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問題が解決したらチェックして下さい。

畑の状況 2019/08/25/22:42:05 No.691  
開墾状況  
04/11頃迄

積もる程ではありませんが、雪は降っています。
降雪量は減りつつあります。

<作業反映>
保温装置が設置されました

<調査結果>
もうすぐ雪は止みそうです
LV01 目標 2019/08/25/22:43:51 No.692  
開墾状況  
オオムギを植えて収穫する事が目的です。
第一段階として、植えるため土地を整備しましょう。
削除済み 2019/08/26/21:58:12 No.693  
削除済み  
この記事は削除されました。
T01 2019/08/27/12:23:29 No.694  
T01  
ターン毎にサブ先頭を作ります
このあとに作業や調査を記述して下さい

T01 08月31日迄
岩を除く作業 2019/08/27/12:24:07 No.695  
  
荒れるに任せたような土地を見渡し…腕組をして少し考えた後、のそのそと動き出す
「先ずはこの邪魔な岩をどうにかせねばな」
その風体を生かし?大きな岩を、時に破壊し、時に持ち上げ…開墾地から除いていく

<行動>
岩を除く
鍬入れ 2019/08/27/16:50:33 No.696  
メルとネロ  
「うおおーーーっ!!全力開墾ーーーッ!!!」
「このひと区画くらいは終わらせたいもんだな、もうちょい頑張ろうぜ」

経験のあるネロとやたらパワーのあるメルが二人で固い土にクワを入れて柔らかくした!

http://t-mirage.sakura.ne.jp/pbschat/pbc/showarchive.php?af=room01_20190826
異物除去作業 2019/08/27/19:04:49 No.697  
ファイレオリア  
「姉貴が言ってた開墾場所ってここか。よし、さっそく作業するぞ」

クワとふるいを手に現れたのは、赤髪の小柄な少女。依頼の張り紙を見た姉に言われてやってきたようです。

「農業ってのは土作りが大事だって、親父とお袋が言ってたからな」

元気にクワを振るって、柔らかくなった土を深く掘り起こすと、その土をふるいにかけて、石や異物等を取り除いていきました。


<行動>
・柔らかくなった土をクワで深く掘り起こし、ふるいにかけて土中の石や異物等を取り除いていく。
土の水分確認 2019/08/28/12:33:10 No.698  
  
だいぶ土がかき回された後の状態を見やり

「お、異物はもぅ無い感じ?そしたら次は水かねぇ」
しゃがみこんで掘り起こされたであろう土をすくい、水分や粘りけを確認する
「近くに水源が無いのが面倒だな。後で水路か井戸か何か用意しねぇと」

<調査>
土の水分を確認
井戸を掘る 2019/08/30/20:42:40 No.699  
ジーナス  
開墾地の一角にて、大柄のロボを連れた姿が一人。

「ふむ。水周りに難がありそうですね、確かに。ですが、こんなこともあろうかと。掘削専用ロボにグラウンドソナーが積んであるのです。と言うわけで、行くのです」

両手にドリルを付けたロボが地面を水源目指して穴を掘り始めた…。

≪行動≫
井戸掘り
地鎮の儀・鬼門封じ 2019/08/31/01:17:08 No.700  
キヨヒメ  
(井戸が掘られている……?ああ、なんということ!今からでも祀らなければなりませんわね)
 キヨヒメは井戸を掘られているのを見て、慌てて地鎮の儀を執り行った。
 青竹を立てて注連縄で祭場を作り、依代と祭壇を用意して様々な供え物をしたキヨヒメは、巫女装束を身に纏い神楽を舞う。
 その静やかな舞は大地への謝罪と感謝。地の形を変えてしまったことの報告と、お供えを受け取っていただく降神の儀。
 大地を清め、鎮め、かんなぎの儀式は人知れず続く――

〈行動〉
 災いが起こらぬよう鬼門を封じ、大地を鎮めた(畑の隅っこに小さな岩が置かれました)
T02 2019/09/01/22:11:47 No.701  
T02  
T02 09月09日頃迄

<作業反映>
・土が掘り起こされ、だいぶ柔らかくなりました
・大きな岩が取り除かれました
・土に交じっていた石が取り除かれました

・井戸が設置されました
・祭事による岩が設置されました

<調査結果>
・土地に水気が全くありません
水撒き 2019/09/03/12:30:11 No.702  
  
「お、なんだ井戸ができてるじゃねーか」
水路を作ろうとしたらしい。様子見に来て水が何とかされていたのを確認。

「そしたら土へ水をくれてやらんとな…このままじゃなんも育たんし土煙が起こる」
せっせと水を汲み上げては耕作地に撒いていく

<作業>
耕作地全体に、水溜まりができるくらい多めに水を撒いていく
肥料やり 2019/09/05/21:21:14 No.703  
  
土地が痩せすぎていると見たようで、肥料を撒いていきます
「まぁ、麦にそこまでくれてやらんでもいいだろうがな…」

<作業>
草食系動物のフンからできた肥料を、うすーく畑に撒いていきます
骨粉混ぜ 2019/09/08/10:11:36 No.704  
ファイレオリア  
「肥料を撒き始めたって聞いたから、こいつも持ってきたぜ」
粉々に砕いた魚の骨が入った布袋を持ってきたようです。

<行動>
・骨粉を土に混ぜていく。
貝殻散布 2019/09/08/21:08:26 No.705  
メル  
龍のおじさんに焼いてもらって細かく砕いたこの大量のムール貝とかロブスターの殻とか散布しますよ!!
空から降り注げ!!メルの愛!!!

(焼いて砕いた貝殻をばら撒いた!)
T03 2019/09/10/20:58:13 No.706  
T03  
T03 09月18日頃迄

<作業反映>
・地面に水が撒かれ湿り気が出ました
・土に草食動物の排泄物由来の堆肥が混ざりました
・土に魚介類由来の骨粉が混ざりました
・土に貝殻と甲殻類の殻が混ざりました
虫観察 2019/09/15/00:20:15 No.707  
  
何やらしゃがみこんでじーっと地面を見てる
「ん?嗚呼、そろそろな。こまかーい虫とか出てくる頃なんだ。奴等バカにしちゃいかんよ?」

<調査>
地面の虫を観察する
うね作り 2019/09/19/08:57:51 No.708  
  
「土は整ったからな」
鍬を片手にザクザクと土を掘り返し、畝を作っていく

<作業>
高さ3~5cm、幅広の低い畝を作る
LV02 目標 2019/09/22/20:17:10 No.709  
開墾状況  
オオムギを植えて収穫する事が目的です。
第二段階として蒔かれた種を無事秋穂まで成長させましょう
T04 2019/09/22/20:17:57 No.710  
T04  
09月30日頃迄

<作業反映>
・低いうねができました

<調査>
・土中の有機物を分解するような細かい虫がたくさん居ます
スプリンクラー設置 2019/09/22/21:09:00 No.711  
ジーナス  
「水は常に必要ですし、スプリンクラーと給水パイプによる水散布システムを構築しましょう」

≪設置≫
 スプリンクラーと水パイプライン(埋設)の構築
T05 2019/09/30/23:47:37 No.712  
T05  
10月06日頃迄


順調に芽が生えてきました

<作業反映>
・スプリンクラーが設置されました
雑草除去作業 2019/10/01/20:20:04 No.713  
ファイレオリア  
「おっ、もう芽が出てるじゃねーか。さっそく雑草も生えてきてるな」
赤髪の小柄な少女は、芽吹いた畑を見て嬉しそうに言うと、土を撫でる様にして雑草を取り除いていきました。

<行動>
・雑草を取り除いていく。
水やり 2019/10/03/12:17:29 No.714  
  
井戸から水を汲んでジョウロを使用してのんびり水やり
スプリンクラーの使い方というか存在がどんなものか分からないので、手で作業する
「大きくなれよ~」

<作業>
まんべんなく水やり
スプリンクラーのマニュアル作成 2019/10/03/16:45:24 No.715  
ジーナス  
「使い方がわからない?! 言われてみれば世界が違えば、一般的ではないのでした。これは不覚…!!」

<行動>
スプリンクラーの使用説明書を作る。

※全自動で水を撒くシステムではなく、水散布は手動で起動・停止する仕様。あくまで水撒き作業の労力を減らすための仕掛けとなっている。
 全自動化してないのは、ジーナスが農業経験がないので、最適な水分量とかがわからなかったため。
道具置場設置 2019/10/05/23:32:04 No.716  
  
マニュアルの置き場所に困ったらしい。
「折角だから道具置場でも設置するか…」

<作業>
井戸の近くにバケツ等が置けそうな道具置場を建てる。スプリンクラーのマニュアルもそこに置けるようにした。
T06 2019/10/12/16:08:03 No.718  
T06  
10月22日頃迄


芽がいくつか食害にあっています

<作業反映>
・道具置場ができました
・畑に水が撒かれました
鳥獣撃退用セントリーガン 2019/10/12/22:09:10 No.719  
ジーナス  
「やはり食害が出始めていますね。さすがに虫には対応できませんが…。これで獣とか鳥は対応できるでしょう」

≪作業≫
鳥獣撃退用オートセントリーガンをエリア四隅に設置。

(オートセントリーガンの仕様)
 センサーにより近づいてくる鳥や獣を識別。射程内に近づいた対象へと自動的に、ショックレーザーによる撃退を行う。ショックレーザーは非殺傷なので万が一誤射っても、ギャッ?!となる程度。なお、獣と獣人の識別もしっかりと対応しているので基本的に誤射はない。
 防水仕様、ソーラーシステムとバッテリー、暗視カメラにより、24時間フルタイム稼動が可能。
削除済み 2019/10/12/22:39:44 No.720  
削除済み  
この記事は削除されました。
原因特定調査 2019/10/13/18:08:11 No.721  
ファイレオリア  
「いくつか芽が食われているな。どいつの仕業だ……?」
食害にあった芽を見て憤慨するのは、赤髪の小柄な少女。
他の開墾メンバーと相談しながら、食害を起こした原因を調べました。

<調査>
・相談しながら食害を起こした原因を調べていく。
T07 2019/10/24/21:24:53 No.722  
T07  
11月02日頃迄


芽が若干食害にあっています

<作業反映>
・対害獣撃退用セントリーガンが設置されました。害獣被害がほぼ無くなりました

<調査結果>
・虫による食害はヨトウガやカブラヤガ(ヤガ)の幼虫だと分かりました
いわゆる「ネキリムシ」と呼ばれる虫群の仕業です
T07(再設定) 2020/01/18/22:32:23 No.723  
T07(再設定)  
01月28日頃迄


芽が若干食害にあっています

<作業反映>
・対害獣撃退用セントリーガンが設置されました。害獣被害がほぼ無くなりました

<調査結果>
・虫による食害はヨトウガやカブラヤガ(ヤガ)の幼虫だと分かりました
いわゆる「ネキリムシ」と呼ばれる虫群の仕業です
手作り虫よけスプレー散布 2020/01/23/22:30:47 No.724  
クライス  
「ここが例の畑か。で、今どんな状況なんだっけ?」

と色々と確認。状況を知る。

「ふぅむ。ヨトウガか。だったら、あれの出番だな!!」

と、一度撤収。それから1時間後。スプレー片手に戻ってきた。米酢と唐辛子とニンニクで作った手作り虫よけスプレーで、虫よけだけでなく、植物の栄養素にもなる一石二鳥の品である。

「これで効果あるといいけどなぁ」

そう言いつつ、散布していくとしよう。

≪作業≫
 手作り虫よけスプレーを散布
天敵を導入 2020/01/24/19:11:21 No.725  
  
何やら虫籠のようなものを持って現れる

「中々数が捕まらんのな…」

虫籠のくちを開き、ひっくり返す。
すると、中から蜂のような虫が10匹ほど飛び出して行く

「定着はせんかも知れんけど、何もやらんよりはマシだろ。頼んだぜ」

<作業>
肉食系の飛虫(ジガバチの仲間)を10匹放つ
T08 2020/02/01/22:42:12 No.726  
T08  
02月14日頃迄

順調に成長しています。
気温が下がってきました。

<作業反映>
・食害が激減しました。
籾殻や枯草を敷く 2020/02/02/12:58:14 No.727  
  
敏感に温度の下がり具合を検知してるらしく。
鼻を何度か鳴らすと

「温度が下がってきたか。用意しておいて正解だったな」

<作業>
畝に籾殻や細かい枯草を蒔いていく
水やり 2020/02/13/12:50:24 No.728  
  
「そろそろ水やりしとくか。ぁーと、どうすんだ…?」
マニュアルを見ながらスプリンクラーを操作して水を撒く

「おお、すげぇ楽だなこの装置」

<作業>
地面が湿る程度に軽く水撒き
T09 2020/02/16/21:04:55 No.729  
T09  
03月01日頃迄

順調に成長しています。
気温がさらに下がってきました。

<作業反映>
・畑に籾殻が撒かれました
・畑に水が撒かれました
T09_ 2020/02/16/21:07:09 No.730  
T09  
03月01日頃迄

順調に成長しています。
気温がさらに下がってきました。

<作業反映>
・畑に籾殻が撒かれました
・畑に水が撒かれました
T10 2020/03/09/22:33:35 No.731  
T10  
雪が降り始めました。
気温が下がっているせいか、成長が止まりました

<作業反映・調査反映>
特に無し
観測 2020/03/21/20:45:56 No.732  
  
「このまま続くと不味いな…てか、冬とかあったのな、ここら辺」
目、耳、鼻の湿り具合?から天気予報をしてみるようだ

<調査>
天気予報
保温結界発生装置 2020/03/30/15:30:40 No.733  
ジーナス  
こんなこともあろうかと、こんなもんを作ってみました!!

【設置】
いわゆる保温結界発生装置。4隅に装置を設置し、それで囲った範囲を一定の気温に保つ保温結界を形成する。
操作マニュアル付で、操作もやりやすいようにUIにも工夫されている。
T11 2020/04/01/23:09:10 No.735  
T11  
積もる程ではありませんが、雪は降っています。
降雪量は減りつつあります。

<作業反映>
保温装置が設置されました

<調査結果>
もうすぐ雪は止みそうです

削除済み 2020/04/01/23:08:03 No.734  
削除済み  
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削除済み 2019/10/12/16:07:11 No.717  
削除済み  
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一日の始まり 2016/06/27/20:34:29 No.529  
瑠璃色の空  
 それは、普段と変わらない一日。
 朝が来れば山菜で朝食を。昼は川で魚を捕り、夜は昼間に狩った野生動物なんかを料理する。
 それが一日のサイクルで。
 今日もまたそれが続くのだという。

 なんかもう、ただの野生児であるな。
一日の始まり 2016/06/28/23:29:29 No.530  
瑠璃色の空  
そんな一日のサイクルの中。

夏の近づく今の季節。
その日はよく晴れた日だ。吹く風が肌に心地よい。

そんな日は草原に出ることにしている。
これと言って理由などはないが、風に当たるのは好きだからだ。

あと、いつ手に入れたかもわからないハーモニカ。これを吹くのが日課となっているのだ。

吹く風に乗るリズム。

記憶にはない、しかし覚えているその旋律。
瑠璃色の縁 2016/07/03/13:16:20 No.531  
ダリア=E  E-Mail 

涼しげな群青色のワンピース姿で颯爽と歩いている女。
赤い髪は絹糸の如く、赤い瞳は水面のように瑞々しい。
速足するその顔つきは、生気に満ちていて溌剌としている。

これから楽しいことが待っているのか?
それとも、夢に向かっていく情熱にあふれているのだろうか?

エネルギッシュで輝かしい気配は、森の小道を抜けて、ぽかんとする。
見覚えのない景色、ここはどこの草原なのだろうか?
道に迷ってしまったかと、あたりを見回すきょろりきょろりとした姿は素朴で飾り気がない。

ハーモニカの音色が聞こえてくるだろうか?
日差しを受けて、涼し気な風に吹かれながら、不思議そうな面持ちで音色の方へと顔を向ける事になるのかもしれない。
一日の始まり 2016/07/04/21:09:54 No.532  
瑠璃色の空  
 赤髪の女を出迎えたのは草原にく風に乗る旋律。
 どことなくもの切なげに聞こえるそれはハーモニカという楽器故のものか、曲調故のものか。
 その旋律の発生源に目を向ければ、おおよそハーモニカを吹くには似つかわしくない空色の髪を持った和装の少女がいたのだが。
ハーモニカの音色は果てしない記憶を蘇らせ 2016/07/10/23:15:36 No.533  
ダリア=E  E-Mail 
空色の和装の少女がハーモニカで切ない曲を演奏している。
物珍しさからか、しばし足を止めてその光景に見入ってしまう。
さわやかな風が吹き抜ける草原の中、そのような情緒的なメロディに耳を傾けるのは、
果てしない未来や過去に思いを馳せるのには良いものかもしれない。
ハーモニカのメロディをもう少し聞こえる所まで近づいたのなら、しばらくは瞳を半ば閉じながら、和装の少女が吹くハーモニカの音色に耳を傾けよう。
一日の始まり 2016/07/12/23:42:42 No.534  
瑠璃色の空  
 思いの向くまま気の向くまま、ハーモニカによる演奏を行った少女は最後の余韻を残して唇からその楽器を離した。

 一息

 思いの外、集中していたためか周囲への警戒が疎かになっていたようだ。吹く風にスンと鼻を鳴らし、ようやくその存在に気付いたというように彼女はそちらを振り向いた。

 赤髪の女性がいる。どこかで見た気がするが覚えはない。そんな感覚ばかりだ。
 などと内心では苦笑をするものの、相手から敵意などは感じない。格好も闘うという感じでもないし。ただの通りすがりか。

「こんにちは」

 ならまずは挨拶だろう。アイサツは大事だ。
出会い、再会、何れにせよ喜び 2016/07/16/18:47:35 No.536  
ダリア=E  E-Mail 
切なげな印象の曲に、耳を傾け続けている。
都の広場で奏でられているような、楽し気な旋律とは違う切なさを帯びたそれは、この女を静かで穏やかな面持ちにさせ、仄かにうっとりとしたような色も見える。

一息、余韻。
和装の少女が演奏を終える様子を見た。
この女の面持ちも夢から覚めたばかりのような、余韻混じりだ。

それから、どうこうする前に、少女がこちらに顔を向けた。
女は少し目を瞬かせる。


「こんにちは♪」

挨拶をされると、この女は朗らかかににこにこと明るく声を弾ませながら挨拶を返す。
しばしの間、一瞬、心地よい草原を吹き抜ける風や植物たちのさやさやとした耳心地良い音が場に響く。
しかし、それは一瞬だけである。
次の瞬間。


「すごい上手な演奏だったね♪なんだか、しんみりしちゃった…。」だとか、「その服綺麗だね♪私の住んでる所だと珍しいよ、東方が好きなの?」だとか、明るいオーラを放つこの人は笑顔で色々と少女に話しかける。
一日の始まり 2016/07/18/20:42:35 No.537  
瑠璃色の空  
 相手の賛辞にはにかみながら、少女は小さく会釈した。

「ありがとうございます。本職の方々とは比べるべくもないと思いますが。」

 ハーモニカを袂にしまい込みながら、赤髪の女性へと近づいていく。近づいていく最中に、ふとなにか脳裏をよぎったものがある気がするが、よくわからない。まぁいいか。

「この衣装はお世話になった夫婦にいただいたものです。何着かあるのですが、種類はこれしか持っていないモノで」

 軽く両腕を広げて自分の衣装を顧みる。まぁ、もはや着慣れたモノだ。今更感がある。
 しかしはて、それはそうと。チラとその赤髪の女性の顔を見て、微かに首を傾げた。
 やはり、どうにも引っかかる。引っかかるのだが、それが何かは解らない。
この出会いは、過去からの続きである予感 2016/07/24/11:23:27 No.538  
ダリア=E  E-Mail 
「あは♪いいね。」

瑠璃色の少女が会釈し、はにかんでる様子に会話になっていない言葉を発する赤髪の女。
その面は嬉しそうな笑みに溢れている。

少女が近づいて来るのなら、興味津々にその様子を目を輝かせて見つめている。
その瞳は大きく、つぶらで、表情豊かで、星のように煌いている。

「へぇぇぇ、とても、とても、親切なご夫婦なんだろうねぇ♪」

声を弾ませながら、両手を胸の前で絡めるように手を合わせながら、きらきらとした眼差しで頷いて、少女の和装を少女が両腕を広げて我が身を見るのに合わせて、また改めて眺めるこの女。

「あのね。私、これから、時狭間に用事があるから行くんだけど、良かったら…。」

まるで果実のように瑞々しい、優しい声音で、おっとりとした調子で誘い掛けようとしかけるものの、瑠璃色の少女がこちらを見つめ、疑問を感じ、首をかしげる様子を見ると、続いていくはずの誘いの言葉は消えて行き、沈黙が訪れる。

赤髪の女は、
群青色の…ラピスラズリの色合いなのは、運命なのだろうか…洋服を纏うこの女は、少女を見つめている。
優しい眼差しだ。
初対面の相手に向けられる事は非常に珍しい、穏やかで暖かい微笑に溢れた顔だ。
まるで、あなたの事が大好きで、あなたのことを愛していると、歌っているかのような瞳が少女を見つめている。
女との距離は会話する程に離れているにも関わらず、
まるで傍に寄り添っているかのような、温かみを伴った距離感を感じるかもしれない。
あるいは、優しい温もりに満ちた腕に抱擁されているかのような。
一日の始まり 2016/07/30/22:44:05 No.539  
瑠璃色の空  
「はい。二人にはとても親切にしていただきました。右も左もわからない私に動き方を教えてくれましたし、この刀も譲って頂きました。」

 赤髪の女の言葉に少女が深く頷く。そして、とん、と腰の三刀に手を添えた。

「時狭間ですか。そういえば、話には聞いていましたがまだ一度も訪ねたことはありませんでした。何やらおいしい料理を出してくれる場所だという話ですが。」

 ふと感じた違和感も、しかし形になることもなくするりと抜け落ちるように消えていく。

ぐー

「はっ!」

 間の抜けた音が鳴り響く。美味しい料理という想像は実に空腹の胃を刺激するスパイスであったようだ。

「そういえば、お腹がすきました!」

 お腹を押さえた少女は恥ずかしげも無く宣言する。
とても晴れやかで、とても嬉しそうな笑顔 2016/07/31/17:48:37 No.540  
ダリア=E  E-Mail 
「うふふ♪元気があっていいわね。」

お腹を抑えて大声で空腹を訴えた少女に、この赤髪の女は笑みを楽し気に零した。

「それじゃぁ、時狭間のティータイムにご招待するわよ。エルフの焼き菓子と、ハーブティーでリラックスターイム♪」

声を弾ませて、そう宣言する赤髪の女。

「でも、他に、食べたいものがあるなら、たいていは頼めば出してくれるわよ。不思議な事にね。…もっとも、何処にでもつながっていそうなこの世界の事だから、実はそんなに不思議な事でもないのかもしれないけどね。」

そんな事を説明しながら。瑠璃色の空の少女を女は案内する事だろう。
道すがら、少女に刀の事や、武術に嗜みがあるのかとか、どんな暮らしをしているのかと色々と尋ねるだろう。
会話するこの女の表情は自然なもので、まるで少女とは遠い昔に共に長い時を分かち合い、過ごした仲であるかのようだ。

「ところで、わたしは、ダリア=エリクシルっていう名前だけど、あなたの名前、聞いてもいい?」

にこやかな笑顔を少女に向ける。
とても、晴れやかで、とても、嬉しそうな笑顔だ。
一日の始まり 2016/08/07/21:34:08 No.541  
瑠璃色の空  
「お菓子ですかっ!」

 おぉ、と言う声が上がる。彼女にとってそれはこちらに来てからは食べたことのないものだ。食べたことがあるのは、夫婦の家に世話になっているときに食べさせてもらった名も知らぬ砂糖菓子だけだ。

「甘いのですかっ」

 目がキラキラしている。甘いのは好きらしい。

「何でも!」

 おぉぉ、さらに声が上がる。何でもとかそれは凄い何でもって言うのは凄いけど何でもって何頼めばいいの。

「焼き魚もですかっ!?」

 現在の主食が出た。しかも塩も何も味付けないただの焼き魚だ。

 ほっほぅっ。無駄にテンションが上がってきた空色髪の少女が両腕をブンブン振り回している。

「あ、私は瑠璃色の空「ラピス=エールシュバリアー」です。瑠璃とかラピスとか何故か姫さんとか呼ばれてましたっ。」

 よろしくお願いします! 元気爆発。オロナミンはない。
もしかして、とってもお腹が空いているの? 2016/08/12/12:26:54 No.542  
ダリア=E  E-Mail 
「甘いもの好き?」

くすくすと、嬉しそうな歓声を上げている少女に笑みを零す女。
それから、焼き魚と聞いて、思わず目が丸くなってしまう。

「もちろん…。もしかして、お菓子よりも、ご飯のほうがいい?とってもお腹すいてる?」

少し首をかしげるようにして、少女ラピスの顔色を窺う赤髪の女。
読心術を使えるわけではないこの女、瑠璃色の空の少女の生活模様など知る由もなく、こうして質問をし、その様子から少女の事を知ってゆく事しか出来ない。
他の誰とも同じように、そうした積み重ねがひとつ、またひとつと増えて行けば、言葉もなく分かり合える日が来るのかもしれない。

「いい名前ね。」

笑顔。
眩い笑顔、この女の笑顔、まるで母が子を包み込むような優しい笑顔。
そして、子供のように元気溌剌な少女の言動に、また思わず笑みを零す。

「うふふ♪よろしくね。…瑠璃、ラピス、姫。うーん。なんだか、迷うね。」

少しの間、首をかしげて頬に手を当てて試案気味になるフェルメール・ブルーのワンピースの女。
風がその裾を揺らし、この女の落ち着いた顔つきともあいまってなんとも涼し気な様子を見せている。

「じゃあ、そろそろ行こうか、姫?」

涼やかに、それでいて楽し気に、微笑みながら、右手を差し出して見せる赤髪の女。
とは言え、宮廷風の所作と言うには、いささか気取らない肩の力の抜けた手の差し出し方ではある。
一日の始まり 2016/08/15/22:08:04 No.543  
瑠璃色の空  
「好きです! そして今のところこれといった好き嫌いはないので、大丈夫です。」

 世話になっていたときもそれほど食べたことはない。初めて食べた甘味はその味に感動を覚えたものだ。どんとこいです! などと、無意味に胸を張る少女であった。

「ありがとうございますっ。名付けてくれたお二人も喜んでくれると思います。 あ、了解です。では、行きましょうダリアさん!」

 そうして名前を褒められて素直に喜ぶ少女は、差し出された手に応じ、赤髪のダリアの案内に従うのだった。
黄昏の微笑みが優しく誘う。 2016/08/16/07:32:16 No.544  
ダリア=E  E-Mail 

甘いものが好きだと力強く請け負って頂けたので、赤髪の女は微笑みながら、うん、よし、と考えをまとめるように頷いた。

「じゃ、私と一緒にお茶にしようか。妖精さんのマフィンに妖精さんのタルトに妖精さんのビスケットに、とってもおいしいハーブティーで妖精さんの気分になっちゃおう♪」

そこまで、おっとりと言う差し出した手に応じて頂いたようなので、手をつないで歩いていく事になるだろう。
くすくすと嬉しそうに笑みを零し続けている赤髪の乙女。

「ラピスはその名付けてくれたご夫婦が本当に好きなんだね。きっといい人たちなんだね。」

元気に自分の発言に応えてくれる、初々しさが瑞々しい瑠璃色の空の少女。
この女は和みきった眼差しで、ずっと微笑を零し続けているが、手をつないだのなら、それはますます深まる事だろう。
ラピスの手は柔らかいのだろうか?この少女の手は暖かいのだろうか?
この女の手は繊細に細長いものの、何処かたくましさを感じさせる柔らかかつしなやかな弾力。
夏の暑い季節にも関わらず、手は涼し気と思えるほどに、仄かな体温しかないようだ。
赤髪のこの女の明るさも、温もりも、真夏の真昼の太陽と言うよりは、何処か夕暮れを思わせる茜色の温もりなのかもしれない。
そんな顔つきで、そんな穏やかさで、そんな明るさで、女は瑠璃色の少女をこのまま時狭間へ誘うだろう。
一日の始まり 2016/08/24/21:43:37 No.545  
瑠璃色の空  
「妖精さんがいるのですか?」

 ダリア曰くの妖精さんシリーズに、目を輝かせる空色髪の少女。

「妖精さんと言えばイタズラ好きという話を聞いていますが、それは本当なのでしょうか。」

 なんとも、興味津々のご様子である。その脳内では甘いと見せかけて辛いお菓子を食べてヒーヒー言っている自分を想像しているとかなんとかそんな。だが、表情は実に晴れやかだ。

「はい。もちろんです。お二人とも実にいい人たちでした。右も左もわからない私に色々教えてくださいましたし。雪山での実戦訓練は大変でしたが!」

 その晴れやかな表情のままで、彼女は恩人たちのことを語る。実に嬉しそうに、実に楽しそうに。

 そうしてお互いに握った手は、互いの手のひらの感覚を共有する。この少女の手は年相応の柔らかさというよりは、剣を持つ者特有の堅さとタコの方が目立つのだが。

 少しきつめの太陽の光の下、しかしてこの二人の間には朝の木漏れ日のような暖かな空気が流れているように感じる。

 時狭間への道のりの中、会話が途切れることは内だろう。
女は詠う、流れに乗って、妖精の詩を 2016/08/28/21:00:49 No.546  
ダリア=E  E-Mail 
「そうねえ。そういう妖精さんもいるけれど、たのしい妖精さんだとか~、仲良くなると色々と手助けしてくれる妖精さんもいるよ。」

どういうワケで少女が目をきらきらさせているのか露知らずのこの女は、朗らかで柔らかな笑みを零しながら言った。
それから、この話題がこの女の何かを刺激したのか、そのまま続けて、波乗りでもするかのように、想像の翼で風に乗るように、詩を歌った。

「妖精さんは不思議な世界からやってきて、人間に色々な不思議な事をしてくれる。
 いいこともわるいことも。
 そして、色々な土地に色々な妖精譚を、言い伝えを残してゆく。
 おとぎ話になって、歌になって。」

流れに乗って詠う様は、お伽噺を子供に聞かせる老婆のような優しくおっとりとしたような調子でありながら、その声は貴婦人たちの集まりで詩人が感受性豊かに詩を詠いあげるかのような耳心地の良い透明感を伴ったものだった。



「ラピスは妖精さんに興味があるのね。」

一息ついてから、またにこにこと、零れるような笑みを浮かべて、手をつないで歩く少女を明るいまなざしで見つめる女。
それにしても、今更ながらだが、日差しが少々きつかったようだ。
ばてている様子は無いものの、涼し気な瑠璃色と同質のブルーのワンピースのこの女、
暑さに強いのか、快活かつ朗らかかつ、柔らかな雰囲気を見せていたものの、強い日差しを浴び続けているせいだろう、
額や首回りなどをはじめ、少しずつ汗ばんで来ているようだ、背筋の辺りが濡れはじめ、笑顔が半ば溶けたように締まりがなくなって来ているかもしれない。


「雪山は私も冒険で入った事あるけど、大変だったよ。」

両親の話の中で雪山の話が出ると、笑みは静まり、ただ穏やかな表情を浮かべながら、そんな事をおっとりとした調子ではあるものの、何処か深い所から湧き出てきたような調子で言った。
そして、ゆるりと細められ、中空に向けられた眼差しは己の記憶の海辺の彼方を見つめているかのような様子で、儚さを浮かばせながらも、その奥に仄かに輝く確かな光を煌かせているかのようだ。
それから「ラピスは、たくましく育ててもらったんだねえ。」と、ほのぼのと言う事だろう。
そう言う頃には、また、にこにことした明るくも何処か少女をふわりと抱擁しようとするかのような笑顔…日差しのせいで溶けかかっている事も手伝ってか、ますます、そのような雰囲気が深まったような…、そんな笑顔が再び戻ってきている事だろう。


ところで、迷いなく直線に歩き続ける少女を誘うこの女。
見慣れぬ景色に出たという冒頭の通りの状況なのだが、どう目的の場所にたどり着くかは神のみぞ知る。
一日の始まり。 2016/09/02/20:22:00 No.547  
瑠璃色の空  
「興味はあります。聞いたことはありますが見たことはないので。」

 フンフンッとダリアの言葉に頷きを送る少女。
 そして、汗をかいている隣の女性とは対照的に、少女が暑さを感じている様子はない。それは彼女の体質というよりは、何らかの加護が働いているというものだ。肉体を得たとは言え、その本質が聖霊であることに変わりは無いのだろう。

「ダリアさんも雪山に? それも冒険ということは、冒険者さんでしたか! 色々なところに行かれているのですよね!」

 おお! という感嘆の声がもれる。知識はあるが実体験の少ない彼女にとって、そういう各地を廻る職業というのには少なからずのあこがれがあるようだった。ダリアの笑顔に包まれるようにしながら、楽しげな会話は続いていく。

 そうして、会話を続けながら歩くのだが、少女は迷い無くダリアの先導に従っている。まさか実は道を知りませんでしたなどというオチは夢にも思っていない。

 が、そもそもここはそういう土地でもある。目的地があるならばある程度のご都合主義も適用される。気付けば時狭間のある丘の下だった、なんていつものことではなかろうか。

冒険譚 2016/09/04/11:16:13 No.548  
ダリア=E  E-Mail 
「私はブラウニーっていう妖精さんを知ってるよ。スパーブールっていう街で仕事をしていた時に、魔法使いの塔で遺品整理をするっていう仕事をしたことがあってね。」

少しだけ顔を宙に向けて記憶を思い起こすような仕草をする。

「その塔に入って、あちこち探索をして、図面だとか遺品のリストを私は、時狭間の仲間たちと一緒に作っていたんだけど、その塔は何処も掃除されて、手入れされて、暖炉を使った気配があって不思議でね。」

微笑みを浮かべる。

「確か、あれは塔の一階の探索の終盤くらいだったかな?ちっちゃい男の子がいてね。緑色のぼろっとした服の子で、その子を捕まえてから、お菓子を餌にして色々と情報を聞き出そうとしてたなぁ…お菓子が好きなんだろうね。私の仲間のリンさんが、クッキーを見せびらかしていた時は、とっても目を輝かせてたわね。」

懐かしむようにそう言ったあと、ふと何か物思いにふけるような顔つきになり、少しの間、口を閉ざす。


「雪山でも妖精さんの類に出会ったと言えばそうなのかな。異常気象で閉ざされてしまった雪山の中のある村に食料を届けるっていう依頼なんだけど、なかなか、雪山って…ラピスはご両親の話を聞いていると、よくわかる話かもしれないけれど、なかなか、一筋縄ではいかなかくて。」

そう言って、眉を下げて微笑むと、少し何かを思い出すようにまた少し宙を見て、片手を顎に当てる。

「その頃は、雪山に挑むのが初めてだったからね。現地のレンジャーっていう森とか山とかで活動している人たちに特訓をしてもらってね。道具の使い方だとか、雪山での歩き方だとか、地図の見方だとか、崖を上る技術だとか、毎日毎日大変だったけど、楽しかったなぁ。」

「食料をいざ届けに行ってみたら、そこにいる人たちはみんな若くて、それこそ伝承に出てくるエルフの国の人たちだとか、パラダイスの人たちみたいでね。みんな若くて綺麗で、きらきらしてる人たちが出迎えてくれてね…食料なんか届けなくていいんじゃないかってくらいに、みんな健康的だったし、宴に誘われるし…。」

「その時は、なんだか、奇妙な点が多かったから、丁重に辞退したんだけど…あ、そろそろ着くわね。」


気が付けば、森の中の小道を歩いている。
そして、その小道を抜けた先に丘の麓が見えて、草が生い茂る丘の頂上にはカントリー調の家が建っているのを望める事だろう。
一日の始まり 2016/09/14/18:45:30 No.549  
瑠璃色の空  
「ほぅほぅ。」

 ダリアの語る冒険譚に、目を輝かせながら少女は聞き入る。知らない土地や人物、妖精の話などは野生児系肉体箱入り精神の彼女にとっては新鮮で、あこがれの対象であった。
 と、ふんふんと聞き入っている間に気付けば目的地へと到着していたらしい。ダリアの言葉に意識を向けてみれば、確かに丘の上に建つ一軒家が見える。

「おお。あそこですかっ。」

 軽く見上げ、手でひさしを作って臨んでみる。

「ダリアさんダリアさん。あそこについてからでももっと話を聞かせてもらえませんかっ。」

 フッフーッ。と、上機嫌な様子というかテンションあがっちゃってる系女子の勢いで丘の上を指さす。
 森から出た彼女の髪は日差しを受け、その色は本当の蒼空のように輝いて見えた。
夏風のような微笑みで応え 2016/09/19/13:17:57 No.550  
ダリア=E  E-Mail 
「あははっ、姫は元気だね。」

元気溌剌な瑠璃色の少女の所作に女は朗らかに笑う。

もっと話を聞かせてくれとせがまれれば、笑顔で鷹揚に頷いて見せる。

「いいわよ。ただし、仕事の後でね。」

片目を瞑って見せると、右手を握りこぶしにして、空高くに上げながら、丘の方へと歩き出す。

「その後でなら、いくらでも聞かせてあげるわよ。」

そう言って、後ろをついてくるだろう少女に肩越しに振り返り、爽やかな夏風のような、軽やかで清々しい微笑みを浮かべるのだった。
一日の始まり 2016/09/29/19:31:58 No.551  
瑠璃色の空  
「元気があれば大抵のことはできますからねっ。」

 ダリアの言葉に、当然だと言わんばかりに大きく頷いた。

「む。お仕事の後ですか。お仕事なら仕方ないですね。では、冒険の話は次の機会に。」

 続く言葉には少し残念そうにはしたものの、拳を振り上げるダリアに合わせて少女もまた拳をあげ、「おー!」というかけ声と共に彼女の後をてくてくとついていくのである。
仕事の顔を垣間見て 2016/10/02/21:30:03 No.552  
ダリア=E  E-Mail 

「お仕事って言っても、ここのご主人(マスター)とお話しをするだけなんだけどねー。」

時狭間の丘を登りながら、軽やかかつ朗らかに話す赤髪の女。

「私は、自身も冒険者として依頼や冒険に出るけれど、他の冒険者や、腕に自信のある人には、仕事を紹介したりしているの。」

群青色のワンピースの腰元で控えめに揺れていたポーチから、幾つかの巻物を取り出す。

「最近、なんだか忙しくてね…。南のゼノヴィアから偉い司教様がやってくる関係で、普段よりも仕事の量が多くて…。」

そう言いつつ、その巻物の一つを右手に持ち、左で残りの巻物を掴んだまま、片手で右手の巻物の紐解いて、さらさらと開いて文面を改めている。
その巻物には精緻で整えられた異世界の文、その文を構成する文字は美麗に装飾されていて、特徴的だ。
最後の署名の部分には薔薇を主体とした紋章が華麗に描かれている。

「此処で依頼を受けてくれる人を探すために、マスターに相談してね。私ったら、肝心の依頼書を持ってくるのを忘れちゃったものだから、細かい話が詰められなくて。…あぁ、さすがに、あんなあやふやで漠然とした話じゃぁ、まだまだ人は集まってないだろうなぁ…。」

少女に説明をするために、言葉を紡いでいたはずだが、後半は苦笑いを浮かべで半ば独り言のようになってしまった。
それでも、少女という聞き手がいるせいか、何処か楽し気で、明るくて、穏やかな調子である。

「私が受けるはずだった依頼、それと、…聖人祭のお手伝いに、南の街道の臨時の守兵の募集と…それから、原因不明の病気の治療の依頼、と…。それから…。」

仕事の事で頭がいっぱいになりつつあるのか、だんだん、少女の存在を忘れているかのように、ひたすら、仕事の概要をほとんど説明らしい説明もなくつらつらと挙げ続ける。

「こないだは、きちんと公証人からの証明章の記載がないって、つっこまれちゃったからね…。うん、文体(フォント)もまちがいないっ…ね。」

どうやら、確認しているのは、文に書かれた契約の内容と言うよりは、証明書としての体裁や様式の方のようだ。
話をしながら、巻物を持ち替えて、次々と内容を確認している。

「マスターが、”そっちの依頼は契約にうるさいんじゃないのか”って、事前に細かいことを指摘してくれるのは、助かるんだけれど、……はぁ、さすがに、この量の契約書を用意するのはさすがに大変だったわね。」


ふう、と息をついて、首を振る赤髪の女。
話をしている間に、すべての巻物の確認は終わったらしい、一応は満足したと言わんばかりに軽くうなずいて、巻物類をポーチに納めた。
そこで、はたと気づいたように少女を肩越しに振り返る。


「私ったら、ごめんね。ちょっと、仕事の事でさっきまで頭がいっぱいだったから、つい、口から洩れちゃったみたいね。」

そう言って、くすくすと楽し気に、右手で自らの口元に蓋をするようにパチっと掌を当てた。


「ともかく、マスターにこれらを渡して、少し話をしてから、あなたとの素敵で楽しいティータイムを過ごしましょうか。私の冒険譚を聞きたいんだったわね?あなたが退屈するまで、いくらでも話をしてあげるわよ。」

両手を綺麗に揃えて頬にそれを当てて、笑みを零し続けながら、半身を振り返らせて、少女に笑顔を向けてそう請け負う女。楽しそうだ。心から、この時を楽しんでいるかのような。
その顔からにじみ出る光のような、その声から聞こえてくる音楽のような、
少女の目の前の女性は、きっと何も知らない少女、夢やおとぎ話に胸をときめかせる少女には、まるでそんな不思議な世界から、そのまま抜け出してきたような、それこそ妖精のような、と言わんばかりに現実味が薄い、幻想的な雰囲気を纏っていた。
優しげで、儚げで、穏やかで、その癖に何処か力強さに漲った眼差し、それに声。


「さあ、つきましたよ!お姫様!どうぞお入りください!」

まるで宮廷の侍女よろしく、カントリー調の店構えの建物の扉を開けて、扉の脇に控えると、優雅に腰低く家臣のお辞儀を深々としながら、扉を支える手の反対の手で店内へ恭しい所作で誘うように振るのだった。


============================

PL宛

いつも有難うございます。楽しませて貰ってます。
書くだけ内容を気が済むまで書きまくって、誤字などの確認をしませんでした、など、割とあるので、もし、気になるとか、わかりづらいなどありましたら、遠慮なくお知らせください。
ではでは、今回のレスも楽しんでいただければ幸いです。

ダリアPLより(最近、残業と早出でねもい)
一日の始まり 2016/10/09/19:45:51 No.553  
瑠璃色の空  
 途中から仕事の内容に没頭し出すダリアの後ろ姿を眺めながら、瑠璃色の少女は少し歩調を落としてその後ろをついていく。
 最後、確認し終わった赤髪の彼女が振り返って謝罪するまでは無言でその様子を眺めていた。

「いえ、お気になさらずに。ダリアさんは何というか、一生懸命で全力で、あと楽しんでいて、凄く眩しく感じます。」

 謝罪に対して出てきた言葉は今までの高いテンションとは違い、少し落ち着いた、どことなくかつての誰かを思わせるような静かな物言いだった。そして、その瞳は眩しい者を見るかのように細められていた。

