」
「そうですか。まぁ、そんな状況とは言え婦女子に暴行を加えようとする者に容赦は無用と思いますが。優司は甘いですね。再発でもしたらどう責任を取るというのでしょうか。」

 眉根を寄せる八千代に、龍治は苦笑を見せた。言っていることは最もだが、だからといってまだ学生である息子があんな時間に出歩いていた説明を警察にするのも面倒な事案なのだから、仕方ないとも言えるのだ。

「そう言いなさんな。意識不明の保護対象もいたわけだしな。さて、脱線した話を戻すが、今回の件には気になるところがあってな。霧の出る夜には鬼が出るっていうのがこの地域にある伝承なんだが、まさしくその通りのことが昨日の事件で起こったわけだ。ただ、この伝承が生まれた時期には霧の発生が頻発していたらしいが、ここ最近……少なくともオレがこっちに来てからは夜に霧が出るなんてことはまずなかったんだ。それが、どういうわけか昨日のありさまだ。一応、この気象庁含めでこの地域の昨晩の気象状況を調べて回ったが、霧の予報なんかは出てなかった。」

 ともかくも、息子の行動に軽いフォローを入れながら、龍治は話を次の段階へ進めた。それこそが今回、東区から八千代を呼んだ要因とも言えるものだ。

「霧の出る夜には鬼が出る、ですか。私が知っているこの地域の伝承は鬼神伝説だけだったのですが、そのようなものもあったのですね。」
「それはこの西区全域の伝承だからな、東の人間でも知ってるやつは多いだろう。今回の霧と鬼の話は本当にこの地域だけの都市伝説というか地域伝承という感じだから、タカマガハラの資料にもないんだろうさ。」

 なるほど。と頷く八千代。確かに、東西の確執が拭いきれない今のタカマガハラでは狭い範囲の地域伝承まで全てを網羅にするには至らないだろう。特に東区の東方院では西区を全て把握することはできない。

「とりあえず、東西の情報共有問題はひとまず置いておくとして、昨晩の件は霧の予報が出ていないにもかかわらず濃い霧が出た。もちろん、突然の気象変動という可能性もあり得ますが、それよりもまずは何らかの作為的な発生だと、あなたはそう考えるわけですね?」
「そういうこと。実際にオレも霧に出くわしていればもうちょっと何か解ったと思うんだが……。ただ、今言った伝承には裏があってな。前提と結果が逆なんだよ。霧が出たから鬼が出るんじゃくて、鬼が出たから霧が出るんだ。霧はいわゆる人払いの結界で、当時はそういった術式面が未熟だったのか、《霧を出せる能力者》がその霧で人払いを行っていたらしい。もっとも、最初からその範囲内にいた人間には効果がなかったらしい。だから霧が出て鬼に出くわしたって一般人が出て伝承になったんだな。と、これは蛇足か。何にせよ、そういう裏もあって今回の霧と鬼がどうにも偶然には思えないわけだ。」
「ちなみに、この地域で今の伝承は有名なのですか?」
「ああ。退魔士の間じゃ知らないやつはいないんじゃないか?」
「それでは犯人像は絞れませんね。結局は調査しなくては始まりませんか。」

 ため息をつく八千代に、龍治も頷く。

「そうだな。正直、偶然って線もなきにしもあらずだ。が、オレはそっちの線は薄いと思ってる。だからお前を呼んだ。もし今回の件がなんらかの思惑が絡んで発生した事件だとすれば、それは西区の退魔士……破魔と鳳凰院に関係している可能性が大いにある。座してそれを眺めてるだけってわけにはいかないだろ? よしんば違ったとしても、丁度良い機会だから西区の現状を見ていけばいい。」
「そうですね。ですが、ひとまずは目の前の事件の解決が優先です。今回は退魔士のみの被害でしたが、これが一般市民に及ぶのは避けなくてはなりません。」

 退魔組織の総代としての顔で語る八千代に、子を見る親のような視線で龍治が続く。

「だな。セルジュのじーさまからも朝に調査を依頼されたんだが、とりあえずこれから八千代が動くなら事件調査はそっちで引き継いでもらって、オレらはバックアップか。とりあえず、オレは伝承をもうちょっと掘り下げてみる。人払いの霧について何かわかれば今回の霧についても何かしらの糸口がつかめるかもしれないしな。」
「はい。期待していますよ、龍治。」