 のもつかの間である。

「あ、着きましたか!」

 おお。と、今までの物静かさを称えた瞳はどこへやら、キラキラした感じで期待感一杯に見開かれていた。

「いざ、いざ行きましょう! お仕事の後には是非お話も!!」

 やっほほーい! とでも良いそうなテンションに早変わりし、店内に突撃するのであった。


~~~~~~~~~~~

PL返信

とくに問題はございません。毎度楽しませて頂いております。
たまに気力がわかずに週一投稿ができず、申し訳ありません。なんかもう一日24時間じゃ足りませんほんとに。
まだもうしばらく続きそうですが、最後までお付き合いいただければ幸いでございます。

ではでは。
温かみのある寡黙な空間 2016/10/10/23:07:04 No.554  
ダリア=E  E-Mail 


カチカチカチ。
もしも、文明社会と無縁であったならば、その音は不思議に聞こえたかもしれない。
一定で均一で、狂いなく刻まれる柱時計の音。
その音は決して騒がしいものではなく、この時狭間と呼ばれる店の中が静寂に満ちているからこそ聞こえるものである。

中では寡黙な主人がグラスを磨き、いつやってくるか知らぬ客に極上の酒類を提供するために、潔癖なまでに清潔な布で拭き清めている。
明るい茶色と白色というカントリー調のカラーで統一された店内、そこかしこに木の香りが香しく、味わいのある木目が見られるテーブルが、奥にはカウンター、それに柱時計。
冬には役立つであろう、暖炉もこの店にはある。
時代と場所によっては、それらは贅沢な拵えになりうるだろうが、それら一つ一つはずいぶんと長い間使われているのだろう。
時を経た年季を感じさせるが、手入れが行き届いているためなのか、くたびれた感はない。

「おひとり様、ご入店♪」

瑠璃色の少女の両肩にそっと手を添えて、優しく押しながら、黒衣の赤髪の女、ダリアも入店する。
そんな所作は、強引さはないものの、ごく自然な風であり、まるで以前から何度もそうしていたかのような感である。
温かみのある手が、親しみを帯びた温もりと共に、少女の両肩に置かれている。

店の主人は少女と、ダリアを一瞬、一瞥すると、特に何を言うでもなく、再びグラスを磨き続ける。
接客をする様子も、歓迎の意を示す様子もない。
まるで、この時狭間のある小世界のように。
来るもの拒まず、去る者追わず。
われ関せずと言うように、寡黙を決め込んでいるかのようだ。


「どうしようかな?ラピスはカウンター席と、テーブル席、どっちがいい?」

カランカラン。
音の正体を辿るなら、どうやら、ドアベルのようだ。
店のドアが閉じられたらしい。
入口のドアの上部に取り付けられた、可愛らしい小ぶりで華奢な鐘が囁くように鳴ったようだ。



「少しの間、私は仕事の話をする事になるわ。できるだけ、すぐに済ませるつもりだけど、その間、姫は極上のハーブティーを飲んで待っていて欲しいな。…って、それは私の好みだから…。」

少しだけ首を傾げて見せて、考えを巡らせる。

「ここでは、大抵の飲み物が飲めるようだけど、他にもコーヒーやカフェラテ、エスプレッソ、カプチーノと言ったコーヒー類。ホットミルク、スチームミルク、オレンジジュース、グレープジュース、アップルジュース、それに、紅茶、…東洋由来のものもたくさんあるみたい。緑茶とか、私は頼んだことはないけれど、頼めば出してくれるはずよ。」

まるで磨き抜かれた銀の指輪のように滑らかな口調で、グラスにワインを注ぐかのような調子で、淀みなく言うダリア。
静かに瞳を輝かせながら、少女の顔を覗き込みながら謡うように言う調子は、星明りのように優しいものだ。


=========================

PL宛

こんな内容を考えています。

カウンター席:ダリアの仕事の会話が良く聞こえる。キャリアウーマンっぷりと、今請け負っている依頼の内容や、裏話的な会話がしばらく続く。

テーブル席;ダリアの仕事の話は省略される。待っている間に妖精さんのお菓子を勧められる。


他PL宛メッセージ

週一の投稿を続けるのは大変なので、無理しないでいいです。
楽しんで貰えている間は、こちらも、楽しく続けていけると思いますので、無理のないペースで行きましょう。
もうちょっと、ラピスの反応に対するダリアの反応を書ければいいのかもしれませんが、今回は時間的にここまでで…。

ダリアPL(ねもい日々が続く)
一日の始まり 2016/10/17/14:11:16 No.555  
瑠璃色の空  
「お、おおー。」

 ダリアに肩を押されて入店した少女は、店内の物静かな雰囲気に少し気圧され気味であった。
 柱時計の音に関しては、世話になった夫婦の山小屋にもあったので知っている。もっとも、あそこの柱時計はもっと針が多かったような気がするのだが。

「はじめまして。宜しくお願いします!」

そんな少女は店の奥でグラスを磨いているマスターに、来店にしては少しずれたアイサツをしていた。

「あ。ではカウンター? 席でそのハーブティーを!」

特にこだわりはない。好き嫌いというほどの嗜好もまだない。ないので、とりあえず勧められたモノをそのまま飲むことにしたのだ。席に関しては人が近くに居る方を選んだだけである。

「大丈夫でしょうか?」

そしてキラキラした瞳をダリアに向けながら小首を傾げるのであった。
ハーブティーのブレンドは?爽やかでスパイシーで、仄かに甘い…。 2016/10/23/21:28:05 No.556  
ダリア=E  E-Mail 
少女のアイサツに、思わず赤髪の女は吹き出しそうになってしまい、口に手を当てて、息を詰めてしまう。

「いいわね。カウンター席なら、ハーブを用意する様子も見られるしね。」

そう言って、赤髪の女は楽しそうに笑顔をこぼすのだった。
そういうわけで、ダリアは二人分のハーブティーを注文をした。
様々なブレンドがあるようだが、フェンネルとレモンバームをベースにいくつかのハーブをブレンドしたものを注文をするようだ。

「大丈夫よ。ただ、私たちのお仕事の話が退屈じゃなければいいけれど。」

きらきらした眼差しを受けながら、小首を傾げる少女に、柔らかく目を細めてゆるりと頷いた。

マスターは注文を受けると、グラスを磨く手を止めて、薬缶に水を一杯に注ぎ、それに火をかける。
それから、棚から乾燥した緑色の広い葉っぱのハーブや、同じく緑色のまつ毛のような葉が幾重にも生えわたっているようなハーブを取り出して、ハサミでカットしはじめる。
そして、それらを混ぜ合わせ、ガラスのポットの中にさらさらと流すように入れてゆく。

「マスター、それから、依頼書は揃えたから、後で確認してみてね。それに基づいて、これから依頼を出すつもりだから。」

そう言って、ダリアはポーチから先ほど確認していた幾つかの巻物を取り出して、カウンターに置いて並べた。
寡黙なマスターはおもむろに頷くと、湯が沸くまでの間、黙々と巻物をひとつひとつ開いて、目を通し始める。

「どう?新しい条例に沿った条件の記載になってるでしょう?今回は私の書いた法的効果がないヤツじゃなくて、公証人の人に頼んで作ったやつだから、問題ないと思うけれど、…あ、一部はまだ、草稿段階の奴もあるから、それと、それは私の書いたやつだけど。」

沸騰しかけている薬缶をちらりと眺めてから、再び依頼書に視線を落としてマスターは頷いた。
しばらくは、そんな話が続きそうだ。
一日の始まり 2016/11/02/19:39:33 No.557  
瑠璃色の空  
 ハーブティーを待ちながら、空色の髪の少女は横で仕事の話をするダリアとマスターを観察していた。
 とは言っても、話の内容はよくわからない。自分の知らない世界の自分の知らない地域情勢とかなんとか、そういった話や依頼者のことなど、不明な単語が飛び出すたびに内容を想像しては結局解らずじまいに首を傾げるのであった。
 だが、そういったこともまた一興ではある。一般常識など知識としては知っていても、実際にそれを経験したことが無いことも多い。まるで生まれたての赤ん坊のような彼女にとってすれば、見ること聞くこと全てが新鮮で興味深いものなのだ。

 あ、話の腰を折らないように無言ですよ。MUGON!
聖人祭りの依頼の話、聖母子神輿 2016/11/05/19:09:40 No.558  
ダリア=E  E-Mail 


「ゼノヴィアの司教様が来るって言うんで、今回の聖人祭は盛大に催されるようだけど。」

マスターは巻物の内容を改めている…それは女性の横顔の絵…幼子を抱く母性に溢れた修道女と思わしき小さな絵が描かれている…のが、僅かの間、瑠璃色の少女の視界に入るかもしれない。

「『聖母子神輿(せいぼしおみこし)の人手を減らせねェっ、だが、町内の飾り付けと宴会には手を抜きたくねェっ』って兄弟会の人に言われてね。」

幼子のようなべらんめえ口調を、おっとりとした笑顔でくすくすと紡ぎだす女。陽だまりの中でお話しでもしているかのような語り口で話は続く。

「けれど、部外者に出来る事って、そんなに多くはないと思うのよね。本当はせいぼしおみこしの方を『ワッツォゥ!ワッツォゥ!』って言いながら担いでもらう方がいいんじゃないかと思ったんだけど、職人さんたちが『素人じゃ気合が足りネェ!』とか『聖なるマンマへの愛がねえヤツに神輿を触ってほしくねぇ、穢れちまうわっ。』とか、色々と言うもんだから、まあ、そうだよねえ、って事になって。」

やれやれと肩を竦めるように苦笑いしながらも、女のその声音は何処か暖かなもので、楽しそうな趣もあるようだ。
マスターは相変わらず寡黙なままだが、女の話の一つ一つに頷きを返し、その揺るぎない眼差しは話を聴いているであろう注意深さが伺われる。

「そういうわけで、条例に沿って、それから、兄弟会さんの要望を全部汲んだ上で、契約の内容をまとめてみたの。ちゃんと、はじめの冒頭の少し後くらいに色々書いてるでしょ?それで…。」

女の指先は、肘をカウンターにつきながら、右手は伸びやかに契約書をひらりひらりと指し示している。
その動きは適当そうというか、気が抜けているというか、無防備そうな様子で、緊張感や慎みのような気を遣う類のものは微塵にも見られないようだ。



「御神輿は駄目で、飾り付けも駄目で、じゃあ何を手伝えばいいのよ、って話になって、さんざん、話し合った結果、その内容になったわけ。報酬はパンと卵とワイン、その他、野菜やチーズ等をその日によってとか言い出したから、『ねえ、日雇で暮らしている人ばかりを誘うわけじゃないんだから、せめて、現金にしよう?』って言わなきゃならなかったんだけど、この辺りで、さすがの私の心がぽっきりと折れそうになったわ。」


ふう、と目を瞑って嘆息をするものの、終わってしまったことであるためなのか、やはり、どこか、楽し気な笑みが女の口元に浮かんでいる。

「でも、子供たちでもできそうな話もあるから、正式な契約じゃあないけれど、捨て子養育院の子供たちに来てもらうのもアリかなぁって…あの子たちにも、それぞれ、聖人祭でやることはあるけれど、お小遣いだとか、おやつが欲しいって子たちに、短い時間だけ来てもらうのもいいかもしれないしね。小さいのに料理が上手な子もいるし、兄弟会の方たちのお子さんたちも来られるのなら、楽しくやれそうな気もするしね。」

マスターと言う聞き手がいるせいか、女の楽し気な語りは留まる所を知らない。
泉のように滾々と湧き出てくる。
そんな調子で、依頼の内容や、契約の確認、それから、今後、依頼の仲介人として、どのように自身が行動するべきかを、この寡黙な主人に語ってゆくようだ。

その間にも、火にかけた薬缶の湯が沸いて、しゅうしゅうと沸騰した旨を自己主張しはじめ、マスターはダリアの雑談とも仕事の話ともつかぬ会話に対応しながら、薬缶を手に取り、ガラスのティーポットに慣れた手つきで注ぎ入れる。

それから、ダリアとラピスの真ん中程に、緑色のカットされた葉っぱたちが波に揺られるかの如くにゆらゆら揺れているのが見られるガラスのティーポットをそっと置いた。
瑠璃色の少女が匂いを味わうにあたって何も支障が無いようであれば、爽やかで、仄かに甘い香りが少女の鼻孔をくすぐるだろう。
そして、その傍らに、ことんと固く乾いた音を立てて、赤い砂の入った砂時計を置くのだった。

ダリアの話に耳を傾け続けながら、マスターはその後に、花の絵で縁取られたソーサーに、滑らかな白い光沢のカップを棚から取り出して、ダリアとラピスの前にそれぞれセッティングする。後は待つだけ、と言わんばかりに、後は特に何か作業をする事はない。

砂時計のすぼまったガラスの合間から、赤い砂がさらさらと少しずつ零れ続けている。
ダリアの楽し気だったり、すまし顔だったり、得意顔だったりする顔の、表情豊かな唇からも、たくさんの言葉が紡ぎだされ続けている。
柱時計が時をチクタク刻み続け、時間が少しずつ過ぎてゆく。


一日の始まり 2016/11/16/11:21:45 No.559  
瑠璃色の空  
抑揚の付いたダリアの語り口に端で聞いているだけでも軽く引き込まれながら、空色の髪の少女は想像の翼を膨らませる。膨らませるが、なんとも子どもが描いた絵本のような情景にしかならないのは仕方ない。

「わっつぉぅ。」

なんとも奇妙にて痛烈なかけ声である。勢いはある。勢いは。そんなかけ声を集団で上げながら神輿を担いで練り歩く祭りとはいかなるものか。興味は尽きない。

と、そんな想像をしているとマスターがティーポットやカップ、ソーサーなど一式を置いていく。そして最後に置かれた砂時計を見て、少女は首を傾げながらその砂時計とマスターの顔を交互に見比べるのだった。

砂時計の落ちていく砂のように、その空間には言葉が紡がれ降り積もっていく。それはなんともゆったりとした雰囲気で包まれていて、優しい空間であるように思われた。


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どうも。PLの春夏冬中です。
毎回やりとり楽しみにしております。
この度、リアル事情におきまして、少々の転機が訪れる可能性がありまして、しばらく返信が滞る可能性がでてきました。
もし、次回返信が遅くても飽きたとかそういうことは一切ございませんのでご容赦下さい。
暇を見つけてはなんとか返事を返させて頂きますので、どうぞこれからもお付き合い下さい。
姫の反応が気になる人 2016/11/20/23:53:18 No.560  
ダリア=E  E-Mail 


「姫っ、いかがされましたかっ。」

唐突に、瑠璃色の少女から、聖母子神輿の掛け声がぽつりと言うように聞こえると、この赤髪の元気溌剌な女性は、すかさず食いついた。
興味津々、少女の顔を覗き込む。

「あ、それがぜんぶ落ちる頃に、丁度、飲み頃になるからね。」

マスターは顔を見られても、全ては終わったのだと言っているかのような不動の表情のまま、静かに頷いて見せるだけである。
ダリアは朗らかに、砂時計について説明をするべく口を開いた。…もっとも、口を開いたも何も、さっきから、口は開きっぱなしな上に、自由自在に動きっぱなしなのであるが。
それは、さておき、赤髪の女は朗らかに、それでいて吹き抜ける風のように軽やかに説明を続ける。

「あくまで、目安だけれどね。好みがあるのなら、その砂が落ちる前…薄味のまま、カップに注いでもいいし、砂時計の砂が落ちて、しばらく待って、濃厚な味にしてから飲んでもいいのよ。」

説明する事に慣れた調子で、言葉の一つ一つに調子と抑揚を聞かせながらダリアは滑らかに淀みもなく説明する。
そして、瑠璃色の少女が、感じているかもしれない事を不意に見てとったのか、やわらかな、なごやかな、ほほえみが浮かんだ。

=================

PL宛:
毎回、勢いのままに、文章を書きなぐっていますが、
あきない君に楽しみにしてもらって、とても、励みになっています。

返信が滞るとの事については、了解いたしました。
わざわざ、こちらの気持ちを細やかに気遣ってくれて、ありがとう、という気持ちですが、相変わらず、ぎりぎりの時間にこれを書いているので、どう伝えたらいいかわからないのが残念な所です。

転機という言葉が出てくる事から、きっと、大切な時期なのだろうと想像します。
それなら、そちらを、精いっぱい、頑張って貰えたらと思います。
レスが出来そうな時があるようなら、気が付き次第、こちらもレスして行きます。
最後までいきたいね。
時狭間から出る時、ダリアとラピスはどういう風になっているのだろう?
きっと、またひとつ、何かが変わっているに違いない。
お互いに何かを分かち合ったのだから、その分だけ。
一日の始まり 2016/12/26/20:06:59 No.561  
瑠璃色の空  
「あ、いえ。面白い語感だったので、なんとなく。」

 まさか食い気味に来られるとは思っていなかった少女は、すこし上体を反らしながらなんでもないと首を振った。

「好みと言われても、初めてですのでひとまずは用意されたとおりにいただきます。」

 そしてその後のダリアの言葉に一つ頷きながら、笑みを浮かべた。

「ダリアさんの語り口が面白くて引き込まれていました。話の腰を折ってしまってすみません、先を続けて下さい。」

 どうぞ、と身振りで先をうながしながら少女はあとほんの少し、ハーブティーのできあがるのを待つのだった。
妖精さんのお菓子を紹介します! 2016/12/31/19:48:20 No.562  
ダリア=E  E-Mail 
「あは、おもしろかった?」

首をこてんと傾げて、嬉しそうににっこにこに笑みをこぼしている。
身をそらして首を振る少女の様子をそのまま、しばらく、笑みながら見つめているようだ。
なんだか、ほっこりとしたような、やわらかな顔をしてラピスを見ている。

「美味しいハーブティー召し上がれ~♪森の香りでおなかがいっぱいで、幸せになれるぞぉ♪」

ハーブティーについては、そのように、歌うように声を弾ませて勧める。
笑顔は相変わらずで、目がきらきらと煌いている。

「そうねえ、先を続けるのもいいけれど、このまま、あなたを待たせているのも、少し悪い気がするわね。」


ふむ、と、少し考えを巡らせるように目を細めて、顎に手を当てて軽く首を傾げる。ついでに足を組み合わせる、
群青色のワンピースに身を包んだ、光に満ちているかのような溌剌とした瞳を持つ女は、背筋正しく、そのままの姿勢で、
先ほどまでとは打って変わって怜悧そうに目を細めたまま、思慮深げな様子を見せていたが、やがて、おもむろに口を開く。

「…せっかくだから、今のうちに何が食べたいか、決めちゃうといいかもね?」

落ち着いた調子の…まるで、琴の音のような凛々しくも雅やかな声で、穏やかにラピスに微笑みかける。
それから、「よし」と、意を決したように頷くと、まるで妖精のように透明感のある声で、妖精のお菓子について、以下のようにプレゼンテーションを始めた。



 ==♪♪ダリアさんの妖精の焼き菓子おすすめコーナー♪♪♪==



●● ちみりすのごちそうパイ ●●

このラビオリ(餃子っぽい形のパスタ)みたいな形のパイはすごいんだぜ!
噛みごたえのあるサクサクのパイ生地の中には、な、なんと森の中の土みたいなものが…?
とっても甘いメープルシロップに付け込んだ砕いたナッツがパイ生地の中にギッシリ。
その中には、ちみっ子りすが隠したとっておきのごちそうアーモンドが丸ごと!
外は噛みごたえのあるサックサク、それから甘くてザックザク、最後にアーモンドがコリコリしてて、とっても美味しい☆ちみりすだいまんぞく♪♪


●● レッドキャップ様のマフィン ●●

おれはれっどきゃっぷ、ラム酒が大好きなんだぜ。
このマフィンはおれさまが大好きなラム酒が付け込んであるんだぜ。
干しぶどうやオートミールをまぶしてるから、甘くて、噛むとぎゅっぎゅっとしてるから、まじでうまいんだぜ。
レッドキャップ様のお墨付き!ラム酒の落ち着いた甘味が自慢のマフィンはレーズンとオートミールがアクセントになってて、とっても美味しい♪♪


●● ヴィーガン・クロワッサン ●●

はぁい!これは私(ダリアさん)のオススメ!
妖精さんのお菓子じゃぁないけれど、妖精さんにもオススメできるわよ!
なんていったって、このクロワッサンはバターを使ってないんだから!
このサラッサラの生地はココナッツって言う南の島の木の実から取れる油を使っているんだよ♪
この透明感のあるけれど、サックサクの食感はまさにファンタジー!
エルフのお兄さんお姉さんも、可愛いフェアリーさんにも絶対にオススメ!


●● ロスラ・レム・バス(花弁のレンバス) ●●

レムバス!レムバス!妖精の携帯食と言えばコレ!
花びらを星のように散りばめた、可愛らしくて美味しいクッキー!
一かけらだけでも、元気が湧いてきて、一日中でも歩いてられるくらい!
しっとりとした甘露を含んだ粗挽きの粉の生地、とっても薄いウェハース(焼き菓子!)
ブナの葉っぱに包んでるから、森の香りと甘い香りがとても心地よい。
これを食べたら妖精の森の中に居るみたいな気分になっちゃうことはまちがいないね!

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赤髪のお姉さんは絶好調だ。ノリノリのテンションで、まるで子供のようにあどけなく、妖精のように透明感のある幻想的な声で、また時にはティーンエイジャーの学生の少女のように、ハツラツと爽やかな調子でと、七変化に色々なキャラクターを演じながら、一生懸命に、あるいは楽しそうにオススメのお菓子のレパートリーを紹介するのだった。


「さっ…。ということで、私はレッドキャップ様のマフィンを今日は注文するわ。」

しゅたっと敬礼するようにおでこに綺麗に揃えた手をかざして、マスターに今度は颯爽とした爽やな声で、凛々しく清々しい笑顔で注文する。
それから、少女の様子をちらりと伺うように顔を向けて、見つめてから、ふわりと微笑んだ。

「どうかな?食べてみたいもの、あったかな?どれもおいしいよ。」

そう言って、にこにこと…絶えない笑顔を…零し続けるのだった。
まるで無邪気な子供のように、それでいて、穏やかで、落ち着いた大人のような。
そんな表情を、瑠璃色の少女に向けている。


一日の始まり 2017/01/11/20:01:44 No.563  
瑠璃色の空  
「むむむ。」

 予想以上の数で進軍してくるお菓子の隊列に、少女が真剣な表情で唸る。
 その数四種類。ノリノリな調子で行われる説明に耳を傾けつつ、想像の埒外とも言えるお菓子の概要をなんとか思い浮かべようとする。
 ここで、じゃあ同じモノをと言うのは簡単で安定した選択肢だろう。いやしかし、待って頂こう。同じモノを注文してしまえばその場に並ぶ商品は一種類。それでは可能性の広がりを潰してしまうのではないだろうか? 違うモノを頼むことで広がる世界がきっとある。絶対ある。具体的には半分ずつ食べるとかそういう二度美味しい展開がきっとどこかに。
 これから戦場に臨む騎士か兵士か、鬼気迫る気配すら漂わせて考えていた少女の結論は、

「ぱい、くろわっさん、くっきー、ぱい、くろわっさん、くっきー……。クッキーでお願いしますっ!」

 カッと音がしそうな程に目を見開き、瑠璃色の少女は選択を決定した。

ロスラ・レム・バス

 それが彼女が選んだ運命の名だ。
妖精のお菓子でティータイム 2017/01/15/21:44:12 No.564  
ダリア=E  E-Mail 

ロスラ・レム・バス。
それをオーダーされれば、時狭間のマスターはおもむろに、カウンター後ろの壁際の棚の一つの横滑り扉をゴソッと開く。
そこから、目的のモノをそっと手に取ると、再びゴソッと年季の入った音を立てて滑り扉を閉める。
その手には深い緑色の葉っぱで何かが包まれていて、それは紐で縛られている。

マスターはおもむろに白いお皿…花や果実や小枝が皿を縁取るように描かれた…そつなく華やかに飾られたその皿の上に奥と、何かを包んだ葉っぱの結ばれた紐を解き、ぱさりと開く。

それから、そのまま、無言で瑠璃色の少女の目の前に持ってくる。
森の香りがするが、緑臭さいという程でもなく、柔らかにツンと来るような…それから、それに混じるように、ふんわりとした花の香りが広がってくるようだ。

薄い長方形の焼き菓子が葉っぱの上に寝かされている。
それは、雪のように白くて、外側には薄っすらと茶色い焦げ跡があるのが、焼き菓子らしいことが伺われる。
ピンク色の花びらが、白いお菓子のキャンバスに散りばめられている。
まるで、風の精がつむじ風になって、花びらを舞い踊らせているかのような、躍動感のある花びらの舞い。


マスターは、カウンターの下にあると思われる引き出しをゴソッと開けると、銀色の小ぶりの食器用ナイフを取り出して、ロスラ・レム・バスが載せられた美しい皿の隣に静かに置いた。


「レム・バスってエルフの携帯食みたいなものだからね。」

隣の席から、レム・バスのお皿を見下ろしている赤髪の女は、銀のナイフを指さして、そう言った。
そして「あ、滑らか…お高そう。」と、思わず素の調子で呟いている。

「普通に、指で砕いて食べたりしてもいいけれど、こうして旅の途上じゃなくて、カフェタイムに食べるのなら、食べやすい方がいいもんネ。」

あ、ナイフは使い慣れてる?
姫はお箸で生活してきたとか、そういうのがあるなら、私が切り分けてあげようか?
…等々、世話焼き姉ちゃんよろしく、アレコレと瑠璃色の少女の気を遣う赤髪の女の顔は、始終笑顔で、これは先ほどの邂逅から、ずっと変わらない暖かなものだ。
瑠璃色の少女が「ぱい、くろわっさん、きっきー…」とやっている間も、にこにこと、ずっと、少女が”運命の名”を選ぶかのように真剣に悩んでる様を、ただ笑顔で見つめていた。



…。


「ねえ、マスター、わ・た・し・の・マフィンはー?」

かと思えば、今度はこの店の主人に口を尖らせる。
声は駄々っ子のような調子になり、…もっとも、おっとりとした調子はそのままなのだが…、この女は、まるでストライキでもしてるかのような身振りで、カウンターに両方の拳を”どすん”とおいて、マスターをじーっ、と、むくれた子供のように見つめている。

マスターは、相変わらず寡黙だが、風の速さで動き、あっという真に赤髪の女の前に、こげ茶色の…なんだか、ひねくれもののように頭の部分がねじれた大きなマフィンを……まるで太ったいじわる妖精とでも言わんばかりだ…を、木皿の上にのせて持ってきた。

すると、赤髪の女は、何事もなかったかのように、再びにこにこと笑顔を零し、マスターに「ありがとぉ、マスター♪」と、子供のような笑顔で、まるでフェアリーが詠うかのように声を弾ませた。


「冷めないうちに、召し上がれ♪」

ハーブティーの飲み頃を知らせる砂時計の砂は、そうこうしてる間に、全て落ちようとしている。

サラサラサラサラ…。

最後の一粒が落ちる頃には、焼き菓子とはまた違う、仄かな甘い香りが漂っていて、ロスラ・レム・バスのようなふんわりとした花の甘い香りとはまた異なる、葉を思わせるような素朴で、落ち着いた、素朴な香りに、スー…と、爽やかな香りが混じっている、ブレンドされたハーブティーならではの豊かな香りを楽しめるだろう。



それから、ダリアは、店の主人と細かな仕事の話を続けるようだ。
ゼノヴィアの司祭様訪問のスケジュールに合わせた、警備の拡張に伴った仕事の依頼について、ここの担当とここの担当が居るから、向いてる人に依頼を斡旋したい、報酬はいくらで、注意事項は、規約はどうだの…。

担当のだれそれさんはいい人だが、詰所のあれあれさんが、なんだか身体を洗ってないんだか、洗濯をしてないんだかで、靴下が特にとても臭くて、そろそろ、あそこに行くのが限界かも…という話やら…。

仕事上、重要と思われることを、明るいノリで話す事になるようだが…。

さて、瑠璃色の少女は、お菓子とハーブティーに夢中になる事も出来るし、引き続き、ダリアの仕事の話に傾聴することも出来る。
いずれにせよ、そんな話をしながらも、合間、合間に少女へ、昼下がりの木漏れ日のような優しい暖かな眼差しを向けるであろう。
それから、瑠璃色の少女の見せる仕草や表情のひとつひとつに目を柔らかく細めたり、笑みをこぼしたり、何か言ったりすることになるだろう。




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PS:レス頂けて嬉しいです。今回もたくさん書いちゃったぜ。誤字があったらごめんよ…。(先ほど、一つ見つけてしまった…。訂正済みなり。)

一日の始まり 2017/01/21/22:33:32 No.565  
瑠璃色の空  
「ご心配には及びません。一通りの使い方は解っているつもりです。」

 ナイフもフォークもスプーンも、お箸だろうがなんでもござれと言わんばかりに得意げに、少女は軽く胸を張って見せた。

「それでは、いただきますっ」

 そうして、待ってましたとばかりに口に運ぶその姿はまるで子どものようである。が、そのナイフ捌きは恐ろしく繊細だ。まるで熱したナイフでバターを切るような、そんな鮮やかな断面を、クッキーを一切割ることなく切り分けている。

「! !! !!」

 その表情は至福。声すら出さずにうまみをかみしめているようだった。本来なら、ダリアの頼んだマフィンをちょっとだけ交換して二度美味しい計画! などと画策していたつい先程までのことすら完全に忘れている。本来の目的を思い出し、二度美味しい計画を実行する時が来るのだろうか!? 待て、次回!

「美味です!」
瑠璃色の空の娘が愛おしい。レッドキャップ様のマフィンがさりげなく一刀両断 2017/01/29/18:05:06 No.566  
ダリア=E  E-Mail 
「そう?」

得意げに胸を張る少女に、優しく…と言うには易しい、むしろ愛おしそうに瞳を和らげる後ろ三つ編みの赤髪の女。
自分が少女に代わって、と、ナイフとフォークに伸びかけていた手はひっこめられ。
少女の元気いっぱいの。いただきますっ、「はぁい。召し上がれ~♪」と笑顔をまた零す様は幸せそうなものだ。

「へぇー!うまいねー!」

瑠璃色の少女のナイフ捌きはまるで一流の宮廷料理人かと思わんばかりのナイフ捌きを目の当たりにして、驚いた様子で感嘆の声をあげてしまう。それから、何処か懐かしむような優しい眼差しがまた垣間見られる。

それから、レム・バスを口にしてとても幸せそうな顔をしている少女をしばらく、頬杖をついて、にこにこと眺めていた。
そして、至福から覚めた少女が「美味です!」と元気いっぱいに言うのを聞けば、この女は、笑みを零しながら、優しい眼差しのままに、竪琴のような音色で言う。

「そう、それはよかった。」

飾らない言葉、けれども、嬉しそうで…暖かなものに溢れている。
そして、
…さてはて、少女の目論見は実現するのだろうか?
この女はそのまま、担当者の叔父様に対して、集める強者に対して、報酬の額のつり合いが取れない件について”極上のワインを注ぐように”担当者の叔父様の耳に甘く注ぎ込み続けるためにはどうすればいいのかという件について、マスターと語りだすつもりのようだ。
そうしながらも、ひねくれた頭の”レッドキャップ様のマフィン”は”さりげなく一刀両断”され、そのままさらに切り分けられて口元に運ばれる事だろう……さてはて、瑠璃色の少女の行動はいかに?次回に続く。




一日の始まり 2017/03/06/20:39:02 No.567  
瑠璃色の空  
 ダリアの賞賛の声に、むふんっと無駄に得意げな表情でナイフを扱う少女。
 しかし、その表情も瞬く間に真剣なものへと転じた。その理由は至極単純である、傍らの女性がマフィンをさっくりと両断し、切り分けて口に運びながらマスターとの会話に戻ったからだ。
 そのやりとりを果たし合いに赴く剣士のような面持ちで眺めながら、ゆらりゆらりとその時を待つ。
 その時とは即ち、会話がうまい具合に途切れる瞬間のことである。かの赤髪の女性の舌の回る様子を鑑みるに、その瞬間はかなりきわどいタイミングになるのだろうが。
 されとて、そのタイミングがゼロというわけでもない。彼女のマフィンがなくなるのが先か、その時が訪れるのが先かの勝負ではあるが……。

 今だ!

 時は来た。キュピーンッ! などとその双眸を輝かせ、少女はおもむろに手を上げた。

「提案があります!」

 その手の指を自分のレム・バスとダリアのマフィンへと行き来させながら、

「一口、交換をしませんかっ!?」

 食い気味に身を乗り出した。


~~~~~

PLより
 返信が大変遅くなり申し訳ありません。
 リアル事情で落ち着きがなくなかなか事がうまく運んでいないので、もうしばらくはこんな状態が続くと思います。
 忘れているわけではありませんので、気長にお付き合い頂けるとありがたいです。
その瞳は、楽しそうで、明るい光を湛えていた。 2017/03/12/22:30:39 No.570  
ダリア=E  E-Mail 
「あらあら。」

むふん、と得意げな少女に、赤髪後ろ三つ編みの女は、微笑ましく笑顔を零している。
それからは、マスターとの会話に夢中になっていたので、少女の表情の変化にはまったく気づいていなかった。

そういわけで、少女が声を張り上げて、手をあげた時には、
思わずそちらに首を振り向かせて、目を丸くしてしまった。

「ど、どうしたの…?」

提案があります!と少女は言った後、レム・バスと、女が切り分けたマフィンの間を行き来する様を、戸惑った様子のまま見守る。

それで、少女は何を言い出すかと思えば…。

…なるほど。
そういうことね。

少女は、身を乗り出して「一口、交換をしませんかっ!?」と、ダリアに言った。

「あっは♪」

笑顔が零れた。暖かい笑顔で、嬉しそうな笑顔だ。

「さあ、どうぞ。そうね、どれも美味しそうだものね。二人で分け合って食べよう。」

ひねくれた形のマフィンを一切れ、ナイフとフォークで、そっと少女の目の前の皿に移してやる。
穏やかな眼差しは、とても、楽しそうで、明るい光を湛えていた。




===================================

PL宛


リアル事情が大変なんだろうな、と思っていたよ。
大変な時期に、お話を考えたり、書いたりするのは大変だね。
いつも、忘れてないから、と、こっちに気を使ってくれてありがとうございます。
それから、瑠璃ちゃんの楽しいリアクションを考えてくれてありがとうございます。
ではでは、気長にこれからもやっていきましょうね。
一日の始まり 2017/03/15/22:27:33 No.571  
瑠璃色の空  
「ありがとうございます! では、どうぞっ」

 自らの提案がダリアに受け入れられたことに、満面の笑みで応える。そうしてもらったマフィンのお返しに、少女は自らのレム・バスを差しだす。
 そうして、もらったばかりのマフィンを一口。もぐり。

「こちらもおいしいですね!」

 やはり満面の笑みである。実に幸せそうに、少女は甘味を味わっている。

 それは、実に穏やかなひとときであった。



~~~~~~~~~~~~

PLより

いつもお付き合いありがとうございます。
外見年齢より言動がなんか幼い(?)のにも色々理由があったりいう設定もありますがそれはともかく。
これからもよろしくお願いします。
まるで友人との会話のようで 2017/03/21/00:22:02 No.572  
ダリア=E  E-Mail 


レッドキャップ様のマフィンはうまいんだぜ。
レーズンとしっとり生地に沁み込んだラム酒がしつこくない甘さをじゅわーっとさせてるんだぜ。
オートミールがまぶしてあるから、噛みごたえがぎゅっぎゅして、楽しいおやつタイムになるんだぜ。

俺様はレッドキャップ。
民家の酒蔵に最近は出没するんだぜ。
人間様の世界も、ずいぶんと楽になったんだなぁ…。
おかげで、俺さまは毎日、酒蔵でこっそり酒を飲んでるんだよ。







「ふふっ…♪じゃあ、もらうよー?」

どうぞっ、と差し出されたレム・バスを笑顔で受け取るダリア。
それを自らの口に持って行き、一口齧る。
そうしながら、瑠璃色の空の娘が、マフィンを一口食べるのを見守っている。

こちらもおいしいですね!と、彼女は幸せそうに言った。
ダリアは、それを見て、目元を微かに、ふわりと和ませる。
それは、まるで、ずっとずっと、長い時を共に過ごした友人を眺めているかのようで…そう、お互いの事をよくわかっていない知り合いを興味津々に…あるいは、おそるおそる観察している…というようなものとは異なる…、ごく自然な柔らかな視線で、この女は少女を眺めているのだった。


「よろこんでくれて、私も嬉しいよ。」

ハーブティーのカップを口に近づけながら、笑顔でおっとりと言う様は、やはり、とても、自然な振る舞いだ。


「あなたがお世話になった、ご夫婦の方のお家にいた頃は、どうだった?こういうマフィンだとか、薄焼きのクッキーだとか、…あ、その綺麗な東方風の衣装とか見てると…お菓子も東方風のものだったのかな?お料理とかも…。」

少しだけ瞳をつぶらに大きくなり、女は今度は微笑みながら、興味を伴った優し気な眼差しを少女に投げかけている。
それは、まるで、友人と過ごす日常の一コマのようであり…。


~~~~~~~~~~~~

PLより

色々とまた裏設定を考えているんですね。
きっと、これから、どうやって、それを明かして行こうかとか、考えるのは楽しいでしょうね。
これからも、よろしくお願いします。
楽しみにしてます。
一日の始まり 2017/04/19/00:12:45 No.575  
瑠璃色の空  
ダリアの問いかけに、口に含んだマフィンをもぐもぐしながら少女は首を傾げた。

「むぐ。いえ……。なんと言いますか、雪に閉ざされた山奥という環境だったので、基本干し肉とか保存食でした。月に1回くらいでしょうか、吹雪いていない日を狙って麓の町まで買い出しに出たときだけ新鮮な食材で調理された料理が出たのは。えーと、にくじゃが、という料理が特になんとも言えずほんわかおいしかったと記憶しています。おやつはお茶の時間にクッキーがたまに出る感じでしたねっ。」

唇に人差し指を当て、考えるような思い出すような仕草でそう語る。
確かに、あの時間さえ歩みを遅くする極寒の雪山では、まともな食材をコンスタントに手に入れることは難しいだろう。
実際に登山を経験したダリアならば、言われてなるほどと納得できる内容ではあるだろう。

「こちらに出てきてからはまともに食事はしていませんでしたし、それくらいでしょうか。ダリアさんは普段はどんな食事をしているんですか?」

そうして、今度はダリアの食事事情へと話の奉公を定めたのである。
私が食べてるものは…。 2017/04/22/18:01:44 No.576  
ダリア=E  E-Mail 


「あ、なるほどぉ。」

雪に閉ざされた山奥だと言う事、保存食が基本だったと言う事、と聞くと、大変なんだなぁ、と言うように、眉を寄せて、じっと少女を見つめながら相槌をする。
吹雪いてない日を狙って、買い出しを…等と話が続くと「うんうん…。」と、じっと少女を見つめたまま、熱心に頷いている。

「にくじゃがはおいしいよねえ…。」

にこにこと、にくじゃがほんわかおいしかったと語る少女に、ほんわかと笑顔になる。

「なるほどー、やっぱクッキーはおやつの基本だよねー。」

うんうん、と、にこにこと楽しそうに笑顔をこぼしているのだった。

それから、こちらに出てからはまともに食事をしていないとの事に、少しだけ表情を曇らせるが、そのまま続いて、ダリアの食生活に話が及ぶと、「そうだねぇ。」と、曇らせた表情を少しだけ明るく輝かせながら、微笑みを浮かべる。

「果物が好きだから、割と市場でオレンジとか、リンゴとか、季節の果物を買って食べたりしてるよ。…あ、そうそう、たまにだけど、ガッレリアっていう立派なガラスの屋根がついたゴージャスな商店街があるんだけど、その向こう側にまだ工事中のトコがあって、そこにある”じゃがバター”が絶品でねー…。」

等と、嬉しそうに口元を綻ばせて、嬉々して普段の食生活…普段ではない時も含めて…を、湧き水が滾々と溢れるかのように、次々と語りだしそうな様子だ…。

「普段はバターとか制限してるんだけど、たまに無性に食べたくなるんだけどね。けっこうクリーミーというか滑らかな舌触りというか…イイ感じのバターを使ってて…。」

両手を胸の前で合わせて握りしめて、首を真横にくてーんと倒して、目をつむり、なんだか夢見る少女…と言うべきか、妄想に耽る食道楽な女子と言うべきか、想像の翼を広げている模様…、と、このような調子で、瑠璃色の少女が喜んで聞くようであれば、嬉しそうに自分の生活について語り続けそうだ。


一日の始まり 2017/05/04/22:06:01 No.579  
瑠璃色の空  
「なるほどっ」

 当の少女は、ほう、ほう、と頷きながら、嬉しそうと言うよりも真剣な表情でダリアの話を聞いていた。
 とは言いつつも、その瞳の奥にはキラキラとした興味の輝きが満ちているわけだが。

「果物に、じゃがばたー、ですか! リンゴやオレンジは知っていますが、食べたことはないですね。じゃがばたーは初めて聞きました!」

 クリーミーで滑らかな舌触りとやらを想像しているのか、半ば中空を見上げながらふむ、ふむ、と何度も首を傾げてみせる。

「食べ物だけでもいろんなものがあるのですね。私もまた……また? いえ、一度色々なところを旅してみたいものですっ」

 言葉の途中、おもわずぽろっと出た言葉に対して自分で違和感を覚えたのか首を傾げて言い直す。

「他にも山は、雪山以外を登ってみたいですし、船にも乗ってみたいですね! 海はここで一度見たことがありますけど船はまだです。ダリアさんは乗ったことあるのですよね、どんな感じなのですか?」

 ともあれその姿は想像の翼はためかせ。とでも言うのか、芋づる式に出てきた願望を口にしながら、興味の尽きない様子で二転三転とする話をせがむ子どものようであった。
海辺の思い出 2017/05/06/21:08:04 No.581  
ダリア=E  E-Mail 
にこにこ、おっとりと、人差し指を立てて、ここだけのおはなしだよ、と言うような風に、にこー、と少女に顔を近づけて言う。

「海は見たことあるの?船?船はねえ、私がそもそも、生まれが海に近いトコだからねえ。乗ったことあるよ。離れの島に出てる定期便みたいなのとか、よく乗ったわね。」

両手を胸の前で合わせて、懐かしむように柔らかな笑顔を浮かべている。

「馬車が二つか三つぐらいの大きさでね。私は良く甲板に出て海を眺めてたけれど、だんだんと陸を離れていくのは、なんだか寂しい気もするし、わくわくする感じもするわね…。」

頬に手を当てて、少しだけ夢を見るような面持ちで目をつむり、回想に耽るようだ。

「船員さんたちが、掛け声をあげながら、櫂で船を漕いでいる。けれども、だんだん、風が吹くと、甲板に並んでいる高い高い帆柱(マスト)に、船員さんたちがあっという間に登って行って……本当に軽い身のこなしでね。サーカスでも出来そうなくらいだったわ。」

そう言って、帆柱をよじ登る仕草を両手でして見せて、くすくすと、笑った。






「風が吹くと、そうやってすぐに帆柱から帆布が下りて、まるで鳥が翼を広げるようにね。帆が風を受けていっぱいに張ると、ぐんぐんと進んでいくの。」

目を輝かせている。夢中になって語っている。右手を帆に見立てて、風に見立てた左手を帆に受けさせる仕草をしたりしながら、思い出の中の実感を語り尽そうとしている。

「それから、遠い遠い海の向こう側を眺めながら、時々、海鳥たちが、みゃあみゃあ鳴きながら通り過ぎていく姿だとか、船員さんたちが陽気に歌う声だとか、そんな様子の中でぼんやりしながら、大きな大きな蒼い広がりの中で、胸が一杯になるのよね。」

夢の中に耽る面持ちは、日差しを浴びて輝く海の水面を今も眺めているかのように、ぼんやりと夢の中に浸るかのような面持ちで、でも、それについて語る様は嬉しそうで、口元がほころんでいる。











「空も青、海も青、
遠くにはあちこち、島や陸がぽつんと見えるけれど、
私たちが乗っている船は大地から切り離されて、ぽつんと…広くて、何処までも深い青の中で、…ぽつんとしている。」


夢中になって語る。
目を輝かせて。






「紺碧の海、紺碧の空って、ああいうのを言うんだろうね。
上を見上げても、向こう側を見ても、下を見ても、深く、果てしない青が、上にも、下にも……それが、ずっとずっと続いている……。」

明るい光に照らされた、海辺や、港、船の上、海の向こう側、
その風景が光となって、表情から輝き出ているような雰囲気が立ち込めている。











「なんだか、そんななか、私たちの乗る船、
……それに、自分の存在が、とても、とても、ちっぽけに思える。」



胸に手を当てて、瞳を閉じる。











「悲しい気がするし、
なんだか寂しい、
でも、それが、
不思議と心を楽にしてくれて、
生き生きとした自分が蘇ってくる感じがするんだよね。」


胸に当てていた手を少しだけ握りしめて、穏やかな笑顔を浮かべた。
それから少女に微笑みかけながら、言った。








「生まれる前から知っていた、大事な何かを、海は私たちに思い出させてくれる。
……そんな気がしたな。」











何かを分かち合えただろうか?



やわらかく、たのしそうに、少女に微笑みかけている。




紺碧の青、
それを照らし出す、
明るい陽射し、
その気配を微かに漂わせながら。


無邪気な子供のようでもあるし、深みを帯びた女のようでもある。
明るい微笑み、優しい微笑み、
無邪気なようで、深みを湛えている。
分かち合おうとするようで、
包み込もうとするようでもある。



一日の始まり 2017/05/16/21:28:48 No.582  
瑠璃色の空  
ダリアの語る詩のような言葉に自然と瞼を閉じ、紡がれる単語を頭に思い描こうとする。

が、知識はあるものの実際に見たことがないものも多い。思い描けた情景が真に彼女が伝えたかったモノと一致したのかはわからない。

「……」

わからないが、少なくとも胸に去来したこの胸を締め付ける切なさとも懐かしさともとれる感覚は、まごうことなく今自分が感じているものだった。

「なんと言いますか、このあたりがぎゅっとする感じがしますね」

自身の胸に手を置いて、首を傾げながら今思ったことをそのまま口にする。

「ダリアさんの言葉で思い浮かんだ情景がなんだかともても懐かしいような、でもそれを見たことはないはずなのに、そう思える自分がいます」

その想いが今の彼女からくるものなのか、それとも過ぎ去った過去、忘れ去られた誰かの残滓なのか、それはわからない。

「なんだか不思議な感じがします」

見たことのない景色が頭に浮かぶ、そんな感覚に戸惑いを覚えるも、少女は新たな好奇心に満ちた瞳を輝かせていた。

「でも、私はそれを知ってみたいです」

頭に浮かんだ光景が本当に存在する光景なのか、今胸に去来した想いはいったい何なのか。それが気になる。それを知りたい。自分の中の好奇心が外に飛び出そうとうずうずしている。
そうして言葉を続ける空色の少女は、希望に満ちあふれた表情をしていた。

「世界には色んな光景があって。その光景だけ自分の中に何かを想えるのだとしたら、」


 そういった生き方は、とてもとても魅力的だと思います。


紺碧の空気を垣間見て 2017/05/21/21:58:11 No.584  
ダリア=E  E-Mail 


「うふふ、そうだね。世界は一つでも、それがどう見えるかは人それぞれ。」

声を楽し気に歌うように弾ませる。

「ラピスは自分が知りたいんだね。胸がぎゅっとして、懐かしくて、そんなハートの感覚を無視できないんだね。」

柔らかな微笑みを浮かべながら、優しく囁くように。


「海に行って、船に乗れば、知らなかった世界が見えてくる。私たちは、こんなにも…。」

胸をいっぱいに張って、これでもかと言うくらいに両手を広げて。
時狭間の天井を仰ぐ。


「こーーーーーんなにも、私たちが生きてる世界って、ひろいんだなぁーーーーーーって。」


広々とした海辺にいるかのような、開放感に満ちた大きな声で。
あっけらかんとした溢れんばかりの笑顔で。


「ちっぽけだけれど、かけがえのない自分に、儚いけれども、愛おしい小さな命で溢れた世界に。」

そんな情景を、そんなイメージを思い描くように目を瞑る。


「ラピスも、出会えるといいねっ♪」

無邪気な笑顔が、肩越しに瑠璃色の少女を向いている。
まるで子供のような、元気いっぱいの笑顔。
楽しそうに、嬉しそうに声を弾ませて。
蒼い世界に今、まさにいるかのような開放感に満ちた雰囲気は、
海辺の寄せては還す優しい波音が、
今にも聞こえてきそうなものだった。
一日の始まり 2017/05/27/21:09:06 No.587  
瑠璃色の空  
「難しい事はよく分かりませんが、もっともっと色んな事を見たり聞いたり、自分自身で味わってみたいと思いますっ」

 ダリアの言葉に、空色の髪の少女は抜けるような笑顔で応えた。
 知識はある、一般常識や世界の事、様々なことを体験した記憶は無いのに知っている。それは彼女の特異な生まれ故の必然ではあるが、彼女自身はそのことに疑問を抱くことなく受け入れ、そこから先を望んでいた。

 それは好奇心と呼ばれるものであり、知識欲と呼ばれるものであり、ただひたすらに彼女自身が思い描く夢の形でもあった。
 かつて、今の彼女ではない彼女、ダリアの知っているそのヒトはそういった感情を表に出すような人物ではなかったように思われる。しかし、よく考えてみればそれは年不相応とも言うべき不自然さもあった。それはつまり、立場や境遇が違えば「かつて」は「今」のように無邪気な笑顔を見せていたのかもしれない。
 そう思わせる何かが、今ここにはある。

「しかし、出会うためにはまずは何をすれば良いでしょうかっ!」

 あるのだが、なんというか、本当に知識があるのか疑いたくなる時があるよねっていう。
お泊りのお誘い 2017/06/04/21:50:19 No.590  
ダリア=E  E-Mail 
「えーとねー。」

空色の髪の少女の無邪気な笑顔を、優しい眼差しで眺めている女。

「そうね。まだまだお話ししたいけれど、明日も私、仕事だから……。」

少しだけ目を伏せながら、胸に手を当てて、この時間を惜しむかのように吐息をついている。
それから、少しの間、そのまま目を瞑ったままでいたが、ゆるりと目を開き、少女の顔に目を向ける。

それは、少しだけ、照れくさそうな、ためらうような、恥じらうような、けれども、暖かな眼差し。
優しい微笑みが絶えることなく柔らかく浮かんでいる。
しばし、少女をそんな優しい顔で見つめた後、ようやく口を開く。


「ねえ。私の家に来ない?」

そう口にすると、照れくさいのか、仄かに頬を赤らめる。
けれども、笑みはますます大きくなり、零れる暖かさの水嵩が増したかのような、ふわりとした温もりが広がる。


「色々と話す事もできるし、朝にね。お気に入りの景色を見に行ってから仕事を始めるんだけどね……一緒に見に行こうよ。」

星空のように瞳を輝かせながら、今度は真っ直ぐな面持ちで瑠璃色の髪の少女を見つめている。


「一日だけのお泊りでいいから。…どうかな?」


そう言って、にこにこと暖かな笑顔で、少女の答えを待つ。
それは、木漏れ日の中に座っているかのような、暖かさに満ちた優しい顔。
一日の始まり 2017/06/05/22:36:27 No.592  
瑠璃色の空  
「ダリアさんの家に、ですか?」

 場に解散の空気が漂う中、目の前の女性と同じように名残惜しいものを感じていた少女は、続く言葉にきょとりとして首を傾げた。それは単純に、まさかそのような申し出をされるとは思ってもいなかった、という純粋な驚きによるものだ。

「いえ、いえ。まだまだお話を聞けるというのであれば、私としては願ったり叶ったりではありますが」

 だが、それを拒否するような理由はない。あるとすれば、遠慮という類いのものだけだ。

「よろしいのですか? いきなりお邪魔をしても」

 明日も仕事、とダリアは言った。町住まいの人間ならば毎日のサイクルをこなすだけだろうが、冒険者ともなればその仕事には様々な準備が必要なのではなかろうか。そしてそれは前日から行うような類いの作業なのではないだろうか。そういった疑問が脳裏を掠める。

「お仕事の準備などがあるのでは?」

 穏やかな笑みを浮かべる相手に、それを率直に聞いてみる。その表情は遠慮がち……とは言い切れない、なんとも言えない期待の感情を瞳の奥に宿していた。犬ならば、尻尾をブンブン振っているのでは無かろうか。そんな想像をかき立てる光を。
静かに熱く、照れくさそうに。 2017/06/11/15:35:25 No.594  
ダリア=E  E-Mail 
「ええ。貸し家だけど、一階だけ借りてるの。」

驚いている瑠璃色の少女に、絶えない笑みを零し続けながら、ゆるりと頷いた。

「少し片付いてないけど……。だいじょうぶ、すぐに片付くから、ね。」

少し照れくさそうに笑いながら、後半は、拳を握りしめて、帰宅後のお片付けのために、気合を込めるように…とは言え、気合と言うには、ずいぶんと、おっとりとした感があるのだけど。

「ああ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、明日はお見送りだけだから。」

少女の心配の理由に合点がいったという様子で、ぱぁーっとひまわりのような笑顔を咲かせると、手をパタパタ、ブンブンと、顔の前あたりで振りまくった。気にしないで、気にしないで、と、言うように。

「次、あなたと話せるのが、いつになるかわからないし。この出会いをもっと心に残るものにしたいの。もう一度、この日のことを思い出した時に、あなたの心が暖かくなるような……。」

期待の想いに目を輝かせる少女を、まるで母親のような、あるいは愛犬を見つめる飼い主の女性のような慈しみに満ちた瞳を向けて、吐息をそっと吐き出すように語る女。
それは、初対面の相手では、なかなか、見受けられない、心を許しきっているような、自然な雰囲気で……。


「私の家は都の中心から離れてるから、少し歩く事になるけれど、…きっと色々な発見があって楽しいわよ。」

優しい光を表情に湛えながらではあるが、不意に瑠璃色の少女の片手を両手で包み込むように取って、微笑みながら顔を近づける。
積極的で少女を口説き落とそうとしているかのような、静かながらも熱のある誘い方。
そんな自覚があるのか、照れくさそうにはにかんだりしてしまう赤髪の乙女。
一日の始まり 2017/06/11/21:24:13 No.595  
瑠璃色の空  
「そういうことでしたら、喜んで!」

 ダリアの話を聞き、懸念していたような事が起こらないというのであれば、彼女としても断る理由はなかった。少女は大きく頷いた。

「歩くのは慣れていますので、多少遠いくらいは問題ありません。任せて下さい。っと?」

 伊達に数ヶ月さまよい歩いてはいない。と、無駄な自信をアピールしていた所、おもむろに自身の手を包み込んだダリアの両手に驚く。二度、三度とその手とダリアの顔を視線が行き来する。

「…………よく分かりませんが、よろしくお願いします!」

 結論からして、結局その意味はよくわからなかったものの、しばしの間を置いて彼女は満面の笑顔とともに、その包んでくる両手に自らの最後の片手を被せたのだった。
ドゥオーモ前広場 2017/06/17/10:13:16 No.596  
ダリア=E  E-Mail 


お互いに手を取り合って、手を重ね合っている。
瑠璃色の少女の手を包み込む、自らの両手に、少女の手が重ねられると、この女は目を見開いて、溢れんばかりの笑みを零した。

「うん。よろしくね。」

思わず力を込めて、少女の手をぎゅっとそのまま強く握りしめてしまう。
気持ちが高揚しているとのか、照れくさいのか、頬を少し赤らめて、はにかみながら。


「それじゃぁ、いこうか?ここを出れば、すぐに都の広場に出れるはずだよ。こういう場合はね。」


くすくすとしながら、少女の手を取ったまま。時狭間の扉の外へと誘おう。


<<カランカラン>>


時狭間の扉の可愛らしいドアベルの音。
開いた扉の先には、中央に白い大理石の噴水がある広場が見える。
鶴のような生き物が、噴水の吹き出し口の台座を神輿か何かのように背負った彫刻が施されている。
その周辺には昼下がり時、お喋りに興じる洒落た格好の街の人々の姿が見られる。
手にはジョッキを持つものもあれば、カップを持つものも…。

その右手には洗練された造形の柱と、艶やかなアーチが施された門構えを持ち、ラッパを吹いている幼子のような天使たちの彫刻が施された立派な建物が見える。
左手や奥には、様々な小店舗が、赤い屋根のレンガ造りの3~4階建ての建物の中に立ち並び、周辺にはテーブルや椅子が並べられてオープンカフェのような様子を見せていて、老若男女がティータイムをしながらお喋りをしたり、議論をしたり、賑やかにしている。

お喋りの輪を作っている人々だけではなく、通り過ぎて行く人々も多い。
白い装束の一団が、右手にある無垢な天使たちの彫刻などが施されている立派な建物の中に、静謐とした雰囲気で入ってゆく。
そうかと思えば、黒や赤の帽子を被った、小奇麗な衣服の男たちが明るい顔で出てきて、希望に満ちた顔でお互いに何かを言い合っている。
その脇で、見すぼらしい姿の少年が、希望の光に包まれている男たちの腰元から小袋をかすめ取り、目立たぬ足取りで、素早く路地裏へと消えて行く。
半袖シャツ姿の筋骨たくましい男たちが、お互いに肩をたたき合いながら、正面の通りの向こう側へと歩いていく。

このように、広場は活気に溢れた様子を呈している。
赤髪の群青色のワンピースを纏うこの女は、そんな街の広場へと、瑠璃色の少女を誘っていった。
始まりの一日 2017/06/20/21:09:37 No.600  
瑠璃色の空  
時狭間の扉を開けた途端に広がった光景に、少女は目を見開いた。

「お」

口を突いて出た言葉は意味を成していない。それは純粋な情動からくる感嘆の音だ。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その感嘆は気付けば大きくなり、周囲への配慮など一切ない驚嘆の声へと変わっていた。
彼女の知識として知っている人々の営みの具現。すなわち彼女が初めて肌で感じた人々の生活の光景なのだ。

「ヒトがいっぱいいますね! いえ、知ってはいたのですが、実際はこんなにも熱気があるのですか!」

周囲からは奇異の視線を注がれているかもしれないが、本人はそのことに気付いていない。それほどまでの感動がその身を支配していた。
凄い、凄いときらきらと目を輝かせ、小さな子どものようにはしゃぐ。目を離せばフラフラとどこかへと行ってしまい兼ねない危うさまであるほどに。
童心に返るというものを体現しているかのように。

何にせよ、この日、この時、この瞬間にこそ、瑠璃色の空という少女は本当に始まった。ようやく、世界に生まれ落ちたのだ。
お喋りな広場の人々 2017/06/26/00:38:00 No.601  
ダリア=E  E-Mail 


「おお、エスト・ヴェッリ・ヴェ―レ・ヴェスティティ。」

付近で陶器のコップを片手に政治談議に花を咲かせていた男が瑠璃色の少女を見て、何やら現地語らしい言葉で褒めそやした。

「ヴェ―レ、ヴェ―レ。」

また別のお喋りの輪の立派な髭をたくわえた中年男が、何度も笑顔で頷いている。
少女が大声で驚嘆する様子をほとんど周りは意に介していないらしく、むしろ、好奇の眼差しで見つめて来るのである。


「綺麗な東洋の衣装だねって言ってるわよ。」


ダリアは微笑みながら瑠璃色の少女に通訳した。

「ここは、ドゥオーモ……この都を代表する教会聖堂の前だから、特に人が多いわよ。この国ではみんなお喋りが大好きだからね。ここはとても賑やかな場所だよ。」

「ああ!そうだよフィオ―ナ!ブリル人が誇るドゥオーモだよ!教皇様も何度も参拝に来られている!」

政治談議をしていた男が笑顔で自慢気に語り、情熱に溢れた眼差しを瞳に輝かせながら、どんどん喋りだす。

「コミューンは共和制を全力で賛美するよう生まれた時から教え込まれているからね!パブリックな僕たちには会話が大事なのさ!王様が治める国と違って、なんでもおしゃべりで決めないといけないからね!けれども、それが僕らの誇りなのさ!国民ひとりひとりが賢明に国の事を考えれば、良い街に、良い政府に、良い国になる素晴らしい国さ!特に我々エレンディア人は勤勉で向上心が高いからね!知的な談義は毎日毎日の事なのさ!」

陶器のコップの中身はワインらしい。隣で彼の演説を聞いていた友人らしき男がワインボトルを片手にやってきて、彼のコップに継ぎ足している。「グラーッツェ」と、政治談議好きな男が礼らしい言葉を述べた。


「君、君!フィオーナに小難しい政治の話をして慶んでくれると思うのかね?それよりも、この都が初めてなら、ぜひとも街の自慢のカツを勧めるべきだと思わないかね!カツを!」

反対側のお喋りの輪の端で会話を聞いていた立派なヒゲの中年男が、政治話好きな男のお喋りに強引に割り込んで来た。この中年男、砕いて言うならオジサンもまた、情熱に溢れた顔つきで、たくましそうな喋りっぷりだ。

「豚のカツも牛のカツも我らが都では絶品だよ!ソースも豊富だしね!カツレツはエレンディア人のソウルフードだ!東洋の美しいお嬢さん!ぜひともこの都に来たのなら味わっていっておくれ!」

笑顔でカツを瑠璃色の少女に勧める立派なヒゲの親父さん。
と、そんな調子で、瑠璃色の少女に負けないくらいに、この広場の人々は配慮うんぬんよりも、自分のパッション(情熱)と、こだわりと、関心が重要らしい。
そんな風におしゃべりの輪の中に巻き込まれて行こうとしている少女を、微笑みながら赤髪の女は眺めているのだった。

「うふふふ…♪」
始まりの一日 2017/06/28/20:21:20 No.602  
瑠璃色の空  
「えすと・う゛ぇっり?」

瑠璃色の少女が一人興奮していると、自分を見て知識にない言語を浴びせかけられた。そしてようやく周囲の視線が集まっていることに気付くも、その原因が分からずに二重の意味で首を傾げる。

「おお、なるほど! ありがとうございます! 恩人から頂いた衣装で、動きやすくて私も気に入っていますっ」

だが、すかさず入るダリアのフォローで意味を理解し、ぺっこりと勢いよく頭を下げる。ただ、その感想は機能性の方に重点が置かれていたようだが。

しかして、そんなことはお構いなしとそこから始まる馬鹿騒ぎのような会話の波に少女は半ば圧倒されつつも、気付けば満面の笑顔で中に入っていた。

 ドゥオーモ! カツレツ! ソウルフード!

ただ、そのしゃべりは現地語らしきものをオウム返しで騒いでいるだけなのだが。
ともあれ、少女が楽しそうで何よりです。みたいな雰囲気はバリバリでていた。
カツレツ談義 2017/07/02/20:02:32 No.603  
ダリア=E  E-Mail 
「ソースを使うのは邪道だ!」


ジョッキを片手に突然、別のおしゃべりの輪の中から、恰幅の良いいわゆるモジャ髭をした男がやってきて、力強く主張した。


「エレンディア人の誇りにかけて、コトレッタはレモン汁だけかけて食うんだ!ラズベリーソースもグレイビーソースも邪道だ!てめえらのマンマも泣いてるぜ!いいか!姉ちゃんに嬢ちゃん、よおく、耳の穴から、胸の奥に刻み込んでおいてくれよ!カツはレモン汁をかけて食べるのがエレンディア流なんだよ!そして、これこそが至高なんだ!」

瑠璃色の少女の脇に笑顔で佇んでいたダリアを含め、力いっぱいに訴えかけるモジャ髭の粗野な服装の男。

「レモンだけかけて食べるなんて、素敵だと思うわ!」

きょとんとした顔で聞いていたダリアは、僅かな間の後、すかさず両手をポンと合わせて笑顔で共感した。

「そうだろう、そうだろう……。」

満足げなモジャ髭をしり目に、政治談議をしていた男は、何事もなかったかのようにラピスに囁くのだった。

「カツレツは確かにレモン汁だけでもうまいけれど、酸味の利いた果実のソースと食べると病みつきの味になるんだ。彼の考え方は古いし、王政時代の粗野な空気を感じる。…パブリックな我々は、ソースをかけてカツレツを食べるのさ。」

そこまで少女に囁くと、フッフッフ、と、こちらもこちらで満足げな含み笑いをしている。

「まったくだ、あんなに美味なソースがたくさんあるのに、使わないとわもったいない……。」

モジャではない立派なヒゲのオジサンの方も、理解できないと言わんばかりに首を振っている。
それから、瑠璃色の少女に。

「シニョリーナ、この辺りで上手いカツレツを食べたかったら、このドゥオーモの裏手の通りを真っすぐ行った所にある、アドネーゼ・フェリッチェの店に行くといいよ。目印は葡萄を巻き付けた山のカンバンだからね。」

しっかりと少女に記憶に焼き付けようとするように、顔を近づけながら、大きな瞳をまじまじと見開きながら、親切かつ念入りにゆっくりと言って聞かせるようにカツレツが旨い店について教えるのだった。


「あはは、そろそろ、行こうか?ラピス。」

楽しい会話もそこそこに、赤髪の後ろ三つ編みの女は、瑠璃色の少女の傍らに楽し気な笑顔を溢れさせながらやってきた。

「ああ、ところで。私はベジタリアンなので。」

カツレツを勧めて来た男たちを振り返り、爽やかな笑顔で赤髪の女は宣った。

「な、なにぃー!」「裏切者ォー!」

各々の反応を眺めて、赤髪の女は笑顔を弾けさせるのだった。
始まりの一日 2017/07/05/00:05:53 No.604  
瑠璃色の空  
続くカツレツ談義というかソース談義に右を見て左を見てと何やら目を輝かせていた少女であったが、ダリアが最後に爆弾を落とすのを見て、思わず吹きだしてしまった。

「これが、話のオチというやつですかっ」

何か違う気もするが、あとどこでそんなことを覚えてきたのか、何もかもを楽しそうに解釈しながら、瑠璃色の少女は小走りでダリアを追った。

「みなさん、ありがとうございます! 私はカツを食べてみたいですが、今回はパスということで! 失礼します!」

振り返れば、ぶんっと長い髪が広がるほどに勢いよく頭を下げ、阿鼻叫喚(?)のカツレツ男児たちに別れを告げる。

「では、行きましょうダリアさん!」

そしてダリアの隣に並び、ニッという笑みを浮かべて彼女を見上げるのであった。その仕草にはどこかブンブンと振られる犬の尻尾を幻視しそうであった。
都会の風景 2017/07/09/20:36:41 No.605  
ダリア=E  E-Mail 

歩き始めた己の傍らに並ぶ瑠璃色の少女の言葉に瞳を柔らかく細めながら、

「うん!いこうラピス!」

にこやかに頷く。
共に歩く少女との距離は近い。
それは力みや遠慮の類はない、とても自然な感覚で、まるでずっと一緒だった姉妹か何かだったかのような…。

「少し歩く事になるけれど、…きっと、楽しいかもね?あなたなら。」

そう言ってまた肩越しに少女を見下ろして微笑み、それから少しだけ肩と肩が触れ合ったりする。

「ふふふ…っ♪」

わざとなのか、偶然なのか、何度かそんな風に軽く肩をぶつけながら、笑みを歌うように弾けさせている。
楽しそうに、幸せそうに、大切な人と過ごしているかのように。


そうして優美な彫刻が施された噴水や大聖堂のある賑やかな広場を背後に、大都会の通りへと歩いて行く女と少女。
その先には大通りとは異なるものの、人気のある広い通りが広がっている。

右手には惣菜屋らしく、並べられたたくさんの陶器にオリーブ等の漬物や、ペン先のようなパスタが色とりどりのペーストやソースと和えられたもの等が盛り付けられていて、それを箱に詰めて買っていく女たちの姿が見られたり、鏡の前に座る貴婦人の髪を丹念に切り揃えている気難し気な男の姿が見られたりする。
左手の店の奥には大樽が並び、半裸の男たちが陶器の杯を片手に愉快そうに笑いながら立ち飲みしている姿があり、皆からマンマ、マンマ、と呼ばれている三十路過ぎの黒髪の美女が、男たちに料理を給仕している様子が見られたりする。
その店のさらに向こう側では、のんびり、のんびり、とした動きで出てくる古ぼけたガウンを纏った杖をついた老人の姿が……建物の中から、恰幅の良い女が出てきて「痛み止めを忘れてるわよ!」等と言って麻の小袋を掲げている。


店の前の展示台に幾何学模様のペンダントやクリスタルボールが並んでいる様子、その対面で小さなタルトやケーキを明るい笑顔で売っている小太りの栗毛の愛らしい女の姿、その向こうに街路樹が立ち並び…。

そんな都の生活の風景が、瑠璃色の少女の向かう先にずっとずっと続いていた…。
始まりの一日 2017/07/13/23:41:33 No.606  
瑠璃色の空  

互いに肩を触れあわせるように歩く中でも、別段歩きにくさなど感じさせない確かな歩調で赤髪の女性と空色の少女が行く。それは互いの剣士としての技量を確たるモノとする足腰の鍛え方のたまものなのだろうが、周囲の人間にとってはそこまで推量するほどの情報ではないのかもしれない。ただ、髪の色は違えどその姉妹がじゃれ合っているようにでも見えるのだろうか。

「お任せください。歩くのは得意ですっ」

自信満々に胸を張るのは空色の少女。なんと言っても野生児じみた身体能力の持ち主だ。多少歩くことなどたいしたこともない。まぁ、理由はそれよりも

「おおっ!」

目移りしてしまうような建造物や屋台の食べ物、そこに住まう人々の生活のためなのだろうが。
それはそれは活気のあるヒトの営み。それが視界いっぱいにずっと続いている。


自分はこんな景色を目指したのだろうか。


ざわり、と。普段は思わないような思考が頭を掠めた気がした。

ふと立ち止まり、辺りを見渡す。最後に後ろを振り返り、空色髪の少女は首を傾げた。

「?」

気のせいだろう。と、何に対しての気のせいかすらわkらない気休めを置いて、彼女は少し距離の開いてしまった赤髪の女性へと追い付くために小走りに歩を進める。


「すごい人たちですねっ」

その間にも先程の思考は霞みと消え、表情は普段と変わらぬ笑みを浮かべる。
その口から出る言葉は短いが、目の前で日常を謳歌する人々に対する万感の思いがこもっていたはずだ。
都会の風景と人々 2017/07/17/17:36:39 No.607  
ダリア=E  E-Mail 

「ふふっ、頼もしいわね。」

自信満々に胸を張る少女に、柔らかく目を細める様子は優しいものだ。
微笑ましいと感じているのか、少女を包み込むような柔らかな雰囲気を醸し出している。

「うふふふ。」

この少女は見る者、聞くもの、街の風景のすべてが新鮮な驚きに見えるようだ。
瑠璃色の少女のまるで子供のような初々しい反応に、ずっと上機嫌に微笑みながら、傍らを歩いているこの女。


「フフンーフーフー♪」

何やらメルヘンなメロディをハミングし始める。
軽やかな足取りに、後ろ三つ編みが楽し気に揺れている。。
傍らの少女が、ふと立ち止まって、いつの間にやら自分と距離が離れてしまっている事に気づかずに、そのまま、歩き続けてしまうようだ。

「パンドーロはいかがですかーっ♪ちっちゃいちっちゃいパンドーロに、可愛らしいトルタ♪、今ならとってもお買い得ですよぉー♪あ、ダリアさーんっ♪」

「やほぉうーっ♪」

栗毛の小太りの女の子がおおらかな様子で、小さな五角形の台座のような形の甘い雰囲気の茶色が鮮やかな焼き菓子と、色々な種類の小さなタルトを出店の台の上に並べて呼び売りしている。
その女の子は、ダリアの姿を認めると、大きく手を振り始め、ダリアも頭の上に右手をひらりとあげて、軽くおどける様に腰を曲げると、ブンブンと台風のような勢いで頭上で手を振り返す。
すると、お菓子を売っていた女の子は弾けるように笑ってしまう。

「あれ?」

瑠璃色の少女が傍らにいないことにここに来てようやく気付き、きょとんとした顔になる。
そして、後ろからすぐに小走りしてくることに気付いて、ほうっ…っと、安堵するように息をついて、見開いた瞳を柔らかく細めた。

「ええ、ドゥオーモに繋がる通りだし、こっちの方には区役所もあるから、けっこう人通りはあるかもね。。」

瑠璃色の少女の言葉に応えると、くすくすと楽しそうに笑みながら、そんな話をするこの女。
街の風景に感動しっぱなしの少女を傍らで眩しそうに目を細めながら眺めていると、不意に少女の顔の向こう側の方へと瞳が動き、軽く手を上げて、にっこりとする。

栗毛の女の子がお菓子を売っている反対側に、装飾品やアンティークを展示している店があり、その店の奥で明り取りの小窓から差し込む光を頼りに、何か金物をペンチを使って繊細で鮮やかな手つきで折り曲げている老婦人が居た。
髪が霜のようになり、顔に老いを示す皺が忍び寄ってはいるものの、その瞳はまるで日差しに照らされる静かな湖畔のように、大きくて、キラキラと輝いていた。

その老婦人は手を振るダリアの方をちらりと見て、慎ましやかながらも暖かさに溢れた微笑みを浮かべると、また手元の作業に戻るのだった。


この女と少女が歩く先には、街路樹が連なる通りが続き、その端々に、瀟洒な曲線を描く手すりのある艶やかな木のベンチがあり、歩き疲れた年寄りたちが休んでいたり、鞄を携え、丸い帽子を被った少年たちがはしゃぎながら小さな冊子を広げて、何かを語り合っている様子が見られるだろう。
その通りの左右には、広々とした邸宅が立ち並び、赤や白の石造りの壁に等間隔で点々と薔薇や百合などと言った美しい花々をモチーフにした浮彫が美しい窓枠が施されたガラス窓が見られ、その中では邸宅の召使たちが花瓶に色とりどりの花束を生けたり、水瓶を小間使いの少年と一緒に邸宅の奥に運んで行く様子などが見られる。


そんな景色の中を、休むことなく人が行き交っているが、鞄を背負ったり、たすき掛けしたり、手に持ったりしている少年少女の姿や、白い清楚な外套に身を包んだ人々…お年寄りが多い…や、黒い装束にロザリオを身に着けている人々や、優雅な長衣や、ピッタリとしたタイツと、パリッとしたジャケットに、帽子を被った気品のある紳士たち…と言った人々が良く見られるだろう。
他にも、子連れの女性や、荷物を足早に運んでいく作業着姿の男等……。

そして、さらに進むならば、通りが突き当たる通りの向こう側では、馬車が行き交っているのが見える。
幹線道路よろしくと言った様子で、幌のある馬車もあれば、木材や、石など、積んであるものが剥き出しの荷馬車もあれば、貴人が乗り込んでいるであろう美装された快適そうな馬車も走っている。


行き交う人々もあれば、立ち止まったり、座ったりして、語らったり、休んだりする人々…。
店を構えて、商いに励むもの…、何かを作ったり、運んだり、世話をしたりと、働く人々……。
やがて…――。
始まりの一日 2017/07/29/21:54:02 No.608  
瑠璃色の空  
人通りの多さもだが、左右にならぶ商店や露店にも目移りする。そんな様子でキョロキョロと視線を彷徨わせながらも、空色髪の少女は今度は遅れまいとしっかりとダリアの歩みに合わせていた。

さらに道を進めば行き当たるのは馬車の行き交う大通り。様々な形状の馬車が過ぎ去って行くそこは、この都市の交通の要所のような場所なのだろう。と推測される。

行き交う人々や馬車、それらの営みは大きなうねりを伴って都市という一つの集合体を動かしている。それはまるで一つの大きな生き物のように、もしくは歯車で動く機械のように、密接に絡み合って大きな力を生み出しているのだ。


「やはり、凄いですね」


口からついて出てくる言葉は、本日何度目かもわからない同じものだ。同じものだが、その言葉に含まれる意味は一切の遜色を示さない。感動がさらなる感動で塗り替えられ、少女はただただその時の思いの丈をこぼしているだけなのだ。

それは感極まった、と言っても良いのだろう。思わず立ち止まりかけたところに後ろから歩行者の気配を感じ、慌てて足を速める。

「と、ところでダリアさん! あとどれくらいでしょうかっ。歩くのは辛くありませんが、このままだと私は好奇心に負けてしまいそうですっ!」

そして、隣に並んだダリアへと声をかける。我慢のしどころではあるが、そのリミットがどこにあるのかを知っているのと知らないのとでは、いささか我慢の質が変わってくるというもの。
少女はうずうずと身体を震わせながらも、足を前に運び続けるのである。
街の風景に惹かれる少女、それに惹かれる女 2017/08/06/20:41:12 No.609  
ダリア=E  E-Mail 
感動の言葉を漏らす少女の声を耳にしながら、穏やかな喜びに満ちた柔らかな表情を浮かべながら、少女の隣を歩いている。そして、

上ずった少女の自分への呼びかけの声に、この女は「んんー?」と和やかに言いながら目を瞬かせる。
何かを尋ねようとしているとわかれば、微笑みながら「うん。」と返事をし、少女の話の合間に頷いて相槌を頷きながら、耳を傾ける。
そして、少女の荒ぶる好奇心と言うべきだろうか?その心持ちを聞けば、大きな笑顔を零して、不意に少女の肩を抱いて、娘をあやすように何度か揺するのだった。「うふふふっ。」と、弾んだ笑い声と一緒に。

「このまま、明日の事を忘れて、二人で夜が更けるまで街で遊ぶのもいいかもね。……なんて、冗談だけれど、私も私でラピスと一緒に遊びたい誘惑に負けちゃいそうになるね。」

あやす仕草をやめて、眉を下げながら、困ったような嬉しそうなような、複雑な表情を見せている。
その表情は複雑そうながらも、きらきらと輝いて、生き生きとしていた。

「ドゥオーモから歩いて半刻もしない内にたどり着く計算だから、そんなにはかからないと思うけれど…。」

にこっ、と明るい笑顔のままに、先ほどの問いの答えながら、肩を抱く手を放して、トン、トン、と踊りのステップのように軽やかにラピスより前へ、さらに前へと先に進んでから、くるりと舞のような軽やかな動きで振り返る。

「この先の大通りを渡ってすぐに、雑木林の綺麗な遊歩道に入るから、きっと落ち着けるんじゃないかな?静かだし、それに、緑がいっぱいなだけあって、とても涼しいし、風が気持ちいいからね。」

だから、だいじょうぶだよ。
そういうように、にこやかに頷いてから、前を向いて先に進んでゆく赤髪の女。
大聖堂を背に女と少女は進んでゆくだろう。
瀟洒な邸宅の合間を抜けてゆくだろう。

召使、巡礼者、商社の社員や役人、
修道会の修道士たち、学校帰りの学生たち、
飛脚、小間使い、女中、母親と子供、街に生きるたくさんの人々とすれ違ってゆくだろう。
たくさんの声や、たくさんの息遣いを後ろに残して、少女はこの女の道をなぞるように歩いていく事になる。
歌を歌う声が聞こえる。
遠くから。
囁き声のように。
まるで、そのような、”今この時”を祝福するかのような、
喜びに満ちた賛歌が遠くから。

始まりの一日 2017/08/30/23:49:16 No.610  
瑠璃色の空  
「そうですが、それはいけませんねっ」

 二人で遊び倒すというのは確かに魅力的な話ではあるが、仕事というものがある以上それはいけない。請け負ったものに対する責任は果たさなければならない。遊ぶのはその後だ。
 などという意味のことをふにゃふにゃと力説(?)しながらも、歩く速度は緩めない。

「半刻ほど……。その前に遊歩道ですか。なるほど、ではそれを楽しみに歩きましょう! 目標があれば過程の誘惑は我慢できるはずですっ」

 ふんぬっと鼻息も荒く宣言し、ぐっと拳を握る。意気も新たに勢いも新しく、いざゆかんまだ見ぬ遊歩道。などという心境なのであろうか。

 そうして通り過ぎていく邸宅街。これまでとはまた違う雰囲気の通りを行き交う人々を興味津々に眺めながらも、その足取りは確たるモノを持って前へと進むのだった。

荷馬車や馬車が行き交う大通りの前で 2017/09/03/22:17:05 No.611  
ダリア=E  E-Mail 
「あら。」

それはいけませんねっ、と思いの外、勢いこんだ窘めの言葉が飛んできて、思わず目を丸くして少女の隣に再び並んで歩き出す女。
きょとんとした面持ちのまま、それでも、やはり、口元には微笑みが浮かんだままに、少女のふにゃふにゃとしてはいても、立派な主張を聞いている内に、朗らかに笑いだしてしまう。

「あはっ、あはははっ、そうね。ちゃんとしないといけないよね。」

少しだけ眉を下げて、笑みの余韻を残したままに、少女に同意するように頷く様は、まるで子供に叱られた母親か何かのような顔だった。
そして、目標があれば、過程の誘惑は克服できる等の事を力強く宣言する少女と心に寄り添うかのように。

「うん、そうだね。がんばろう♪」」

くすくすと笑みを漏らし続けながら、暖かくも柔らかな、そして楽しそうに女は声を弾ませるのだった。
拳を握り、勇ましく宣う少女を、傍らから見つめたその眼差しは、眩そうで、何か輝かしいものを見つめているかのようだった。


そうして話していると邸宅の合間を抜けて、馬車が行き交う舗装された石畳の大通りが目の前に河のように横切っている所までやってくるだろう。

そこでは、前述の通りに、

============================
鞄を背負ったり、たすき掛けしたり、手に持ったりしている少年少女の姿や、白い清楚な外套に身を包んだ人々…お年寄りが多い…や、黒い装束にロザリオを身に着けている人々や、優雅な長衣や、ピッタリとしたタイツと、パリッとしたジャケットに、帽子を被った気品のある紳士たち…と言った人々が良く見られるだろう。
他にも、子連れの女性や、荷物を足早に運んでいく作業着姿の男等……。

そして、さらに進むならば、通りが突き当たる通りの向こう側では、馬車が行き交っているのが見える。
幹線道路よろしくと言った様子で、幌のある馬車もあれば、木材や、石など、積んであるものが剥き出しの荷馬車もあれば、貴人が乗り込んでいるであろう美装された快適そうな馬車も走っている。(No.607より抜粋)

============================

等、このような人々が居て、様々な馬車が走っている。
大通りを渡った先の正面には大きな3階建ての建物…赤レンガ造りの建物なのだが、一階の一部が白大理石で作られていて、様式美の法則に乗っ取り刻まれた石柱が建物のアーケードのようになっている部分の天井を支えている。
その下では、何やら犬や猫がわらわらと居て、じゃれたり、寝転がったりしていて、その周辺には恰幅の良い女の人や、優男風の男やら、子供たちが取り囲んで、楽しそうにしている。

そんな景色が多少距離の離れた向こう側……大通りを行き交う馬車の合間から眺める事が出来るだろう。
建物の2階には蒼い衣を纏った聖母が、幼子を抱いている画が描かれていて、その上にはベランダのようなものがあり、さらに上に聖十字のシンボルを象った銀色のものが壁に嵌め込まれている。

その建物の向こう側は木々の姿がちらほらと見受けられ、道路の右手には幾つかの小路が伸びていて、その向こうには広場があり、何処も人々が行き交っているのだが、通りに比べたら人は疎らなものだ。
小路と広場の向こう側にはまるで宮殿のような立派な建物の姿の一部がちらりと眺めることができる……白い尖塔や、いくつも連なる透明感のある硝子の窓…美しい窓枠で装飾され、天使や草花の浅浮彫が施された優美な白亜の壁。

大通りの左手には、3階建ての建物が軒を連ねており、食事処や酒場、宿屋と思われる看板を掲げている様子が多くみられ、それが、ずっと先まで続いている。
とは言え、大通りを渡った側の方は森を後背地にしているためなのか、何となく物静かな雰囲気や、上品な雰囲気の店が多いように見られる。


そんな景色を見た所で、何となく視線を背後から感じてしまうかもしれない少女。
後ろの方では、少年たちが「なに見とれてるんだよ。」「いや、だって、珍しいし、綺麗じゃん……。」「おい、変な気起こすなよ?エスト・ヴェッレの女の子とケコーンしましょうってなったら、あっちに旅立って、おまえが家を継ぐのじゃぁってなって…。」「お、おいおい、飛躍するなよ。僕は立派な騎士になりたくて、此処に来たんだから…。」等という声の他に。「ヴェールァ、ヴェーラ、パッポ・テ・ペレッサル・キャリーノォゥ。」「オウ!フェルマテーロ!」「オウ!ヘッヘッヘ…。ノ・キャリーノォォ。」「フェルマテーロッ。」等と愉快に地元の言葉で交わされていたりもする。

そして、瑠璃色の少女と、赤髪の女の前では、杖を突いた老婆が、夏の暑さの中にも関わらず、すっぽりとしたワンピースにカーディガンに、ショールに頭巾を被り、食材で一杯の買い物かごを腕に下げ、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと歩いている。
このままだと、瑠璃色の少女たちは、このお婆さんに追いついてしまうだろう。
お婆さんの突いてる杖は、持ち上げるたびに、何やら震えが走っている……。


しかし、このお婆ちゃんは、ガラクタや、木材を載せた大型の荷車なども行き交う幹線道路宜しくの大通りに、淡々と向かって行く。
その大通りの向こう側では、犬が「ワンッワンッ!」と嬉しそうに吠え、猫が「うにゃぁぁぁ。」と気持ちよさそうに伸びた声を出している。

そして、瑠璃色の少女は……。

====================================

PL:臨場感出そうと頑張った結果、記事が膨大に……半分にぶった切っているので、次回の文まで半ば出来てます……。
あきない君の方で消化不良を起こさないだろうか?
そして、一応、見直しとか、文章直しとかしたけど、まだまだ粗いと思うのですが、時間ないので、こんな感じに。
誤字とか、変な文章あったら、ごめん。
そして、返信してくれて、ありがとう。では。

始まりの一日 2017/09/13/21:27:18 No.612  
瑠璃色の空  
 そうして、ダリア女史と談笑しながらも歩を進める。
 周囲の景色も徐々に様変わりしてくる。相も変わらず興味津々な様子で視線をいったりきたりと忙しなく動かしているのはご愛敬と言ったところか。当然のことながら、余所見をしているようでいてちゃんと周囲にも気を配っているので誰かとぶつかったりはしないのだが。
 ふと、背後から視線を感じる。とは言え、空色髪の少女の衣装は色合いを含めて目立つものだ。そういう意味では先程から視線を投げかけてくる者は多かったろうし、今回のソレもその中の一つということで気にとめることはなかった。軽く耳に届いた会話の内容もまさか自分のことを言われているなどとは思わず、聞き流しているだけである。

「おや?」

 だが、それよりも少女の目にとまった光景があった。それは、老婆が杖を突きながら重そうな荷物を持ちながらゆっくりと歩みを進める姿なのであるが。


「ダリアさん、少し時間に余裕はありますか?」


 その老婆の歩みを見ながら、少女は隣を歩む赤髪の女性へと一応の確認の意味を込めた問いを投げた。
 少し真剣みを帯びた表情とその視線の先を追えば、少女が何を考えているかは想像するに難くない。

 老婆とてこの街で普段から生活しているのだから、早々何事か起こることはないだろうが、例え大きなお世話だとしても動いてしまうのはきっと人情と言うものだろう。
歩行者を待つのは何時もの事。 2017/09/17/15:35:48 No.613  
ダリア=E  E-Mail 

機嫌良さそうに、ふわふわとした笑顔をにこにこと見せている傍らの女子。
おばあちゃんの暑そうな格好と、のったりとした動きと、おばあちゃんが持っているカゴいっぱいの食材を何気なく瑠璃色の少女と共に眺めていた。
瑠璃色の少女が時間の都合を聞いて来るのなら。

「うん~、大丈夫~ぅ♪」

と、瑠璃色の少女の真剣さと対照的なゆる~っとしていて、何処か楽し気な様子の返事が返ってきた。
それから、どうするつもりなのかな?、と、少女と老婆をにこにこと見比べている。


そうこうしている間に、夏場でのフル装備、すっぽりと重ね着よろしくという服装の老婆は、買い物かごを片手に、のったり、のったり、と、馬車行き交う石畳の道路に歩み出て。


そして……。



<カタタコトトトトオ、パカカカカカカカ>


比較的、速度を上げて大型の荷馬車が右手から走って来る。強面の蒼いバンダナを頭に巻いた強面の男が御者をしていて、荷台には朽ちた材木や、石材や、土砂などがぐちゃぐちゃに満載されている。
荷台の側面には白色の幻想的な鎧を纏った美しいフルフェイス・ヘルムの白き騎士が剣を手に、禍々しい黒龍に立ち向かう姿が油絵タッチに描かれていて、そこにはアルファベットの文字が目立つように赤色でデカデカと筆書きされていた。


SAN XENOGEARS   DRAGON SLAYERRRRR!
    (サン・ゼノギアス  ドラゴンスレイヤアアアアア!)