 にやりと、少女と男は同種の笑みを交わしあった。
11回目 2014/08/19/16:31:20 No.51  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 八千代と龍治が会話をしている頃、残された三人はそれぞれの部屋の準備をしていた。
 夕食時の会話により、女性陣二人は離れを使用し、母屋には男性陣が残るという形になった。八千代に関しては昔こちらに滞在していたときは離れで生活していたためにそちらが慣れているだろうという判断を龍治がし、それならば女同士でとラピスもそちらに部屋をあてがわれた結果だった。
 そうして、刻夜が部屋の整理をしている間にラピスの案内がてら、優司が離れに八千代の荷物を持っていくという作業分担を実施。離れに荷物を置いて、一通り案内をし終えた優司はラピスと一緒に母屋へと戻ってきていた。

「とりあえず八千代の荷物は全部離れの方に運んどいたぞ。そっちはいけたか?」

 と、ラピスと共に優司が刻夜にあてがわれた部屋に顔を出す。部屋ではあてがわれた和室に荷物を整理し終えた刻夜が持って来たスーツケースを隅に置いているところだった。

「ボクの方はだいたい終わったかな。それよりも悪いね、お嬢の荷物を任せてしまって。」
「別にかまわねーよ。わざわざ三人で行っても仕方ないだろ。」

 ははは。と笑みを交わし合う男二人。夕食時にボクシングの共通話題を見つけた二人はいつの間にか意気投合している様子だった。やれ、どのボクサーがこれから伸びるだのパンチの打ち込み方がどうだのと白熱した会話に、女性陣からは微妙に引かれていたのだが、本人たちはまったく気付いていない。

「あ、あのー。ゆ、優司くんと真霜さん。ちょっと、いいですか?」

 そんな男二人の空気に若干気圧されながら、ラピスが優司の背後から声をかける。

「ん? どうしたんだ麻生さん。何かわからないとこがあったか?」
「あ。そういうのじゃなくて……。今、気付いたというか、思い出したというか……。」

 振り向く優司と刻夜の視線にさらされ、少し萎縮気味ではあるがラピスは言葉を紡ぐ。

「私、着替えとか制服とか教材とか、何も持ってきてないなって……。」

 確かに、昨晩の事件でここに運び込まれて以来家に帰っていない彼女の荷物が何一つないのは当然だった。そして、明日から優司とラピスはまた学校があるのだから、本日中に一式揃えて運んでおく必要がある。

「そういえば、そうだったな。完全に忘れてたわ。あー、昼間に気付いてれば昼の内に運んどいたんだが……。今からかー。」

 刻夜の部屋に備え付けてあった時計を見る優司。時刻は21時を過ぎたところだった。

「麻生さんの家ってどの辺りだったっけ?」
「あ。えーっと、学校からだと駅前の商店街を越えた付近に……。」
「って、学校はさんで丁度反対側か。となると片道で1時間弱はかかりそうだな。」

 ラピスの言う場所を聞いて、難しい顔になる優司。それは単に遠いからというわけではなく、魔の活動する時間帯にさしかかってくるという退魔士特有の思考も働いているからだ。
 が、もちろんそんなことを知るよしもないラピスは恐縮したように身を縮めてしまった。

「ご、ごめんね。やっぱり明日の朝、一度帰って支度してから学校行くから……。」
「あ。いやいや。そういうんじゃなくてな。さすがに学生がこの時間に出歩くのはいかがなもんかと思わなくもないというかな。」
「龍治さんが許可だすならいいんじゃないかな。ボクも付き合うよ。こう見えて力仕事は得意だからね、荷物持ちにはなるよ。教材とか着替えとかとなると結構な量になりそうだし。夜ではあるけど、軽く周辺も散策したかったし。」

 ラピスにどう説明しようかと手をわたわたさせる優司に、背後で柔和な笑みを浮かべた刻夜が助け船を出す。彼もまた退魔士であるが故に優司の心配は理解しているが、ついて行くと言うことはそっち方面で問題が出れば引き受けるということを暗に示しているものでもあった。それを伝えるためにも、軽く優司に目配せと頷きを送ってくる。

「そうか? 助かる。じゃあ一旦親父に聞いてみるか。」
「はいはい。どうしたんだ、少年少女たちよ。」
 
 と、その三人の背後より八千代との会談を終えた龍治が歩み寄ってきていた。気配もなく沸いて出た言葉に驚いて振り向く三人の目に、年齢にそぐわぬ妙に愛嬌のある笑顔で片手を上げている姿が映る。