肉体労働で鍛え上げられたのか、筋肉粒々のたくましい身体である袖なしのボロシャツ姿の男。
彼は馬車を音を立てて走行させていたが、徐々に速度を落として、おばあちゃんから少し離れた辺りで停車する。
厳つい顔をしているのではあるが、特に苛立つ様子もなく、のったり、のったり、と、道路を渡るおばあちゃんを眺めている。
まるで何時もの当たり前の日常の一コマが、目の前で淡々と流れているかのような、平静な顔である。
この男の荷馬車の背後で停車している馬車の列のそれぞれの御者たちも、似たようなものだ。
明らかに現地人という風体の人々は、待つことがそれほど苦ではない様子だ。
始まりの一日 2017/09/29/13:06:25 No.614  
瑠璃色の空  
「では、失礼しますっ」

 赤髪の女性の承認を得た少女はたっとその場を駆けだした。ゆったりと歩いている老婆にはすぐにでも追い付くだろう。


「失礼しますマダム。何か私にお手伝いできることはないでしょうか? もちろん、何も無いとおっしゃるのでしたらそれで構いません」

 老婆の通行を待つかのように止まる馬車たちに軽い会釈を送り、老婆の速度に合わせた歩みは止めぬまま問いかける。
 その物腰は和服姿というより、中世の騎士然とした衣装の方が似合っているような、そんな所作ではあった。

 しかし、ここで荷物を持ってもらうとかそういう行為に出るのは治安の良い場所のゆるみでしかないだろう。おいそれと他人を信用してしまえばそのまま持ち逃げされるなど世界では普通にあること。そんな親切が通るのはよほど他人に対しておおっぴろげな国民性を持つ国だけではないだろうか。

 そんなことを少女が理解しているのかどうかはともかく、その顔に微笑を浮かべたまま、老婆の返答を待つのであった。
おばあちゃんお金ないから…。 2017/09/29/21:14:03 No.616  
ダリア=E  E-Mail 
瑠璃色の少女の登場に、目をぱちくりさせるおばあちゃん。
震える手で杖をつきながら、ゆっくり、ゆっくりと、大通りを縦断している。
おばあちゃんは、ふぅふぅ息をしてから、深く刻まれた皺に埋められた大きな瞳をぐるりと瑠璃色の少女に向けて、流れるような勢いでこう口にした。

「…ノンナ・リングアコモーネ・ノンポッサマーレ。」

「共通語、話せないよ。って言ってるわね。」

少女の傍らにダリアがやってきて、おもむろに通訳する。
それから、少女に軽く弾むようなウィンクをして見せると「コホン」喉を整え、朗らかに通訳を始めた。

「アー……。レイェ・チェッ・クウェォスァ・コッポッソオ・フェレパー・アゥッターレ。スト・ディチェンドゥ。」

そういうと、おばあさんは「アァ…。」と、得心の得た顔になり、にっこりと笑ってから、現地語で何やら少女に色々と話しかける。
傍らで聴いていたダリアはおばあちゃんをじーっと、目を丸く開いて注視して傾聴し、話に区切りがついたとみると、すかさず通訳を始める。

「親切にありがとぅ、手伝って貰いたいことは色々あるけど、おばあちゃん、お金ないの。って言ってるわ。」

ダリアが通訳するのを聞きながら、おばあちゃんは、にこにことしながら、ゆっくりゆっくり歩いている。
「ダッベーロ・ベァ。」等と穏やかな声音で呟きながら歩くおばあちゃん、その顔に刻まれた相は、厳めしくもあり、温かみのある老木のようでもある。
時々、ぜー、ぜー、と息をしながらも、忍耐強く買い物かごを震える手で持ちながら、杖を突いて一歩、また一歩、と歩き続けるのだった。

そんなやり取りの傍らを鞄をたすき掛けし、丸帽子を被った少年達が、「マリナの祈り、忘れないようにしないとね。」「えぇー、めんどくせぇよぉ…。」「ほら、聖ゼノギアスみたいに、カッコイイ騎士になれるかもしれないよ。」「あんな綺麗なのオレの柄じゃねぇよ。それくらいなら傭兵隊長フェリジーコ・クロチェスタみたいになって、イゼリア様みたいな嫁さん貰ってウッシッシしてえ。」

等と言いながら、瑠璃色の少女たちを横切り、陽気な作業着らしい紺色の装束の男たちが肩をたたき合いながら、楽し気に少女やおばあちゃんたちを追い越して行く。
おばあちゃんに便乗して、様々な人々が大通りを渡ってゆく…。

始まりの一日 2017/10/11/21:11:04 No.617  
瑠璃色の空  
 ダリアの通訳に視線で礼を表しながら、老婆の答えに瑠璃色髪の少女はゆっくりと首を振ると、にっこりと微笑んだ。それから、歩みを再開した老婆の隣に並ぶように足を速める。

「すみません、ダリアさん。お手数をおかけしますが、通訳をしてもらってもよろしいでしょうか?」

すぐ側を共に歩いているであろう赤髪の女性に断りを入れてから、老婆へと再度向き直る。その姿は自分の行動に対して何の心配もしていないように見える。自信に溢れている、のではなく赤髪の女性のことも老婆のことも、どちらにも信頼をおいている、という内面から来るものだ。

「マダム。確かに、労働には報酬が必要です。貴方の言い分は正しいと思います」

その態度は、会ったばかりの相手に置くには少し行き過ぎなくらいの信頼であるように思える。ヒトによってはそれを利用して詐欺にでもひっかけようとするかもしれない。

「ですが、私が提案しているのは労働ではありません。私は、私の心が貴方を手伝いたい、と思ったから手伝うのです。お金も何も要りません。それが信用できない、お断りだ、とおっしゃるのでしたら、そのように言って下さい。これ以上は何も言いませんし立ち去ります」

しかし、その声にこもる真摯な思いは、ヒトによっては信用に値すると思ってくれるかもしれない。

「ですがもし、今この時に手伝って欲しい事があって、私を少しでも信用して頂けるのでしたら、そうおっしゃってください。私の時間が許す限り、私は貴方を手伝います」

右手をゆっくりと己の左胸に添え、空色髪の少女は言葉を紡いだ。
レイエ・ディチェンド(彼女はこう言っている。) 2017/10/15/22:27:00 No.619  
ダリア=E  E-Mail 

ミィン、ミンミンミンミン、ミィィーーン

蝉の鳴き声、季節は、夏。
道行く人は、額に汗を浮かべている。
肉体労働をしている人々などは、服まで汗でびっしょりだ。



カタカタカタ、パカパカパカ。


馬車の車輪が回る音、蹄の音。
土砂やガラクタを満載した大型の荷馬車の鈍い走行音もあれば、貴人の軽そうで美装された馬車の軽快な音も。
それは、背後を通過していく。
おばあちゃんが切り開いた停車する馬車と馬車の間に出来た”道”を、瑠璃色の少女たちを含めた通行人たちが渡り切ると、ようやく馬車は動き出した。







大通りを無事に渡り切り、正面には聖母が壁に描かれ、銀の聖十字架が嵌め込まれた煉瓦造りの建物。
その建物の前で足を止めるおばあちゃん。
夏場の癖に、すっぽりワンピース、カーディガン、ショール、頭巾と、フル装備。なので、汗水が浮かび、とても暑そうだ。
杖を支えに立っている足もプルプル震えているが、頑固に買い物かごを離そうとせず、まるで鋼鉄の意志だけでその場に立っているかのようだった。







ニャアニャアニャア、ワンワンワン。
その建物は教会や福祉関係の施設なのだろうか?と、思わせる清められた雰囲気を醸し出していて、大理石のように磨き抜かれた光沢の、白亜の柱が建物の入り口のアーケードのようになっている部分を支えていて、そこでは、何やらほっこりとした表情を浮かべた人々が、無邪気にキャッキャする犬や、安心しきって無邪気に遊ぶ猫たちを眺めたり、戯れたり、触ったりして、楽しそうにしている。
子供もいれば、お年寄りもいれば、若い娘もいれば、恰幅の良い主婦のような人もいる。
男の人も女の人も、みんな、優しい表情を浮かべている。

その建物の前には、階段二つ分ほどの段差があり、実際に階段のようになっている。
おばあちゃんは、その階段の一段目に、どっこらしょ、とでも言うかのように「ボンプッツ」と貫禄たっぷりに言って、座り込んだ。

そして、瑠璃色の少女を見上げる。
皺だらけの顔、杖を突く足腰弱いおばあちゃんとは思えない、厳めしさと温かみが同居した顔つきは、優しくも力強い。

そして……。







瑠璃色の少女が通訳をお願いするなら、もちろん、と、赤髪の後ろ三つ編みの女は、笑顔で頷いた。
その笑顔は、なんだか、とても、嬉しそうで、まるで少女の願が、胸に暖かい灯でも灯したかのような、暖かい笑顔。

「任せて。」

そう言うダリアの声は、生き生きとしていて、溌剌としていて、とても輝いている。
少女からの信頼を感じ取っているかは定かではないものの、この赤髪の女は目をきらきらと輝かせて、少女の語る言葉を通訳して、おばあちゃんに伝えるのだった。

「アー…。レイェ・ディチェンド…。」

彼女はこう言っている。
老婆はそれに耳を傾ける。

「チェルタミンテ・レムラーズィオ・デル・レヴォロエ・ネセッサーリオ。」

確かに労働には報酬が必要です。
老婆はもっともだ、と頷いた。


「マ・イオ・サジェリスコーノ・ノォネー・レヴォォロ。」

私が提案しているのは、労働ではありません。
ふむ、と、考え深く頷く老婆。


「イオ・イル・ミオ・クウォーレ。」

私は私の心が。
ダリアは力強く語る。少女はこう言っている。
老婆は静かに聞いている。


「ミ・ホー・ピンサート・ユーターレ。ペレ・ユーターレ。」

私が手伝いたいと思ったから手伝うのです。
赤髪の女は、何か良いことを伝えるように、歌うように声を弾ませながら通訳を続ける。
お金も何も要りません。
それが信用できない、お断りと言うのなら…。

そこまで聞いて、おばあちゃんは、ダリアの言葉を留めるように、左手を、ゆっくりと、挙げる。
右手は杖を持っているので、手が離せない。それはさておき。

「ベーラ・ラガーズァ。」

そう言って、深みを湛えた微笑を浮かべるのだった。
ダリアはパッと目を見開いて顔を輝かせて、「ヴィディアーモ♪ヴィディアーモ♪」と、声を弾ませながら何度も頷いている。


「べーラ・ラガーズァ。」

おばあちゃんもおばちゃんで、またそう言っては、同じく何度も頷いている。
それから、まじまじと、瑠璃色の少女を見た。
まるで、高価で手の届かない宝石でも見ているかのように、眼(まなこ)をあけて、じいー、と、少女の顔を階段に座ったまま見上げている。
始まりの一日 2017/10/20/21:45:05 No.624  
瑠璃色の空  
 ひとまず、伝えたいことを伝え終わった空色髪の少女は、ダリアと老婆のやりとりを見守っていた。
 ダリアの説明と老婆の反応に逐一視線を移してはいたが、最後は二人して頷いている。どうやら結論が出たようだ。
 即座にどうなったのかを聞き返したいのだが、老婆が自分を見つめてくるので、視線を外すことはできない。真っ直ぐに見返しながら、声だけで尋ねることにする。


「ええと。どうなりましたか?」


 老婆と見つめ合いながら、もちろん目と目が合う瞬間好きだと気付いたわけではない。
おばあちゃんのして貰いたい事。 2017/10/21/15:10:16 No.625  
ダリア=E  E-Mail 

「えーとねー……。」

にこにこと赤髪の女が笑みを零しながら、瑠璃色の少女の肩に手を置いた。

「ラピスね、おばあちゃんに気にいられたみたいだよ。とってもいい娘さんだね、いい娘さんだねーって、ずぅーっと言ってるの。」

赤髪の女は「ふふふっ♪」と、すっかり機嫌良くなった様子で笑みを零し、何度も瑠璃色の少女の肩をポンポンと嬉しそうに軽く叩く。




「ハァ・デットゥオ・ラ・ノンナ・ルゥッチラ」

好々爺のような情感ある口元がにこりとして、まったりとおばあちゃんは言った。
買い物カゴは離さない。フル装備は相変わらずだ。

「おばあちゃん、ルッチラって言うのよ、だって。」

ダリアはすかさず翻訳する。

「ホー・アンチャ・スポースタット・ネッラ・カーサ・デル………。ペサーント、ペサーント・ペントーレ・カッサパンチェ…。シッ・ポッシビレ・プリッズァ・デシベラ。」

おばあちゃんは鋤でも振るうかのような調子で、通訳の事も忘れたように、どんどん喋り出す。
何か面倒な事、忌々しい事でもあるのか、暖かくも厳めしいその顔の額に皺を作って、「ハァァ」と溜息を吐いた。


「あー、動かしたいものがウチにあるんだけど、…ええと……重いのよ、壺とか箪笥とか……。部屋の間取りを変えたり、普段掃除しにくい所とか、掃除したいんだけどねえ…。」

おばあちゃんが縦横無尽に通訳の必要を忘れた様子で喋りまくり始めたので、ダリアはちょっと通訳し辛そうだ。顎に手を当てたり、こめかみに手を当てたり、額を寄せながら、異なる言葉同士の橋渡しというこの仕事を頑張っている。




「ミー。」

おばあちゃんは少女に呼びかける。
先ほどよりは砕けて、親し気な言い方で、少女を座ったまま見上げている。
背後では、猫が丸くなり、ごろにゃんして気持ちよさそうだ。

「ポッテッテ・エイターレ・ゴン・ミア・ノンナ?」

にこーっとするおばあちゃん。
幾重にも刻まれた皺は、幾層にも重ねられた暖かな感情の年輪みたいだった。
おばあちゃんは、少女に何かをまるで親し気に呼びかけるように尋ねている。

「あはっ。」

それを聞いてダリアは笑顔を弾ませて。

「おばあちゃんの事、手伝ってくれる?って聞いてるよ。」

まるで素敵な事がこれから起こるに違いない。
そう信じているかのように、赤髪の女性はそう通訳して、瑠璃色の少女に優しく笑いかけた。
始まりの一日 2017/10/24/19:59:17 No.629  
瑠璃色の空  
 徐々にテンションが上がってまくし立てる老婆と、少し通訳しづらそうにしながらもしっかりと通訳してくれる赤髪の女性に対し、申し訳なくも感謝しつつ、空色髪の少女は何度も頷いて事を理解した。


「ようするに模様替え、力仕事ですね。お任せ下さい。ちゃちゃっと終わらせて見せましょう!」


 腕をまくって意気込んでみせる。頭を使う仕事よりも肉体労働のほうが得意だ。


「それではマダム、案内いただけますでしょうか。よろしければそのお荷物もお持ちしましょう!」


 頼られることが嬉しいのか、老婆のテンションに引きずられてかはわからないが、少女自身もまたテンションが高いようであった。
頼もしい子だわね! 2017/10/28/19:54:24 No.630  
ダリア=E  E-Mail 

ワンワンワンワン!

ルチッラおばあちゃんの座っている背後の方では、大理石の上で犬同士がじゃれあって、ぐるぐるぐるぐる二匹で独楽のように廻りながら、おばあちゃんの背後を右から左に、ぐるぐるぐるぐるスライドするように移動して行く。
その背後で「マァァ」とか「可愛い~~。」とか「元気になったねえ。」「よかったねぇぇぇ~。」だとか、子供達や、少女や、人の良さそうな老夫婦が、にこにこと歓声を上げたり、祝福したりして、暖かく回る犬を見ている。

ワンワンワンワン!

二匹の犬は幸せそうだ。
まるで、世界に悲しみ等ないかのように、無邪気に廻り続ける。
綺麗な大理石の上で、優しさに包まれて―――。






―――そして。

瑠璃色の少女の言葉を通訳するダリアの言葉を聞いた、ルチッラおばあちゃん。

「ベェネ!エウナ・ラガーズィア・アフィダビィレ!」

嬉々とした甲高い声、しかし、貫禄もたっぷりな濁りと深みのある声で現地語をまくし立てる。
まるで、腕まくりまでして、やる気満々である瑠璃色の少女を「いいわねいいわね!」とでも、賞賛するかのようでもある。または「いいぞいいぞ!」とでも言うような。

「ん!えー、頼もしい娘っ子だわねぇ。」

ほとんど、反射的に通訳しているダリア。
一瞬、ん!と額を寄せているのは、何か相応しいものを選択しているような雰囲気だ。


「インクル・カッソ!ウン・サントゥアーリオ・ミチェード・セ・ヴァドッ!」

「じゃあ、それなら、聖所~…じゃなくて、祠で、お参りして行こうかしらねえ。」

意気揚々と言う老女ルチッラ、ほけーっとした顔で、気取りなく通訳を続けるダリア。
ルチッラおばあちゃんは買い物籠を手に取ると、脚をブルブル震えさせながら、揺るぎない厳めしい顔で大理石の段差から立ち上がると、杖を突いて一歩、また一歩、と、ゆっくり、ゆっくり、けれども、確実な歩調で歩き出す。

それから。

「クウェッ。」と言って、おばあちゃんは、食材で一杯の買い物かごを瑠璃色の少女に差し出した。
少女がそれを受け取るなら、満足気に厳めしくも暖かい皺の顔をにこぉーっとさせると、ブルブル脚を震わせながら、先頭切って歩き出す事だろう。
始まりの一日 2017/11/03/22:30:36 No.634  
瑠璃色の空  
 老婆の話が続いているが、少し通訳が大変そうなダリアに、空色髪の少女は視線を向け、軽く頭を下げた。
 態度で礼を告げると、勢いを増した老婆から手渡される買い物籠を受け取る。少女は重さなど感じていない仕草で老婆の後に続く。


「お参りですか。お供致します、マダム。」


 そうして、寄り道の時間はどんどん増えていきそうだ。胸中に時間に関する不安が芽生えつつあるが、言い出したことを途中で投げ出すこともなく、彼女は最後まで老婆に付き合うだろう。
都の森の入り口 2017/11/04/23:18:15 No.635  
ダリア=E  E-Mail 

「気にしないで。大変だけど、ワリと楽しんでやってるから。」

微笑みながら小さく瑠璃色の少女に手を振るダリア。
とは言え、おっとりとした雰囲気は消えていないものの、頭脳をフル回転させた後らしく、目が爛々と輝いていて、軽く気分が高揚しているように、血の気が通ったような溌剌とした表情を見せている。

「お参りって、たぶん、道端とかにちょこちょこ見かける、聖母子像の前で、ちょっとお祈りするくらいで、教会とか聖堂に参拝に行くわけじゃないと思うから、たぶん、そう時間は取らないと思うわ。…たぶん、だけどね。」


ルチッラおばあちゃんは、ブルブルブルブルと脚と杖を持つ手を震わせながら、一歩、一歩、と着実に進んで行く。
また一人、また一人と、通行人がおばあちゃんを追い越して行く。
おばあちゃんの歩く速度はとても遅い。まるで亀のように……。

「……。うん。移動して、掃除して、お暇するまで、私の計算だと一刻と半は確実に過ぎ去るわね。」

笑顔のままに、ダリアはおばあちゃんを見守りながら、呟くように言った。「日が落ちないにせよ、辺りは綺麗な茜色に染まってる頃ね。」穏やかで、明るくて、朗らかで、ハキハキとした調子で言うダリアは溌剌という雰囲気が相応しい様子で、瑠璃色の少女とおばあちゃんに付き添うようにゆっくり歩いている。


ルチッラおばあちゃんは、犬や猫たちと和気あいあいする大理石のアーケードの建物の前の右手を真っすぐに進んでゆく。
右に馬車が行き交う大通り、左手には森を背後にした大理石の建物があり、進んだ先に見えるのは、森に向かって入ってゆく赤い石と白い石で綺麗に舗装された遊歩道が伸びていて、その向こうには宮殿のような建物と、その前にある広場へと続いて行く小路が伸びていて、さらに前方には交差点のように森の方面へと続く通りと、大聖堂の方へと続く通りと、都市の内奥へと続いて行くような真っすぐな通りと、瑠璃色の少女達の居る通りとを結ぶ、十字路がそこにあり、時々、そこに通行人が足を止めては、行き交う馬車達が停車するのを待ち、ちらほらと渡ってゆくのが見える。


おばあちゃんは、森へ続く遊歩道の方へと左折して行く。

「あ、帰り道と同じ方向。じゃあ、遊歩道の通りの何処かの家に住んでるのね。…良い所に住んでるのねー。」

陽がゆっくりと天頂から、下りて行こうとする時間帯。
夏の陽気は多少は和み、ダリアも先ほどのように薄っすら汗ばんでいたが、今は涼し気で軽やかな様子を見せている。
遊歩道の前まで来ると、少し下り坂気味に奥へ、奥へと、雑木林の森の中に伸びる綺麗に白と赤い石を敷き詰めて舗装した道が奥へ奥へと続いている。
右手には3階建ての簡素な石造りの建物が並んでいて、欄干(ベランダとも)が、各階に並び、そこで陶器のコップを片手に涼んでいるお爺さんや、誰もいない欄干の奥から子供たちがきゃあきゃあはしゃいでいる声が聞こえてくる。ドタドタドタ…追いかけっこでもしているのだろうか。

瑠璃色の少女が、時狭間世界の原生林と、今、目の前にある雑木林を比較するなら、文明化された自然と言うものを感じ取る事になるかもしれない。
まるで銀細工のような繊細精工そうな幹と枝を見せている木や、真っすぐに直立する白樫のような木たちは、穏やかでふわりとした優しい質感を見せていて、それは、周辺に所せましと木々や下生えが密集して息の詰まるような環境ではないためなのか、伸び伸びとした、長閑で素朴で、昼下がりの平和な街中に相応しい穏やかで、洗練されていて、それでいて自然の息吹…清々しい、生命力に満ちた雰囲気を損なわれずに、醸し出している。

瑠璃色の少女が遊歩道に足を踏み入れるなら、森の空気の清浄さが身体を満たして行く感覚を味わいながらも、子供たちのはしゃぐ声や、大通りから聞こえてくる馬車の走る音や、喧騒…街の賑やかさ…が同居する、不思議な雰囲気の中に入ってゆく事になる。
始まりの一日 2017/11/11/21:54:15 No.640  
瑠璃色の空  
 ダリアの言葉にひとまずは安心を得た空色髪の少女は、整備された人工林の整然とした様にある種の違和感を感じつつも、それ自体は悪いものではないと、大きく息を吸った。

「帰り道が同じというのは助かりますね。時間の短縮にもなります。」

 周囲から伝わってくる喧噪もまた、清涼とした自然の中のものとは違う、人々の営みを感じられる活気のあるものだ。そういうのもまた新鮮でテンションの上がるものである。
 マダム・ルチッラの荷物を苦も無く持ちながら、とはいえ早足になることもなくマダムの歩調に合わせている状況は割とのんびりとした先行きなのだろう。

周囲の情景を楽しむ余裕もあり、また先を行くマダム・ルチッラの様子も気にしながらではあるが、少女は楽しそうに笑っている。
おばあちゃんのカゴと遊歩道の景観 2017/11/12/21:21:38 No.641  
ダリア=E  E-Mail 
ルチッラおばあちゃんの買い物カゴ。
それは、たくさんの夏野菜で一杯だ。
ヒョウタンのような形の緑色のもの、もじゃもじゃした棒のような形のキャベツ、ずんぐりむっくりなナス。黄色と赤と、鮮やかな色合いのパプリカ、それにオレンジがいくつか入っていて、柑橘系のツンとした香りが、野菜たちの香りにアクセントをつけている。
実りの豊かさが、籠の中に一杯に溢れていて、まるで大地が季節を歌っているかのようだ。




「うふふふ。そうね。…明日の仕事が、お見送りだけで良かったわ。今日は色々とラッキーね。」

瑠璃色の少女に応えて微笑むダリアは「それにしても…。」と、少しだけ考える素振りを見せて宙を見つめた後、少女の顔を横から微笑みながら覗き込み。

「お年寄りを気遣うなんて偉いのね。中々、出来そうで出来ない事だと思うわ。」

にこにこと、感心感心♪と言うように、うんうんと、何度も頷いている。

前を行くルチッラおばあちゃんは、少しでも早く進もうと、震える脚と杖を勢い良く前に出し、歩幅をやや、大きくしながら…このお年寄りにしては…だが、前に進んでいる。
疲れているようではあるものの、意気揚々とした熱気のような雰囲気を発散していて、か弱いお年寄りではあるはずだが、近くを歩いていると、何か妙に身体が元気になるような温度なき熱い何かを感じる事になりそうだ。


子供達がきゃあきゃあとドタドタと走り回る声を聴きながら、ゆっくり、ゆっくりと歩いていく。
広い広い、森のような雑木林の中を伸びる道を行く3人。
右手には民家らしい、煉瓦や木造の3階建ての建物が続いている。
そのうち、左手には果樹園らしい、立派な果樹が等間隔で並んでいるのを木の柵ごしに眺められる場所に差し掛かる。

柔らかな風が吹き抜けて、さやさやと枝葉の音が耳を優しく打つ…。

賑やかな声は何処か遠く彼方。
薄っすらと聞こえて、気に留めなければ、ほとんど聞こえていないようなもの。
始まりの一日 2017/11/19/20:25:39 No.643  
瑠璃色の空  
「お手数をおかけします。それと、別に偉いとかそういうのではありません。ただ私がやりたいからやるというだけで、ある意味では自己満足ですので。」

 マダム・ルチッラの後を歩きながらのダリアとの会話。空色髪の少女は少し照れを覗かせながらも、当然という表情でそう答えた。
 彼女のこういった選択が偽善と呼ばれたり、結果として状況が悪化したり、などということも起こりえるだろう。さりとて、だからといって自分の心に嘘をつくことはできないのだと、彼女は語る。

「偽善と呼ばれるのならそれはそれで構いません。状況が悪化するのであれば好転するまで責任も持ちます。」

 批判も罵倒も甘んじて受け入れ、それでも自分の道を進むのだというそんな決意が垣間見える表情で。
 それはどこまでも真っ直ぐだが、真っ直ぐすぎてどこか危ういモノもある、そんな感想を抱かせるものであった。
太陽のような笑顔(そして、おばあちゃんが神がかる) 2017/11/23/19:15:43 No.645  
ダリア=E  E-Mail 
自己満足だ。
そんな少女の言葉に、女はにっこりとした。

「だとしても、夢があって、私は好きだなー…♪」

前を歩くおばあちゃんをちらりと伺ったので、照れている少女の様子は惜しい事に見逃してしまったようだ。
けれども、その変わり、この赤髪の女の無防備な横顔を見るならば、心から少女の在り方に憧れを抱き、賛美している気配が表情から見て取れるかもしれない。
そして、それと同時に、瑠璃色の少女がこのような一面を見せる事に驚くと共に、何処か懐かしんでいるかのような、
感慨深い眼差し、物柔らかで、優しげで、それでいて、過去を愛おしむような…、
暖かな感情に溢れた優しい眼差しを浮かべていた。


少女が、偽善と呼ばれることも厭わないと、状況が悪化するなら、好転するまで責任を持つと、
決意に満ちた言葉を述べると、そこで、ダリアはピタッと立ち止まり、少女を一歩だけ前に行かせてから、「こぉら☆」と言って、少女の後ろ頭を軽く背後から小突いてやる。
一瞬、立ち止まっての、ボクシングのフックを彷彿させるような、バネ仕掛けのような見事なモーション。
専業ではないとは言え、戦士の技能(スキル)を持っていることが伺われる動きだ。
少女が無抵抗なら、<<ポカッ☆>>と、子気味良い音を立ててクリーンヒットする。

…もちろん、痛くはない。
(そして、もちろん、防いでもいい。)

「よくわからないけどね。”偽善”だなんて、私は、これーーーーーーーっぽっちも、思ってないんだからねっ!」

溢れんばかりの笑顔を瑠璃色の少女に向ける。
眩しいくらいのそれは、まるで天頂で輝くお日様のようだ。
そして、まぁ、なんというか、押しつけがましいことかもしれないけれど、
言い方を変えるのなら、
この赤髪のお姉さん、
つまる所は、
太陽のように圧倒的で絶対的な、とっても、押しが強い笑顔を少女に向けている。
笑顔の中の押しは、…眩いばかりに、強かった…。


にっこぉぉぉぉぉ~~~~~っ♪♪♪


================================

そして、
ルチッラおばあちゃんは。

「ディオ・ダイル・ポテーレ、ディオ・ダイル・ポテーレ、ディオ・ダイル・ポテーレ。」

念仏を唱えている。
お年寄り特有の独特な旋律が渋い。

ディオ・ダイル・ポテーレ

後程、それは、こういう意味だとダリアに説明して貰えるかもしれない。


――<<神よ御力をあたえたまえ>>――。


少女と女が会話をしている間に、念仏の効果が出ているらしい。
説明が難しい何かが働いているのだろう。
おばあちゃんの歩く速度が、老婆のソレから、学院の児童並みの速さになりつつある。

無論、それに気づかず、今までのペースで歩くなら、ぐんぐんと、距離を離していく。

おばあちゃんは、とっても、はりきっていた…!

ディオ・ダイル・ポテーレ!
<<神よ、御力をあたえたまえ!>>
始まりの一日 2017/11/26/19:39:43 No.647  
瑠璃色の空  
 痛くはないものの、小突かれた頭をさすりながら講義の視線を浮かべた少女は、しかしその次にくる思いっきり溜めた赤髪の女性の一言に、一瞬虚を突かれた。
 そうして言葉の意味が理解に染み渡ると、少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめつつも、満面の笑顔を浮かべるのだった。

「そこまで全面肯定されるのは、さすがに少し恥ずかしいですが。はい。ありがとうございます」

 何故そこまできっぱりと言い切れるのか、その在り方を眩しく感じ、純粋に尊敬に値する人物だと今日一日の短いやりとりでも感じていたことだが、再確認させられた。


 と、少し意識が散漫になっていたのだろう。気付けば老婆の歩みが明らかに早くなっている。距離が開いてしまっているではないか。

「大変です、ダリアさん。マダムの歩くスピードが上がっています。このままでは置いて行かれてしまいますよ」

 おおっと、という感じで隣に注意を促し、空色髪の少女は小走りで前方の老婆へと追い付くのであった。
聖母子像の祠 2017/12/03/23:08:41 No.651  
ダリア=E  E-Mail 
「うふふ♪今度は、いーぃ顔、だね♪」

そう言って照れてる瑠璃色の少女の肩をポンと軽やかに叩いて、にこぉーっっ♪
そして、少女に言われて、前を見て見れば、杖を突きながらも、子供が普通に歩く程度には早くなってるおばあちゃんの姿。

「おおおおーーーーっ、ホントだ、おばあちゃん、いつの間に早くなってるね!」

驚いてるような、感嘆してるような声をあげて、目を丸くしておばあちゃんを見てから。
「よし、追いつこっか。」と、ラピスに声をかけつつも、小走りになった少女の後ろから早歩きして遅れておばあちゃんに追い付くだろう。



ディオダイルポテーレ。
コホーコホー。と言わんばかりに、おばあちゃんの呼吸は深い。
まるで、気の達人の呼吸法である。
ルチッラおばあちゃんの移動速度はこれ以上あがるという事はないが、その速度が落ちる事もない。
そうだ、この速度を維持し続ければ勝てる、と言わんばかりに、歩く速度を保っている。
しかし、季節は初夏。
”神の力”があるとは言え、限界を超えた歩行で、おばあちゃんは汗をたくさんかく。
それでも、おばあちゃんは、何処か嬉々としている。
早く歩けるのが嬉しいのか、それとも、若い子たちと一緒に居られるのが嬉しいのか…。



温かみのある綺麗な木々が並ぶ雑木林の間に敷かれた遊歩道。
その中をおばあちゃんは念仏を唱えながら早足する。
時々、人とすれ違う。
子供達も入れば、親子連れもいる。
これから家に帰るのだろうか?
遊歩道のずっとずっと向こう側には森の中の広場のようなものが見える。
だんだんと、大通りの馬車の音は消えて行く。
民家の中の子供達の声も消えて行くけれど、その代わりに今度は、遊歩道でケンケンパッのような遊びをしてる少年たちの楽し気なはしゃぎ声が聞こえてくる。
遊歩道の道の途上の石のベンチに座っておしゃべりする作業ズボンと半袖の襤褸のシャツの男たちの話し声も聞こえる。
(ダリアが男たちを見て、パンケジェーレ、パンケジェーレとか言っている。)
場所がそうさせるのか、大通りやドゥオーモの辺りの人々のように瑠璃色の少女を珍しがって絡んでくる人々は今の所はいない。

そんな風景の中を歩いている間に、そのうち、唐突に足を止めるおばあちゃん。
見れば、遊歩道の分かれ道。
とは言っても、真っすぐに道は続いていて、戻る道が二つになるような形のY字路ならぬ、人字路と言うべきだろうか?
その二つの道が丁度、合流しようとしている所の中心にポツンとソレがあった。



祠。
聖母子像が安置されている祠。
それは、倭国で言う所の地蔵に相当するような雰囲気だろう。
だが、地蔵のソレと異なる点も多い。
祠は白い石造りで、アーチ型になっている。
それから、そのアーチの中に安置されている聖母子は綺麗に彩色されている。
少女の色、瑠璃に似た青い色の布を纏った聖母。
彼女は、赤子の救世主を慈悲深い顔で膝の上で抱いている。
無垢さと清らかさに満ちた母と子の像は、地蔵と比べて柔らかさと優しさに満ちていた。
見る者を色においても、カタチにおいても、そして、雰囲気においても安心させ、安らかにさせる。
簡潔な装飾は、大聖堂のような荘厳さは無いものの、人の孤独を癒し、苦しみを忘れさせてくれるような、安心感のある雰囲気を作り出すのに役立っている。





「アランチャー。」

おばあちゃんは、手を差し出した。
息はすっかり、コホー、コホー、だ。
そして、汗をたくさんかいている。

「オレンジちょうだいって。お供え物がしたいのね、きっと。」

ダリアはおばあちゃんの意図を少女に伝える。
おばあちゃんは、買い物籠の中のオレンジが欲しいようだ。

二人の姿も、そして、祠の中の聖母子も、だんだんと淡い赤を帯び始めた柔らかな日差しを受けている。
天頂の強い日差しが、だんだんと弱くなり、鈴虫が賑やかに鳴いている。
柔らかな夏風は、火照った身体には涼しい。
始まりの一日 2017/12/20/22:10:03 No.653  
瑠璃色の空  
「オレンジですね。わかりました」

 老婆に追い付き、その歩行速度と発汗具合、息づかいの荒さに少し心配になりつつも、それでも元気そうに進むに併せて後ろを歩けば辿り着いた祠。いかにも神聖さが醸し出されているその場で要求されたモノに、空色髪の少女は持っていた荷物からオレンジを探し、それを老婆に手渡した。

「女神像……いえ、聖母像でしょうか。この地の住人ではない私がうかつなことは言えませんが」

そうしてオレンジを供え物にするのか、はたまた別の用途があるのか。老婆の挙動に注意しながらも、その聖母子像を観察する。
像の彩色は綺麗なままで、その他年月により朽ちた印象はあまり見受けられない。白い石造りのアーチなどを含め、手入れが行き届いているのだろう。それはつまり、この像がこの街の人々に大切にされている証なのだろう。荘厳さに欠けると言うことは即ちより身近な存在として感じられると言うことなのだから。

斜陽にさしかかった太陽に朱に染められながら、また涼しげな夏風に身をさらし、籠もった熱を逃がしながら、少女はその時間がとても穏やかで尊いものであるように感じていた。
これはどこにでもある日常の風景であり、実にありふれた取るに足らない営みなのだろう。平和とはそういったものの積み重ねであり、それが続くことこそが大事なのだと思える。
しかし、それが続けば刺激を求めて変化が生まれ、変化が大きくなれば争いに発展する。

戦争と平和。ある意味で世界はバランスが取れているのかもしれないが、それで納得はできない。こうして平和を享受する裏では争いや困窮で喘ぐモノたちがいる。それは人間だけではなく全ての生き物に言えることだ。
全ては救えない。だが真に正義を語るならば全てを救えるように在らなければならない。

一生を賭しても解答の出ない至上命題。

おそらく、少女はそこまで深く考えてはなかったろう。しかし、思考の隙間に入り込んだ一瞬の苦悩は、微妙な眉間の皺になって現れていたのかもしれない。

それは生前の彼女の苦悩であったもの。そして今の彼女の中に芽生えつつある苦悩であるもの。
例え生前の記憶がなかろうと、例え生まれ変わろうと、器と形、そして注がれたモノが同じならば同じような道筋を辿るのはあり得ないことではない。
ただ、その解答が同じモノに至るのかどうか、その答えは時間の流れの先にしか存在しないものだ。
聖母崇拝、慈雨の面差し 2017/12/24/21:14:52 No.654  
ダリア=E  E-Mail 
「グラーツィーオ。デヴォルッフィーリヤ、マドーンナ、ミリーヤーム、イッジャノー。」
「ありがとー。………。聖母様とイッサ様にお供え物しなきゃねー。」

ルチッラおばちゃんは、にこにこと瑠璃色の少女の差し出したオレンジを受け取る。
笑顔で何やらつむじ風のようなイントネーションで優しそうに言ったのを、ダリアはすかさず通訳する。
ここでも訳語の選択に迷ったらしく、ちょっと間が空くのは、悩んでる顔をしてる時だ。

思案顔で顎に手を当ててるダリア。
すると、丁度良いタイミングで瑠璃色の少女は疑問を口にする。
パッと明るくなる赤髪の女の顔。

「そうそうそう…。聖母様…と、その赤ちゃん…。お母さんがミリアム様で、赤ちゃんがイッサ様。…と言っても、こっちの国だと発音が違うみたいだけど、一応、これでも通じるからね。」

探り探り、どう話そうかと考えるような、ゆったり、ゆったりとした言い方でダリアは説明する。

「ラピスの来たところにはこういう宗教は無いかもしれないけど。イスリル教って言う教えが、こっちの世界では世界中で信じられているの。もっとも、私の故郷はけっこう自由だから、信じてない人もわりと居たんだけどね。」

だんだんと穏やかな顔になって、聖母ではないが、優しく姉妹に教えて聞かせるような柔らかな調子で話をするダリア。
でも、故郷の話の所で、少しだけ苦笑いを浮かべた。明るい表情ではあるものの、罰が悪そうに頬を掻いたりする。

「人が原罪と言って、最初に生まれた人間が神様に対して罪を犯した。だから人は最初から悪い事をするように生まれてきてしまうけれど、神様の独り子で、神様そのもののようなイッサ様が地上に生まれてこられた。そして、イッサ様に祈り、心からの信じれば、その罪から救われて、死んだ後も天国で蘇る……って感じかな?すごく大雑把な説明だけれど。」

うん、間違いないかな、と、自分の発言を確かめるように、軽く宙を見て頷くダリア。
その間にも、ルッチラおばちゃんは、祠のアーチの下、聖母子像の前にあるお供え物用の台座にオレンジを恭しく捧げている。
そして、念仏…ではないようだ、少し歌のような感じもする、何かお経のようなものを唱えている。



「アヴィン・ミリーヤム・グラッツィア・ペルウェーヌァ。ドノムス・テーコー。ベニディクダー・ウン・ムービーブスッ。エト・ベーニディクス・ツイ・イッススノ。サンクッタ・ミールャム。サンクッタ・ミールゥゥヤム、オラ、オラ、オラ、プロ、ノービタ。ノービサ・ペコトリッブス・ノック・エット・イン・ホラ・モルディース・ノストーレ。」


何か高貴そうな洗練された言語が、ぐるぐるとかき混ぜられているような、うねるような荒々しいイントネーションでルチッラおばあちゃんは何かを唱えている。
とは言っても、乱暴なというわけでもなく、年季の入ったおばあちゃんの詠唱は独特な荘厳さを帯びてもいる。
おばあちゃんは最後に「アーミーン」と言ってから、再びまた唱えだす。

ダリアは、それを聞いてて「あ、これは丁度いい。」と、にこりとして、頷いた。

「違うって派閥もいるみたいだけど、救世主であるイッサ様のお母さんのミリアム様は、生きてる全ての人のために今も祈り続けるらしいの。…で、今、やってる天使祝詞とかって言われるものだとかを唱えていると、聖母様が災いから守ってくれたり、慰めを与えてくれたり、死んだ後も天国に生まれ変われるようにしてくれるって…そういう教えね。」

優しい笑顔で、ゆったり、ゆったりと説明を続けるダリア。
瑠璃色の少女の傍らで、そんな穏やかな様子を見せている赤髪の女は、ふと、瑠璃色の少女の眉間が寄っている事にそのうちに気付くのかもしれない。
それに気づくと、憂いを帯びた様に表情が翳る。少女の眉間が寄るのに対して、女の方は眉が薄っすらとではあるが、力なく下がってゆく。
そして、少しの間、その苦しみを抱いたような表情を、そんな表情のまま見つめてしまう。
赤髪の女の顔、それに瞳は、とても表情が豊かで、少女の浮かべる表情にとても豊かな反応を返してくる。
それは、まるで包み込むような柔らかな雰囲気の表情だった。
憂いを帯びた瞳は、少女の感じた胸の痛みを、自分も感じたかのような。
寄り添おうとするかのようでもあり、静かに透明な何かをまなざしを通して少女の心に注いでいるかのようでもある。
心配していると言えばそうとも言えるが、心を配っていると言う方が近いかもしれない。


ずっと昔、今の少女の前の少女にも、同じような顔が出来たのなら、もしかしたら、今、少女が何を考えているのか、わかったかもしれない。
少女の心を開き、秘めた想いを打ち明けて貰えたのかもしれない。
そう、だから、今、この女は、少女の考えていることは何もわからない。

けれど、成長し、大きくなり、大人になった赤髪の少女だった女は。
今は、ただ、少女を瑞々しい瞳で見つめている。
それは、透明で豊かな何かを、たっぷりと湛えているかのような潤いに溢れたもの。
慈雨のように胸に染み込んで来るような、深みのある眼差しを浮かべている。



「サークトゥ・ミリーヤーム。オーラ・プールゥオ・ヌォービター。」

その間にも、おばあちゃんは、祝詞を唱えている。
とても、とても、熱心だ。
お供え物も、オレンジが一個、ちゃんと心を込めて捧げて、今、目の前の台座の鎮座している。
おばあちゃんは、今、まさにすごく良いことをしているのだと心から信じているかのような、晴れやかな顔をしている。
ホントにスゴイことをしているんだ。
とても、とても、いいことをしているんだ。
すごく、すごく、ありがたい事が起きるんだ。

あえて言葉にするなら、そういう熱心さを持って祝詞を唱え続けている。
真実。ご利益があるかはさておいても、おばあちゃん。
祈るたびに元気になってゆく。
声の調子もそうだが、身体に力が漲っているかのように、しっかりとしてくる。
震えも止まっている。
相変わらず、杖で身体は支えているが、その支える腕もすごい安定力を帯びて行く。
なんだか、とても、いい感じだ。
おばあちゃんは、パラダイスを実現してしまっているのかもしれない。

「ノック・エット・ホラ・モルディス・ノストーレ」

そう、ほら、こんなに調子がいいのよ。
死ぬことなんて、怖くないのよ。
ミーリヤム様が天国に連れてってくれるからね。
そんな心の声が聞こえてきそうなくらいの軽やかで声。
とても、とても、清々しいね。

「アーミーン(心から然り)。」


始まりの一日 2018/02/04/20:04:06 No.657  
瑠璃色の空  
赤髪の女性の説明と、マダムの祝詞を聞きながら、空色髪の少女は自身の思考の空隙に興った至上命題を意識することなく、表情を和らげて言葉を紡ぐ。

「なんと言いますか、神話のような壮大さですね。宗教の成り立ちというのはそういうものなのかもしれませんが」

あまり想像ができないというか、実感がないので入ってきた情報をどう処理するべきかと悩んでいるというか、そんな感じだ。
ただ、 と一言付け加えながら、少女は前を行く老婆へと視線を向ける。

「どういったものであれ、それを一心に信じ、歩き続けるというのは凄いことですよね。ある意味で頑固者と言われるかもしれませんが、信じることで得る力は確かにあるのでしょうから」

まるで若返っているかのように歩みを強くにする老婆は良い例であろう。それはヒトが持つ確かな力の源だ。
もちろん、それが全て正しき行いに使われるわけではないのだが、逆に言えば全てが悪しきことでもない。
それはそれで一つの救いなのかもしれない。

「なるほど……。アーミーンッ!」

なんて明確に思ったわけでもないが、何かがストンとはまったような気がした少女はその気分の高揚のままにあまり普段は出さないような唐突さで老婆に続いて声を上げるのであった。
天使祝詞 2018/02/11/12:29:44 No.658  
ダリア=E  E-Mail 
「そうだね。すごいお話しなのかもね。」

表情を和らげる少女に、この女もまた、心持ち曇った表情を晴れやかにして微笑んだ。
それから、少女は少し悩むような様子を見せたので、また女は静かな面持ちで見守った。
少女の表情が、それから何を想い、何を考えているのか、とても気になるようだ。
ただ、と、少女は口にして、ルチッラおばあちゃんに目を向ける。

そして、どういうものでも、一心に信じ、歩き続けるのは凄い事だ、と、頑固者と言われるかもしれないが、信じる事で得る力は確かにあるのでしょうから、等と言う少女に、女はにっこりとした。

「そうね。何かを信じられるって、すごい事だよね。」

少しだけ吐息して、柔らかに目を細めて上を少し見上げる。
雑木林の木々の合間に空が見える。
青い空、その向こう側には天国があるのだろうか。
今も、聖なる母が人々のために祈っているのだろうか。

それは、誰にもわからない。
しかし、ルッチラおばあちゃん。
心から天使祝詞を唱えるおばあちゃん。
発音の正確さは気にならないおばあちゃん。
というか、よくわかってないおばあちゃん。
ただ、唱えれば、唱える程、気分が良くなるおばあちゃん。

そろそろ、締めるべきだろう。
親切な少女たちも待たせている。
そろそろ、フィニッシュを決めるべきだ。
さあ、フィナーレだ。


「オラ、オーラ、オォラ、オオーーラ、オゥラ、オゥーラ、オラオラ。」

祈り給え、祈り給え、聖母よ!

「ノービタ、ノービタ、ノォォォビタ、ノビタ、ノォオオオビタ。」

愚かな私たちのために、馬鹿をしでかす私たちのために、あいつらのために、私のために。

「ペコトゥリッピス・ノック・エット・イン・ホゥラ・モルディス・ノストォレ。」

今、この瞬間も、ご臨終になる時も、祈り給え!