「い、いきなり出てくるなよ。まぁ、丁度いいか。ちょっと今から麻生さんの家まで出てきていいか? よくよく考えたら荷物も服もないんだよ。もちろん教科書やらノートやらの類いもな。明日から学校だってのにそれはまずいだろ?」

 驚いて思わず一歩さがる三人だったが、さすがは息子だ慣れているとでもいうべきか、いち早く復帰した優司がこれ幸いにと今し方話し合っていた案件を相談に出した。
 なるほど。と息子の言葉に龍治が顎に手をやる。確かに年頃の女性に着替えも何もなしで過ごさせるのは問題があるだろう。この家にも来客用の浴衣があって、今はラピスにそれを部屋着として着てもらっているが、それ以外の服装はこの家に運び込まれてきたときの私服の一着だけだ。
 ラピスはその龍治の顔と優司の後ろ姿を心配そうに交互に眺めていた。そのラピスと視線が合った龍治が微笑した。

「ま、いいんじゃないの。女の子に窮屈な思いをさせるわけにもいかないし。けど、見たところ三人で行くのか? 昼間ならともかく、夜だからって送り狼になったり「しねーよ!!」」

 話の途中で繰り出されてきた息子のパンチを易々と受け止め、ハッハッハと笑いながら龍治は頷いた。

「オーケーオケ。行ってきなさい。ただし、くれぐれも夜道は気をつけるように。あと刻夜は八千代が呼んでいたから出発前に一声かけときなさい。まださっき俺たちが使ってた部屋にいるから。」
「ども。了解です。」

 最後に龍治が刻夜に伝言を伝え、場の話はまとまった。

「ありがとうございます。じゃあ、私着替えてきます。」

 それにほっと息を吐き、ラピスは浴衣から自分の服へ着替えるためにあてがわれた離れの部屋へ戻ることにする。

「じゃあ、ボクもその間にお嬢に会っておくかな。」
「んじゃ、玄関で待ってるからそこで集合な。」

 そうして、三々五々散っていく少年少女たち。後に残された大人一人は若いっていいねぇ、などと腕組みして独りごちるのである。
12回目 2014/11/18/01:19:52 No.52  
このタイトル、話を2回言ってますよね?   
「お嬢。来ましたよ。」
「ええ。入りなさい。」

 襖一枚を隔てた廊下から刻夜が中へと声をかけると、間髪入れずに中から八千代の声がかかった。失礼しますよ、と部屋に入れば、和室の中央に座布団を敷いて正座し、迷走するように目を閉じている八千代の姿がある。
 刻夜はするりと中へと身を滑らせ、後ろ手に襖を閉めた。日頃の癖で部屋の外の気配を探るが、もちろん近くに他人の気配はない。

「話はまとまったようで。ボクを呼んだのは情報共有のためですね?」

 そのまま八千代のそばにあぐらをかけば、目を開いた彼女がまっすぐと刻夜の瞳を見つめてきた。

「その通りです。わかっていると思いますが、今回あなたに同行してもらった理由は……。」
「みなまで言わなくても。というか、これからちょっとばかし、麻生ラピスさんの所用で外に出ますんで、手短にいきましょう。あんまり長居していると待たせてしまいます。」

 八千代の機先を手で制し、刻夜はこの後の予定を彼女に告げる。それに一瞬訝しげな表情を浮かべた八千代だったが、即座にその表情を消して本題に入ることにしたようだ。再び目を閉じ、心持ち下を向いて刻夜に頭を差し出すような姿勢になった。

「その辺りの事情も一緒に共有してください。当然帰宅後に道中あった出来事もです。」
「了解ですよ。」

 その生真面目な口調と言葉に苦笑を浮かべながら、刻夜は彼女の頭に手を乗せる。そして自分も目を閉じた。

 真霜刻夜。アシハラ国 退魔組織「タカマガハラ」所属、筆頭直属退魔士の一人。個人の戦闘能力に関してはそれほど特筆すべき点はなく、ランク的には中の下と言ったところだ。が、彼にはそれを補う特異な能力がある。
 「共有」
 それが、真霜刻夜の能力名だ。元来、真霜家の能力は「略奪」という。それは他者から何らかの力を奪う魔眼の類いであったが、刻夜はその才に恵まれず、しかしその亜種とも言うべき「共有」という能力を持って生まれた。彼のこの能力はその名の通り相手と自分の「何か」1つをお互いに共有するというものだ。その共有できる何かは様々で相手もしくは自分の特異能力や身体的特徴、果ては記憶までに致る。ただし制約として共有するときには自分と相手が直接触れている必要があり、相手が自分との共有を意識的に許可していること、そして一人に対しては一つまでの共有が前提条件となっている。また、共有した他者のモノをさらに他の誰かと共有することはできない。その条件を守るならば彼は最大五人までと同時に共有することが可能だ。

「はい。こんなとこです。」

 しばし、八千代の頭に手を乗せていた刻夜だったが、時間にして一分ほどでその手をどけた。それだけの時間で彼の頭の中には八千代が龍治と話していた内容とそこから導き出された彼女の行動指針が刷り込まれ、逆に八千代にも麻生ラピスがどういった理由で外出を求め、彼女を含めた三人が外出することも伝わっている。

「なるほど。学生の身分としては仕方の無いことですね。ただ、時間が時間です、念のため連絡はいつでも取れるようにしていてください。」
「最近は携帯電話とか便利でいいですよねぇ。」

 八千代の言葉にポケットから取り出した携帯電話を軽く振り、刻夜は了解の意を示してその場を後にした。
13回目 2015/01/09/23:49:09 No.53  
このタイトル、話を2回言ってますよね?  
 初夏の夜はまだ涼しいものだった。気温の上がりきらない昼間の暑さは月灯りに吹く冷えた風に洗い流され、少し肌寒さすら与えてくるくらいだ。
 そんな夜道を男二人に女一人の三人組……武島優司、麻生ラピス、真霜刻夜の三人は歩いていた。既に八馬家でラピスの荷物を回収した帰りであり、男二人の手には旅行用のカバンが一つずつ、もちろんラピスの荷物類だ。

「この時間でもう静かなんだね。」

 左手にトランクケースを提げた刻夜が、周囲を確認しながら言う。彼のいた東側の街……特に首都近郊ではこの時間であってもそれなりに人通りのある地区も多い。それに比べて今歩いている場所には自分たち以外の人の気配は皆無だった。

「ま、この近辺は住宅街だしな。さっき通った学校の向こうにあった駅前商店街もこの時間じゃさすがに開いてるところも少ないし……。仕事帰りの会社員用に飲み屋と飯屋が少し営業してるくらいなんじゃね。向こうはそうでもないのか?」
「まぁね。朝までやってる店も多いし。地区によっては24時間営業もざらにあるよ。さすがに電車は日付変わるあたりが終電になるけど。」
「ひ、東側って凄いんですね。」
「外交流通の主流って話は伊達じゃないんだな。西側は未だ鎖国時代の風習が抜けきってないって話、今の言葉を聞くと納得しちまうぜ。」

 閑静な住宅街を物珍しそうに歩く刻夜と、その話に驚く二人。東西の文化の違いが垣間見える瞬間だ。

「あ。でも今のはオフレコでね。学生のボクが深夜帯の店の開店状況とか知ってるっていうのは色々と風紀的に問題があるから。」
「夜遊びかよ?」
「さてね。」

 はははと笑い会う男二人。その隣でラピスはふと立ち止まっていた。その視線は進行方向ではなく、横へと逸れる道へと注がれていた。

「っと。どうしたんだ麻生さん。何かあったか?」

 それに気付いた優司が立ち止まり、少し先を行っていた道を戻ってくる。刻夜もその後に続いてきた。

「え。あ。え、っと。ご、ごめんなさい。二人にちょっとだけお願いが……。」

 そんな二人に、チラチラとその横道を確認しながら、言いにくそうにラピスは言葉を紡ぐ。

「この先は?」

 刻夜がラピスの視線の先にある道がどこに続いているのか首を傾げた。

「確か、展望公園だったか? ほら、こっからでも見えるだろ。あの丘の上のやつ。あそこに繋がってるはずだぜ。」

 その問いには優司が、月明かりに見える丘上の展望スペースを指さしながら答えた。

「う、うん。えっと、その。ちょっとだけあそこに寄っていきたいんだけど……。だめ、かな?」

 そうして、ラピスが告げる言葉に、理由はわからないが男二人は顔を見合わせながらも「まぁ、いいんじゃね?」「少しくらいならね」という一言で承諾するのであった。

2012/04/25/10:20:42 No.2  
案内  
詩はこちら

※文字数は約3000文字くらいまで
ケラノウス 2012/05/06/16:24:14 No.4  
カルマ  
突然の豪雨に走り出した
雷の襲来 逃げ出す人々

去ってゆくのを
息を潜めて 待っていた

時を駆けて彷徨う影は
何処へも行けない
胸を貫く槍はそのまま
刺さっているんだ


ずぶ濡れの惨状が訪れた
雷の逃亡 落ち着く人々

去っていったのは
束の間の 休息か?