「「アーミーン。」」


少女と老婆の声が重なった。
以上の言の葉、全き然りなり、と。
おばあちゃんは、とてもとても、さっぱりとした顔になった。
心配はもう何もない。
悩みも今はない。
迷いも今はない。
素晴らしい。
すべてが安心だ。
気分は若い頃のようだ。


「バッ・セナ・アンディアモ?」

満足した顔で、おばあちゃんは振り返って少女に晴れやかな笑顔を向けた。
一緒に最後にアーミーンを唱和してくれたからだろうか。

「さあ、行こうか?って言ってる。」

すっかり慣れた様子で、笑みを讃えながら、おばあちゃんの言葉を訳するダリア。


祠のあるY字路の中心。
その周りを、小さな子供たちが楽しそうに「キャァァァアァ~~♪」とはしゃぎながら大通りの方へとかけて行く。
それから、小さくはないが、もう少し大きいカバンをたすき掛けにした少年たちが、お互いに何かからかったり、冷やかしたりしながら祠の前を通り過ぎて行く。
買い物カゴを持ったご婦人たち。
作業着姿の仕事を終えた男たち。
皆、祠の周囲を通り過ぎる。
鳩の群れがパタパタと祠の上を通り過ぎて、雑木林の間から空の彼方へ姿を消した。

動き続ける時の中。
聖母子像は、優しい顔で赤子を抱いている。
過ちを犯す宿命の人の子のために祈る優しい母。
その姿に何を想うのかは人による。

少女達が去った後に、足を止めて、無心に祈る者。
お供え物をして、手を合わせるだけの者。
ルッチラおばあちゃんのように情熱的に天使祝詞を唱える者。
中には、まるでそこに聖母が座っているかのように、酒を飲みながら親し気に話しかける者もいる。

祠の中の聖母は、変わらぬ優しい表情で、それら全てをずっと見つめていた。
赤子を腕に抱きながら。

風がそよいで、雑木林の枝葉を揺らす。



サァァァァー……。

     サァァァー……。



静寂。
そうして、祠の周りから人気が無くなり。
ただ、木々が揺れる音と、遠くの方で子供たちがはしゃぐ声だけが聞こえている。
聖母の像は祠の中でずっとそこにある。
赤子を優しく抱きながら。








【天使祝詞】
アヴィン・ミリーヤム・グラッツィア・ペルウェーヌ
(ごきげんよう、ミリアム。聖なる恩寵に満てる者。)
ドノムス・テーコム
(主はあなたと共におられます。)
ベネディクタ・ウン・ムービーブス
(あなたは、祝福されし女。)
エト・ベネディクス・ツイ・イッススノ
(ご胎内の御子イッサ様も祝福されたもう。)
サンクタ・ミーリヤム・マーデラ・デイ
(聖ミリアム、神の母。)
オラ・プロ・ノービタ・ペコトリブス
(祈り給え。過ちを犯し続ける我らのために。)
ノック・エト・イン・ホラ・モルディス・ノストーレ
(今も、そして、死の時も。祈り給え。)
アーミーン。
(以上の言の葉、全き然りなり。)












それは、信じる者にも、あまり信じない者にも。
世界中で今も唱えられ続けていた。



始まりの一日 2018/03/01/13:45:50 No.663  
瑠璃色の空  
振り返り、爽やかな笑みをみせる老婆に、空色髪の少女は一拍だけ思考の間を置いてから、何故かぐっと親指を立てた右手を突き出した。

「『ナイスなスマイル』です。マダム!」

どことなく、誰かの口調と行動を真似たような印象を受けるが、それが誰かはわからない。

「さあ。それでは参りましょう。期待通り……いえ、期待以上の仕事をしてみせますとも!」

その言動からも解るとおり、なんとなくテンションが上がっている気がする。何か一つ納得できることがあったからか、それとも老婆の元気さにひっぱられたのか、それはわからない。
ただ、少女の浮かべる笑みもまた実に晴れやかなモノであったが、その意気込みは一騎当千の戦人もかくやという感じで、具体的にはなんかオーラみたいなものが背景ににじんでいたかもしれない。
夕方の遊歩道の景色 2018/03/04/17:44:13 No.664  
ダリア=E  E-Mail 
「ファッファッファッファ」

瑠璃色の少女の「ナイスなスマイルです。」と、その親指立てる仕草に、愉快そうに笑うおばあちゃん。
誰かを真似たような雰囲気は、使い慣れない覚えたての言葉を使うような雰囲気にも通じるかもしれない。
きっと、おばあちゃんにとってそれは初々しく映ったのだろう、少女を見つめる暖かい瞳は、ふんわりと包み込むような感覚を覚えさせる。

「うふふ。すっかり、やる気だね、ラピス。」

ダリアも、にこにこと明るい笑顔を溢れんばかりにさせている。

そうして、3人は聖母子像の前を後にして、おばあちゃんの帰路を歩み続けた。





背の高い林に囲まれた通り道。
途中、右手に白亜の石の簡素な建物が、それでも広さはちょっとした邸宅と呼んでも差し支えの無い広さのものが見られる。
その建物の前には舗装されていない広場があり、子供たちがきゃあきゃあとそこで遊んでいる。
何人かの黒衣の修道女たちが子供たちを見守ったり、その子供たちの母親らしき人たち、作務姿だったり、清廉とした貴婦人の装いだったり、様々な女性たち…が、輪を作って喋ったりしている。
母親たちは現地語らしき言葉で色々と威勢よく喋ったり、楽しそうに笑ったりしている。
それに加わる修道女も、節度を保ちつつも、楽しそうに笑っている。
この建物の窓にはガラスが使われておらず、開閉できるらしい格子戸が使われている。
その中から、明かりが盛れていて、中はなんだか子供たちが喜びそうな温かみのある雰囲気を醸し出しているのが、チラと垣間見れる。
建物の入り口らしい所には、聖母子の絵画がかけられ、それは慈悲深くも、とても温かみのある雰囲気に表現されている。

入口の門の前で、小さな男の子と母親が、それから若い修道女。
母親に手を繋がれて「バイバイ、先生、またねぇ♪♪」と、男の子は修道女に、手を振りながら、母親に手を引かれて外に出てゆく。
先生と声をかけれた修道女は「バイバイ♪またね♪」と、明るく笑顔で返しながら、手を振り返している。

そんな建物を通り過ぎようとした所、修道女がダリアの姿に気付いて、にこりとして手を振った。
いつの間にやらダリアが満面の笑顔で手をビュンビュンと勢い良く修道女に手を振っている。
そんなダリアの姿を見て、修道女は楽しそうに笑顔を深める。





通り過ぎて行く。
そんな景色を、少女は通り過ぎて行く。


雑木林の道は続く。
子供たちの声は、相変わらず聞こえてくる。
後ろからも、前からも。






雑木林の遊歩道の向こう側、そちらには柱のような岩がオブジェのように四隅に配された広場があり、天頂で大理石のアーチが伸びて交わっているのが見られる。
その広場の向こう側には、黄昏の光を受けて茜色に輝く大きな池がある。
そちらから動きやすい服装の男の子たちが、使い込まれて泥の痕のついたボールを膝で上に何度も蹴り上げて…つまり、リフティングしたり、現地語で軽口らしき言葉を掛け合いながら、こちらに向かって来る。
すれ違い様に、子供たちの一人がダリアに笑顔で何かを愉快そうに言った、もう片方はガタガタと震えているらしい。

「なんですってー♪」

ダリアは笑顔を帰しながらも、若干、額に皺を寄らせて、おっとりと優しい声で返事をしている。
男の子たちは、「キャアァアァ~~~♪」と、まるで鬼から逃げるようにボールを蹴って転がしながら、少女達が来た道の方へ、街の方へ逃げるように走っていった。
ふと、いつの間にやら、ダリアの胸の前で拳が握られている。
ダリアの手は華奢で、指先が長く、ピアノでも弾いていそうな程に美しい……が、頑なに握り込まれた拳と、薄っすらとそんな華奢な手と指先を覆う皮膚は、なんとなく厚みがあり、強そうなゲンコツを見舞えそうな感じがした。
ルッチラおばあちゃんは、子供の発した言葉に大いに笑っている。
ダリアは、額を寄せたまま、おっとりとした声でこう言った。

「こんな美人で優しいお姉さん捕まえておいて、オニババァって、どうかしてると思うの。」

だが、逃げ去っていく男の子たちにもやっぱり手を大きく振って見送るダリア。
子供の一人はまた同じことを何度か言いながら、先ほどの修道女が居た建物の辺りから、手を振り返している。
もう一人の男の子、やはり、ガタガタ怯えて、何か言いながら、もう一人の袖を引っ張っている。
ダリアの発言の通りなら、少年は「じゃぁね、オニババァ。」「バイバイ、オニババー!」と、そんな事を連呼してる事になる。

「うふふふふ♪今度あったら、お尻ペンペンねー♪」

手を振り続けながら、ダリアは声を弾ませながら、そう言った。
額には、しっかりとした筋が入っていた。
そして、笑顔ではあるものの、何やら圧力のようなものを周りに発している美人で可愛いお姉さん。
にこにこ。にこにこ。





通り過ぎて行く
少女は、そんな景色を通り過ぎて行く。






途中、不意にダリアが口を開いて、この土地の言葉でルッチラおばあちゃんに話しかける。
おばあちゃんは、一つ頷くと、色々と喋り出した。
ダリアは、にこにこと、それを聞いている。
和やかな雰囲気になった。
そのうち、おばあちゃんが、「レギューゥ」と言って、右手に見える小道を指し示した。
そちらの方には、石造りの家屋が続いていて、その合間を通って行くことになりそうだ。
小道の先には、小さな広場があり、幾つかの家屋が広場を囲うように並んでいる。
家屋は壁がピンク色だとか、オレンジ色だとか、水色だとか、それぞれ塗られているが、どうやら木造の建物らしい。


少女はこうして、平和な生活が垣間見れる遊歩道からはずれて、小道に入ってゆく事だろう。
黄昏時の遊歩道の景色は、自然に包まれているものの、そこかしこに人の営み、街の生活の一端を垣間見せている。
瑠璃色の少女にとって、それは、新鮮に映るかもしれない。
あるいは、もしかすると、それが懐かしいという事もありうるのだろうか。



遊歩道の脇道の一つの小広場 2018/07/01/21:33:24 No.666  
語り手  E-Mail 
木々が優しくそよぐ音が心地よい遊歩道の脇道に、その小さな広場はあった。
そこは木造のテラスハウスのような3階建ての細い家が広場を囲うように隙間なく並んでいる。
まるで小さな広場を包囲しているかのような。
そして、それらの家の壁は赤や黄色、青やピンクなど、家によって様々な色で塗られている。
ピンクの家、赤い家、青い家、赤い家、瑠璃色の少女の髪のような色の家、など、たくさんの色に囲まれる小広場。
それらは斜陽から降り注ぐ茜色の光に照らされて、黄昏色を帯びた色を輝かせていた。

ルッチラおばあちゃんが、何か現地語で可笑しそうに言ってから「ふぁっふぁっふぁ。」と、おじいちゃんおばあちゃん特有の渋みのある笑い声をあげている。

「昔、お金がなかった、アタシらは、少しでもいい暮らししてる気分を味わうために、みんなで好きな色を話し合って決めて、ここらの壁を塗りたくったモンよ。…だって。」

ダリアは瑠璃色の少女のために、おばあちゃんのイントネーションを何故か真似ながら言った。つまり、おばあちゃん声で通訳した。
広場では、木のテーブル……足に美しくもたくましい男性の天使の浮彫が彫られている…を出して、陶器の器に何やらきし麺のような麺と、薄く切った肉らしきもの…や、モジャモジャとした濃い緑色の葉物野菜を入れたものを食べている人々がいる。
端的に言うと、スープパスタ……ラーメンではないが、近い雰囲気もある…を額に汗しながら食べていた。

「ルッチラ!エウレベオチャーノーチッ!」

スープパスタを既に食べ終わり、陶器の器を掲げてるお爺さんがルッチラに赤い顔で陽気に声をかけてくる。
グラスではないので、中身は見えないが、酒を飲んでいる事を伺わせる顔だ。

「ベンゾーニ!ステボロンド・トロッポ・トゥッ!」

ルッチラおばあちゃんは、呆れ顔で声をかけてきたおじいさんに捲くし立てる。
それから、しばらく、現地語でわぁわぁ言っているおばあちゃんと、出来上がった調子でのったりのったり何かをおばあちゃんに話しかけるお爺さん。
そうこうしていると、ピンク色の家屋から、扉を開けて、若い女性が出て来る。

「お義母様……またお一人で買い物に行かれたのですね?」

困った様子で、その女性はルッチラに声をかけた。
それから、首を振って、自分の言葉が通じてない事を思い至ったのか「ドゥヴェヴィ・ヤンケ・ファル・スパッサ・ソーロ?」と、何処か窘めるようにおばあちゃんに話しかけてる。
おばあちゃんは、ワァワァと現地語で言い返し、卓でスープパスタを食べている人たちは大笑いしている。


「あれ、エリゼさんじゃない?」

先ほどから、まじまじと、金髪の若い女を見つめていたダリアは、パッと表情を輝かせた。

「あら…?ダリアさん?こちらにお住まいでしたか?先日はお世話になりました。」

「いいんだよ~、人が集まって良かったね。」

この辺りの土地で見られる風貌とは異なる容姿の女性、何処か凛とした容姿のその女性はダリアに丁寧な所作で頭を下げる。
その動作は宮廷風とは言うものではないものの、洗練された滑らかで、整った風で、そんなエリゼと呼ばれた女性に、ダリアは親し気に笑顔を見せている。

それから、エリゼは瑠璃色の少女の蒼い髪に感嘆し、ダリアが少女を友人のように紹介し……。





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一旦はこんな感じで。
もしかすると、そのうち、手直しもするかも…?
あまり、動きが無いと、良くないと思ったので、少しずつ投稿したり、修正したりする感じで行きます……。

以前の依頼者 2018/07/08/19:42:25 No.667  
語り手  E-Mail 
金髪のキチッとした後ろ三つ編みの年若い女が出て来る。
顔が凛々しく締りがあり、骨格がしっかりしていそうな女性。
すらりとした体つきだが、締まりのある手足は逞しそうだ。
その鳶色の瞳は鋭く引き締まっていて、意志が強そうで堅実そうな雰囲気を醸し出している。
自らの義母を連れて来た来客者の姿を見ると、そんな凛々しい顔が、ふわりと緩んだ。

「有難うございます。ダリアさん。ルッチラお母様を連れてきてくださったんですね。」

「エリゼさん?ええと、おかあさんって……。」

「はい。私の旦那様のお母様、つまり、私の義母なんです。」

「そう!マリオさんはお元気?」

「はい!せっかく、ニームヴェルグで学んできたのだから、少しでも良い印刷器具を作らないと、と、張り切っておりますよ。」

「あはは。そっかそっか。」

和やかに談笑をする二人。不意に、エリゼと呼ばれた女性は、瑠璃色の少女に目を向けて、それから、ダリアもハタと気づいたように少女を振り返り。

「あ、ごめんごめん。ラピス、エリゼさんは私の前のお客さんなの。北の帝国の都市ニームヴェルグまで護衛して欲しいっていう依頼をしてくれてね。旦那さんと一緒に実家のご両親に顔を見せに帰るっていうね。」

「はい。最初は両親はマリオとの結婚を反対しておりましたし……アドナ山脈を隔てた向こう側の土地ですものね…今でもまだ心配しているようなので、年に一度は難しいにしても、帰れる時には帰って、安心して貰おうと思っているんです。…ダリアさんは経験豊富ですし、優しくて親切ですし、とても依頼が頼みやすいです。」

「あはは。でも、私も私で、キャラバンにくっついて行ったりとか、安全策取りながらになるんだけどね。」

エリゼの讃辞を受けて、ダリアは頬に左手を当てて嬉しそうに笑みを溢れんばかりにさせている。右手の拳はぎゅーっと握らていて、ぱぁーっとした明るい雰囲気になる空間。ウキウキと身体を身じろぎして、何かを発散させているのだろうか?
不意に、エリゼは瑠璃色の髪に目を止める。瞳を大きくして、何か惹きつけられるような面持ちだ、瞳がキラキラとしている。

「あ、この子は友達のラピスって言うの。今日はちょっと私の家にお泊りして貰おうかなーってね。」

「そうでしたか!それにしても、素敵な色合いの髪ですね。瞳も綺麗ですし……。」

東方風の装いに、蒼い髪はやはり珍しく、興味をそそられるようだ。エリゼは瑠璃色の少女に興味を覚えている。

「ダリアさん。よろしければ、今日はお上がりになって行きませんか。今日はタリアテッレを作るんですけど、今からゆで上げるので、ちゃんとダリアさんの分はベジタリアン用にできますよ。」

「じゃ、せっかくだから、ご馳走になって行こうか?」

瑠璃色の少女に笑顔が向けられる。
さて、この提案を受け入れるなら、ルッチラおばあちゃんの家の掃除をした後に、晩餐を共にする事になる。

ちなみに、ルッチラおばあちゃんは現地語で、この小広場が外に出してる卓で食事してる…飲んで出来上がってる人…と色々と大声で言い合っている。おばあちゃんはとても元気そうだ。



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ちなみに、ニームヴェルグは北の帝国(レーマ)の都で、帝国はドイツっぽい…というか神聖ローマ帝国をイメージしてて、アドナ山脈はアルプス山脈をイメージしてます。
この街ブリランティはイタリアのミラノをイメージしてて、でも、然程詳しいわけではないので、結構、想像で色々と混ぜ混ぜアイディアを仕込んで世界観作ってます。
そして、ルッチラおばあちゃんのお手伝いの後、ご飯をご馳走になって行くかどうか、という所で、一応、選択肢になっております。
このまま、ご馳走になる流れで進めようと思いますけど、ダリアの家でヴェジタリアン料理を食べるという選択肢もあるのです。
本当はそっちが本来のルートなのですが、色々とブリランティの街の設定を掘り下げられたので、どっちに転んでも大丈夫…。むしろ、ラピスの人となりがわかって良かったですよね。

と、今回はこの辺りで……。来週、ちょっと投稿できるかわかりませんが、書けそうなら投稿しますね。


※  7/29 あとがき部分の日本語のわかり難い所を、少し修正しましたよ。

今日の晩御飯、片づけと掃除の様子 2018/07/22/13:07:53 No.668  
語り手  E-Mail 
クリームソースのタリアテッレ。
それが今日のメイン料理らしい。
ハーブとチキンと合わせたクリームソース。
それはとても甘くて旨味がじんわり効いた、クリーミーソース。
ダリアだけは甘栗と合わせたクリームソース。
それは、甘くてほっこり、ふかふか、ふわふわなクリーミーソース。

「…と、今日の晩御飯はこんな感じですね。いかがでしょう?」

エリゼはシャンとした佇まいで、張り切った声で皆に尋ねる。

「いいと思います!」

ダリアはバンザイするように両手をぱぁーっと上に広げて笑顔を見せている。
瑠璃色の少女も感じたままに反応をする事だろう。
ルッチラおばあちゃんは共通語を話せないので、黙って見ているが、時々「パスタ・ディ・アモーレ」だの何やら呟いている。


エリゼが料理に取り掛かっている間、家の掃除や物の移動をする事になるダリアとラピス。

「お客様にそんな事をさせるわけには参りませんよ、ダリアさん。」「だいじょうぶだいじょうぶ、この子がやりたいんだって言ったんだからね。」等と、遠慮するエリゼに理解をしてもらう場面等も挟みつつ、ラピスは油の入ったツボをいくつか、ダリアと共に運ぶ事になった。
どうやら、近所から贈られたもののようだが、すぐに全部使う事もないので、地下室に保存をしておきたいようだ。
壺の中身は何の油なのだろう?それは、エリゼがラピス達が運んでいる壺を一つだけ確保しようと、よいしょ、と台所に運び込んでる時にわかる。

「あ、これ、オリーブ・オイルなんです。今日の調理にも使いたいので、これはこちらに持っていきますね。」

鼻が利くなら、苦味とツンとした香り……なのに、透明感があって、鼻孔を爽やかに抜けていくような香り…を感じる。

「これ、石鹸にも使えそうな油だね~。」

ダリアなどは、この香りを嗅いで、何気くそんな事を、ふわふわな感じで言った。








おばあちゃんが現地語で何かをバリバリと勢いつけて喋るとダリアが訳してくれる。

「今度、息子が運んでくれると言ってくれてるだけどねェ、できれば、こういうのはサッサとやる方が、なんでも捗るものなのよ。」

おばあちゃんは杖を突いて、腰も曲がっているが、かなり活動的なようで、エネルギーに満ちているようだ。
きっと、おばあちゃんは、聖母の加護を信じているのだろう。余裕とゆとりからくるような貫禄を醸し出しているし、身体を動かす事を億劫がらない。
ただ、息が切れやすいし、動き事態は遅いし、杖を突いて歩かないといけないので、壺を自分で運ぶ事は出来ないけれど。
でも、このお婆ちゃん「ヴァイタル・クウェスト!(がんばって!)」と、まるでフットボールの試合を応援するような大きな声は、身体に元気が湧いて来る感じがする。

声は音であり、音は振動であり、波長でもあるけれど、その波長の質や、その振動の強さは、きっと気力を高める力があるのだろう。
ダリアが「はーい♪」と声を弾ませて、おばあちゃんに返事をすると、その音が受け止められて、返されて、朗らかなで、楽し気で、清々しい波長になる。

こうして、壺を運ぶ作業の雰囲気は、明るい波長に満たされて、とてもウキウキとした感じになっていった。








ダリアは一つ一つ、よいしょっと丁寧に、よく注意して地下室へと運んでいくけれど、ラピスはダリアよりも、もっと力がありそうだ。
同じように一つずつ慎重に運ぶのもよし、二つ持ちで、どんどん運んでいくのも良し。
……そんな姿を見せられれば、みんな目を輝かせて賞賛する事だろう、すごい!

しかし、壺は10個も無い数なので、軽々と運んで行けるなら20分もあれば終わってしまう。
早い、早い!と、ルッチラおばあちゃんは大喜び!

「あら、もう終わったんですか?…すごい。ダリアさんも、ラピスさんも、力持ちですね。」

と、エリゼがソース作りをしながら、あっという間に終わってしまったのを見て、目を丸くしてから、頼もしそうに笑顔を浮かべた。









さて、思いの外、壺を運ぶのが早く済んだと見たルッチラおばあちゃん。
実は、前々から動かしたかった櫃(おっきな収納BOXのようだ。)を動かして欲しいのよ、と言い始める。

「あ、それなら、私も手伝います…っ。」

エリゼが、パタパタとやってくるものの「だいじょうぶ、だいじょうぶ、私たち、力持ちだから。」と、ラピスの体力を見て、ダリアはエリゼにパタパタと笑顔で手を振った。


そういうわけで、ダリアとラピスは鉄枠で補強された木製の重くて大きな櫃を部屋の反対側へと運んだ。
それから、モノが無くなったスペースを綺麗に掃き掃除し、拭き掃除までやる事になる。おばあちゃんも手伝おうとするものの「だいじょうぶですよ~。」と、ダリアがやんわりと言って聞かせる。

移動したいものを移動して、掃除もしてサッパリとした顔になったルッチラおばあちゃんは、機嫌良さそうに「ふぁっふぁっふぁっふぁ。」と笑っている。現地語で言うルッチラおばあちゃんの台詞を「ああ、すっきりしたわぁ。掃除と整理整頓はやっぱり、すぐやらないとダメね。だって。」と、おばあちゃんの情感たっぷりに通訳するダリア。

こうして、おばあちゃんのお手伝いを終わらせたラピス。
炊事場の方からは、チーズのようなクリームのような、ツンとしていて、ふわぁ~っと甘い香りが漂ってくる。
おばあちゃん宅の晩御飯は、とても美味しそうだ。



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ご飯食べて行く流れに自然になりそうだな、と考えたので、晩御飯を食べていく流れになりました。
ヴァイタル・クウェスト!は、ちょっとお気に入りです。

ヴァイタル(生命)クウェスト(冒険?発声?)とかかな?等と、色々と考えつつ……。

生命(いのち)よ、困難に立ち向かえ!=一言で言えばガンバレ!

みたいな、感じで台詞を考えて見たりしてます、現地語。


一応、使われてる現地語はイタリア語ベースだけど、エルフ語やら、ラテン語やら、オリジナルやら、色々と混ざってて、適当な感じ。
どうせなら、イタリア語の辞書とか買って、勉強したりしてみたいなぁ……。

次回は、ラピスのお愉しみの、晩御飯ですよ~。
えみやさんちの今日のご飯とか見てるので、ラピスの反応が可愛く想像できてしまいますよ~。(笑)


食事の様子、ベンゾーニ爺さんあらわる。 2018/07/29/13:42:14 No.669  
語り手  E-Mail 
平麺、きし麺、タリアテッレ。
それは、柔らかく、ツルツルとしていて、和の心もきっと満たしてくれる。
帯状のパスタはコシがあり、ツルツルとしていて、のど越しが良い。
それが肉汁と香草で調理され、豊かな香りと旨味が溶け込んだ、クリームソースが絡まって、とても美味しい。
瑠璃色の少女の前には陶器の器に盛られたそんな美味しそうなパスタが一皿。
それから、レタスと、キュウリやニンジン、パプリカ等が薄切りにされて、酢とパジルを合わせたものだろうか、甘酸っぱくて、少し舌にピリッとしたドレッシングが和えられているサラダが一皿。
それから、オリーブやキャベツと魚の漬物が卓の真ん中に大きめの器に盛られている。これは小皿に欲しいだけ取って食べてもいいとの事だ。
フォークやスプーンの使い方はきっと大丈夫だろうけど、パスタに食べ慣れていないのなら、ダリアが「ほら、こんな感じにするんだよ~。」と、フォークをクルクル回してパスタを絡めとる様子を見せてくれる。


部屋の真ん中にある丸い大きな大人数用の食卓を、ラピス、ダリア、エリゼ、ルッチラが囲んでいた。
ルッチラおばあちゃんと、その義理の娘はラピスと同じメニューを食べているが、ダリアは隣でベジ仕様になったパスタを食べている。
先ほど、時狭間でお菓子を交換して食べ比べていた事を思い出したのか、ダリアは「ほら、ラピス、こっちも食べてみて。」と、小皿に盛って差し出してくれる。
特に拒む事無く食べてみれば、チキンの旨味が消えて、アッサリしている代わりに、甘くてほっくほくな栗のフレーバーがソースに溶け込んでいて、何となく和んだ感覚が広がる。溶けかかった栗の欠片を口にすると、ハーブの爽やかな風味と、苦味と、ミルキーな甘味と、栗のホクホクとした触感と甘さが味わえる。
パスタそのものも、旨味はない代わりに、甘くて、アッサリしていて、ほっこりとした甘さが絡まった、ツルツルのど越し爽やかな平麺パスタの味わいが。

「エリゼさん。これ、美味しいね♪」

「そうですか?それはよかったです。」

ベジ・パスタの出来栄えに満足そうにしてるダリアに、エリゼはホッとした様子の笑顔を見せている。
ラピスも時狭間の時のように、力いっぱいに喜んでくれるなら「ああ、それはよかったです。」と、胸に手を当てて安堵しながら、嬉しそうな笑顔を浮かべるエリゼの顔を見られる。
そのエリゼはオリーブの漬物が好きらしく、度々、口に一粒運んでいる。

「エリゼさん、漬物好きなんだね。」

「はい。あちらでは毎日食べていましたし、ライ麦や雑穀のパンと合いますし。」

「レーマの人は皆、漬物食べるの?」

「どうでしょう。私の住んでいたニームヴェルグは都ですし、修道士や技師や、教養人が多い都でしたので…。地方の村々では、麦粥とカブだけの食事がずっと続いていて、肉やチーズを食べれるのは祝祭日だけだと、聞いた事があります。帝国はこちらと違って、冬は厳しくて長いですし、塩も余所の国から買わなければなりませんから…。」

「そうなんだ…農家の人たち、大変だね。」

「ええ。でも、良い領主様が治めてくださってる所は、もう少し良いものを食べれるみたいですね。普段は粗食で働いて、週末にはビールやソーセージ、プレッツェル等を食卓に上らせて、楽しく過ごせるみたいですね。」

「プレッツェルって……あの面白い形の塩パンの事だよね。私、アレ好き。特にメープルシロップかかってるの。」

「メープルシロップ、ですか?」

「あ、うん。こっちには普及してないからね。私の故郷だと、結構ポピュラーな甘味なんだけど、カエデの樹液を煮出して作るんだけど、すごく美味しいんだよ。甘苦い感じで、癖があるの。」

「なるほど。新大陸の方でそのようなシロップがあるんですね。」

「そうそう。スコーンとか、クッキーとか、パイとか、ケーキとか、色々なものに使える……よく皆やるのが、パンケーキにバターを乗せて、メープルシロップをたっぷりかけて食べるんだけど、すごく美味しいんだよね、パンケーキにバターとメープルシロップがじゅわ~としみ込んで、とても美味しい。」

「いいですね。甘い物。こちら…ブリランティでも少し贅沢ですけど、でも、新大陸では違うんですね。」

「うん。割と砂糖もメープルシロップも蜂蜜もたくさん普段から見てるし、食べてたかもね。プレッツェルやワッフルなんて、屋台で売ってるし、私、学校の帰り際にお小遣いで食べてたし……。あ、でも、こっちのモノってなんでも綺麗だし、丁寧だし、細やかだよね。特にレーマ帝国製のモノって、綺麗だし、長持ちするし、繊細だし、凄く評判いいよね。」

「ありがとうございます。私はもう、ブリランティの人間ですけど、帝国の事を褒めて頂いてとても嬉しいです。」

エリゼは瞳を潤ませて、胸に手を当てている、感情は控え目にしか面に出なくても、感激している事が伝わる表情だ。

「こっちの大陸でも、帝国の人って、勤勉で、誠実で、粘り強くて、意志が強くて、勇敢で、すごく頼もしいって評判だからね。モノづくりや料理にもそれが出てるんだろうね~~……。あ、だから、エリゼさんの料理って美味しいんだね。」

「ダリアさん。それは、褒め過ぎです…。それに、私など、そこまで仰ってもらえる程のものじゃありませんから……。でも、帝国が皆さんに評価されているのなら、とてもありがたく思います…。」

エリゼは恥ずかしそうに額を寄せて、ダリアの笑顔と讃辞を受けていたが「でも、ダリアさんを見ていると新大陸の人はみんな、明るくて気持ちの良い方々なのかな、と、私も思います。ダリアさんは明るいし、行動力があって、とても楽しくて、素敵な人ですし…。」「きゃぁぁぁ~~っ♪うれしーー♪」等々、しばらく、ダリアとエリゼは褒め合戦を繰り広げる事に……。

それから、しばらくして、すっかり茹蛸みたいに赤くなったダリアとエリゼを瑠璃色の少女は見る事になる。
まるで、二人して顔から、ぷしゅ~、と、湯気を上げているみたいだった。
そんな姿は、とっても可愛らしくて、二人の年頃の少女のように見えたりするのかもしれない、
ルッチラおばあちゃんは。「ふぁっふぁっふぁ。」と、ほほえましそうに笑っていた。













ルッチラはお手洗いに席を立った。
エリゼが付き添おうとすると、何か言われた「アタシの事はいいから、お客さんの相手をお願いよ。」と、ダリアがわざわざ通訳をした。
おばあちゃんは杖を突きながら、亀のようにゆっくり、ゆっくりと、奥へ姿を消していった。


「エリゼさん。ルッチラおかーさまって、ここで独りで暮らしてるの?」

何気なくダリアは尋ねてみる。

「はい。…出来れば、私たちと一緒に住んで欲しいのですが…此処と、それにご近所の方と離れ難いのですね。」

「そうなんだぁ…。でも、一人だと買い物とか大変だね~。」

「はい。出来れば教会の配給で満足して欲しいのですが……義母は自分で料理をしたり、誰かをおもてなししたいみたいですね。」

「あはは。楽しいおばあちゃんだね。ところで、教会の配給って、何か教会と契約でもしてるの?」

「はい。近くのサンタ・ミリヤム・イッラ・アズーロ教会と、義母は自分の死後にこの家と土地を教会に譲る代わりに、いくらかの年金と配給を受け取っているのです。」

「そうなんだ。」

「はい。おかげ様で生活に困る事はないのですが…。夫が義母をとても心配しているのです。義母はあの通り、独りで買い物に行ってしまったり、と、無理をしてしまう人なので…。せめて、誰かと一緒なら、それほど心配しなくてもいいのですが……。」

「でも、きっと、あのお婆ちゃん、本当はなんでも自分でやりたいんだろうね。だから、好きにさせておく事は、きっと、お婆ちゃんを元気にしてくれると思うよ。」

「ドゥオーモの方まで行ってしまわれるので……もしかしたら、道路で馬車に跳ねられてしまいはしないか、と、夏の暑さのせいで、途中で倒れられてしまわないか、と、色々と心配してしまうのですが……。」

「そうだね。誰か友達とか一緒に付き添ってくれる人がいればいいのにね。」

「はい…。」




ルッチラおばあちゃん、戻って来る。
現地語で何かを捲くし立てる。エリゼは早口で捲くし立てられると、やはり、現地語が理解できないらしい。目をパチパチさせている。

「ほぉら、エリゼさん!ちゃんと一人でできるでしょう!あたしはまだまだ若いモンには負けてないよ!ちょっと、若い頃より動くのが遅くなっただけだヨ!…だって。」

「そうですね。私が心配し過ぎていたのかもしれませんね。凄いですお義母様、お年を召しているのに一人で何でもできるなんて立派です。」

そのエリゼの言葉を何故かダリアが翻訳をしてルッチラおばあちゃんに伝えると、おばあちゃんは「そうでしょう、そうでしょう。」とダリアが通訳するような事を言いながら「ふぁっふぁっふぁ。」と笑っている。

「けれど、それでも、心配なんですけどね。素早く動けないので、いつ、馬車が過って義母に突っ込んでくるかわかりませんし、もう背を立てられないようなので、いつ、腰を痛めないか、と、色々と心配の種がありますしね…。」

そして、エリゼは「せめて、誰かがいつも傍にいてあげれていればいいのですけど…。」と、頬に手を当ててしばし悩む様子を見せる。

「申し訳ありません。今、悩む事ではありませんでしたね。」

ダリアとラピスに頭を下げるエリゼ。

「きにしなーい、きにしなーい。」

ダリアは笑顔で手を振っている。
ゆ~らゆ~らと、おっとりゆったり、脱力してしまいそうな感じで。
ふりふり~、ふりふり~、ふ~り~ふ~り~。








ダリアがふと、部屋の奥に鎮座している重々しい箱を目に留めて、ぎょっとした顔でそれを見つめた。

「すっごい金庫。」

そう、金庫だ。鉄で出来た重厚そうな作りで、錠も複雑そうだ。
ルッチラお婆ちゃんが得意げに何かを現地語で言った。

「あそこに、老後の蓄えが入っているのよ。あの金庫に入れて置けば、聖母ミリアム様が守ってくれるから安心よ!…だって。」

「大丈夫なのでしょうか。もっと、信用のおける方に預けるとか…私、あれも心配なんです。…ほら、少し力自慢の男の人が二人いれば、サッと運んでしまいそうで…。」

「そうねぇ…。ああいうのを魔法でちょいちょいっと開けちゃう事も、できるわけだし…。」

「そうなのですか?」

「あ、うん。繁華街の界隈のオジサンがそういうの得意でね。もっとも、そのオジサンはカギを失くしてしまった人向けに、金庫を開けてあげるサービスで商売してる人なんだけど。」

「……。そういう魔法を悪用する人もいるかもしれないわけですよね。」

「そうだね~…。」

ルッチラおばあちゃん。現地語で何かをわぁわぁ捲くし立てた。

「何を話してるの?どうせ金庫が危ないって事でしょ!心配いらないわよぉ。聖母様がこの金庫から盗もうとする悪者には…?…ええと、”神のガス”を与えて懲らしめるんだから……。」

ダリアは通訳していて、謎の単語が出て目を丸くしてる。「なあに?それ。」と、首をこてんと倒している。

「わかりません……義母は時々、そういう事を仰るのです。何か、防犯対策をしているという事なのでしょうか…。」

「うーん。」

ダリアが現地語でいくつかルッチラに質問をする。

「ルッチラおばあちゃんのお母さんがそう言ってて、お母さんのお母さんも、そのまたお母さんもそう言っていたらしい…って事みたい。」

「そう、なのです、か……。」

謎の答えにはならない話に、エリゼは表情を曇らせる。「…もし、毒ガスなどが仕掛けられているのでしたら、泥棒よりもお義母様の方が心配です。誤って罠が作動したら、この部屋に毒が充満してしまうのではないでしょうか…。」
危機意識が高いのだろう、帝国出身者の生真面目な女は金庫を憂いを帯びた顔つきで見つめている。ダリアはその顔を見て、じーっと見てから、息をついて漏らすように笑みを浮かべた。

「エリゼさん。今まで大丈夫だったんだから、これからも大丈夫だとは思うけど、そんなに心配なら、ちょっと私が見てみるよ。一般的な罠なら私も解除できるから。」

「そうなのですか?…お願いしてもよろしいのでしょうか。」

「うん。任せて。」

「ありがとうございます。またお世話になってしまいますね。」

「きにしなーい、きにしなーい♪」

包み込むような笑顔のダリアと、安堵するエリゼ。
それを眺めていたルッチラは、何かを現地語でわぁわぁ言った。

「えーと、何を話してるかわからないけど、”神のガス”がある限り、何も心配いらないわ。私の老後の蓄えは、聖母様に守られてるのよ!だって。」

「聖母様がそのような事までしてくださるなんて、聞いた事がありませんが。きっと、何か防犯対策のようなものがあるのかもしれないですね。」

信心深いとは言えない、現実的で生真面目な発言をするエリゼ。
先ほどよりも、防犯対策の罠の可能性を信じてるような口調だ。


「宗教的に気にならないなら、ユリス人の銀行に預けちゃうとかね。」

「いい噂は聞きませんけど……。」

「あれは、教会とかが意図的に流してる場合とか、偏見持ってる人が出まかせ言ってる場合とかが多いから、あまり真に受けちゃダメだよエリゼさん。」

「そうなのですか。」

「ユリス!」

ルッチラおばちゃんは耳ざとく聞きつけて、何かわぁわぁと悪態をついた。

「救世主を見とめない律法主義者たち!あいつらが聖母様の御子を、邪悪なる群衆に売り渡したのよ!新しい契約をイッサ様が結んでくだすったのに、まだ古い契約を守り続けているなんて……。ああ、恐ろしい。あんなのと関わったらパラダイスには行けないわ…だって。」

「その通りなのではないのですか?」

「でも、帝国のマイスター・ゼーゲンハルトの教えだって、汝が与えられし仕事を神に捧げるべく取り組め、心を尽くし、霊をつくして仕事せよ、さすれば、楽園へと導かれん、とかなんとか、教えてなかったかな。」

「そうですね。日曜礼拝やミサでそのようなお話を司祭様が。」

「天使祝詞を唱えても、仕事を一生懸命やって神様を喜ばせても、楽園に行けるんだから、ユリス人に関わってパラダイスに行けなくなる事はないと思うよ~。」

「そう、かもしれませんが…でも。」

「うん~?」

「きっと、周りはそうは思ってくれないと思います…。ゼッサ様…いえ、イッサ様の事を救世主と認めない輩と関わるなんて…と。」

「うん。そうだね。」

人は一人で生きているわけではないのだから。
どうしようもない事もある。

ダリアはにっこりと笑って、話を終えた。






食後、エリゼとルッチラはワインを陶器の杯に注いで飲んでいる。
酒が入ったせいか、ルッチラが現地語で、何かをわぁわぁ言っている。とてもテンションが高い。

「……実は、こうなると、私にも何を言っているのか、わからないのです……。出来るだけ時間を作って、こちらの言葉を覚えているのですが……。ダリアさんはわかります?」

「あ、うん。たぶん、エリゼさんのご飯は美味しい!息子は幸せモノね!私の目に狂いはなかったわ!とか、そういう事をいっぱい言ってるんじゃないかな……。あ、あと、聖母ミリアム様の祝福のおかげとか、なんとか。」

「そうですか……。お義母様にそう仰って頂けるなら、私も安心です……。」

あまり、あからさまに褒められる事が苦手なのか、エリゼは褒められると恐縮してしまったり、気恥ずかしさを覚えてしまうらしい、喜んでいるようだが、落ち着かない様子で、口数が少なくなってしまう。
ダリアはその逆に、笑顔がますます輝いて、目をキラキラさせたり、ふわんふわんに蕩けたりと、解りやすく喜んでいる。

「だいじょうぶ。エリゼさんは、いつもよくやってるよ~。主婦の鑑だよね~。こないだの町内会でも聖母子神輿の事でちゃんと子供たちの事も考えた意見も言ってるし、皆のためにいつも頑張ってるしね~。」

「あ、ありがとうございます……。ダリアさん、そろそろ、私、嬉しいですけど、そろそろ、そっとしておいて頂けると……。お義母様や、ラピスさんもいる事ですし。」


仲睦まじい雰囲気を醸し出しているダリアとエリゼ、その雰囲気を破壊するために破壊者(デストロイヤー)が現れる。

ドーーーンッ!


ドアが大きくあけ放たれると、外で飲んでいたお年寄りが、めでたい顔で顔を真っ赤に入って来る。

「ルッチラ!イン・ヴェーレ!リ・ノストラ・フィオーレ!」

「ベンゾーニ!セイレ・ルモーソ!ペルケモーロ・エンティヴェーネ?」

酔っ払いのおじいちゃんは陽気にルッチラおばあちゃんに黄色い声を飛ばし、ルッチラおばあちゃんは呆れた顔で何かを捲くし立てている。

「エリゼ!今日は外では食べないんだな!お客さんがいるからだね!ようこそ、カンポ・ディ・テリーノ・ポートへ!」

酔っ払いのおじいちゃんは、陽気な笑顔を瑠璃色の少女たちにも向けた。このおじいちゃんは共通語もペラペラに喋るようだ。

「ベンゾーニさん。こちらはダリアさんと、その友達のラピスさんです。ダリアさんは冒険者で、とてもお世話になっているんですよ。ラピスさんは、お義母様を気遣って、ここまで荷物を持って頂いて、部屋の片づけや掃除まで手伝って頂いて……。」

「おお!我が愛しきシニョリーナに親切にして頂いて感謝しますぞ!さあ、小さくて可憐なフィオーナ。このベンゾーニ爺の感謝を受け取り給え。」

そういって、ラピスの前に杯を持ったまま騎士のように跪くと、ベンゾーニ爺様は片手をラピスに捧げるように握りこぶしに差し出して、ラピスが拳に目を落とすと、パッと開く。
すると、そこには、釣り鐘型の花弁の、白い花と赤い花がパッと現れる。

「おお、瑠璃色の美しい髪の少女よ!その髪に相応しい色の花を用意することが出来ればどんなに良かったか。しかし、これは私の愛、この愛をどうか捧げる事をお許しくださいますよう。」

それを見て、ルッチラおばあちゃんは、ボソッと呆れた顔で言った。
ダリアはそれを聞いて、「アハハ~。」と笑っている。
エリゼは「仕方のない方ですね。」と、少し困ったように額を寄せながら、微笑を浮かべている。
もっとも、瑠璃色の少女が迷惑そうな様子であれば「お客様をあまり困らせてはいけませんよ。」と、窘める事になるだろう。

それから、ベンゾーニ爺さんが熱烈にルッチラおばあちゃんに何かを言いはじめ、ルッチラおばあちゃんは、わぁわぁと、何か凄い勢いで捲くし立てている。

「クスクス…♪アンタ、あのお花、アタシにあげようとしておいて、丁度いいからってあの子にあげたんでしょ。いい性格してるわね。だって。面白いおじいちゃんだね~。」

ダリアはくすくすと笑みを零していて、おじいちゃんとおばあちゃんが、わぁわぁ楽しそうに何かを言い合っていて、エリゼは後片付けを始めていて……そうして、穏やかで平和な時間が過ぎ去っていく……。







「そろそろ行こうか、ラピス。」

席を立つダリア。外では日が沈もうとしていて、窓辺から差し込む燃えるような茜色の陽ざしは、遠い所から投げかけられているかのようだった。
照明はランプや手燭、カンテラや松明などに頼る世界だ。夕刻も深まれば暗い所は暗いし、まだ明るい所は明るい。

外に出ると、広場で飲み食いしていた人々はすっかり解散していて、建物の合間から、太陽が命を終えようとしているかのような光で明るく茜色に輝いている。
不意に、ダリアの瞳はその死の間際のような光のような色……それに染まる大海原を思わせる何か……を讃えているような、儚げで、透明感があって、静けさのヴェールに包まれているかのような、それでいて、果てしない様相を瞳に映していた。

「さて、それじゃあ、エリゼさん。ルッチラおばあちゃん。またね。」

「はい。また。次にお会いするのは聖母子神輿の打ち合わせですね。また、よろしくお願いしますダリアさん。……金庫の事も、ありがとうございます。」

「あ、うん。そうだね。金庫は明日にでも見に来るよ。おばあちゃんにちゃんとお話ししておいてね。…それじゃ♪」

「チャオ!」

「チャオ!」

「「「チャオ!」」」

ルッチラおばあちゃんが現地語で別れの挨拶をすると、ダリアが答え、ベンゾーニ爺さんも同じ挨拶をして、最後に皆でチャオ!と笑顔で言って別れた。
瑠璃色の少女は楽しい一時を過ごせただろうか?
なんでも、都の様子を珍しがり、楽しんでいたのだから、きっと楽しめただろう――。


遊歩道の先 2018/08/05/20:38:54 No.670  
語り手  E-Mail 
ルッチラおばあちゃん宅を出る頃には、すっかりと陽が落ちていた。
今宵は月明かりが眩く、夜道でも辺りの景色が良く見えるので、宵闇の中の不確かな景色の中を進む不安はない。
ダリアは、一度、来た道を戻り、遊歩道のある所へ戻ると、石碑のような形の岩が柱のように四隅に配置された不思議な広場の前に戻って来た。
その巨大な幽霊のような岩は、それぞれ、頭上から石造りのアーチを伸ばしていて、広場の中心で交わっている。
中心の石造りの床には水盤が置かれているものの、水を湛えているわけではないものの、白い色合いと繊細な掘り込みが、瑞々しい雰囲気を漂わせていた。

その広場の奥には大きな池があり、その池は奥へ奥へと続いていた。湿原のような背の高い草が生えた一帯が見え、その向こう側から水はやってきているようだ。
池の右手には池を渡るための木の橋がかけられていて、奥へ奥へと続いている。
池の左手には遊歩道が、池に寄り添うように続いている。
石で整備された道は歩きやすく、のんびりと歩きながら木々の深い緑や、池の中をのんびりと泳ぐ水鳥たちを眺めながら歩くことが出来る。



帯剣してカンテラを携えた爺様たちが、あちこちを歩いていて、すれ違うと挨拶を交わしてくる。
時には、挨拶以上の会話を陽気に話しかけて来る。
彼らはどうやら、町内会の有志による自警団らしい。遊歩道でパトロールをしているのだとダリアは話してくれる。



深い緑に囲まれた遊歩道を歩いていくダリアとラピス。
時々、ダリアは他愛もない話を話しかけてきたり、尋ねてきたりする。
それから、時々、歌を歌ったりする。


ヴェイヴィ・アイラーヴュー・アイラーヴュー。
ずうっと、愛してる、愛してる、君の事を。
特別で、大切な、あなたと重ねて行く時、その時が、その積み重なる時が、
もっと、もっと、あなたを特別で、大切で、私の胸をいっぱいにしてくれるのね。

ヴェイヴィ・アイラーヴュー・アイラーヴュー。
あなたは、オンリーワン、オンリーワン、あるがままでも、
ずっとずっとそばに居たいのは、ただ、あなたがあなただから。
このままでいい、一緒に時を重ねていこうね。




こうして二人は帰路につく。
ダリアの住処は、遊歩道の先の中、深い緑に囲まれた所にあるらしい。
何処かに鐘楼が立っているのか、鐘がなる音が聞こえる。


<<カーンカーンーカーン>>


近くの鐘楼から、それに元来た道、馬車が行き交っていた街の方からも鐘の音は聞こえて来る。
こうして、大都会の夜が鐘の音で告げられるのだった。
瑠璃色の少女は、こういう鐘を、隣で歩く赤髪の女と、かつて何度も聴いたような気がするのかもしれない。
もしも、その記憶が、かつての少女の魂に深く刻まれているのだとすれば―――ー。


=============================================

あまり時間が取れなかったので、今週は簡単に。
もう少し時間を取れたら、ルッチラ宅の辺りの話をもう少し書くか、続きを進めるか、どうしようか、とまだ考え中。
少女の親切が導くもの 2018/08/15/17:06:00 No.671  
語り手  E-Mail 
暗くなる道、月明かりに照らされる大きな池の畔の近く。
細かな石や敷石で整えられた綺麗な道を歩く二人。
不意に、赤髪の女は、瑠璃色の少女に語り出す。
とても、自然に、とても、柔らかで、優しい声で……この景色に相応しい調子で……透き通るような瞳の女は語りだす。





ねえ。
もしも、あなたが、こうして、いつも、いつも、困った人に手を差し伸べているのなら―――。
それが、偽善だったとしても、いいんじゃないかなって、今、私、思ったの。
だって、こうして、誰かにご馳走になったりして、人と人との繋がりが広がっていくのって、とても、素敵な事だし……それに。
知り合いや友達が増えるのって、すごく嬉しい事だと思うしね。

私。あなたみたいに明るくて、真っすぐで、真面目な子なら、みんな友達になれて嬉しいって思うんじゃないかなって。
ほんとうに、そう思うの。


……―――。


ダリアはそう言って少し照れくそうに笑みを零した。
それから、少しの間の後に、また、ゆるり、ゆるり、と、自然な歩調と同じように、気取りない調子でまた語りだした。



―――。…。

誰かに親切にしたいって思う事はある。
けれど、迷わずにサッと当たり前のように人に親切にする事って、なかなか出来ない事。
迷いがあるから、仕事をしなきゃとか、疲れてるから、とか、見知らぬ自分が関わって面倒がられたくない、とか。
自分には関係がないから、とか、自分は優しくされないのに、どうして自分がそこまでしなければならないの、とか。

私たちの心は、まるで重しをつけられたかのように、色々なものに縛られていて、
それが、心を挫く。
胸の奥には、確かに優しさがあるのにね。


私、思うの。
あなたのその優しさを、いつまでも大切にして欲しいって。
誰かに心ない事を言われても、やめろと言われても、大切にして欲しいって。

もしも、優しさを誰かに伝えられて、誰かを少しでも幸せに出来たのなら。
たった、それが、一瞬の間であっても。
世界は、きっと、綺麗で、とても輝いて。

少なくとも、その人にとっては、そして、自分自身にとっては。
世界は優しいんだ、愛は私にもやってくるんだ、生きていれば嬉しい事ってやってくるんだねって。


きっと、それが、あなたの求めていた答えに導いてくれるよ。
だから、ラピスは―――。



「今のままで、いいんだよ、きっと。」


満面の笑み。
月明かりに照らされる花のような女の笑顔。
瑠璃色の少女の全てを祝福したいと願うかのように、女は口にする。


今のままでいいんだよ。きっと。

時代 2018/08/15/17:07:47 No.672  
語り手  E-Mail 
眩い程に輝く月明かりが差し込んで、辺りは照らされている。
雑木林に囲まれた遊歩道は湿原を越えて、もっともっと木々の王国の深くへと向かって行く。
ダリアの歌を聞いたり、話をしたりしながら歩いていると、そのうち、ぽつぽつと道沿いに建物が見えてきて、通り過ぎて行く事になる。
それらはレンガ造りのしっかりとしたものもあれば、木材と固めた土で作った昔ながらの藁ぶき屋根の家もある。