夢を見せて忘れさせる
全ては幻なのか
思い出せないこの記憶が
悲しみならば良い


永く永く続いてゆく
ゼウスの雷霆
何かが震える


時を駆けて彷徨う影は
何処へも行けない
胸を貫く槍はそのまま
刺さっているんだ

思い出せないこの記憶が
悲しみならば良い
引き出し 2012/05/09/05:20:48 No.5  
カルマ  
忘れ物をどっかにしてきた
思い出せない 思い出せない
自分自身に問いかけても
思い出せない 思い出せない

記憶の引き出しが散らかったまんま

大切だから大事にしてると
触れもせずに月日は経ち埃まみれ
使いもせずに置き去りにされたもんは
一体何だったんだろ?


探し物が全然見つからない
よくある事 よくある事
諦めがつかず時が過ぎ
よくある事 よくある事

手から離れるもんは必要じゃないという事?

確かめなきゃいけない事柄が多くて
1つや2つくらいはスゥッと忘れ去られ
何が必要だったかなんて考えても
こっちが置いてけぼり


忘れ物をどっかにしてきた
思い出せない 思い出せない
自分自身に問いかけても
思い出せない 思い出せない


大切だから大事にしてると
触れもせずに月日は経ち埃まみれ
少しは手に取って埃払ってやって
思い出させてやろう
記憶の引き出しにあるもんは
自分のもんだ
泡沫 2012/05/11/06:28:57 No.6  
カルマ  
グラスに注がれたウイスキー
ソーダが後ろをついてきた
逃げ出そうと泡が走り出す
消えてしまうのも知らずに

酔って忘れたい事
逃げ道なんかじゃない
物憂げになる瞬間
たまには必要かも

氷が溶けて薄まってきた
一気に飲み干すか選択だ
自分を信じたきゃ強くなれ
戸惑いさえも不安さえも
泡沫の時


もう一杯注文しようかな
酔いの回りがついてきた
眠りたくない気持ちが上回って
眠れぬ日を繰り返し続ける

ケータイのメールばかり
気にして何も見えない
文字だけで発するものは
本当に伝えたい事なのか?

笑顔で力強くいたい
何を守るか?問いかけるけど
弱い自分はいなくていい
そんな姿はいつの日にも
泡沫の時


空になったグラス覗き込めば
「また飲み過ぎた」
後悔しても始まらない
次に進め 明日を勝ち取る為


氷が溶けて薄まってきた
一気に飲み干すか選択だ
自分を信じたきゃ強くなれ
戸惑いさえも不安さえも

こんな場所では必要無い
最後に笑い立っているんだ
自分の為だと言うのなら
こんな姿もいつの日にか
泡沫の時
雨音 2012/05/15/05:13:36 No.7  
カルマ  
雨音に隠す足音
ザァザァと流れてゆく
疾しく日々は続き
濡れた犬は水を拭ってる

曇り空の果てに
光を見つけ出したい

空っぽの器に溜まってゆく
ユラユラと揺れるモノは何?


差し込む光を妨げた
カーテンを羨ましく思う

晴れ空を手に入れようとした
憧れは遠く遠く滲む

空っぽの器を放り投げた
ガラガラと崩れるモノは何?


雨音に隠す足音
ザァザァと流れてゆく
疾しく日々は続き
濡れた犬は水を拭ってる


空っぽの器に溜まってゆく
ユラユラと揺れるモノは何?
溢れ出した器に手を伸ばした
カラカラと流れるモノは何処へ?
heaven 2012/05/16/03:13:19 No.8  
カルマ  
走り出した 世界の果てまで
生きる術は 身体の奥深くに