「だんだん、木造住宅がなくなって、石造りが増えて行くのかなぁ。ここも。」

木と土で出来た家を通り過ぎる際に、ダリアはしばしそこに視線を送って、何気なく呟いて、通り過ぎた。
何気ない人工物に時代を感じるのは、自然の中では感じられない未知な感覚かもしれない。
建物には、その時、その時の、時代の色が織り込まれ、映し出されていて、ゆっくりと色褪せて行く―――。

それは建物が古びて色褪せていく事だけれど、その時代が過去になり、記憶の中で色褪せて行くという事―――。
自然は季節ごとに新しい命を芽吹かせて、景色を塗り替えて行くけれど、人の手によるものは形を定めて、後は老いて行くように朽ちてゆく。

自然も、人も、人の手によるものも、ゆっくりとその姿を変えて行く。
老いて、朽ちて、やがては塵に還ってゆく。
自然も、人も、人の手に拠るものも、ゆっくりと、ゆっくりと、変化を繰り返して―――。
やがては朽ち果てて、世界から姿を消す。

それは、緩慢であるが故に、日々の生活に追われている者には気づくことが出来ない真実なのかもしれないが、瑠璃色の少女と共に歩く女の、静かで、明るくて、大らかな空気に誘われるかのように、少女の心の水面にそのような事が浮かんでは消え、また浮かんでは消えるのかもしれない。
そして、少女の意志が望むなら、それは思考の材料となるべく、はっきりとした形を取る事もあるかもしれない、




ゆっくりと、ゆっくりと、私たちは変わりゆき、
ゆっくりと、ゆっくりと、朽ち果てて、やがて消えて行く。
そこには悲しみもなく、喜びもなく、無念も未練もなく、ただ、あるがままに―――。





世界はそのように続いて行く。






全てはそのように存在している。






人だけが嘆きを知り。






人だけが悲しみを知る。






人だけが怒りを知り。







世界を変えたいと、変わってくれと泣き叫ぶ。





それは真実であるけれど―――。





「石の住宅の時代が終わったら、次は金で家が作られたりするのなぁ……。なんだか、楽しみだね~。」


少女と共に歩く女は、時代の波に流される事を嘆くことも憤る事なく。


「金の家が流行るなら、きっと家を宝石でデコレーションする事が流行るのかもな~。」


時代を変えようとも、世界を変えようともせず。



「でも、きっと、それは花火のように一瞬で過ぎ去っていくバブルだね~。」


世の儚さを見透かしながら。


「そうして、贅沢し放題したあと、やっぱりシンプルなのがいいねって、丁度いい所に治まるのかも。」


人の物語を楽しんでいる。


「でも、贅沢したり、貧しくしたり、あれこれやってみないと、自分がどんな気持ちになるのかわからないものだから。」

不意に瑠璃色の少女に顔を向ける女。
明るい月明かりに照らされて、女の顔の水面のように透明な肌や、黄昏の光のような瞳の輝きや、全てが終焉した後のような静寂とした表情を浮かび上がらせていた。

「後々、頭わるい事に夢中になってたな、と思っても、これで良かったんだよねって…。そう思うのかもね。」


月が光でこの女を祝福しているかのように、とても――……、美しく………照らしている。
その――………安らぎに満ちた……野に咲く小さな花のような微笑みを……―――。





「すべてはあるがままに巡っているね。ラピス。」



優しい声、寄せては返す穏やかな黄昏の大海から響いてきたような。
それが瑠璃色の少女の耳に届き、感覚器官を伝って、心へと届いて、その心の水面を少女の自己が見つめている―――。








………。













………。



























「―――――。」
















………。



















<<サヤサヤサヤ……>>






木々の静かなさやぐ音だけが聞こえていた。


































=====================================================================


2018/08/26

加筆修正をしてます。もうちょっと家の描写だとか、盛り込んで、雰囲気作りをしたいと思いまして……。
描写を控えていたものや、追記をしておきたいもの、もう少し雰囲気が伝わりそうな描写…など、来週、体力が許せば手を加えて行きます。


2018/08/15
色々と細かい描写とか、かっとばしてるけど、ひとまずアップしておきます。後で、追記できればしたい所、いつも通り。
それと、No.669の記事の途中に、いくつかエピソードを挿入しておきましたので、良かったら見てください。
まだ、そっちの記事も雑だから、手を加えるかもしれないけど、時間にゆとりなさそうだったら、そのまま先に進めます。

2018/09/02

思いの外、挿入したエピソードが長くなったので、ダリアの家のシーンを次の記事に切り取って移動させました。
会話少なく、ポエムな描写が長く重い気がして、少し判断保留したく。ちょっと内面に干渉し過ぎかな?無理あるかな?と色々と考えつつつ、保留です。

追記:もう一度読み直して、これで良いかもしれないと思えたので、タイトルの修正中の表記をはずしておきます。タイトルは変えるかも?もうちょっと相応しい言葉はないかな……。


キャンドル・ナイト 2018/09/02/19:01:52 No.673  
語り手  E-Mail 
雑木林の中の遊歩道を歩いていると、ポツポツしていた家の感覚が狭くなり、軒を連ねていると言うには少し離れているものの、隣り合うような距離間で家が並んでいる所にやってくる。
森の中の村のような、その風景、そこに少女を連れて行く赤髪の女。
石造りの家が多く立ち並ぶが、その様式は先ほどの大聖堂の周辺や、遊歩道へと続く通りの都会的で洗練された様式とは異なった、何処か温かみのある雰囲気だ。

そう、まるで、妖精や魔女が住んでいる森の傍に相応しいような、竜が山々の上を飛び、騎士が遍歴の旅をする時代に相応しいような。
けれど、何処か、この都の様式を感じさせるような―――。


「もうちょっとだよ、ラピス。」

にっこりと少女に顔を向けるダリア。先ほどの静けさに満ちた野に咲く花のような微笑みとは異なって、今は何処かウキウキとした子供のような笑顔を見せている。
やがて、ラピスの視界には温かみのある赤い煉瓦の家や、黄土色の石壁の家が軒を連ねている所までやって来る。
遠くから、小川が流れているのだろうか?静かに水が楽し気な、はしゃぐような音を立ててパシャパシャと流れている音がする。
軒を連ねている家は、概ね、3階建てで、隙間なく拠り合って、直線ではない弧を描くようなカーブした道伝いに続いている。
時折、それらの建物に混じって、木造の素朴な作りの平屋が混じっていたり、蒼い色合いの屋根瓦の優美な装飾で美装した平屋があったりする。



「此処、私の家ね。借家だけど。」

ダリアは赤みがかった石壁の家……一階部分では都心で見られそうな今風の様式の石造りの建物なのだが…どういうわけか、二階部分に…中世騎士物語に出て来そうな、妖精か魔法使いが住んでいるような家が、のそっと上に乗っかっているのが見える。煙突付きの家で、時代錯誤感があるにもかかわらず、色合いが素朴で豊かで鮮やかな所から、それ程昔に建てたわけでもなさそうだが…。

「あの家、大家さんが倉庫に使ってるみたいなんだよね。中には貴重なものもあるから、取っちゃダメだからね、って言ってたんだよ~。」

にこにこおっとりと教えるダリア。穏やかで、母が子を優しく包み込むような話し方なので、まるで件の二階の家に童話の世界の住人が楽しく暮らしているのではないかと思うような雰囲気だ。
家々の背後にあるのは、月光に抱かれた生命息づく木々。それらを眺めていると、彼らは優雅さも、整然さもなく、混沌と枝葉を伸ばして、バラバラのポーズを取っているけれど、でも、彼らのおかげでこの辺りの空気はとても清浄で、空気がとても美味しい。なんだか、彼らは伸び伸びと育って、とても元気そうに見える。

まるで手付かずの森の中のように静寂としていて、微かに虫や鳥の鳴く声が聞こえて、それが、とても心を落ち着かせる。
空気がとても澄んでいて、呼吸をしていると、頭が清水のように冴えて行く。

こういう場所は、体を鍛える事にも、勉学をする事にも向いてるように思える。

そして、余生を静かに過ごすして、命の終わりを迎える事にも―――。









「うふふ…♪ちょっと、恥ずかしいな~。」


玄関トビラ――可愛らしいクッキーのような質感で、シンプルなライン模様が入った――そんな扉の錠に鍵を差し込みながら、今更ながら照れくさそうに笑っているダリア。
瑠璃色の少女が、何かしら元気な受け答えをすると、ますます照れくさそうに「うふふふ~♪」と、照れ照れと笑みを深めながら、少女に柔らかく楽し気に細められた眼差しが向けられる事だろう、

「じゃあ、入るね~♪……。いらっしゃい。ようこそ私の部屋へ♪」


はにかんだ笑顔の女は、まるで小さな可愛らしい女の子のよう。
内に秘めた小さな、小さな宝物を友達に見せる時のように声をうきうきと弾ませて。
まるで、毎日毎日、コツコツと書き溜めた物語を、友達に読んで貰う時に見せるような、
そんな気恥ずかしさと、嬉しさが入り混じったようなそんな表情が、
宵闇の中、明るい月光が浮き上がらせていた―――。

















ダリアは火打石を打ち付けて、手燭に火を灯す。
火の精霊サラマンデルは、ロウソクの灯の中で歓喜を上げて踊り上がり、火の元素もうねり踊る。
最も、普通の視覚では、蝋燭に火がついただけだし、ただ明かりが暗い部屋に供給されただけなのだが、この手の感覚を発達させた者にはそう感じられる事だろう。
赤髪の女は明らかにそういう感覚を持っている者らしく、ロウソクの火の見て、微笑みを深めて「こんばんは。」と声をかけている。
そうすると、ますます火の霊気は力を増して、サラマンデルは嬉しそうに鳴き声をあげる……―――。物理的には、何も変化は見られないので、普通の人には、気のせいかな、という程度の変化なのだけど。


部屋の中は明り取りの窓があるらしく、そこから月明かりが燦燦と注いでいて、部屋の奥の様子を静かに浮かび上がらせている。
窓辺には簡素な木のベッドが月明かりに照らされていて、シーツの白色を浮かび上がらせている…キチンと洗濯されているもののようだ。
その手近に観葉植物がぼんやりと鉢の上から、瑠璃色の少女を見つめ返している。
都会のもやしっ子の男の子みたいに華奢な姿なので、大自然の中の力強い野性味はないものの、彼は彼なりに元気にしているらしく、「やあ」とでも言わんばかりの和やかな空気を少女に対して醸し出していた。

ベッドの近くの窓の辺りに机と棚があり、机の上には書きかけの書類や、メモのようなものが何枚も置いていて、まるでトランプの山をかき混ぜたような惨状になっていて、部屋の中心のテーブルには書類の山が二つほど、こちらは丁寧に揃えて山になっている。
ラピスがそれらを眺めると、ダリアは「うふふふ…♪」と誤魔化すような笑みをこぼしているが、やっぱり、何処か楽しそうだ。
棚の一段目には、熊のぬいぐるみと、おめかしした女の子の人形が一つずつ、仲良く寄り添って座っている。
棚の二段目には、デフォルメされたヒヨコが元気にポーズを取っている絵が表紙の本…漫画?…が数冊…無造作に立てかけられてたり、斜めになってたり、横倒しにパタンと倒れてたりしている。

部屋の右手の壁際には、タンス類や櫃類が大きな収納BOXよろしく並んでいて、どれも錠がついているのが目に付く。
錠について言及されると「油断すると、盗難に遭うから、取られそうなものは片っ端から入れて出かけるようにしてるの。」という返事が返って来る。
「もっとも、滅多にある事じゃないけどね。都心に比べたら、ここは安心できる方よ……。」やや、ぼんやり気味の表情で呟くのは、何か明るくはない物事に想いを巡らせているからかもしれない。

左側の壁際には、暖炉があり、カンバスが立てかけられていて、そこには色彩豊かに何か図面のようなものが、子供が喜びそうなクレヨンで描いたような素朴で安心感のある感じ、ほっこりとした感じで描かれている。
壁際には幾つか扉があり、炊事場や水場、トイレ等に通じているらしい「取り換え式の壺が便座にあるから、時狭間の世界程じゃないにせよ、便利だよ。」等と話し出す。「ただ、回収に回って来る業者のオジさんが妖精さんに見えたから、妖精さんですか?って聞いたら、すごい顔されちゃったけどね。」そう言って、ふうと溜息をつくダリア。「怖い顔でショックだった…。」等と額を寄せて溜息をつく様はあどけない子供のようでもあり、感情を穏やかに表現する事が出来る落ち着いた大人の女性とも見えるかもしれない。









「さてさて、もうちょっと明るい部屋にしようかしら?せっかく、素敵なお客様が来てくれた事だしね。…防犯を気にしなくていいのなら、もうちょっと可愛い部屋にしたいんだけどね~。」


何気ない調子でそんな事を言いながら、ダリアは手燭をテーブルに持っていくと、手近な櫃の鍵をガチャリと開けて、重そうな蓋を、ギィィィ、と重々しい軋みを響かせながら持ち上げた。「よぉいしょっ。」それから、何やら鼻歌などを「フフフ~フフ~♪」と歌いながら、なんだか楽しそうしながら、櫃の中に頭と身体を半ば突っ込むようにして覗き込みながら、ガチャガチャとやり始める。

「えーとー、これ、とこれ、と~ぉ……。」

無造作にヒョイヒョイと可愛らしいミニチュアサイズの切り株みたいなキャンドルを次から次へと取り出しては胸元に抱えて行く。…それは、赤、緑、黄色、青、紫、オレンジ、アイボリーと、様々な色をしている。

「ふんふんふ~ん♪」

キャンドルを取り出してる間も、始終笑顔を容易く事無く、鼻歌をハミングさせたりして、…本人は無意識にやっていて、気づいていないようだが…楽しそうに次々とキャンドルを、胸元に両手でいっぱいに抱え込んで、テーブルの方へとカチャカチャとそれらを鳴らしながらやってくる。
そして、そのたくさんのカラフルなキャンドルを、テーブルの上にトン、トン、トン、と軽やかな手つきで一つずつ並べて始める。
切り株みたいなもの、円柱のようなもの、切り株のようなもの、色々な形と長さのキャンドルが並べられて、テーブルの上は色々な色で賑やかになって行った。

「うふふ。あなたと出会った特別な夜だから、たくさんのキャンドルで素敵空間にしてしまいましょう。」

嬉しそうで楽しそう。そんな笑みが絶えないダリア。
優しい笑顔は湧き水のように止めどなく溢れてきて、手燭の灯がそれを優しく浮かび上がらせている。

「らいとあーっぷ☆」

おっとりとした調子で、明るく元気に声を弾ませて。それから、うきうきとした様子で大きく息を吸い込むダリア。
すると、瞳は半ば閉じられて、月のような柔らかな光に満ちた半眼になり、口元には謎めいた柔らかな微笑に満たされていく。
あどけない声で詠唱が始まるが――。


「えり、えり、えりある、すぴりとぅす♪」

だんだんと、その声は非現実的で幻想的な色合いを帯びて行く――心を高鳴らせ、それでいて夢の世界に誘うかのような、優しく透明な声――。


エリ・エリ・エリアル・スピリトス
(元なる、元なる、元素なる霊よ。)

エリ・エリ・エリ・エリ・エリヤル・スピリトゥス
(元なる、元なる、元なる、元なる、元素なる霊よ。)

アニエース・パネトース・ローザンナ・プェルファー
(母なる魂の優しさと愛で作ったパンを捧げましょう。)

ヴィ・パネトース・ムエリカッ・ヴァリズィン
(命のパンで作った橋を渡って。)

クウェッサ・サーナル
(私は呼ぶ。導く。)

ブローディア・ブローディア・エリアル・エリアル・スピリティヴス
(喜び給え、喜び給え。元素の、元素の霊たちよ。)




ダリアは夢うつつのような幻想的な半眼で、何度か詠唱を繰り返している。
すると、手燭の炎が明るく輝き出して、何か目には見えないものが活気づいているように見える。そして、瑠璃色の少女の皮膚とは違う身体の何処かの部分に何か熱のようなものが波打つように何度か感じられた。
一方でダリアの表情は明るく輝いていて、まるで光に満たされているかのような恍惚とした表情を浮かべている。
それから、キャンドルの上の中空で、透明な何かが渦巻いているかと思うと、手燭のロウソクが唐突に伸びあがり、まるで渦巻く透明なる何かを喰らいつくすように次々と燃え上がり、小さな火の渦を作った。

「さあ、火を灯して、火のスピリットたち。」

表情を神秘的なまでに輝かせた赤髪の乙女が、詠うように命じると、火の渦は渦巻くのをやめて、小さな灯が押し合いへし合いするように、色とりどりのキャンドルの上を回り、火を灯して行く。
全てのキャンドルに火が灯れば、火の渦は霞のようにふわりと消えて行ってしまった。
すると、赤髪の乙女は、息をついて、それから、満足気な笑顔を零して。

「ふーぅ…。うふふふ…♪完璧だね~♪」

得意げな顔で、ラピスにピースサインを作って見せてにっこりするダリア。「すごいでしょ?」と、にこにこと嬉しそうに瑠璃色の少女に言う様子は先ほどまでの神秘性は微塵にもなくなり、楽しそうで明るい様子に戻っていた。
色とりどりのキャンドルの光で、部屋の中はすっかり明るくなり、部屋の様子もより明らかになってゆく。
すると、部屋の中の様子が、もっとよく見えるようになる。




○ 暖炉が気になる

キャンドルの灯の群れに照らし出される使い古された石造りの暖炉。しっかりと手入れもされて綺麗なものだ。でも、綺麗なのは掃除のおかげでだけでも無さそうで、暖炉の上部の辺りの石が何処か色鮮やかで綺麗に切り出したか、焼き上げたばかりのような石材だ。
細長いスリットがついていて、そこには丈夫そうな板が差し込まれているが、これらもあつらえたばかりのように色鮮やかで欠損がない様子。つまり、とても新しそうだ。

「ここね。ちょっと、工事して貰ったの。使っている時は炎の上昇気流のおかげで雨とか降っても平気なんだけど、今の季節みたいに使わない時期とか雨が中に入って来て、ちょっと不便だったから。雨漏り防止用のシャッターを取り付けて貰ったの。」

そして、うふふ、と、嬉しそうに笑いながら。「暖炉が家にあるのって、便利よね、やっぱり。」なんて言っている様子は、何処かしみじみとした空気を醸し出していた。


○ 棚の人形やぬいぐるみが気になる。

「可愛いでしょ?」

ダリアは棚から、クマのぬいぐるみと、お人形の女の子を手に取って、部屋の中央の丸テーブルまで持ってくる。

「むぎゅむぎゅして癒されるけど、実は、念力の魔法の練習用だったりするのよね。」

くまのぬいぐるみを、後ろからむぎゅーっと抱きしめながら、ダリアは話し続ける。

「こないだ、近所の子供たち相手に、人形劇ごっこしたの、念力の魔術でね。なかなか楽しいし、いい訓練にもなるよ。念力で人形を二つ動かしながら、台詞を楽しくお喋りしないといけないからね。」

ラピスが大いに興味を示すなら「…。ちょっとやってみようか?」と、にっこりとしてから、テレキネシスの魔術を準備する。
そして、ダリアが呪文を唱え、夢の中に出て来る天使のような謎めいた半眼になりながら、両手をお人形に翳すとめかしこんだ女の子のお人形さんが、カッチャカッチャと、音を立てながらテーブルの上を歩きだし、スカートの裾を持ってくるくると回って、踊ってみせる。操り糸の類は見られない、本当に念力で動かしているようだ。
ラピスが喜んでくれると、ダリアは嬉しそうに口元を綻ばせる。



○ ヒヨコの漫画が気になる。

「あは♪これ流行ってるんだよね。絵本なんだけど、台詞とか説明とか無いから、見てて楽しいし、なんだか癒されるの~♪」

ダリアは数冊持ってきて、そのうちの一つをラピスに渡す。
パラパラと本をめくってみると、つぶらな瞳のデフォルメされたヒヨコが、フライパンで目玉焼きを焼いていて、ひっくり返そうとして頭にポーンとまちがって乗せて、すごい大騒ぎしたり、元気にヒヨコ友達とフットボールしたり、騎士の鎧を着て騎馬試合をしたり、ニワトリの博士がすごい実験をしたり、友達の黒猫さんに愉快な悪戯をされて騒ぎながらダンス…ではなく、慌てて悪戯から逃げようとしているらしい……と、そのような感じの、子供が喜びそうな内容になっているのだった。

「これ、大人が見ても面白いんだよね。なんか、癒されるというか、ほっこりするというか~…。」

そう言いながら、自分もパラパラと一冊手に取って眺め始めるダリア。
しばし、二人は漫画で癒されてしまうかもしれない。



○ キャンバスがあるけど、絵を描くの?気になる。


「ああ、うん。仕事の説明に便利でね~。地図とか、依頼人の要望だとか、色々とわかりやすく説明したり、みんなに把握して貰うのに便利なんだ~。」

そう言うと、机の方に歩いてくと、何枚かの紙を持ってきて、ラピスの前に差し出して置いた。
そこにはクレヨン画のなんとも暖かみのあるタッチで描かれた魔物の巣や、廃墟の図面が描かれていたり、依頼の内容が時系列順にほっこりクレヨン画でフローチャートされていたりと、白黒画と比べて格段に目が惹き付けられて、見ていて楽しい資料になっている。

「後は、魔術の本の内容とか、抽象的でわかりづらいなって思ったら、絵にしてみたり。」


示した紙に書かれているのは、銀河と銀河が結婚する様を王子様とお姫様に喩えて描きだしてみたり、魔術の発展図を樹木の絵に喩えてみたりと、何やら複雑な概念が入り乱れているであろうものが、一枚絵で把握できるようになっている……らしい。知識が無い者が見ても、多彩なアイコンやシンボルは可愛らしいし、絵も眺めていて楽しいかもしれないものの、その意味する所はあまり理解できないだろう。
とは言え、これを描いた目の前の本人に聞けば「あ、これはねぇ…。」と、丁寧に教えてくれる。あまり、この手の話をする相手もいないらしく、ずいぶんと熱心に話をしてくれる。
「これは原初の”閃光”から万物が生まれる過程を図にしたもので、原子よりもさらに最小の物質や、元素…それから、元素になる前のトリニティ・ファクトと言うものがあって…。」うんぬんと、興味さえあれば、なかなか聞きごたえのある素晴らしい内容を語ってくれ、この世界の神秘学を少し知る事が出来る。


と、話題に事欠かない様子でラピスさえ飽きないのであれば、ダリアは色々なモノを見せたり、話をしたりしてくれる。
もちろん、ラピスが話したい事があれば、熱心に聞いてくれる。
一緒に過ごす時間が幸せなのか、常にダリアは笑顔を絶やさず、感情豊かにリアクションをしてくれて、暖かな時間が過ぎていくだろう……。


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2018/09/02

色々とブッた切ったり、エピソードを入れたり、言葉を足したり色々弄り中で今週は終了……。
イシルウェン登場の辺りは一旦、ひっこめておきます。
ダリアの家を絵に描いてみたり、洗濯槽を図に起こしたり、と、色々とやってるうちに、辻褄が合わなくなったり、無理があったりと、色々と発覚したので、ちょいと、時間かけて考え直してみます。

それにしても、幼稚園児~小学生ぐらいの女の子の描写って、思いの外、よくわからないな……とか、そんな事に行き詰まる獅子ノ座なのです。
結構、やってみないと、わからない事って、たくさんあるものですね。



2018/09/09

冒頭から二段落目辺りから、ダリアがキャンドルを取り出すシーンの手前ぐらいまで、加筆修正を行ないました。

2018/09/17

記事の半ば辺りから色々と手を加えました。「防犯を気にしなければ~」の辺りから。
部屋の描写に暖炉について記してなかったので、修正するか、何処かにそれとなく描写に織り込むか、画策中。
文章の流れが硬いと感じたので、今回も無理に先に進めない事にします。

2019/01/06

全体的にボリュームを上げたり修正したり。完成まであと一息?


2019/02/10

「さてさて、もうちょっと明るい部屋にしようかしら?」の台詞の前を改行して、シーンの区別を図ってみたり、暖炉についてから始まる部屋の様子のくだりを、色々と書き換えたり書き加えたりする。


シルヴァ―エルフと働き者の主婦 2018/09/24/18:07:55 No.674  
語り手  E-Mail 
部屋に中で色々とやってると。

扉から気配。じーっと、白銀の美しい長髪の女が、首だけ扉から出して、ジーッとラピスを観察している。
耳が長く、尖がっている。

「あ、イシル。ただいま~。」
「ダリア、おかえりなさい。……その子は、ヴェジタリアンなの?」
「ううん?普通の子だけど……。」
「……ご飯は?」
「食べて来た。」
「………。そう。じゃあ、明日。」
「ん?」
「明日は、私と、料理してね。」
「あはっ、ごめんごめん。そんなに距離ないし、一声かけに来れば良かったね。」

ルッチラおばあちゃんの件を話すダリア。

「……。」

すらりとした華奢な体の白い装束を纏った女性。ダリアより年下のように見える。つまり、少女から大人になったばかりのような。
この女性は淡々とした顔で、ダリアの話を聞いていて、それから無言でラピスを見つめている、
ところで、耳が長い事に言及すると。

「私はレーゲンヴァルトのクウェリム族だから。…分かりやすく言うと、エルフ。」

と、尋ねられればきちんと答えてくれる。
その調子で気になる事を質問するなら、丁寧な答えが返って来る。
レーゲンヴァルト?クウェリム族?などと反応するなら。

「レーゲンヴァルトはレーマの中でも最北にある森……。知らないのも無理はない。クウェリム族はそこで暮らしている。…私たちにとっては当たり前の事だけど、人間のように老い患う事なく、妖精や精霊たちと一緒に暮らしている。」

と、簡単に説明をしてくれる。
答え終えるとまた、じー、とラピスを見つめて来る白銀のエルフ。幻想的な美しさがその表に浮かんでいる。まるで月が在るがままで美しく自然なように、このエルフの表情の肌は白く、美しく、しかもそれが作られたものではない自然物のように見える。

しばらく、そうしていると、そろそろ頃合いと見たのか、にこにこと黙って見守っていたダリアが口を開いた。

「ラピス、イシルは大家さんなんだよ。色々と親切にしてくれるの。ご飯の御裾分けとかしてくれたり。」
「ヴェジタリアン愛があるダリアには私はいつでも御裾分けしたくなるからね…。今日は一緒に料理してくれたら良かったのに。」
「ごめんごめん…。」

ダリアは申し訳なさそうな笑顔で謝りながら、華奢な銀髪のエルフに横から抱きついた。とても仲が良さそうだ。イシルウェンは淡白な表情を少しだけ緩めて笑みを浮かべている。

「いいよ。そんなに気にしてるわけじゃないから。でも、今度また一緒にお料理しようね。」
「うんうん♪明日は大丈夫だから。」
「そう。なら、明日お料理しようね。」
「うんっ、じゃあ、明日ね!」

ダリアは銀髪のエルフにギュウ~と抱きしめて、笑顔で高らかにそう言った。イシルウェンは「ダリア、嬉しいけど、ちょっと苦しい。」と、淡々とした表情を微かに綻ばせて、仄かな笑みを見せた。「えへへへ~♪」と、あどけない顔に子供っぽい声で笑ってるダリア。「イシルはいつも、いい匂いしてるな~。」「ダリア、嬉しいけど、私、この子に挨拶がしたいな。」等と、そんなやり取りの後――。





「ダリアのお友達なら歓迎します。私の名はイシルウェン・リル・クウェリム・エッラ・フェアリンゲン。」



銀髪のエルフの女は、ダリアからようやく解放して貰うと、ラピスの目の前に立ち、右手を白い装束に包まれた胸に当てて、ふわりと綺麗で柔らかい御辞儀をした。それは宮廷風の格式っぽさよりも、幻想的で、とても自然で、胸がときめくような美しい所作だった。
ダリアよりもさらに華奢そうな身体つきで、ダリアと同じぐらいの女性にしては少し高めの背丈、顔に浮かぶ表情は無表情と言うよりは、素の顔と言う方が近いかもしれない。まるで白い月があるがままに輝いてるかのように、イシルウェンの白い顔は輝いていた。



「長いから皆にはイシルって呼んで貰っています。…。よろしくね。」

白銀のエルフの乙女は、淡々とした喋り方でそう言うと、手を差し伸べて来る。握手がしたいようだ。
握手をすると、繊細な手つきだけど、きゅっ、と力を込めて握手される。握手できると、イシルは仄かに嬉しそうな微笑を浮かべた。その表情は淡々とした一見とは裏腹に豊かで瑞々しい感情を持っている事を垣間見せてくれる。

「ねえ。ダリア、この子、いい子なのね。」
「あ、わかる?」
「わかる。シルフたちが喜んで通り過ぎて行けそうだから。」
「あ、わかるわかる♪」

ダリアとイシルウェンは、どうやら、ラピスの雰囲気が風の精霊などが嫌がるような重苦しさがなく、軽やかなで清々しいものを持っている、と感じているらしい事を説明してくれる。


「都会の邪(よこしま)な空気に毒されてないのね……。今時、貴重な子ね。」
「うんうん♪ラピスは山育ちみたいだから、なんでも雪山で親と過ごしてたみたいで……。」
「寒そう。でも、フェアリンゲンも寒かった。食材も少ないし、それに比べて此処エレンディアは食の宝庫……お野菜料理の作り甲斐があるわ。」

「ラピス。ちなみにフェアリンゲンはね。北のアドナ山脈を超えた先にあるレーマっていう帝国にあるの。ちなみにさっきのエリゼさんも同じ帝国の出身だね。エリゼさんはニームヴェルグの出身だけど、イシルはもっと北の地方の人。フェアリンゲンは帝国を横断するフェアル川の川沿いにあって、レーゲンヴァルトっていう古くからある森のある自然が豊かな地方なんだけど……。」

「私たちは平気だけれど、人間たちはとても寒がってる……冬は長くてたくさん雪が積もるけれど、空気が澄んでてとてもいい所…。あそこは寒いから、あたたかいこちらに比べてお料理に使える食材も限られてるけれど……。でも、その分、綺麗なものも見れる。雪が降る季節はフェアリンゲンは全てが白い雪に包まれてしまう。全てが白に埋もれて、動物も人間も雪解けを静かに待つ……だから、とても静かで、とても素敵な事。……耳から入る音も静かで心地よいけれど、全てが白くて、静かで、目に映るものも静かで心地よいから。」

―――イシルウェンは続けてこう語る。

動き回る生き物たちは息を潜めて自分の住処に引き籠り
街や村も、色とりどりの建物すべてが舞い降りる粉雪の白に覆われていく
たくさんの色や音が消え果て、全てが停止してしまったかのような感じ
そうなると、胸に想いたくなるのは、遠い、遠い、空の彼方の事
それから、始まりもなく終わりもない、永遠の時間。
クウェリムのエルフたちは、皆、この静寂を楽しみにしている。
果てしない事、永遠なる事を思うことは、どんな歌やダンスよりも…心を…嬉しい気持ちにしてくれるものだから―――。

そう淡々とした調子で語ると、この白銀のエルフは「何もない事、自然が在るがままの場所、静寂は、隠された幸せに目を向けさせてくれるもの。」と、その声には込められた感情が淡過ぎるように思える声だけど、それが美しく透き通るような声音になっていて、それはこのエルフが、この自分の知る嬉しい何かを誰かに伝えたがっていることが、そんな想いが滲み出ているのかもしれない。
そして、イシルウェンが言葉を切ると、すぐにダリアはとびきりの笑顔で喋り出した。

「あ、わかるわかる!静かな所って、自分を見つめたり、普段、考えないような事を考えるのに、すごく向いてるもんね!」
「乙女心ならぬ、妖精心がわかるダリア……。合格。」
「え!わぁい!ありがとぉ~。」

イシルウェンのテンションは上がらず一定なものの、ダリアとこうして他愛もなくお喋りしてる様子は、なんだかとても楽しそうだ。
白銀の美しい髪のエルフの乙女から合格を賜り、両手をバンザイさせて、笑顔で喜んでるダリア。
そんなダリアを微かに口元を緩めて見守るイシルウェン。そこへ……。


「あ!お姉ちゃん!おかえり~!今日はお仕事大変だったの~?」

カゴに畳んだ衣服や下着を詰めた若干肉付きのよい女性が扉から顔をのぞかせている。
波立つ黒髪を後ろで結んで縛り、豊かな唇と、パッチリとした瞳がチャーミングなおばちゃんと言うには若々しいオーラの三十路っぽい女性が飛び切りの笑顔で入って来ると、ダリアはバンザイをやめて「きゃ~~~♪」と歓声をあげながら、胸の前で両手をパタパタと勢いよく振り始めた。

「モリリーン☆あ、ちょっと寄り道してたの~。」
「あ!お客さん?わ!イシるんまで!」
「可愛い呼び方をしてくれて今日もありがとう。」
「あはは、うん、友達、今日お泊りに来てもらって。」
「えー!お風呂入る?」
「うん、おねがーい♪」
「洗濯物は置いておくね!あ、前払いのお金、そろそろなくなるから、忘れないでね!」
「うん、ありがと~♪」


そのような感じで、ポンポンポンッとすごいテンポで会話が進んで行くのは、女子の集まりに見慣れているのなら、特に目新しいものでもないかもしれない。
とは言っても、
イシルウェンは仄かに嬉しそうに頬を緩めている。どうやら、イシるんと呼ばれて喜んでいるようだ。
この白銀のエルフは人間の二人の女子たちが明るくきゃあきゃあしているのに対して、平坦な様子で、それ程大きくない声……だが、透き通るような声で、良く通る声…で話をしている。








「あたし、ビアンカって言うの。ダリアの家の隣に住んでるの。よろしくね!」

イシルウェンのように握手……ではなく、両手を広げている。ハグしたいらしい。
ラピスが受け入れてくれるなら、ぎゅっっと抱きしめてくる。とても暖かい感じがして、挨拶のための型通りの抱擁ではなく、エネルギッシュなくらいの愛情が熱を持って伝わって来る感じだ。

「ビアンカさん。私が忙しい時に、掃除でも洗濯でも、お風呂でもなんでもしてくれて、とても、助かってるの……。」
「独り暮らしだと、大変だもんね!私はお小遣い稼げるから、毎日頼んでくれてもいいのよ~!」
「ありがとう~。でも、毎日頼むと、貯金できなくなっちゃうからね~。お風呂は毎日でも入りたいけど。」
「いつでもどうぞ~。子供たちも喜ぶしね~!それで、お姉ちゃんは今から入る?もうお風呂に入れるお湯を沸かそうと思うけどー。」
「あ、入る、入るよ~!ラピスも入ろう!」


そうして、拒まなければ、お風呂に連れて行かれるラピスだが、質問があれば、答えてくれる。

――。お風呂…とは?

「ビアンカさんの家、毎日、おっきい洗濯槽を使ってお風呂を作ってくれるから、いつもお金払って入れて貰ってるの。この都には公共浴場もたくさんあるけど、ちょっと、ここからだと遠いしね。」
「うふふ。お姉ちゃんと一緒に入りた~いって、ウチの娘たちも大騒ぎだから、いつでも歓迎よ~。」


――。お姉ちゃん、とは?


「あたしはあだ名つけて呼ぶの好きだからね。ダリアちゃんは、ダリりんかお姉ちゃんで、イシルウェンはイシるん。」
「お姉ちゃんです。」

にこぱぁ~っと、嬉しそうな笑顔でゆる~っとした動きでバンザイをするダリア。「わーい♪」と、声を弾ませて、誰から見ても喜んでいる。

「イシるんです…。」

ほとんど表情を変えないイシルウェンだが、右の人差し指がさりげなく胸下あたりでピースを作っている。淡々としているようで、実は喜んでいる?というような、飄々とした感じ。

「ダリアちゃんは、家の娘たちのお姉ちゃんみたいだから、お姉ちゃんって呼んでるのね。とっても言い易いしね~♪」
「うれしいな~♪」
「ラピスはラピすんがいいかなぁ?可愛いし、とっても似合ってると思うけど、どうかな~?」

嫌がられなければ、ラピすん!よろしく!と、以後、ラピスの事をラピすんと呼ぶようになる。
それから、自分の事はモリリンと呼んでもいいよ、と笑顔で自分を指さした。

ちなみになんでモリリンと言うのだろう?と問われるなら、こう答える主婦の姉さん。

「モリモリはたらくエライ子だからね~。」

モリリンことビアンカは、お日様のように明るい笑顔で自分の顔を指さした。
きっと、それは、自分の娘たちにも向けられるだろう、屈託のないそれで―――。









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2018/09/24

前回投稿した時と変更はなし。これで完成でもいいかもしれないけど、見直す時間はないので、保留。

2018/10/14

イシルウェンの顔の描写を少し修正しました。前半の「長いから皆にはイシルって呼んで貰っています。…。よろしくね。」の一行前の描写を少し簡単で分かりやすい言い回しにしました。


2018/11/04

台詞と台詞の間の感覚を一行空けていたのを縮めて、台詞と台詞の感覚を詰めました。こちらの方が賑やかな感じが伝わりそうなので。
お風呂の準備、支度が整うまで和気あいあい。 2018/09/24/18:14:18 No.675  
語り手  E-Mail 
「着替え持って~。」
「お風呂セット持って~。」
「あ、ラピスの着替え、モリリンどうしよう。」
「わたしにまかせなさ~い♪」
「わ~、ありがとぉ~♪」
「モリモリもりりん、お安いごようだゼ~♪」
「わぁい♪わぁい♪」

ラピスは櫃BOXの頑丈そうなカギをガチャリをあけて、ダリアが頭から櫃に身体を突っ込んで、お風呂セットをゴソゴソやっているのを眺めている。
ダリアがはしゃいだ声で何かを言うと、癖っ毛の黒髪を後ろに束ねたビアンカが合いの手を楽しそうに入れながら、きゃあきゃあと楽しそうにしていた。


「二人とも可愛いね。」


それを淡々とした顔で眺めてた銀髪のエルフが、平坦そうな…非常に薄味の暖か味は感じるが、非常に解りづらい…声で二人を褒めると、大喜びして、きゃあきゃあと喋る声がさらに大きくなる。

「やったぁ。褒められた~♪」

「やった!まだまだイケるねあたし!」

ダリアは櫃BOXからお尻と脚だけ見せながら、ふわふわとした調子で。ビアンカはその横で元気いっぱいにガッツポーズをして、イエス!イエス!と大喜びした後に、イシルウェンに晴れやかな顔で振り返り、ササッと親指を立ててサムズアップをした。
エルフの娘は、それを、ジーッと見つめた後、サッと親指を立てて見せた。ビアンカはそれを見て、にま~っとしている。


「ラピすん!ウチのシュミーズ貸したげるから、その服は洗濯しとくよ!」

頭ごと櫃BOXに突っ込んでお風呂セットを「あーん、何処だろーぉ。」と、気抜けた声で言いながら、ゴソゴソ探してるダリアを放っておいて、ビアンカが元気をハツラツさせながらラピスの目の前にやってきた。
とても、元気がいっぱいだ。

「ところで、お姉ちゃん。早くしないと、可愛いお尻をパンチラさせちゃうぞ、モリリン。」
「それはだめ~。」
「じゃあ、おしりペンペンしちゃうぞ、モリリン。」
「それもだめ~。」
「じゃあ、脇をおりゃぁっと…。」

ビアンカがダリアの両方の脇の下に腕を豪快に突っ込むフリをして見せていると、イシルウェンがそっと寄ってきて。

「やめてあげて。それやって、また櫃の中に頭から落ちたら、大変だから…。」
「っっ!あっはっは♪あの時のお姉ちゃんすごかったもんねぇ!」
「そう、あれは悲惨だから、やめてあげた方がいい……。」
「でも、あの時のお姉ちゃん可愛かったから、ちょっとモリリン、そそられるゾ?」
「い~や~~。」

そんな風に、キャンドルたちに照らされる部屋の中で、わいわいやっていると、

「ダリア、よっぽどあなたの事が大好きなのね…。」

イシルウェンが不意にラピスの傍らに来て囁きかけるような声量で言う。それは淡々としていて、なかなか感情らしいものを見つけ難い。
ラピスが不思議そうな反応を示すと、感情の薄い柔らかな表情のまま、ぽつぽつと言葉を続ける。

「たぶん、あれはとっておきの石鹸を探してるのね。いい事でも悪い事でも、何かあると、ダリアは良い石鹸を使いたがるから。」

銀のエルフの女は、まるで月のような変化に乏しい、静かで美しい顔をラピスに向けている。
夜空の浮かぶ月の大地に立てば、このような殺風景で飾り気のない、静かな景色なのではないかと思う程に冷涼としているものの、このエルフの娘と近くで顔を合わせて見れば、仄かに柔らかい瞳をラピスに向けている事に気付ける。
話し方も淡々としているようで、何処か優しく心の波立ちが静まるような、まるで、静かで平和な森の中のような、人間の虚飾の全てを排したような、飾り気のない穏やかな景色のような声。

「きっと、あなたの肌を綺麗にして、ふわふわにして、喜ばせてあげたいのね。」

言葉を続ける銀のエルフ。

淡々と、淡々と、静かに言葉を紡ぐ。

「今日はダリアの石鹸に綺麗にしてもらいましょうね。ラピス。」

淡々と、淡々と、仄かな微笑みを浮かべる月(イシル)の娘。

イシルウェンの優しい表情は、月の輝きのように、瑠璃色の空を照らしていた。

眠りにつく前に、

心も体も洗い流す事が出来るのなら、

一日の疲れと穢れを落とし、安らかに床につくことが出来たのなら、

平和な眠りがやって来る。

それは、きっと、あなたが迎える明日を。

幸せで、安らかなものにしてくれるはず。






月(イシル)の娘の言葉は、瑠璃色の空の心の水面に、一つ、一つと、水滴のように落とされて行く。
まるで、幾星霜の長い沈黙の時が生み出した、静けさと安らぎの結晶のような、ひとつひとつ紡がれる言葉は、少女の興奮や、不安や、焦燥や欲望を鎮めてくれるかもしれない。
そして、刺激もなにもない、平和な永遠の中に抱かれて、眠り続けるような生き方を、一瞬だけ垣間見せてくれるかもしれない。
木々の合間から見える天の河の輝きや、柔らかな風、木漏れ日や、清浄なる森の大気に包まれた、平和な世界を――――。









「あー♪♪あったぁぁ~~♪♪」

ふわっふわになって溶けてしまいそうな嬉しそうな声のダリア。ようやく探しているものを観つけたらしく、櫃から頭を上げる。

「これがないと、始まらないからね~。」
「お!それは何処の石鹸かな?」
「ガッレリアで買ったゼノヴィア産のオリーブオイルの石鹸だよ~。ええと、フェリシスカ&マッツェイ社の……チット・ディ・パンナ村のマリエッテおばあちゃんの……。」
「ぶっっ。」

思いの外、ダリアの答えが細かかったので、思わずビアンカは吹き出して、お腹を抱えて笑い転げた。

「あははははははは。……はぁ、そこまで覚えてるなんて、記憶力いいねお姉ちゃんは。」
「マリエッテおばあちゃんの石鹸、お気に入りだからね~♪」
「へぇぇ~~♪ゼノヴィアの石鹸かー。柔らかそうだけど、それは型崩れしないヤツなのかな?」
「うん。しないやつ。」
「でも、香りはキツい?」
「これはフルーティーな品種だから、あまぁい。」

ダリアが少女のように瞳を閉じて、とろけるような甘い声音で喉を振るわせて、恋する乙女のように可憐な仕草で首をフルフルする仕草をして見せると、ビアンカは朗らかに笑った後、イケメンの貴公子が愛を囁くような声で「トレヴィアーン。」と、色っぽく言って見せた。

「ぶっっ…。」

今度はダリアが吹き出して、咄嗟に両手で口に手を当てて、身悶えするように笑っている。
ビアンカは大いに満足そうに「ふっふっふっふ♪」と、得意げに含み笑いしている。

「それ、こないだの”ピュリの街角に恋をして”の真似?」
「うん。先週、また見に行きました。」

ビアンカはにこにことピースサインをしている。それをイシルウェンは淡々と眺めた後、口を開いた。

「ダリア。モリリン、その劇を見て帰って来てから、何回も、その声真似をするの。」

淡々とした調子でイシルウェンは言葉を美しく紡いだ。淡白ながらも、微笑ましそうな雰囲気。

「真似してるのはモリリンさんだけじゃないよ、他の女子たちも、みんな真似してるよ!…――トレヴィアーン。…って。」

ビアンカは再びイケメン・ヴォイスを頑張って作って、クールで甘い声音を出している。ダリアはまた口元を両手で押さえて、身悶えするように笑いを堪えている。

「すごいね。ブリランティ市の全ての井戸端、針子仕事場、機織り工房、製麺所や、教会のミサで、その台詞が囁かれているのかもしれないね。今頃、きっと。」
「あははは!」

琴を爪弾くように言葉を美しくも淡々と紡ぐイシルウェンの台詞にイマジネーションが沸いたらしい、ビアンカは大いに笑った。
つまり、井戸端会議をするおばちゃんたちや、新妻たちが「トレヴィアーン」と言い合い、針仕事をしている女性たちの間でも「トレヴィアーン」という言葉が囁かれ、機織りしながら働く女性たちが「トレヴィアーン。」と囁きながら仕事に精を出し、パスタ職人の女性たちが芸術的な形のパスタを作りながら「トレヴィアーン」と甘く囁いている。そして、教会のミサが始まる前に、女性たちがひそひそと「トレヴィアン」「トレヴィアーン」と小声で言葉を交わして、くすくすとやっているわけだ。

そういう諸々の事を想像したのだろう。
ビアンカと、ダリアはお腹を抱えて笑ったり、チェストにしなだれかかりながら笑いを堪えたりした。
イシルウェンはそんな彼女たちを素の表情で…それでも和やかに…眺めた後、瑠璃色の少女に顔を向けて、こう言った。

「――――。トレヴィアーン。(―――。とても素晴らしいよ。)」

胸に手を当てて、瞳を真摯に真っ直ぐ少女に向けて―――。
それは、少女の事を心から賛美しているようで、夜の星空のようにロマンチックに瞳が静かに輝いていて。
紡ぐ言葉の声の色は、紳士のように優しく、繊細で、女性を優しく包み込むような声で――。


「きゃぁあーーーーー!」
「ふぁぁぁあ~~~~~~!」


たちまち、場は黄色い声が爆発して、姦しくなった。
こうして、たくさんのキャンドルに照らされた独り暮らしの部屋の中で、女たちの明るい声が止む事無く飛び交うことになったのだ。











ダリアがあれこれ支度をして、ビアンカが彼女に色々とちょっかいをかけて愉しんだりしている間に、イシルウェンが淡々とキャンドルの火を吹き消している。
ラピスが物珍しそうにイシルウェンが灯に息を吹きかけている様子を見ていると「やってみる?ラピス。」と、彼女は一緒に消してみる事を勧める。
「こんな感じに。」と、慣れていない様子なら、お手本を見せてくれる。美しい妖精そのものを思わせる所作で、目を楽しませてくれる。


と、そうしている内に、ダリアの支度が出来たようだ。



「おまたせ~~。」
「待ってたよ~、お姉ちゃん~♪」
「うひゃぁぁぁっっ!」

ガシャガシャ。

「あはは!やっぱ可愛いお姉ちゃん!」
「ほら、お風呂セット落ちるから、モリリン。」

淡々とした動きで、膝を曲げて、お風呂セットを回収するイシルウェン。

「あのね~、びっくりするって、モリリン~。」
「あはは、ごめんごめん、もうしないよ~。」
「お風呂セットは私が持つから、気が済むまでじゃれるといいよ。」
「え、ホント?イシるんるん。」
「ええ~、イシル~。」
「冗談。さあ。行こう。」
「はーい。」



「…イシるんるん。」

イシルウェンは、余韻を感じるように、そのように呟いてから、チラ、と不意にラピスへと視線を向けた。
じー、と静かな眼差しを向けた後、唐突に、口を開いたかと思えば。

「あなたも、ラピすんって呼ばれて、嬉しいの?」

あだ名で呼ばれる喜びを分かち合うべく、この銀のエルフは瑠璃色の少女に話しかけてきた。
どうやら、彼女へのあだ名の効果は抜群だったようだ。
ラピスを見つめる瞳は、淡々としているようで、子供のように純真に輝いているような気がしてしまう。







河のせせらぎのような軽やかな水音が相変わらず宵闇の中で響いている。
月明かりがこの世界では今風のレンガや石造りの民家を照らしている。テラスハウスよろしく寄り添うように軒を連ねているのは……。



「出来るだけ、狭い所に、出来るだけ、家を建てて、人がたくさん住めるように、て思ったのだけど……。」

銀のエルフはぽつりとその景色を眺めながら呟いた。

「でも、やっぱり、家同士が近いよりは、離れている方がいいかもしれない。」

イシルウェンは、ラピスの隣でそんな事を呟いている。
ダリアはモリリンことビアンカに弄られるがままになりながら、隣の民家へと歩いていく。

「寂しくないのはいい事だけど。」

エルフは感情の抑揚がほとんどない、けれども、何処か情緒の潤いがしみ込んだ声で囁くように呟いている。

「孤独は人を大人にする。一人で立つことを学ばせてくれる。」

エルフは紡ぐ、詩を詠うように言葉を紡ぐ。

「そして、人の温もりの暖かさは、寂しさの中で生き埋めにされてから、初めて深い所で知る事が出来る。」


ああ、私は、今まで、なんと暖かいものに包まれていたのだろう。

そう感じられるのは、長く寂しい時間の果てにある。

だから、孤独は悪いものではない、のだけど………――――。


「街は素敵だけど、孤独を忘れてしまうのが、玉に瑕、かもね。」


イシルウェンは、独白のような言い方の後に、そっと瑠璃色の少女に穏やかな顔を向けた。
よくよく見ると、月明かりに照らされて、美しい口元に、仄かな微笑みが浮かんでいる。
透き通るような妖精のような……否、妖精そのものの女の肌が、月明かりを幻想的に反射して、淡く少女の視界に差し込んでいた。







一方。




「おねえちゃん、おねえちゃん、ラピすんに似合うシュミーズは何色だと思う?模様は何がいいかな?」
「蒼には白がいいよ~。」
「わかるぅ~♪でも、ちょっと新しい世界を見てみたいじゃない?いっその事、黒とかどうかな?なんにでも合うけれど、大人っぽいかもしれない。」
「ぅ……可愛いかも……。」
「えっ、可愛い?大人っぽくておしゃれな感じじゃなくて?」
「うん……少女って感じの……肌が綺麗だから、脚とか綺麗だろうし、大人っぽさと、女の子っぽさが…こう、きゅんっ、てくるような。」
「おおおおおおおおお…!そういうイメージね!いいね!」
「でも、白とか~、私のワンピースみたいなブルーとか~、ピンクも可愛いと思う…と、いうか、絶対にピンクはカワイイ……。」
「はううう~~んっ♪いいわね!いいわねぇ!何を着せてあげようかしら、迷っちゃうわーー♪♪」


ダリアとビアンカは、ラピスに着せる寝間着についてで熱く盛り上がっていた。
ビアンカが熱しやい性格で、まくし立てるように喋るせいか、ダリアのおっとり具合は普段より割り増しになっているようだ。
にこにこにこにこ、きゃあきゃあきゃあきゃあ。

姦しい雰囲気の中、ダリア宅の隣のやや広めの石造りの家に二人して入っていった。
すると……―――。


ドタバタドタバタ。


「おかえり~~~。」
「お姉ちゃんだ♪♪♪わーーいっ!♪♪」
「けふっっ……。」

ビアンカの娘が一人、二人、と、次々と駆け寄ってきて…否、一人、元気なのが頭からダリアのお腹に突っ込んだ。
まるで、砲弾のように文字通り飛んで来て、ダリアはまともに受けて、むせ返り、そのまま、勢いでひっくり返りそうになった。
イシルウェンは、あ、と、ダリアを支えようと素早く小走りになるが―――。



========================================================================



2018/09/24


台詞だけがすらすら出てきたので、一先ず投稿。
描写や背景などを次回から時間かけて書き込みつつ、次回予告に使ったシーンの残りを加筆修正して次回はお届けできたらいいな、と考え中。
…それにしても、投稿してみると、この分量。描写も入れたら、凄い事になりそうだ。


PS:来週、再来週は更新できないかもしれません。やる気満々なので、もしかしたら、何かやれたらとは考えていますが…一応、出来ないかもしれないと書置きしときます。




2018/09/30

ビアンカ宅前のイシルウェンの「イシるんるん…。」の台詞より以前の内容を、所々、加筆修正。前日、PL部屋でつい時間を潰し過ぎた割には書き進められたと思いますが、次回予告までには至りませんでしたね。優先順位を意識しないと等と反省。
次回こそ、もっと大幅に加筆修正をしたい所です。ただ、仕事の課題等もあり、来週、再来週についてもそうですが、10月末日まで、もしかしたら更新が難しいかもしれないです。
ただ、超えるハードルと、投入する時間と労力が減るだけなので、頑張れば出来るのではないかと思っているのですが、一応、ちょっと難しい、という現状だけ報告しておきますね。



2018/10/21

イシルウェンを指す、月の娘、という描写に、月(イシル)の娘、と、補足を加えました。イシルウェンはエルフ語で月ノ嬢とでも訳せばいいのでしょうか、砕けて言うなら月子さん。それほどエルフの中では特別珍しい名前ではないのかもしれませんが、さりとて、目に付くほど頻繁に使われているわけでもないのかもしれない。
トールキンのエルフ語を参考にしてます。月=イシルっていうのが似合っていると個人的には感じます。すごいぞトールキン。



2018/10/28

「いしるんるん……。」のイシルウェンの台詞以降に、エピソードを挿入に伴い、一部、次の投稿記事に内容を移動しました。
テンション的に、何か深刻な事を呟かなければならない症候群が出てしまったせいかもしれませんが、ラピスにはもしかしたら、合ってるかもしれないな、と思って、そのまま入れてみました。
しかし、お隣さんに行くのに、なんで会話が長いの、というツッコミに対して、どう返せばいいかわからない状態です(笑)

2018/11/04

台詞と台詞の間の感覚を一行空けていたのを縮めて、台詞と台詞の感覚を詰めました。こちらの方が賑やかな感じが伝わりそうなので。



2018/11/11

石鹸についての下り、ビアンカが「トレビアーン」と言い出した辺りを色々と書きくわえたりしました。もう少し勢いのある表現になると、賑やかな空気になるかな?等と考えながら、修正をば。

件名の【編集中】表記をはずしました。概ね、完成したと思ったので…。気になれば、また手を加えますが……「イシるんるん」の辺りの描写が手薄な気がするので、後、手を加えるとしたらそこでしょうか。



ビアンカ宅のお風呂 2018/10/28/18:22:37 No.676  
語り手  E-Mail 
「あっはっはっは!お姉ちゃん大丈夫かい?」

「ああぁあ~……ダリアおねえちゃぁ~ん……だいじょうぶ~~??」

大笑いするビアンカ、黒髪のストレートヘアのヘアバンドした何処か清楚そうな女の子が、おろおろと心配そうにダリアの顔を覗き込んでいる。「けふ…ありがと、ロッちゃん」と、むせながらダリアがお礼を言う女の子の背丈はラピスより頭一つぶんくらい小さい程。その子に心配されながら、何とかひっくり返ることもなく、イシルウェンに後ろから支えられながら、ヘッディングしてきたやんちゃな女の子を抱きとめたままダリアは、言いたいことを言うべく、うーうー、と呻きながら口を開き。

「うう~…ナッちゃん……お姉ちゃん、か弱い乙女だから。もうちょっと優しくお迎えしてね…?」

みぞおちに入ったらしい。若干、顔色悪くしながらも、ミサイルガールをそっと床に下ろしてあげながら、なんとか笑顔を浮かべて、優しい言い方で叱るダリア。

「はーい!」

ナッちゃんと呼ばれた子は素直に明るく元気に返事を返す。左右に三つ編みを下ろして、血気盛んそうな子で、母親よりも少しキツめの顔。この子はラピスの腰より上くらいの背丈の子だ。
格好こそ、亜麻織りの淑女の装いであるものの、仁王立ちのような立ち方で、両手をブラブラさせている様は、普通の男の子では太刀打ちできなさそうな、ものすごい元気な空気を発散させているように見える。

「うふふ。いい子いい子♪」

ダリアは、返事の良さを褒めて、その子の頭を撫でてあげると「えへへ~♪」と嬉しそうにしている。

「ダリア、私も、後ろで支えてあげたから、いい子いい子。」

淡々とした調子でイシルウェンがダリアの背後から、ひょこっと顔を出して、ダリアを覗き込む。

「もう、イシルったら…。えらい、えらい。」

困ったように眉を下げながら、ダリアはイシルの頭も撫でてあげた。

「ありがとう。」

淡々としているものの、声が少し明るめになり、表情を良く見ると、嬉しそうに口元が綻び、瞳がきらきらとしている。なかなか解りづらい。


一方、瑠璃色の少女にはキラキラとしたつぶらな瞳が二揃い。
まるで美しい宝石の瑠璃色に目を輝かせている少女のように、それでいて素敵なお姫様が夢の中から現れたかのように、ビアンカの娘たちはラピスにじーっと視線を注いで近寄って来た。

「わー!お姉ちゃんのお友達??綺麗な髪!なっちゃんはねー!ナタリーヌって言うの!」

元気いっぱい、三つ編みのミサイルガールは両手をぱぁっと挙げて、元気いっぱいの笑顔で自己紹介。
あけっぴろげで怖いもの知らずのこの少女は、ぱぁーっと明るい笑顔をこぼしながら、ぱぁーっとラピスの傍に素早く寄って来た。


「あ、あの…ロザンナって言います。あ…えと…妹が驚かせてしまって、ごめんなさい…。」

そーっと、ナタリーヌの後ろから、おそるおそる近寄って来たヘアバンドのストレート髪の少女。
どうやら、引っ込み思案な性格らしく、少しおどおどとしている。けれど、やはり瑠璃色の少女に惹かれるらしく、キラキラと子供らしいつぶらな瞳を輝かせている。真面目な子のようで、自己紹介をしながら、ぺこりとラピスにお辞儀をする。
そして、真面目さをさらに際立たせるのは、「ダメでしょ、ナッちゃん。…お客様を驚かせたり、失礼な事をしたら…。」と、か細いけれど、何処か厳しい雰囲気でロザンナをそっと叱りつけてる所だ。
そこはかとなく内弁慶らしい気配が伺われる。
叱られたナタリーヌは「うひー。」と首を竦めるて怖がるものの、姉の事は大好きらしく。「ナッちゃん、でも、ちゃんと挨拶したよね、ね。」と甘えるように、にへにへとロザンナに二の腕に抱きついて、上目遣いで姉を見上げる。
すると、ロザンナは苦笑いをしながら。「そうね、えらいわ。」と、妹の頭を撫でてあげている。
その顔は優しいものの、言いたいことを飲み込んで、仕方がないなぁ、と言いたげに眉を力なく下げて、はぁー、と溜息混じりという微妙なもの。

「あ…。すみません。恥ずかしい所をお見せしました…。」

はたと気づいたようにラピスを見て、慌ててまた頭を下げるロザンナ。良く梳かされた黒髪が肩から零れる。
真面目そうな彼女ではあるものの、顔を上げて瑠璃色の少女の顔をキラキラとした大きな瞳で見つめて、ほうっと溜息をついている。何処か夢見る少女の雰囲気だ。

「お姉ちゃん!お名前おしえて!ナッちゃんたちとお友達になろ!」

妹はもっとわかりすい。夜だというのに、お日様のような笑顔をぱぁーっと浮かべて、瑠璃色の少女の手を握って来る。

「あ、もう…ナッちゃんたら…。あの、でも、私も出来れば、ラピスさんと仲良くできたらなって…。」

妹の行動に口をへの字に曲げて小言でも言おうとするものの、それを一先ずは口を噤んで蓋をして……後でたくさん出てきそうなオーラだが…控え目で、少し照れくさそうな笑顔を、ラピスに向けて来るロザンナ。
それから、自己紹介をしたり、少し話をしたりする事になるだろう…そこで、不意に――。


不意にカナリア色の柔らかな髪の少女の存在にラピスは気が付いた。
肩ほどまでの短めの髪に、白亜麻のワンピース、華奢で細面な顔には、静寂とした湖の水面のような瞳が居て、瑠璃色の少女を鏡のように映していた。
ずいぶんと静かな雰囲気だ。
そのような様子で、ずっとさっきから瑠璃色の少女を見つめていたらしく、それもあってこの少女の存在には気づきづらい所がある。
人間や動物のように何か行動したり、感情を現したりと、何かしら気配を発するものがあれば、もう少しは気づきやすいのかもしれないが、この少女は、まるで草花か何かのように、ぽつんとそこに佇んでいた。

けれど、今はラピスは彼女の存在に気付いている。
この少女と目を合わせると、姉と同様、カナリア色の髪におおわれた小さな頭をぺこりと下げる。

「ラピスお姉ちゃん。私のお名前はミリアナです…。」

この場の誰よりも小さな女の子は、この場の誰よりも、大人びた表情で、その瞳は淡く輝いているのではないかとすら思ったとしても不思議ではない。
けれど、それは気のせいではないだろう。この子の瞳は澄んでいて、部屋の光源を淀ませることなく、透明に反射して、輝きを返しているのだから。
この少女は、ぼー、とでもしているかのように、視線をそらさずラピスを見つめている。
挨拶や自己紹介をされると、ちゃんと「はじめまして。」や、「ラピスお姉ちゃん。よろしくね。」などと、儚い声が返って来る。
何処か浮世離れしているような、幻想の世界の住人のような気配を醸し出している。

「あはは。うちの子はみんな、かわゆい子たちでしょ?ミリアナはちょっと不思議な子だから、あまり気にしないで。人の顔じーっと見るのが好きなだけだからね~。」

ビアンカはミリアナの頭をぐしぐしと撫でてやると「さて、私はお風呂の準備をしてくるわね。モリモリモリリ~ン♪」と、あっけらかんとした娘に負けないあっけらかんとした調子で楽しそうに、ぴゅーん、と素早い身のこなしで炊事場の方へ行ってしまった。それから、薪を持ったり置いたりする音が軽やかに響き渡り、火を熾す音が聞こえ……物凄い速さで作業している音が聞こえて来る。どうやら、娘のナタリーヌに輪をかけて、母はアヴレッシヴなやり方を好むらしい。

そんな母の家事する物音を背に、母とは対極の極点にいるような様子のカナリア色の髪の少女は。
やはり、じーっと、ラピスの顔を見ているものの、母の言葉を気にしたからだろうか、ぺこりと頭を下げて謝罪をした。

「困らせたら、ごめんなさい。お姉ちゃんの顔、とても不思議だから。」

抑揚は少ない。
けれど、明確な謝罪の想いを帯びた声と、少し下げられた額の表情で、謝罪の言葉を告げて頭を下げる。
顔を上げて、再び、この少女と目が合い、また見つめ合う事になる。

その聖性さえ帯びているのではないかと見まがう清らかな瞳――。         それは――。
瑠璃色の少女の出自や由来さえも見透かしてしまいそうな雰囲気を―――。      ――帯びている。

                                           

                                      向けられる眼差し。



                                  ―――感情を超えた世界の天使のようなその瞳。



         ――瑠璃色の少女と、無垢なる少女の瞳が互いに互いを覗き込み続け――。

  
  

  そして。








「さて。そろそろお風呂に入らせて貰おうかな?明日もたくさんやりたい事があるからね♪」

うふふ、と、瑠璃色の少女の後ろに寄って来て、ダリアはラピスの肩に軽く手を載せてから、ふわりふわりと楽しそうに声を弾ませて言った。
それから。「ほら、ロッちゃんとナッちゃんは、ラピスとお風呂に入りな?…あ、いいよね?ラピス。」と、この案でいいかな?と、瑠璃色の少女の顔を覗き込むダリア。
了承が得られれば、ロザンナは頬を紅潮させ控え目に嬉しがり、ナタリーヌは「わーい!やったぁ!」と両手をバンザイさせて、元気いっぱいに大喜びするのだった。


そうして、鼻歌混じりにラピスはダリアに後ろから両肩を押されて、それから右腕をロザンナに、左手をミリアナにそっと引っ張られたり、抱きつかれてぐいぐい引っ張られたりしながら、お風呂へと連行…?案内されて行くのだった。賑やかに色々な事を話しかけられたりしながら、和気あいあいと。



羊毛のラグのような素材のカーテン風の仕切りで覆われた脱衣所の中。
そこで服を脱ぐことになるラピス。
風呂の準備は出来ているらしく、ビアンカは笑顔で洗濯カゴを抱えて娘やお客様たちが生まれた時の姿になるのを待っている。
「うふふふ~♪綺麗な子の裸っていいわよね~♪」と、爽やかな笑顔をきらきらと輝かせている。

ラピスの傍らで、ロザンナが丁寧な手つきで脱衣していて、ナタリーヌはバッサバッサと服を脱いで、お母さんの持つカゴにポンポン放り込んでしまう。
ダリア少しイシルウェンと何か仕事の話をしているようで、話し合う声が聞こえてくるものの、しばらくして。「また顔を出すから。」と、妖精の娘はどうやら話合いを進める前に用事を先に片付けるつもりになったらしい。
妖精の軽やかな足音が遠のいて、扉が閉まる音が聞こえる。どうやら退室して行ったようだ。


ラピスが服を脱ぐ様子にロザンナはドキドキしているようだ。チラチラと時々、頬を染めながら視線を送って来る。時々、不覚にも「ふわぁ~。」と声が漏れて、恥ずかしそうにしている。
既にスッポンポンになったナタリーヌは、堂々と笑顔で瑠璃色の少女の脱衣を見つめている。「うわー!きれいー!」と両手を握りしめて、力いっぱいガッツポーズのような仕草をしている。目がキラッキラに力いっぱい元気いっぱいに煌いている。


「明日までには渡せるようにしておくから。」と、洗濯物について笑顔で請け合うビアンカ。
どうやら、お風呂が終わった後に洗濯槽にて洗濯をするらしい。
この季節なら、渇きも早いだろう。



洗濯槽のお風呂にビアンカの娘たちと入るラピス。
湯加減は丁度いい、熱すぎず温くもない…やはり、娘たちはラピスの事が気になるらしい。
不思議な色合いの髪に見惚れたり、瞳をじーっと見たりしてる。

「おねーちゃん、なんで、こんなに綺麗な色の髪なの??すごーい!」

ナタリーヌは特に賑やかに声を張り上げて、色々と話しかけて来る。

「こーら、あんまりラピスお姉ちゃんを困らせちゃダメだよ?」

長女らしいロザンナ、妹に対してはしっかり者の一面を見せる辺り、身内には強そうな様子を見せている。

「ロっちゃんがしっかり者で助かるわー♪でも、誰に似たのかしらね。」

にこにことビアンカはそう言いながら、ラピスの腰元まで伸びる美しい髪を手に取って。

「ラピすん!洗ってあげようか~♪」

そう言って、拒まなければ丁寧に石鹸とお湯を混ぜながら、ラピスの髪を石鹸水で染めて行き、ぬるま湯で洗い流してくれる。
なかなか、手慣れた手つきで、あっという間にラピスの髪は綺麗に洗われて清潔感に満たされた。




「ねえねえ!ナッちゃんね、今、学校で字を習ってるんだよ!すごいでしょ!ラピすんお姉ちゃんは字は書けるの??」

ナタリーヌが自慢そうな笑顔でそんな事を聞いて来る。

「ナッちゃん。ほら、ラピスお姉ちゃんを困らせちゃダメでしょ。」

そう言いながらも、ロザンナもラピスと話をしたそうに、ちら、ちら、と恥ずかしそうに目線を送っているのだが。
話しかけられて困っていないと言えば、娘たちは喜ぶ。
ナタリーヌはぱぁーっと目を輝かせて、ロザンナは控え目に嬉しそうに口元を綻ばせて。

「はい、次はロッちゃん、髪を洗おうね~。」

「はぁい。」

ビアンカはロザンナの髪を洗いながら、何気なく口にする。


「ラピすん。今の子たち凄いのよね。わたしは大人になってから文字を習ったけど、この子たち、小さい頃から文字を習うものだから、ビックリするくらいにすらすらと覚えちゃって……もう、世の中どうなっちゃうのかしら。」

なんて事を、くすくすと笑いながら、楽し気に語るビアンカ。

「ロザンナも、ナタリーヌも天才よ!文字も書けるし、計算も出来るし……こんなにまだ子供なのにね~!」

そう言われて、ロザンナは赤面して俯いて、ナタリーヌは鼻が長くなったかのように顔をそらして、笑顔で誇って見せた。

「ロザンナは誕生日プレゼントに恋愛小説とか欲しいって言うんだけど、まるで貴族様みたいよね。…でも、もう若い子たちって、みんな、本を買って読んだり、手紙をやり取りしたりしてね。だんだん、こういうのが普通になっていくのかしらね~。」

そう言うと。「はい、次はナッちゃん。」「はーい!」「うん、元気でよろしい♪」

「お母さん、本当に買ってくれるの?」

「うん、ロッちゃんはウチの手伝いもいっぱいしてくれるし、いい子にしてるから、ちゃぁんと買ってあげますとも。」

「ありがとぉ~♪」

「ナッちゃんも!かみかざりほしい!」

「はいはい、ナッちゃんにも買ってあげるからね。」

「やった!」

「お勉強がんばるんだぞー?」

「がんがる!」

「おし!がんがれ!」

ナタリーヌの頭をわしわしと撫でてやるビアンカ。

「ラピすん、それでね。私は文字はたくさん読めないから小説とかは無理だけど、オペラに行くのは好きでねぇ。あそこ、演劇とか歌劇とか、色々とやってるから、お小遣い貯めて行くんだけどね、子供たちも連れて。最近の劇って昔に比べて演出が凄くなってね…。」


と、他愛もない話をビアンカはラピスに語り続けてくれる。ラピスが話したい事があればもちろん耳を傾けるけれど、彼女はすっかりラピスに心を開いているらしく、あれこれと他愛のない話をしてくれるのだ。
しかし、話を聞いていると、現代日本で言う所のオペラと彼女が話すオペラの意味合いが微妙に異なる。どうも、演劇・歌劇・演奏会などが出来るホールのような施設を含めてオペラと言っているらしい。




「聖母子神輿が近いから、お姉ちゃんが子供たちも手伝いに参加できるようにしてくれるかもしれないから、うちの子たちを行かせようかなって。お菓子貰えるみたいだしね…。」「おかし!ナッちゃん食べたい!」「甘いお菓子かな…。」「甘いお菓子って蜂蜜ならいいけど、最近、砂糖のお菓子が多くて虫歯が怖いのよね…お母さん、心配だわぁ。しっかり歯を磨いて貰わないとね~~。」

他愛もない話が続く。そして、そのうち、娘たちの髪も洗って身体を流す事になる。
それから、身体を拭くタオルを渡されて、ビアンカは洗濯槽から汚れた湯を抜いていく。洗濯槽の水門的なものを操作して外へ排出し、下水に行きの水路に流す仕組みらしい。





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2018/10/28

前記事のNO.675にエピソードを挿入した関係で、675記事の内容の後半をこちらにコピーしております。
それにしても、ナタリーヌの頭突きの描写を「ミサイルのように」と書きたくて仕方がなかったのです……。でも、現代用語は出来るだけ控えた方が雰囲気が出るはずですよね……。


2018/11/25

更新は無し。もし見ていましたら、今しばらくお待ちくださいませ。

2019/01/06

色々と追記していたら20000バイトの上限を超えたので、内容を分割する。他、色々と描写を改善したり追記したり。


2019/02/17

全体的にかなりの加筆を行う。
ビアンカ宅のお風呂2 2019/01/06/21:02:24 No.680  
語り手  E-Mail 
お風呂から上がって、ラピスは寝間着に着替えさせて貰える。
黒いのと白いのという二つの選択肢なのだが、特に何もなければ黒い方が選ばれる。

「ふわ~っ、素敵だよ~、ラピスお姉ちゃん。」「カッコかわいい!ねえ、ねえ今日はダリアお姉ちゃんは”眠れない夜”だね!」「こらこら、何処でそんな言葉覚えて来るのナタリーヌ。」「お母さん!」「あははは♪」「犯人はおーまーえーかーぁ。」「あひゃひゃひゃ、お姉ちゃんくすぐったい。」



「もう…。モリリンったら。」

口ではそう言いつつも、ダリアはあまり大して気にしていない様子で、眉を顰めつつも、何処か和やかさを伴った平静とした表情を見せている。
透明感のある赤い瞳に、柔らかに綻ぶ口元、朝焼けの太陽よりは黄昏の夕日が、あるいは白く輝く月が良く似合う彼女の顔。

「うふふ、似合ってるねラピス。」

ラピスの寝間着姿を見つめてから、笑みを零すダリア。
キラキラと瞳を輝かせながら…優しそうに柔らかく細められた瞳は、ランプの灯の光を反射して瑞々しく輝いている……。

「う~ん♪やっぱ似合うね~~♪」

ビアンカは満面の笑顔だ。自分の思い描いた姿のラピスにご満悦の様子でラピスの周りを周りながら、後ろ姿やら斜めからの姿やらを眺めている。
ロザンナは「はわわ~…。」と胸に手を当てて、じっとラピスを見つめ、ナタリーヌが「きれー!」と言いながら、母親の真似をして、ラピスの周りをぐるぐる回りながら、色々な角度からその姿を眺めるのだった。
それを見ていたダリアは「じゃあ私も。」と言うと、ラピスの周りをぐるぐる回り出して、何故かダリア、ビアンカ、ナタリーヌの3人がラピスの周りをぐるぐるぐるぐる回り出す。

「あ、脚周りがいいね…。後ろから見ても。」「うふふふー!黒だから、この白い御足が良く映えますなぁ!」「モリリン、なんでオヤジに。」「カモシカのような脚が黒いシュミーズの下から覗く……なんて胸トキメキなのでしょうか…!」「カモシカ!カモシカ!」「ふわぁぁ~~…カモシカかぁ…。」「ロッちゃんも後ろからラピスの黒いシュミーズの下から覗く、御足を眺めてみるといいよ~。」「え、あ、うん…。」


ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。


きっとラピスが止めないと、しばらくこれは続くだろう……。
止めなければ、そのうち、ダリアが着替えだすので、そこでビアンカが我に返る。







白い方が良いのでは、等とラピスが言い出すのなら、じゃあそうしよう、という事で、少し可愛らしく柔らかな雰囲気の無地のシュミーズ…綺麗とか美しいなどというよりは、ほっこりとした、素朴な雰囲気の、着心地が良いものを着る事になる。


「可愛い…。」「わぁい!ラピすんおねえちゃんふわふわぁ!」ぼふっ、とナタリーヌがラピスに抱きついた。「あ、いいな、私も。」と、ダリアもラピスに左から抱きついてきて。「あ!いいな、モリリンお姉さんも混ぜてよ!」と、楽しそうにビアンカが右から抱きついて来て。「あ、あ…。」と、ロザンナが両手を振りながら慌てていると。「ほぉら、ロッちゃんもおいで。」と、ビアンカに言われて「う、うん、ラピスんおねえちゃん、失礼します。」と、礼儀正しく行ってから、ナタリーヌの隣からぴとっとくっついてきた。


「今日はいい夢みれそうだね、おねえちゃん。ラピスんを抱き枕にしたら気持ちいぞぉ。」
「それ、ちょっと暑くない?」

うしし、と笑うビアンカに、ダリアはにこにこと。

「だいじょうぶ。お姉ちゃんの体温低いから……そう、むしろ、お姉ちゃんを抱き枕にしたら、この季節は極楽でございますとも…。ぜひ、お試しあれ~。」

と、年季の入った店員さんのような口調になりながら、ラピスの肩をポンと叩くビアンカ。
それから、お湯の準備のために、炊事場へと向かう。

「もー。真に受けちゃだめだよ?ラピス。私、普通に体温あるから、くっついてたら暑くてヤになっちゃうから。」

苦笑いをするダリア。
とは言え、体温が低いのは、こうしてダリアに触れてみて良くわかる。
しっとりとした柔らかな温度…暖かいわけではない…冷たいわけでは無い…何処となく花弁を思わせるような感触で、柔らかなものに包まれているような雰囲気を持っている。
植物性の食物だけで生活しているためか、森の中がしっとりしていて、夏でも涼しいように、彼女の身体は涼し気で、色気より水気に溢れている風である。







「はい、次はお姉ちゃんとミィちゃんの番ね~。」

「はーい♪って、…そんなに、じーっと熱い視線で見られると、困っちゃうな。」

くすくすと笑いながらダリア。
着替えようとする彼女を、ロザンナとナタリーヌがダリアの傍らで見つめている。
ロザンナは両手を胸の前できゅっと絡めるように握り合わせながら、目をキラキラと。
ナタリーヌは胸の前で握りこぶししながら、落ち着きなくつまさき立ちしたりやめたりと、伸びたり縮んだりしている。

「おねえちゃんの裸、綺麗だし!」

「う、うん、お姉ちゃんみたいになれたらいいなって…。」

ナタリーヌは溌剌と、ロザンナはちょっと恥ずかしそうにもじもじと。

「うえっへっへっへ、いいのういいのう、熟れた果実のようなあられの無いハダカ。」

そう言いながら、火にくべた湯を大鍋からタライに移し替え、ざぶーんと洗濯槽に継ぎ足しする作業をするビアンカ。

「モリリン、恥ずかしいから。」

苦笑いしながら、ダリアがワンピースを脱ぐと、きゃあきゃあと少女たちの歓声が上がる。
裸のダリアの姿は華奢な花の茎のように細っそりとしたもので、それでいて風雪に耐え抜く冬の樹の幹のように、しなやかで丈夫そうなものだった。
意図的に鍛えた筋肉とは違う、老木が幾星霜もかけて根板や樹皮を強くたくましくしていったような、自然で、柔らかで、その癖にしなやかな弾力を持ち合わせているような、薄っすらと褐色とした肌。
細身で可憐な癖に、何処か簡単には折れない雰囲気の体は、瑞々しく輝いていて、動物らしさのない何処か浮世離れした輝きを、ランプの光に照らされて、夜の人家の中に鮮やかにその姿を浮き上がらせていた。

そこに存在しているのは、一人の女性のようでありながら、男や女というような色のない儚き何かのように見える。
幻想の世界の住人が、無垢なる世界の生命がそこにいるかのようだ。
喩えるなら、人間の形をした花。

野に咲く花には男もなければ女もなく、ただ美しい姿で人の心を和ませるように。
ダリア・エリクシルの裸身は、ただただ、花のように華奢で、生命の満ちていて、無垢なくらいに清らかで、それでいて儚い。
手を伸ばしても、触れる事が出来ないかもしれない。
人の欲望や感情の届かない何処か遠い世界に住んでいるかのような夢想的な姿――――。


二人の少女は言葉もなく、そんなダリアの姿を見つめていた。
まるで、遠い遠い野原の先で、あの世に咲くと言われるアマランスの花を見つけてしまったかのような面持ちを浮かべていた。
端的に言うと、呆然としたような、呆けているような顔。


「そんなに熱く見られると、恥ずかしいナ。」

二人の少女の様子に、照れくさそうに笑顔を零すダリア。
くすくすと笑うダリアの声に、ようやく夢から覚めた様子で身動きする二人の少女。

「お姉ちゃん、やっぱすごい……。しばらく見ない内に、また、何か…綺麗になった気がする……。」
「うんうん。ナッちゃん、お姉ちゃんみたいになりたいなぁ~。」
「あはは、じゃ、イシルに頼んでお野菜料理たくさん食べさせてもらわないとね。」
「えー!お肉も食べたい!」
「私、お姉ちゃんと同じもの食べてお姉ちゃんみたいになりたいです…。」
「あー、ダメダメ、ウチは肉、魚、乳製品、全部頂かないと、もれなく我が家の大黒柱様が泣いてしまいますので……。」
「お父さん…!」

そんな風にはしゃいだり、騒いだり、あーだこーだ相談したりしてるビアンカとその娘たちを、ダリアは笑顔で眺めた後、不意にラピスに目をやって。


「なんか。こういうの見てると、ちょっと嬉しいね。食事制限してきたのが報われたみたいな感じで。」

柔らかに微笑んでいる赤髪の女。
その微笑は、透き通っていて、光の中から微笑みかけているかのような。


「ナッちゃん、ダリアお姉ちゃん程じゃなくていいから、お肉食べてても美人さんになりたいですっ!」

高らかな声で、仁王立ちになって宣言するナタリーヌ。

「うふふ。目標があるのはイイことね。がんばってね。ナッちゃん。」

「うん!」


そうやって、盛り上がって(主にナタリーヌが)いると、小さな白い手がダリアの手に伸ばされ、触れた。
ダリアが注目されるなか、黙々と服を脱いで畳んでいたビアンカの末の娘、ミリアナだ。

「お姉ちゃん。じゃあ、一緒に入ろ…。」

カナリア色の髪の何処か儚げでぼんやりとしたこの中で一番小さな少女ミリアナ。
彼女がそっとダリアの手を握ると「あ、うん。」と笑顔で彼女に頷いて見せて、、ビアンカと距離が開いているにも関わらず、良く通る声で…ビアンカは大きな声で…他愛もない話をしながら、洗濯槽の方に行くダリア。


「ルディーノさん、良く泣いてるもんね…お米が食べたいって。」

くすくすとダリア。

「もう!ちゃんと週に3回は食べさせてあげてるのにぃ~、仕方がナイなァ、ダーリンったら。」

甘ったるい声のビアンカは、うきうきと弾んでいて、まるで愛に包まれてる少女のようで。
何処か幸せな暖かさが耳から、胸の中にふわりと流れ込んでくるかのようだ。
そんなお母さんが大好きなのか、ナタリーヌは今度はお母さんの足にべったりくっつき、ロザンナは湯を暖かくするために熾してる火に薪を入れたりし始める。
その雰囲気は暖かなもので、ビアンカが娘たちに懐かれている事が伺える。






2019/01/06

大まかな流れを描いた後に、細部を描きこんでゆく作業の途中で時間切れになる。

2019/05/19

文字数制限に到達してしまったので、記事No689に後半の記事を分ける。


眠りに落ちる前に 2019/03/24/20:08:49 No.681  
語り手  E-Mail 


それから、ラピスはダリアの家に戻る。
冒険用の毛布や敷き布などを使ってラピスが眠るのに快適な寝床を拵える。
そして、色々な話をする事になるかもしれない。

例えば、雪山での冒険や、妖精たちとの出会いの話。
主が亡くなった魔術師の塔の探索と、そこで出会った妖精ブラウニーや、華の精の話。
華の精は魔術師を愛していた事や、彼を死へ追い詰めた羊の悪魔との戦いの話。
その塔に住んでいたファイアードレイクと、ミストドラゴンの戦いの話。

不思議な遺跡を巡った話や、故郷の大陸の話。
自分が父親の前では行儀の良いいい子を演じていたが、母親とはよく喧嘩していた事。
学校で信仰についての告白が出来ず、気まずい思いをした事。
港町に一人で遊びに行って、そこで不良少女よろしく子分を連れて喧嘩をしたりした事。
学校では、面白がられたり、頼られたりする事はあったけど、なかなか、腹を割って人と話せる子がいなくて寂しい想いをした事。
好きになる人が大抵は何処か影のある人や、悪さをしている人、どうしようもない人で、大抵は愛した相手に逃げられてしまう事。

昔、仕事の依頼で知り合った子が、異世界で冒険している間に成長し、年を取り、違う時間軸であるが故に、そのまま寿命を迎えて去っていた事。
その子は人と魔が差別されることなく共に暮らして行けるような都を、彼らの居場所を作り、心安らかに眠るように死んでいった事。
立派で、清らかで、真っすぐで、正しい道を歩いて行けた事、等々……。


語る。

語る。

瑠璃色の少女が眠りに落ちるまで。
もう、十分だと言うまで、赤髪の柔らかな微笑みの女は語る。
採光窓から差し込む月明かりが彼女を照らしている。
まるで、月夜の森の中に佇む半神の森の女神のように、何処か浮世離れした優しい瞳を浮かべている。


自分が日銭を稼ぎながら、その合間を縫って魔術の勉強をしている事や、依頼のお得意様の貴族や商家の方々の晩餐に招待されて、美味しい採食料理を食べたり、珍しい骨董品を見せて貰ったり、遠い国の話を聞かせて貰ったり。



そうして、いつかは眠りに落ちる時が来る。
蝉の鳴く音が聞こえている。
何処かからか、風が入っているのか、森の空気の匂いを感じた。
太陽や月や、遠い星々からの宇宙線を浴びて、すくすくと育った身動きできぬ命たちの匂い。
風、大気、彼らの囁く芳香物質の香りが……。












夜明け前 2019/03/24/20:11:57 No.682  
語り手  E-Mail 
闇の中。
誰かがそっと囁いている。
もしも、少女が少しばかり眠りから覚めるのなら、窓辺に腰掛けた赤髪の女が、静かな声で本を読みふけっているのを目にする。
月明かりだけを頼りに、文字を目で追って、その言葉を囁いている。

まるで詩のような韻律を帯びていて、聴いているとゆっくりと音色が耳に染み込むかのようだ。
耳を澄ませば聞こえて来るだろう。





私は世界。
人々は私を求めて彷徨っている。
そうして、私の半分を見つけ出して、喜んでいる。
彼らは闇を駆逐して、勝利の雄たけびをあげている。
けれども、彼らは知らない。
彼らの求めた光は私の半分で、
彼らが殺した闇は私の半分である事に。

あなたは勇気のあるマナの祝福を受けし子供。
進みなさい、恐れる事無く。
あなたに私の全てを見せます。

私は世界。
私を乗り越えなさい、美しく気高い魂よ。
そうして、嘆き悲しむ人々の希望の星になりなさい
幸福も不幸も繰り返される幻。
今、此処に、真実がある。
私の全てを超えて、英雄になりなさい。














元素



イデアの次元には4つの元素が存在する。
大地と風と、火と水のエレメントが存在している。
けれども、人々は知らない。
そこには空なる元素があることに。
けれども、それらと共に、さらに3つの要素が働いている事を知る人はさらに少ない。

聖性と、力性と、堕性が、世界の始まりに生まれる。
それは、この宇宙の全体を猛烈な勢いでスウィングする三角形。
トリニティ・ファクター。
この三要素が4つのエレメントを回転させて、世界は創造され、今も存在している。

これは、人の心の中でも起こっている事で、
人は聖なる性質と、欲望を追いかける力の性質と、奈落へと堕ちていく邪なる性質を持っている。
肉体を有する以上、この三要素から逃れる事は出来ず、元素からも逃れられない。



あなたは罪をあげつらっている。
自らは罪人だと、嘆いている。
けれども、あなたは知らない。
あなたがあなた自身だと思っているものは、この3要素の活動に過ぎぬことを。

心という場をあなたはあなた自身だと思い込んでいる。
その心という”場”に渦巻く聖性も、欲望も、邪悪も、全てはそれぞれの食べ物を持ち、あなたの心の中で回転している。

あなたの巡らせる想いは、あなたが見た事、聞いた事、食べたものの総和であり。
あなたを形作るものは全て、宇宙に与えられたもの。
それらが仮に取り払われたとき、あなたは何処に……?
あなたは何者なのだろうか…?