繋がる糸は 切れはしない
どんな時でも 心は確かに

行け!身体が朽ちる時さえも
気づかない程走り続けろ
Going to the heaven.
息を切らしても
鼓動は止まりやしない

自分を
信じて


太陽さえ 隠れようとしても
道を照らす 明かりはいつも心に

聞け!真実の唄の核心を
声が枯れるくらい叫べ
Going to the heaven.
息を切らしても
命は消えたりはしない

自分を
信じて


行け!身体が朽ちる時さえも
気づかない程走り続けろ
Going to the heaven.
息を切らしても
鼓動は止まりやしない

行け!己の存在形にする為
知れ!世界の果ては遠い
気づいた時に新しい顔を
世界は見せる
little 2012/05/16/03:40:01 No.9  
カルマ  
寒い冬を越えて動き出した
熱戦の開幕 胸躍らせる人々
真剣勝負に野次を飛ばせ
機嫌損なうような事望んでない

喝采は続く 隣に君の姿
誰よりもヒートアップ

叫んでたって君に届かない事はある
届くかな?期待をいつも携えながら


予想外のエラー ブーイングの嵐
加熱し続ける空間は止まらない

勝ち越していたって隙は見せれない
君よりも試行錯誤

引き分けだって不満な表情になったりも
君の気持ちを受け止めきらなきゃ、時には


スポットライト 照らされる人達みたいに
カッコ良く居続ける自信は無いけど


叫んでたって君に届かない事はある
届くかな?期待をいつも携えながら

暴投する言葉は何処まで向かうんだろう?
拾ってきて投げ返して君に届けたい、少しでも
陽炎 2012/05/16/04:14:03 No.11  
カルマ  
揺らめく心の足跡
終わる場所は何処だろう
色の無い靄に邪魔されて
彷徨い続ける

不安定な形状
消えそうで儚くもある
風が吹かない事を
静かに祈ってる

ただ傍にいたかっただけなのに

いつの間にか寄り添っていた
囁きかける想い触れられず
道は遠く 辿り着けない
確かにあるはずなのに


晴れた空の砂浜
砂の形は見えない
色の無い靄は存在を
消しはしない

寂しくなっても一歩向かわなきゃ


陽炎の靄をかき分けてあなたへ


いつの間にか寄り添っていた
囁きかける想い触れられず
道は遠く 辿り着けない
確かにあるはずなのに
ずっとそこにあるはずなのに
寂しがり屋達の誘惑 2012/07/13/06:39:13 No.14  
カルマ  
巷で騒ぐ人達が言う「誰かと一緒にいたい」
寂しがり屋達の誘惑は止まる事を知らない

独りじゃ生きてけない 常識の範囲は広い
「静かが苦痛」って言えるだけまだましさ

朝陽に向け古ぼけた今日が終わる
世界の何処かでは既に始まりが告げられた
さぁどうしよう?
Every body come on!
確かなのは夜は誰にでも来る


寂しがり屋も度を過ぎればうざったがられる
何とかしろ!言われても治る兆候は無い

どうにもできなくなったらその時は来れば良いさ
「依存」って言葉はまとわりついて離れなくなるぞ

夜に向かって陽は沈むのか?
夜が逃げ出すのか?
ちゃんとした終わりなんて分からないもんだ
さぁどうしよう?
Every body come on!
確かなのは明日は一応来る


朝陽に向け古ぼけた今日が終わる
世界の何処かでは既に始まりが告げられた

夜に向かって陽は沈むのか?
夜が逃げ出すのか?
ちゃんとした終わりなんて分からないもんだ


さぁどうしよう?
Every body come on!
確かなのは自分はココにいる


寂しがり屋達の誘惑はいつでも近くにある
無情の日々 2012/09/23/16:25:00 No.21  
カルマ  
哀しみが止んだ
時が動き出した
歩く術を閃いた
手は伸ばさなかった

伸びて行く道は
いつまで続くんだろ?

鳴り止まない
声は耳障り
無情の日々
何処まで行きたいんだ?


呆れた夢が逃げた
時が歩くのを止めた
探したって答えは
隠れんぼが大好き

見つからないんだ
そろそろ出て来てくれよ!

魅入られたら
できない後戻り
無情の日々
何時まで待てば良いんだ


鳴り止まない
声は耳障り
無情の日々
何処まで行きたい?

明日の事は
明日に任せて
無情の日々
今日を誰に任せるんだ?
耳を澄まして 2012/12/17/04:14:26 No.22  
カルマ  
少し、風の強い一日
お日様は笑っている
軽快に歩ける道だから
自分のペースで行こう

ちょっと立ち止まってみたら
少し辺り見渡してみよう
桜が揺られて綺麗
光がダンスしている

心に足りないものは
風が運んできてくれるよ
色んな声が聞こえる
「耳を澄まして」


少し、聞いた葉の鳴き声に
目を閉じて身を委ねてみる
呼吸から伝わる「春」は
暖かさを呼ぼうとしている

俯く事もあったって良い
笑顔になる事ができるなら
時には伸びでもしてみよう
桜も色を変えてく

心が欲しがるものは
手を伸ばしても掴めなかったり
色んな声が聞こえる
「耳を澄まして」

寒さを凌げば春が来る
暖かさは待っている
軽快に歩ける道だったら
自分のペースで行こう


心に足りないものは
風が運んできてくれるよ
色んな声が聞こえる
「耳を澄まして」

心を満たせるものは
すぐ傍にあるかもしれない
色んな声が聞こえた
すぐ近くから…
常闇 2012/12/20/18:41:18 No.23  
  
臆病者の戯言  ────目を背けてきた ”それ”
拾い集める欠片  ────それは 遥かなる残響
朽ち果てた記憶  ────それに縋りつく 震える手
甘い誘惑  ───偽りに 身を委ねた
絡みつく銀鎖   ───気づかない振り
捕われの記憶  ───見ない振り
硝子の目玉  ───そうして 時を止めた



四角い部屋の隅  抱え込んだ膝  差し込む月明かり  氷付くほど冷たくて
すすり泣く子供  見つからないかくれんぼ  鬼は誰  『後ろの正面 だぁれ?』
路地裏の内緒話  秘め事を教えて  マネキンの群れ  同じ顔が交差点を渡る
インプットされた 仕込まれた マニュアルどおりに
路地裏の野良犬 明日の無い夜 繰り返す 繰り返す やがて来る”それ”から
背を背けて そうして 嘲笑う 愚か者の宴 終わりの無い夢
白昼夢  瞬きの夢  パラフィンに描かれた 嗚呼、脆く儚い それは蜃気楼
街灯に映し出される 幾つもの影 本物はどれ? ───全て幻影
明暗に迷う  彷徨う 戸惑う 見失う───

偽りの答えを囁く
騙す───俺が 
騙した───俺を 
騙された ───俺に?


灯りをくれないか
闇の中 暗くて 見えない ───何も
見つけたい ───何か
定まらない 足元
不確かで 堕ちていく 伸ばした手の先
炎の中に映し出される 逆さまの顔


───さぁ、目を覚まそうか。

-----------------------------------
昔書いた物を載せて見ました。
In Situ 2013/06/05/12:10:43 No.24  
手毬のひと  
ねぇいつもみたいに
今日もわたしを・・・
上からxxxxが見下ろしてるね
今日は何を致しましょう
受け入れるね、今宵もまた
タラタラ流れる未練だけが文句を言っている
あれからわたしは人間未満
忍ばせる
震えが止まない右手が今も笑ってる
左手はさようなら
右手でさようなら
「R」

もうわたしは笑っていいのかな?
何度も過ぎ去った痛みは忘れられないけれど
焼け付くお腹を抱えて、檻の外
この世もあの世もなく笑え

業堕ちてひとえに狂いだす今宵も春の夜
慣れない腕に任せて、私と音を壊していく
散った数だけ膨らむ大地
明日の明日こそ明日になれ
彼方は正しい?
空を睨み掴み引き摺り落とす

そうしてわたしは落ち延びています
苦し紛れに笑ってはみます
いつか心の底
滲む空は地面の色
わたしは死にたくないのです
INVITE DEEP 2013/06/20/02:48:33 No.25  
手毬のひと  
今日も涙を零します
誰かわたしを罵ってください
Invite
口汚く、笑う
今宵も一心不乱、慰める
深く抉って底へ沈めていく魂
今だけは誰も
眼窩から垂れる感情の結露
弾いては跳ねる心臓の音と軋み
違うとわたしは否定するけれど、誰もが言う
Invite
わたしは悪くないと
Invite
陰彩、奥底に眠る感情を揺り起こす
そこに眠るわたしを見下ろす
隠しようもない本性が衝動となってわたしを誘う
違う、そうじゃないんだと今日も埋没していく
ひっくり返した土に混ざったはずの種は見当たらない
何も芽生えず、腐り果ててしまった
その事実にわたしは微笑む
そうもっと口角をあげて
頬に手を添えて薬と微笑を浮かべるのです
違う、わたしはそんな[]じゃない
そう言いながらあしたの指を誘う
指きりげんまん、嘘を吐いてもいいのよ
最後の震えの後に魂を吐き出す
わたしはもう泣いていない
17 2013/08/23/05:26:38 No.32  
カルマ  
「若気の至り」だなんて言わないで
もっとキレイに自分魅せたいだけ
相手はちゃんと私見てくれる
傍にいて欲しいならいてあげる

ベッドの上だって 全部見せてあげる

軋む音ギシギシ伝ってきた
静かな部屋で響き渡る声
本当の姿わからなくて

どれが自分なんだろう
あと3年くらいで分かるかな?


「寂しい」だなんて言えない
言ったとしてもそれは上辺だから
本気の作り笑い気づいて
震えた手は涙に変わる

差し伸べられた手は 繋いだら離さない

背を向けて眠るのは止めて
静かな部屋で独りきり
ちゃんとした気持ちは送れないから
どれが自分なんだろう
あと何年くらいで分かるかな?


瞳の奥の裏側 産み出されたモノは何?
心が正直過ぎたせい
何もかもが分からなくなった
罪だって全て正当化


軋む音ギシギシ伝ってきた
静かな部屋で響き渡る声
本当の姿わからなくて

どれが自分なんだろう
あと3年くらいで分かるかな?
あと何年くらいかかるかな
なんて、考えられない。
Bone 2013/09/03/04:16:39 No.33  
手毬のひと  
ほら産み付けられた感情に寿命はない
枯れ腐って奥底に根付いてる
全てが全て灰色になあれ
夜眠れば朝が来ますか?
気が狂いそうな夜に朝はありません
「明日こそ眼が覚めませんように」
すべてはあのお天道様が悪いのです
鼻につくにおい、浮かぶのは薄くスライスされた笑顔
今日の夕飯はハンバァグ
茶色い焦げのついたハンバァグ
いただきます、お×さん
笑えぬ夜に眠れぬ事実が笑える
笑える夜に眠れぬ事実に笑えぬ
気が来る居そうな夜に視る幻覚が消えない
突き立てた事実も、もう消えないから

ほら産み付けられた感情に行き場は無い
ぐるぐる回ってわたしの中で荒い息を立てて
気が狂うほどに微笑ましい豚の笑い声もすぐ殺せ
気が狂ってる素敵な胎動に愕然として…
愛せない、愛さない、お幸せに
こんな世界に産み落としたことこそが罪
どうしてもっとマトモな世界に生んでくれなかったの?
呪われて当然の末路にわたしも苦笑い
だから…だから

わたしはきみを愛せない
わたしはきみを愛さない

だから
きみはわたしを愛さなくていい
きみはわたしを愛せなくていい
ただわたしの代わりに、幸せになって下さい。
歌型の夢 2014/01/20/02:11:49 No.34  
手鞠のひと  
優しい声の夢
全部全部が幻だったよ、と教えてくれる
優しい声の夢
みんながみんな偽善者だったよ、と教えてくれる
優しい声の金切り声
みんな死んでしまえ、と泣いてたね
わたしはまた戻ってくるよ、懲りずにね
優しい声を今でも信じてる
優しい唄はもう聞こえない
優しい悲鳴ももうただの残響だけど
今でももがいて少しは期待しているんだよ
またわたしを騙して
またわたしを嘲笑って
もう一度わたしを失望させて
そんなのにはもう飽きたから
わたしはそろそろ幸せになりたいから
今度こそは
優しい声に騙される
優しすぎるわたしと
愚かすぎるわたし
Re:詩 2014/03/01/01:34:10 No.37  
手鞠のひと  
そら、たゆたう
わたしのねむり いづこかへ
とける、わらう、ねむりにつく
はるかへ…
うもれていたい
ねむる、わらう、わらわらう…
ぬくもりのなかで
ねぇもういちどそのむねのなかで、ねむらせてほしい
もうふもいらない、そのあたたかさのなかに
かえりたいよ、かえりたい
ゆめのなかへ いっしょに
ゆれる うつろう たゆたう なみうつ
いとおしく
Re:詩 2014/03/11/01:05:52 No.38  
手鞠のひと  
橘慨咲咤の御噴姦
お前は見せしめ
蓋をされたわたしを見下してる
吉が胃 the 足のShut Self大海
汚れている
わたしは外から見ているだけでいいと思った
どう考えても少しも混ざらないのだから
きっともう騙されないんだね
得意なのは絵布の先のアレ
大満足で大団円の外で首を吊れ
わたしはまた背中
刳る位相の先にはほらまた笑顔^^

もういいんだよ、とわたしは
わたしに言ってあげる。


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