私は存在しない。
何処にもいない。
全ては幻でしかない。
善なるものも、悪なるものも。
全ては人の妄想に過ぎない。

ただ。

愛している。

それだけが、実在している。

そして、それこそが、世界だ。






女は夜明けまで詩集に目を落とし。
それらを囁くような声で読誦し続けている。
宇宙を貫く神秘の法則や、精霊たちの営みについての詩。
天界と地上界の連動性や、現れるサインについて。
ウンディーネの可憐な姿を称える詩や、ノームの楽しい一日を謳った詩。
マナが女神からの贈り物であり、全ての存在の命の糧である事を甘美に綴った詩等……。

紡がれるのはレジェンド(伝承)
それは、今にも通ずる普遍的なもの、永遠なるもの。
創世から連綿と紡がれてきた声には、人の気配の少ない世界の。
都市もなく、人もない時代の力強い、始原の賛歌が聞こえて来るようだった。


森の祝福、暁の光 2019/04/30/12:18:03 No.683  
語り手  E-Mail 

早朝、イシルウェンが雑木林の中で木の幹を撫でている姿を見かける。
ダリアとラピスが挨拶をすると、相変わらず、無表情に見えて物柔らかな顔つきをこちらにむけて挨拶を返してくる。

「どうしたの?」

ダリアが尋ねると、銀月の妖精は「ええ。」と微かな声で応えてから、こちらへと歩いて来る。

「この子たちの、出産が終わったから、疲れを癒してるところなの。」
「出産…って、もしかして、種?種かな…?」
「ああ、うん。そうなの。」
「一瞬、あかちゃんを産んでるみたいで、びっくりするんだけど。」
「それも比喩として見れば間違ってないから、だいじょうぶ。」
「そ、そうね。」
「でも、わかりやすくしようとして、かえって驚かせたのね。ごめんなさい。」
「あはは。気にしてないから。」

イシルウェンの淡々とした言葉に、ダリアは表情豊かに答えている。


「種を産むのも樹にとって大変だけれど、疲れてるところにやってくる虫たちや、菌たちの相手も樹にとっては大変なの。」
「そうなの?」
「ええ。葉を食べられたら、治さないといけないし、そもそも、虫たちが寄ってこないように、虫たちが嫌いな香りを撒かないといけないから。」
「うん。」
「病気にならないように、菌と戦わないといけないから。私たちと一緒よ。」
「そうだね。」


イシルウェンはラピスに微笑みを浮かべて。

「レーゲンヴァルトでは私たちクウェリムが木々の疲れや痛み、苦しみを癒すけれど、人間たちの森は木々が誰の助けも得られずに戦わなければならない……木は、たくさんの事を覚えていて、たくさんの喜びも、苦しみも、覚えている……。」

そう言うと、イシルウェンはラピスの手をそっと両手で包み込むように手にとって、真っすぐに見つめて来る。
彼女の表情は相変わらず薄いものの、真摯な雰囲気を帯びた眼差しを瑠璃色の少女に向けている。

「あなたと過ごした記憶も、あなたが樹木たちの下で楽しそうに駆けて行く記憶も、木々たちにとっては愛おしくて、成長の糧になっている。」

儚い程の体温の手は、それでも何処か透明な暖かさを少女の手に伝えている。
エルフの瞳は少女を包み込むように柔らかく弧を描いていて。


「きっと、あなたは森に祝福された子ね。あなたが森を愛してくれるように、森もあなたを愛してくれるわ……。」

少女の手を、妖精の白い両手が祈るように包み込んでいる。
そして、彼女は吐息を吐きながら、瞑目する。
想いが溢れている。
激情とは異なる、強い強い、感情を少女は感じる。
暖かく、透明で、まるで胸に水が注がれているような感覚を覚える。

不意に、エルフの女は微笑みを浮かべた。
淡白な昨日から今までのような笑みではなく、別人のように鮮やかで、豊かな微笑を浮かべた。


「森を、大切にしてくれて、ありがとう。」

花が咲き誇るような微笑みが零れていて。
ずっと、ずっと、溢れていて。
まるで、桜の花弁が尽きる事無く降り積もり続けるように。
少女の心に、暖かな何かを、いつまでも、いつまでも、落とし続けているかのようで―――。


「あはっ。なんだか、いい香りがするねー。」

ニコニコと少女とエルフの様子を見守っていたダリアが、不意に上を見上げて、鼻をスンと鳴らした。

「これは樹が、喜んでいる香り。」

イシルウェンは滾々と湧き出るような微笑みのままに、謳うように声を弾ませる。




―――。樹は香りで仲間の木々に想いを伝える。
苦しい時は苦味のある香りを、恐れと警戒に満ちてる時は、緊張感をもたらす香りを……。
喜びに溢れている時は、透き通るような香りや、甘く香しい香りを……。

一つの樹の感情は、一つの森の感情になり、
森の感情は、一つの樹の感情になり…だから…―――――。


「一つの樹木の幸福は、森の全ての木々の幸福。」


そう語ると、イシルウェンはラピスから手を離し、ゆっくりと後ろに下がる。


「あなたは精霊に愛されている。そんなあなたを、私も祝福する。ラピス……あなたの生に、あなたの運命に、幸あれ。」

こうして、瑠璃色の少女は妖精の祝福を受けて、この場を後にする。

「ふふ…♪なんだか、私もうれしいな。」


隣を歩む、赤髪の女が、嬉しそうに微笑みを零している。
尽きる事を知らぬ泉のように、ずっとずっと嬉しそうな笑顔を溢れさせている。

何が嬉しいのだろう?
そのような問いがあるのなら、女は笑顔で答えるだろう。

「ラピスの良さが、ちゃんと私以外にも伝わってくれて。嬉しいな。」

朝焼けよりも、暖かく清々しい微笑みが少女に向けられている。
暁の光のような、光に満ちた眼差しが、少女に向けられている。
喜びと、溢れるような暖かい何か。
少女の全てを包み込み、照らし出しているかのような光。
全てが受け入れられて、全てが肯定されるような、そのような、何か―――。





それは、まるで、少女のことを初めから知っているかのようで、

ずっと、ずっと、何処かで同じ時を重ねてきたかのようで、

疑いもなく、疑念もない、笑顔だけでなく、


暖かい、

胸の中心が暖かい、


暖かさが、雪の様に降り積もり、降り積もり、重ねられてゆく。


暁の光は清々しい。

少女はその光に照らされながら、赤髪の女と雑木林の小道を歩いて行く。

すると、道の先には鐘楼を携えた建物の前までやってくる。
教会か、修道院か、そのような雰囲気の建物が見えている。
壁に施されたアーチの中で、聖人たちの石像が、世界の全てを祝福しているかのようだった。
鐘楼、詠唱、赤光 2019/05/04/12:37:55 No.684  
語り手  E-Mail 
主よ憐み給え――――。

ステンドグラスを配した聖堂の扉から、静謐とした聖歌が聞こえて来る。


キリエ・キリエ・キリエ・エレイソン
   キリエ・キリエ・キリエ・エレイソン
       キリエ・キリエ・キリエ・キーリーエー・エレーイーソーン

主よ憐み給え―――――。
宇宙(そら)に向かって広がり行くような、声が漣のように連なる。
まるで、此処だけは違う世界であるかのような心地にさせられてしまいそうだ。


  イステリウス・エレイソン
    イステリウス・エレイソン
      イステリウス・エレイソン
         イステリウス・エレイソン
          イステリウス・エレーイーソーン


神の子よ憐み給え――――。
高らかに、希望に満ちた声で、清らかな音律で。

そんな詠唱に満ちる青銅への扉へと、ぞろぞろと粗末な衣服を纏った男たちがまばらな列を作りながら入ってゆく。
他にも、子供の手を引く入ってゆく、母親らしき女性の姿や、杖を突いている老婆の姿等……。


「丁度、朝の礼拝が始まってるみたいね。」

ダリアが向かうのは、彼らとは別の方らしく、高く高く聳え立る鐘楼へ
その鐘楼だけは、他の建物とは異なり、数々の宗教的な美装が施されているようには見受けられず、むしろ、堅牢そうな分厚い石壁は、砦のような雰囲気を思わせる。

高さは……この世界の最初に出た広場にあった大聖堂の尖塔に負けない高さだ。

「ふふっ、ちょっと、昇るのに時間はかかるけど……―――。」


遠慮がちにダリアがそう言うものの、瑠璃色の少女にとっては、些末な問題だろう。
どうやらダリアのペースだと15分程度階段を昇る事になるようだ。



螺旋を描きながら、壁伝いに階段は続いている。
聖歌が鐘楼の窓口から、階段を上る間、ずっとずっと聴くことが出来る。
時々、階段の途中で鐘楼の内側の方面に何らかの部屋と思わしき扉がある。



階段を昇り続けていると、聞き覚えのある聖歌が聞こえて来る。


―――。アヴィン・ミリーヤム・グラッツィア・ペルウェーヌ
ドノムス・テーコム
ベネディクタ・ウン・ムービーブス
エト・ベネディクス・ツイ・イッススノ
サンクタ・ミーリヤム・マーデラ・デイ
オラ・プロ・ノービタ・ペコトリブス
ノック・エト・イン・ホラ・モルディス・ノストーレ

―――天使祝詞だ。


「うふふ、ルッチラおばあちゃんが昨日、唱えていたわね。」


少しだけ首を振り返らせて、ラピスに微笑みかけるダリア。
階段をずっと昇って来たからか、息が弾んでいる。

「一番、信じている誰かが、自分のために、いつでも祈ってくれている、と思えたら、どれほど強くなれるんだろうね。」

弾んだ息、溌剌とした声、暖かで柔らかい笑顔。

「きっと―――。不安な時も――――。死を迎える間際にも――――。」

語りながらも、息を深く吸い…呼吸に乱れはないものの、言葉は途切れ途切れになる。

「祈りを――。信じることが―――。出来れば―――。穏やかな……気持ちで……―――。いられるのかもしれない―――ね。」

途切れ途切れの声は、生気に満ちたもの。
全身に血液や気が巡っているのかもしれない、活力に満ちた雰囲気を少女も光を浴びているかのように感じられるかもしれない。

やがて、聖堂から聞こえる詠唱は遠くなり、聞こえなくなり……。
小鳥の囀りと、階段を昇る赤髪の女の靴音だけ―――。

コツコツコツ……。

ペースは少し早くなっている。

不意にまた―――。


「ラピスは、心から信じられる人はいるかな?」

ダリアは少女に朗らかに問い掛ける。

「心から信じたい何かは、あるかな?」

外へ通ずる扉は、光に満ちていて……。


「私はねー――――。」


ダリアの顔が振り返り―――。
赤光(しゃっこう。)暁の光――――。
少女には、それしか見えなくなった。
小鳥の囀りと、風にはためく衣服の音と、そして、光、まばゆい光。

「すごい綺麗でしょう?」

光の中で聞こえて来る優しい声。

「私はね。いつでも、信じたいと思ってる。」

溢れんばかりの喜びを感じる。




「世界は、綺麗で、美しくて、いつだって、希望に満ちているって。」



力に漲った、強い、強い、穏やかな声。
白光(白光)、幾重もの光の帯―――。
その向こう側から、聞こえて来る、声。

そして――。
地上の星 2019/05/04/13:56:49 No.685  
語り手  E-Mail 
階段を昇りきると、視界が開ける。
屋根を支える柱の合間から、広い広い空の青、白化粧された広大な山脈の峰々が左右に果てしなく広がり、右手から眩き朝日を浴びている。
視線をすぐ下に向けると、昨日、眺めたドゥオーモ(大聖堂)の尖塔が、鐘楼と同じぐらいの高さに聳え立っているのが目に入る。
その周辺には市街の景色が広がり、各地区にそれぞれ、背の高い建物……教会や公共の建物等……が、ポツ、ポツと見られる。


右手を眺めれば何処までも続く草原の地平線の向こう側から、昇り始めた朝日が眩い陽光を世界へ投げかけている。


広い広い雑木林に囲まれているせいか、草原や、山々から素晴らしい大気がやってくるせいか、とても空気が澄んでいて呼吸が清々しい。
息を吸い込むと、風の元素に秘められた力が胸を満たし、全身を巡り始めるのを感じるかもしれない……身体に力が湧き上がり、意識が洗われて、澄み切ってゆくかのような、



此処は展望台的なエリアだが、上に昇るための階段が見られる所、まだ上にもフロアがあるようだ。
そこから粗末な格好の頭ボサボサのバンダナをした男の子がヒョイと顔を覗かせる。


「やあ、姉ちゃん!今日はお友達と一緒なのかい。」
「ええ。この素敵な景色を見せてあげようかとね。今日もお邪魔するね?」
「へへへへへ!いいってことよ!オレっちは心が広いからな!」

ダリアがボサボサの男の子に目線を合わせて微笑みかけると、男の子はだらしがないくらいにニヘニヘと笑い、恥ずかしそうに後ろ頭を掻いたかと思うと、屋根の上にヒョイヒョイと逃げるように上がって行ってしまう。

「ラピス。あの子はね。此処で決まった時間に鐘を突くのが仕事なの。いわゆるフレール・ジャック…鐘突き坊主、だね。この上には大きな鐘があって、時間になると此処の鐘だけじゃなくて、街中の鐘がなる事になるから……。ふふっ、ビックリしないようにね。」

ダリアが穏やかにラピスにそんな事を教えていると、階段の上から威勢の良い声が聞こえて来る。


「姉ちゃんたちじっくり見ていきな!ブリランティの絶景五本指に入る景色だぜここは!」
「あらあら、そうなの?」
「いや、オレが決めたんだけど……。まァ、穴場だからな!」
「ふふ……♪いい景色だよね!」

口元をほころばせながら、ダリアが朗らかにそう言うと、少年は沈黙してしまった。
ラピスは「ウゴゴゴゴ。」と、少年が悶えているような声を出しているのを聴いてしまうかもしれない

「…もっといろいろな人にここの景色のすばらしさをわかってもらいたいねー!」

ダリアが眩い笑顔でそう言うと。

「いやいや、ここは穴場…そう、穴場だからな!姉ちゃんぐらいしかこないくらいが丁度いいんじゃねえかな。」
「そう?」

おっとりとした様子でダリア。

「おお!」

少年は力強く肯定する。

「いや、姉ちゃんと姉ちゃんの友達までなら、いいんじゃねえかな!」

すぐに言い直す少年。

「くすくす。わかったわ。」

ダリアは何処かくすぐったそうに笑顔を零している。

「オレっちは心が広いからな!」


カーンカーーーン


鐘が鳴る。


しばらくすると人々が礼拝堂から出てきたり、
郊外から都心に向けて長い距離を歩き出す貧しい労働者たちや、礼拝に訪れた子連れのご婦人方等…、中には馬車や馬を走らせる事が出来る身なりの良い人々もいる。
視点を変えると、森の小道の家々から、人々が出てくる姿や、市街地からも人がチラホラと見られるようになり……、馬車が走り、馬が行き交い……。
こうして、この都の一日が始まり、そんな様子をダリアは眺めている。

「毎日、此処でこんな眺めを眺めて、それから、私も、あの中に混ざるわけ……なんだか、面白いのよね。こうやって今、私たちは道行く人たちを眺めているけれど、此処から降りて、私たちがあそこを歩いてると、また、誰かが私たちを眺めてるのかな、と考えて見ると……なんだか、私たちって、本当にちっぽけな存在なのかもしれないなぁって思う。」

――透き通るような瞳は広がる世界に向けられている。


「あのアドナ山脈の峰々も、此処からだとミニチュアみたいなもの。星々から眺めれば、きっと、もっともっとちっぽけな存在で……。」

――果てしないものに思いを馳せる顔は儚く幻想的で。

「国が興る事も、衰亡する事も、私たちの誰かが栄光を勝ち取り、やがては衰えて眠るように死んでゆく事も、ぜんぶ、宇宙(そら)から見れば、夜空で流れ星が煌いたり、星の輝きが誕生し、消えて行く事と、同じようなものなのかもしれない……。宇宙(そら)から見れば、全ては一瞬の煌きで、悠久の時の中の…この宇宙という名の織物の一本の糸のようなものなのかもしれない……。まるで線香花火のように一瞬の輝きだけを残して、世界から姿を消して行くけれど…その一瞬の煌きは、とてもとても、綺麗で……。」


私たちは星。
地上の星。
この都はまるで天の川
たくさんの煌きで彩られている。
けれども、……皆は空を見上げてばかりいる。
天空で栄光に輝ける星たちに手を伸ばそうとしている。
あるいは、あそこには手が届かないのだと、嘆いている。
けれど、私はツバメになって、見つけたい。
地上の星を。
この大地で輝く、無数の輝きを。
世界にはたくさんの銀河が無数にある。
地上の銀河、地上の天の川。
全てが美しく、とても輝かしいから。

私にとって、

世界は、

とても、とても、眩しい―――。





「私たちはちっぽけに見えるかもしれないけれど、宇宙(そら)から見れば、立派な地上の星の一つだね。」

赤髪の女は、そう言って微笑みかける。


「ラピス。私とあなたの出会いは、銀河と銀河が出会い、混じり合ったようなもの。いつか、銀河は別れて、別々の方向に向かって行くけれど、たくさんのドキドキや、喜びや、発見を、たくさん残していく。」

たくさんの星の渦たる銀河は、時には他の銀河と出会い、たくさんの相互作用をお互いにもたらしながら重なり合い、やがてはお互いに別々の方向へと旅立ってゆく。
そんな話をダリアはラピスに語って聞かせるのだった。


「それは、私たちの胸の中に、永遠に残り続ける光。だから、私たちが今、ここにいる事は奇跡なんだよ。」

昇り行く陽の光のように、ダリアの笑顔は光に満ちて輝いていた。




「ほら、ラピス、こっちこっち…。」


ダリアは手招きして、この鐘楼から見える素晴らしい景色を指し示して、その見所をわかってもらおうと、また、色々な話をする。
礼拝を終えた人々が聖堂から出て、森の小道を抜けて、市街へと向かって行く姿が瑠璃色の少女の目に留まる。

かれらは貧しいかもしれない。
苦労や不幸、悲嘆に塗れて、道を彷徨っているように見えるのかもしれない。
けれども、彼らを眺めるダリアの瞳には憐みの色はない。
明確な意志を感じられる。

皆が、皆、確かに彼女にとっては、尊き地上の星である、と――――。


久遠に刻まれる時 2019/05/05/18:53:08 No.687  
語り手  E-Mail 
こうして、瑠璃色の少女は元の世界の帰路に着くことになる。
あるいは、しばらくはこの世界に滞在しても良いだろう。
帰る前にダリアの家に一旦戻ると、ラピスは現れたイシルウェンに。「仕事をしている間、私がラピスの相手を務めましょうか?」と、ひょっこりと現れたり、洗濯したラピスやダリアの衣類を持ってきたビアンカが。「ラピすんこれから時間あるの?ウチの子と遊んでくれないかな~。もぉ、うちの子たちったら、ラピすんお姉ちゃんどうだったー?とか、今日も遊びにくるの~?って、もう、こんな調子でねぇ……。」等と言ってくる。

ビアンカ宅に行けば、ロザンナ、ナタリーヌ、ミリアナの三姉妹は喜んで迎えてくれる事だろう。「わー!ラピすんお姉ちゃん!らっぴすんっお姉ちゃん!」「こらこら、ナッちゃん落ち着きなさい…。あ、いらっしゃいませ、ラピすんお姉ちゃん。」「……。いらっしゃいませ、お姉ちゃん。」と、ナタリーヌなど跳び跳ねて大喜びするので、宥めるロザンナは大変だ。
しばらく、お喋りしたり、騒いだりした後、どうやら、ロザンナとナタリーヌは学校に通う時間になったらしく、元気に登校して行く。どうやら午前中だけの学校らしい。
ビアンカからの話を聞く限り、算術や文字の読み書き、後は一般教養的なもの等…と、本格的な学問は施さない簡単な知識と技能を身に着けるだけの学校のようだ。

「ロッちゃんとか真面目に勉強するから、もう少しお金を出して大学とかに通わせてもいいかもしれないと思っててねぇ…。良いお家柄の素敵な人に見初めて貰えるかもしれないしねぇ……。」

等と、家事の合間に、ビアンカは子育てについての話をラピスが聞く限り、止めどなく話し続けるだろう。

午前中、ミリアナは、ポーっとしていたかと思うと「いっしょに、やさしい、を届けにいこうラピすんおねえちゃん。」と、言い出したかと思うと、パン屑などをカゴに詰めて、ミリアナはラピスを誘って家の外に出て行く。ビアンカの反応を見ていると、これはどうやら珍しい事ではないと見て取れるだろう。
そして、ダリア宅、ビアンカ宅の裏手にある広場……給水所など生活に必要なものが揃っている森の囲まれた広場……まで行き、そこに「ニャアニャア」と集まっている猫たちに、パン屑を与え始める。
そのウチ鳩が集まってきたり、犬が集まってきたり。「おかわりもってきます……。」「ミィちゃん、これで最後!」「はい、ありがとうお母さん。」…ビアンカがストップをかけるまで、家に戻ってはパン屑を広場で振る舞い続けるのだった。
…そして。

「す、すまねえェ、オレにも分けてくれないか…。」
「ぁぁぁぁ~…おじさんにも、そのパンくずを…。」


ついに、動物だけでなく、人間まで広場にやって来た。ミリアナは彼らにもパンくずを振る舞った。
そして、さらに集まって来る物乞いの人々、彼らは空腹なので、歩くのが遅く、眩暈がするのかふらついている人もいる。
まるでゾンビの群れのようだが、ミリアナは彼らを見ても特に驚いたり、怖がる様子はない。
しかし、もう施すものは何もない。

「ウチは教会じゃないのよ~~。ほら、本当にもうこれ以上は出せないからね~~。」

見かねたビアンカは蓄えだったらしいオーツ麦を粥に仕立てて、鍋ごと持ってきた。群がる貧者たち。「うぁぁぁぁ~~……。」「おおぉ~~~ぅ……。」彼らはゾンビではない。感涙する貧しい人々である。

「はーい!一気に来るな!はい!ミィちゃんお椀とスプーン!あ、ラピすんもお願い!」

そうして、まるで魔物のごとく何処からか現れた貧者たちに施しを与えて、ラピスはミリアナと共に貧者たちに感謝される事だろう。
しかし、何故か、一番感謝されたのは、鍋を持って現れたビアンカである。

「おお、聖母よ!」
「俺らのマンマ…!」

鍋を持って現れた母親というインパクトが彼らの心を捉えたのか、ビアンカに向かって口々に「なんてことだ…!」「アーヴィン・ミリヤム!アーヴィン・ミリヤム!」等と賛美する貧者たち。

「よかったね~。でも次からは教会に行くんだよ~。」

詮無い事のように笑顔で手をひらひらと振っているビアンカ。

「ありがとう、お母さん。」
「いいのよ~。ミィちゃんのためだったら、お母さん、こんなの全然、へっちゃらなんだからね~♪」
「ラピすんおねえちゃんもありがとう。」
「ラピすんすん、お昼ご飯は、獲れたての焼き魚、だよ!」

ラピスはイタリアンな焼き魚定食を振る舞われるのだった。




午後になると、ロザンナとナタリーヌが帰宅する。そして「カルチョやろうよラピすんおねえちゃん!」と、さっそくナタリーヌに遊びに誘われるラピス。
”カルチョ”とは、どうやらサッカーのような遊びらしい。ラピスには及ばないものの、ナタリーヌの運動能力は高く、遊び慣れている事もあって、もしかするとラピスを翻弄する事が出来るかもしれない。
リフティング、ターン、空中でボレーシュート、等と多彩な技を繰り出すナタリーヌだが、それよりも…ヘディングである。
とにかく、ヘディングがうまい。ミサイルのように飛び出して、頭でボールをカットしたり、シュートを決めたり…おそらくパスもチーム戦ならうまいのだろうと思われる動きをする。
ロザンナは、ナタリーヌとラピスの試合?をハラハラと見守り、応援をしている…ロザンナは運動は得意ではないらしい。
そのうち、ロザンナはビアンカとお菓子を作り始めて、カルチョの勝負が終わり、遊び疲れたナタリーヌやラピス(疲れるかわからないが…)にお菓子を振る舞う。
砂糖や蜂蜜が高価なので、ドライフルーツや果物の絞り汁で甘味を出している素朴なお菓子に癒されたり、元気になったりするかもしれない。

そして、夕刻に近づいて、ダリアが帰って来ると、ラピスはビアンカ、ロザンナ、ダリアの3人に着せ替え人形よろしく、色々な服装をさせられる事になるかもしれない。
「これも似合うと思う!」「ううん、これとかどうかなー。」「ラ、ラピすんおねえちゃんにリボンをつけたいの…。」「わー!ラピすんおねえちゃんの次、ナッちゃんも~!」「……。(じー。)」

そんな事をしていると、イシルウェンがダリアを連れ去りに亡霊…いや、妖精のように現れたり……。「ヴェジタリアンのお料理会のお時間よ、ダリア姫……。」「「きゃぁぁぁぁ!」」「イシル、ますます磨きがかかってきたね、いきなり出て来るのに…。」「あははは!じゃあ、我が家でどうぞお料理会をしてくださいな。こっちはこっちで、カルボナーラ作ってるから。」「いいでしょう…。皆、菜食料理の素敵さに目覚めるといい…。」

そして、賑やかな料理とご飯の時間を過ごす事になったり。






イシルウェンの所にお邪魔をするなら、地主であり、ベジタリアン料理店のオーナーだったりと、多彩な顔を持つ彼女は、都の郊外の畑に連れて行ってくれて、取れたて野菜で色々なベジ料理を振る舞ってくれる。(ラピスなら収穫を手伝ったりもしそうだ…。)
土地を貸している農家の人たちと仲良くなったり、いつの間にか手伝っている小人や、ドワーフの集団に驚かされたりする事だろう。
市を巡り、橋を渡り、畑や果樹園を訪れて、広場で人々と交わり…ずいぶんと長くこの土地に暮らしているらしく、時々、その場所に纏わる逸話を語り聞かせてくれたりする。

「ラピスはお米がいい?パンがいい?それともパスタ?」

この質問はこの土地では定番だそうな。
土地の性質上、…エレンディア平原では、畑よりも田んぼでの米栽培が主流であり、ほとんどの小麦は輸入に頼っているという事情がある。
その上、この都は北の帝国や、西の王国、南の共和国群に、その向こう側の教皇領からと、たくさんの人々が訪れ、時には定住する国際都市でもある。

皆、それぞれ、好みが違い、それに合わせた料理を用意して、おもてなしをすると言う…。
もっとも、自分の好みを押し付ける…もとい、自信たっぷりに郷土料理を振る舞うのも、この土地の人々の気質でもあるようだが…。

市場を巡っていて、彼女はたくさんのアーモンドを買い付けて、愛馬らしき白馬に載せている。
何に使うのか?と尋ねられると、相変わらずの一見無表情に見える顔かつ、淡々としてるようで実は柔らかな口調で彼女は答えた。

「アーモンドミルクをこれで作ってるの。」

どうやら、牛乳は動物性の食べ物なので、ナッツから代用になる飲み物を抽出してミルクの変わりに使っているらしい。

「人間の身体にも良いのだけど、みんな、やっぱり牛や羊からとれる乳が好きみたい…。」

ラピスがアーモンドミルクを飲んでみたいと言えば、喜んで作ってくれる上に、色々な味付けを味合わせてくれるだろう。
シロップを入れたり、果汁をブレンドしてみたり、パスタを煮込んだりと、色々な調理法を見せてくれる。
そんな話をしていると、不意にイシルウェンはラピスに瞳を密かにキラキラと輝かせながら、こう言った。

「今日は私と一緒にお料理をしようね。」

これで少女もベジタリアンの仲間入りだ。
そんな事は口にはしないまでも、そのような空気をそこはかとなく醸し出しながら、イシルウェンは控え目な微笑…(おそらく、彼女の中では満面の笑みなのだろう…)を浮かべている。
そうして、夕刻頃に帰路につくダリアを銀月の妖精は誘拐…もとい…捕まえて、自宅へと連れて行き、ベジ料理会が開かれるのであった。

月の名を冠する妖精の乙女は、請われれば故郷の話を、寒い寒い、北の土地の森の話をしてくれる。
クウェリムと言うエルフの一種族の静けさと美しさに満ちた生活や、他の小さな妖精や、幻獣たちの事、森の木々が生きている事や、植物や花の精霊についての話…いくつもの不思議な話を聞かせてくれる。
妖精たちは、現世と重なり合う妖精界からやってくるけれど、森の住む妖精たちは、度々、故郷を思い出すように瞳を閉じるて、じっとする。
そうしていると、イデア(精神界の一種)の中で、故郷の森を訪れて、魂を安らがせたり、無邪気に踊りを踊り、歌を歌い、音楽を奏でたりすることが出来るのだとか。
彼女たち妖精にとって、現世での一時は、夢や幻のように儚いもので、イデアの中にこそ本来の生があるのだと――。

自然の中に全ては抱かれ、自然の中に全ては還る。
ヴァラたち(エルフ神話の天使的諸力)は宇宙を想像し、世界を創造したけれど。
エル(万物の産んだ女神)の中に還ってゆく……。
やがては、ヴァラ(天使たち)も、アイヌア(神々)も、全ては母なるものに抱かれて、母なるもの中に消えて行く…。

世界は永遠にそれを繰り返すのだ、と――。




等々……。


今しばらく滞在しようと考えるなら、このように時間を過ごす事が出来るだろう。


数日も過ごせば、別れを惜しんだダリアがラピスと同じ布団に入って来て。「うふふ、このまま、ずっと一緒にいたいな…♪」等と甘えだしたり、イシルウェンに「新しいお料理できたから、ラピスに味見して貰おうと思って…。」と、頻繁に料理やお菓子を勧められたり。「わー!今度はラピすんお姉ちゃん!こっちでお泊り!」「ちょっとナっちゃん…!」「あはは!うちの子もこう言ってる事だし、どうかな~?」「ロッちゃんも楽しみにしてる…。」と、ビアンカ一家から熱烈なラブコールを受けたり……。




彼女たちと別れて、時狭間世界に戻った後も、時にはまた、この世界を訪れたり、ダリアと時狭間で会ったりする機会があるかもしれない。
時には、彼女の仕事を手伝う事も、そのような縁が巡って来る事もある事だろう。

時の砂が降り積もり、月日は流れてゆく。

時を重ね日を重ね。
月を重ねて、年を重ねる。

そうして、いつかは、こんな日も来るのかもしれない。


そう、いつか……。
そのような、運命が巡って来るのなら…もしかしたら……。


受け継がれる光    2019/05/05/19:48:40 No.688  
語り手  E-Mail 
ミャアミャアとカモメが鳴いている。
夕焼けが空を茜色に染め上げて、星空のカーテンが天頂を覆いつつある。
潮の音がザァザァと音を立てて聞こえて、寄せては返す波音が優しく響いている。
連なるのは、たくさんの帆柱たち。
まるで森のようにたくさん目の前に聳え立っている。
…どの帆柱も。遠い海へと乗り出す勇敢なる旅人の船のもの。
黄昏の赤い光に照らされて、船たちは出航の時まで休息をしているかのようだった。

瑠璃色の少女はそれを見上げている。
……初めて見たはずだが……いつか、何処かで見たような…。
そんな感慨を覚えるのかもしれない。


「これをね。渡そうと思って。」

不意に隣で穏やかに微笑んでいたダリアが口にした。
黄昏の光を浴びて、とても優しい表情で。

「ずっとずっと、あなたに渡そうと思っていたの。」

取り出したのはラピスラズリの珠を愛しい赤子のように女神が抱く衣装のシルバーチェーンで繋げられたペンダント。
ずいぶんと手の込んだ加工をした痕が見られる。

「これは、奇相石って言うもので作ったペンダントなんだけど……。いつか、あなたに渡せる日が来ると思って、ずっとずっと、持っていたの。」

いつものように、赤髪の女は優しい微笑みを浮かべていた。
いや、よくよく見ると、瞳を潤ませて、今にも溢れさせそうで。
ダリアの感情に当てられているせいか、ラピスは暖かい水の中に放り込まれてしまったような心地になる。
自分の意志とは関係なく、人に当てられて心の景色が様変わりする様相を、身を持って知ってしまうかもしれない。
彼女は、吐息を吐くように、声を震わせながら…けれども、確信を持って言葉を紡いだ。


「―――人は生まれてくる時、光を受け継いで生まれて来る……。
あなたも、私の大切な人の光を受け継いで、生まれてきたに違いないわ。
いつまでも、いつまでも、
あなたが世界に祝福されますように―――。」

ダリアは奇相石のペンダントを少女の首に、いつものように微笑みながら――けれど、
手を震わせながら、瞳に涙を溜めながら――ゆっくりとかけた。


「うん。似合ってるね、ラピス。」

彼女からは笑顔が溢れていた。
滾々と尽きる事無く笑顔が溢れていて、とてもとても、暖かい……。

ラピスの目の前の女性は泣いていた。
いつもの笑顔のまま、涙を流していた。
理由は少女にはわからない。
けれども、それは暖かくて、優しくて、全ての苦しみが洗い流されてゆくかのようで……。

幼い記憶は失われてしまったかもしれない。
けれども、そんな頃に戻って行くかのようで―――。

暖かい。
光が、人が、全てが、暖かい。
そうして、赤髪の女は、戸惑う少女を抱きしめた。

そんな日が、もしかすると、いつか来るかもしれない―――。

久遠と思われる長い長い時の果てに、光は受け継がれる。
何度でも、何度でも受け継がれて行くのだ。
命も、愛も、夢も、想いも、全て――――。

そう、何度でも―――。


お出かけの装いは 2019/05/05/17:25:41 No.686  
語り手  E-Mail 


記事NO.683「森の祝福、暁の光」の前に差し込むエピソードになります。

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「眠くない?だいじょうぶ?」

陽の光が昇る前、ラピスはダリアに起こされる…または既に起きていた事にしておいても良いだろう。
いずれにせよ、少し心配するようにダリアはラピスの顔を覗き込んでいる。
相手が熱心に聴いてくれたとは言え、いささか、喋り過ぎて夜更かしさせてしまったかもしれないと思っているようだ。


「お姉ちゃん、らぴすん~。おっはよー☆」

外からビアンカの声が聞こえて来る、朝から元気いっぱいだ。
何やら、いくつか女物の麻の服、亜麻の服、飾り帯やら色々をカゴに入れて持ってきた。

「洗濯物、まだ乾かないから、戻ってくるまでコレ着ててね。」

満面の笑顔を浮かべるビアンカ。

「コレなんか似合うと思うよ。」
「うふふ♪じゃあ、これもつけてみましょう。」
「おほっ!いいねえ~~!似合う~~!」


夜明け前から、きゃいきゃいと姦しくなる。
そうして、しばらくラピスは着せ替え人形よろしく、色々な格好をさせられてしまうようだ。

「うん。これでいいね!」
「すごぉい!ピッタリ!」

ラピス本人の希望も取り入れられているのだろう。
華美すぎず、地味過ぎず、小物とアクセサリを最小限に抑えた美少女スタイルの服装をさせられるラピス。
夏だけに、胸元が露わだったりするものの。スカートの丈は長かったり、肩の辺りはちゃんと覆われたりと、中世~近世の時代らしい衣装ではある。

「いいね!お姉さんメロメロよ……。ねえ、ダリアも胸出さないの?」
「私、基本的に色気は出さない方向で行きたいから…。」
「えー!可愛いのに…。」
「綺麗だと思って貰えれば、地味でいいから。」

ダリアは苦笑いしながら、両手を広げて自らの着物を披露するような仕草をする。
今日は黒衣を纏っている。
まるでラピスの和服のように黒い着物を交差させ、ベルトを巻いて、首元からロザリオや赤い宝石を嵌めた銀の翼の形のペンダントをかけている。
右手の人差し指にはアルファベットとは違う古めかしそうな文字がびっしり書かれた銀色の指輪を嵌めている。
茶色の編み上げブーツは厚底で、少し背が高くなった印象。
そして、もう一枚、コートのようなローブに袖を通し、何処か上品で知的な雰囲気の装いになる。
髪型はいつも通り、後ろ三つ編みにして、銀色の美しい竜が描かれた髪飾りで髪を止めている。
華奢な身体つきで、これらの衣服を羽織っても、まるで人形のような繊細さを感じられて、目が惹き付けられる。

「……。すんごい、抱きしめて見たくなるね。お姉ちゃんって。」
「なんで?」
「スタイルが眩しいわ…!ううっ!これは辛いわ…!」

そう言って、眩しそうに手で目を覆うビアンカ。まるで嵐に耐えるように片足を後ろにやって踏ん張って…全身で眩いイメージを表現している。

「うふふ♪植物性の食事しかしてないし、小食な方だからね。あ、でも、こっちの人たちの好みじゃないでしょう。モデルのお誘いとか、もうちょっとムチッとした感じの子の方が声かかるし。ビアンカみたいな…。」

「あっはっは!そうなのよねぇ。あたしの好みと、世の男どもの好みってぜんぜん違うのよねぇ…。あたしは痩せてて、貧乳な子の方が大好きなんだけど。」

「そこは、華奢で控え目な胸の子とか言ってくれるといいな~…。」
「あはは!ごめんごめん!」



こうしてラピスは帰路につく。
ダリアの家に戻ると、ビアンカが昨日洗濯した衣服を畳んで籠に入れておいておいてくれた。
そうして、ひとしきり騒いだ後、ダリアに誘われて出発する。
どうやら、近くの教会の鐘楼から景色を眺めるのが日課らしい。
そして、それを見せたかったがために、この世界へと誘ったというのも理由としてあったようだ。

「うふふ♪せっかくだから、私と同じ気持ちを分かち合ってもらいたくてね。」

笑みをこぼしながら、ダリアは少女の手を引く。

「さあ、行こうか、ラピス。」

淀みなく、滞りなく、自然に名前を笑顔で呼ぶ黒衣の女。

いつか、そんな時があったのかもしれない。

何度も、何度でも、その名前を呼んだ事が、かつて、あったのかもしれない。

まるで、古くから仲良くしてきた友人に呼びかけるように。

笑顔で、親しみに満ちた笑顔で、名前が呼ばれる。

警戒もなく、探り合いもなく、気を遣うでもなく、それでいて思いやりと優しさに満ちた暖かな――――。


「いってらっしゃーい!」


陽気に手を振るビアンカに見送られて、二人は森の小道を進んで行く。

曙が少しずつ森に光を投げかけ始めていて、早朝の澄み切った空気が清々しい。

流れる時間は優しく、穏やかなもので、森の中では感じられないだろう穏やかな感情をラピスは感じるかもしれない。

そして、何故か、懐かしい感覚を覚えて不思議な心地になるのかもしれない。
美しい夢と幸福な夢 2019/05/19/17:34:00 No.689  
語り手  E-Mail 
ダリアとミリアナ。
穏やかそうな二人なら、静かで和やかな時間が流れるのだろうと思いきや、唐突にミリアナが、外野の騒ぎの火種になる事を口にしてしまうのだった。

「…。お姉ちゃん。男の人のことばかり考えてると、お勉強に集中できないね。」
「…え?」

ミリアナの無垢な言葉…けど、内容はあまりにも衝撃的…にダリアは驚いた様子で目を見開き、時間が止まったように固まってしまう。
そして、それは聞き捨てならないと、すぐに炊事場から大声が飛んでくる。

「なになに!?お姉ちゃん、好きな彼でもいるの!?」

ビアンカの嬉々とした興奮気味な大声を皮切りに、娘たちも続く。

「わー!お姉ちゃんお姉ちゃん、好きな人いるの??聞かせてーぇ!」
「あ、お姉ちゃんも…好きな人、いるんだ…。」

ナタリーヌ、ロザンナも興味深々だ。
そして、ミリアナはダリアに何か言おうとしていたようだが、皆の食いつきを見て、ぽ~っとした顔で皆を眺めている。

「もぉ…こぉらぁ?わたしは、結婚しないんだから。私にはもっと大事な目標とか、やりたい事とか、色々あるんだから。」

ダリアは洗濯槽に身を乗り出して来たビアンカ、ナタリーヌにおっとりとした中に何処か儚さを孕んだ言い方をしながら、ゆるっとしたデコピンをちょいちょいっと二人にやる。
当然ながら、そんな弱いデコピンはあまり効いてない。むしろ、弱々しいデコピンから何を感じ取ったのか二人とも、威勢がさらに良くなった。

「あ!お姉ちゃん嘘!きーかーせーてーよーぅ。」

ナタリーヌが洗濯槽に顔を乗っけて、むくれた顔になる。

「え~…?嘘じゃないよ?私には、目指すべき道がちゃぁんとあるんだからね。」

ふわ~っとした笑顔でナタリーヌを包み込みながら、やはり、儚さの含まれたような、切なさを帯びたような言い方のダリア。
それに対して、洗濯槽の傍までやってきたビアンカは訳知り顔でうんうんと頷きながら。


「むふふふ。ママンにはわかるぞお姉ちゃん?心に嘘をついてるのね?」

全てわかっていると言わんばかりに、ビアンカは洗濯槽に肘を乗っけて、両手に顔を乗っけて、うんうんと頷いて、全てお見通しだと言わんばかりに爽やかな笑顔を浮かべている。

「…も~~、違うよぉ……。」

少しだけ目を泳がせてから、困った様子の笑顔を浮かべているダリア。

「お姉ちゃんは、立派な人になるの……ちゃんと、神様が愛してくれてるから大丈夫。」

ミリアナが、きゅっとダリアの二の腕を取ると、真っすぐにつぶらな瞳で見上げる。

「え、あ、うん…。」

面食らったダリアは、目を瞬かせ、それから、神妙な顔で頷いた。

「この子、時々、こうなるのよね。」

ラピスにビアンカは、にこにこと話しかけて来る。

「いっそのこと、修道院に連れて行こうかと思うのよね。いつも神様の事ばかり話してるし。」
「ビアンカ、ミリアナを修道女にするの?」
「うーん。そこまでは考えてないんだけどね。けど、この子が結婚するより、ずっと神様の事を考えて居られる生活が幸せなんだってわかったら、そういう道に進ませてあげた方がいいかなぁ~ってね。まだ、お見合いとか、そういうの考えるのはずっとずっと先だし……色々と参考になるような経験はさせてあげたいなって。」
「すごい。ちゃんと色々と考えてるんだねモリリン。」
「ふふ~♪えらいでしょ。…それで、お姉ちゃんの片思いの彼については聞かせてくれないのかな?」
「特にそういう人は……。」

いないんだけどな…。と言葉が続くのかもしれないが「えぇーー!」「えーー!」と、ビアンカ、ナタリーヌの声で最後まで言えず。

「そりゃ、色々な男の人と知り合う機会もあるから、素敵な人だな、と思う時もあるし、優しくされて嬉しいなって思う時もあるけど…。」

熱心に話を促されているせいか、思わず、ポロポロとそんな事を何気なく言い出すダリア、するとビアンカの瞳がきらりと光り。

「さすがお姉ちゃん。まさか逆ハーレムを狙っているとは……想像以上にお姉ちゃんは勇者だね…うんうん、お母さんは嬉しいぞ。」

うんうんと腕を組んで半ばふざけた調子で半ば優しい雰囲気で頷いてるビアンカ。

「お姉ちゃんはハーレムを作るの~?ナッちゃんおはなし聞きたい~♪」

一方で、その娘はわくわくした顔だ。瞳をキラキラさせながらナタリーヌはダリアに詳しい話をねだる。

「あのねぇ……。私だって、こう、街角のカップルみたいにイチャイチャしたり、羨ましいなぁって思う時はあるよ、そりゃぁ…。だからって、ハーレムとか作りたいんじゃないんだからね~…?」
「うんうん。」
「うんうん。」

ハーレムだ何だと身に覚えのない事柄をでっちあげられてウンザリしたのか、嘆息しながらついつい弁明を始めてしまうダリアに、興味津々に相槌するビアンカとナタリーヌ。
ロザンナは、ぽーっと両手を胸の前で祈るように絡めてダリアを見つめているのは、恋の話の予感に胸をときめかせているからだろうか。

「なんだか、辛そうにしてる男の人を見かけたら、優しくしたくなる時だってあるし、人に求められると、つい、優しくしたくなる時だってあるしさ。」
「うんうん!」
「うんうん!」

何でもない事のように、むしろ、ハーレム等という何処か楽し気だったり、いかがわしげな響きなどよりは、もっと苦味を帯びたような、生活の垢に塗れたような語り口である。
それでいて、不思議な事に、その苦味に包まれた中身の方は、重くもなく軽くもなく、淡々とした…そう、当たり前の何か…人が重荷を負うのは働く事同じくらいに当たり前のような…というような、そんな彼女の言葉の響きなのだが。
相槌を打つ二人の女子…一人は母親だが…は、ますます瞳をきらきらさせている。母親の方はむしろ、ランプの火力が上がって行くかのような勢いで、瞳が爛々と輝いている…。

「料理を作ってあげて喜ばれれば、もっと美味しくしてあげようとか…また作ってよって言われたら、また作ってあげたくなるしね…。」
「そうだよね!」
「そうだよね!」

フッと笑みを漏らしながら、眉を苦笑いするように下げるダリアの顔は、なんだか、仕方がないなぁと言いながら、だらしのない誰かの世話を焼いているかのような表情で、まるで彼女が誰かの家で同じように「仕方がないなぁ…。」と言う顔をしながら、その誰かのために料理を作ってあげている事を彷彿とさせる顔つきで、それがますます、聞き手の母娘のテンションを上げていくのだった。彼女たちの後ろでロザンナが「ふわぁぁあ…。」と、桜色に頬を染めている。

「応援してあげるとすごく喜んでくれたら、また応援してあげたいと思うし…話を聞いて、楽になったよ、って言われたら、もっと彼の事をわかってあげたいと思うしさ…。」

優しく包み込むような表情でそう語るダリア。
ビアンカは相槌を止めて、満足げな表情でうんうんと頷いている。
ロザンナは瞳が、とてもとても、キラキラしている。

「……。やっぱり、誰かを大切にしてあげてる時が、なんだかんだで、幸せだし…。」

優し気で、愛し気で、慈しみという名の赤子をそっと抱いているかのよう。
ダリアの顔は優しい。声もまた、柔らかなもの。
赤子を抱えた母のように。
それでいて、穢れを知らぬ、無垢な少女のように。
否、むしろ、無垢な少女には到底浮かべられない、それは。
まるで、涙を流し続けてきたが故に、かえって赤子よりも心を洗われてしまったのかもしれない。
その清らかな顔は、優しい顔は、赤子のようにと言うよりはあまりにも、幾星霜の積み重ねを滲ませていた。

「出かける前に、身だしなみを整えてあげてる時の、何処かホッとした顔が、なんだか、とてもね。優しい気持ちにさせられるのよね…。」

穏やかな表情で、柔らかな表情で、語るダリアの顔は恋する乙女というよりは…。

「お姉ちゃん。もう、それ嫁だよ…。」

しみじみと言うビアンカ。

「別に…普通だよ。」

苦笑いをするダリア。どうも、本人にとっては周りは自分の行為をおおげさに受け止めているように感じられているらしい。
なるほど、確かに世話焼き女房のように異性に接しているのは事実なのかもしれないものの、ダリアの語る様子からは絞っても絞っても甘酸っぱいロマンスの味がする甘露が出て来る様子がないように見える。

「あまりにも朝、起きてこないから、寝坊するよって、軽くゆすり起こしてあげてる時とか、なんだかとても幸せで…。」
「ぐふっ…!」
「はうはう…。」
「いいなー、いいなー!ナッちゃんもお姉ちゃんに起こしてもらいたいなー。」

その瑞々しい優しさに満ちた話し方が、あまりにも衝撃的だったらしい。
ビアンカが苦悶の声をあげてのけぞり、ロザンナの膝がくだけそうになってふらふらになり、ナタリーヌが別の意味で羨ましがり、犬が尻尾を勢いよく振ってるかのように目を輝かせている。

「お姉ちゃん……もう、その男の人と結婚しちゃいなヨッ!」
「しちゃいないヨッ!」

ビシィッとダリアに指を突き付けるビアンカと、その真似をするナタリーヌに言われて、ダリアはわけがわからないという風に、それでいて何処か楽しそうに笑みをこぼした。
ロザンナは「ダリアお姉ちゃん、素敵です…。」と、甘いデザートをたっぷり食べてトロトロにとけた顔になりながら、そんな事を言うので「ロッちゃん、一体、何を想像しているの…。」と、くすくすと笑うダリア。

「でも、お姉ちゃん、絶対にいい奥さんになるよ。いいお母さんにもなれる。それに、自分でも誰かを大切にするのが幸せって言ったじゃない。」

ビアンカは熱心な面持ちで、ダリアに言い聞かせるようにする。何とか友人の心を変えたいのか、明るい調子ではあるものの、熱心な様子だ。
ロザンナも後ろでうんうんと、口元をきりりと結んで頷いている。

「お姉ちゃんは、結婚しないのー?」

ナタリーヌは不思議そうにダリアの顔を見つめている。

「私は……。…今よりもより魔術の高みを目指したいの。全ての魔術と宗教の理想とする、窮極の境地に……届かなくても、そこに向かって行きたい…。」

ぽつぽつと語り出す様は、何処か遠く果てしない地平線を眺めているかのようで……それでいて夜明けの星を眺めているかのように清々しい顔。
それを見ても、ビアンカはなおも「結婚してから、いくらでも目指せばいいじゃない。なんだったら、旦那さんにも手伝って貰って。」と、にこやかに結婚を勧めるビアンカ。

「…そのためには生命液を結晶化させなければならないから、男の人と交わらない方がいいの。」

微妙に言いにくそうな何とも言えないになるダリア。
ビアンカはそれを眺めながら、顎に手を当ててじっと考え込む。

「ふーん…。その生命液って……。」
「……。体液の事で、食事で得た栄養や、生命エネルギーが豊富に満ちているから、損失をするとまた作るのに多くの食物や時間や生命力が必要だから、できるだけ保存するのが望ましいし、窮極の高みまでたどり着くには、完全に保存されなければならなくて……。」
「なんの体液?」
「……。ほら、その、酸化させると行けないから……。」

追及されると、困ったように目を泳がせながら、何処か遠回しな言い方をする。
ビアンカは「酸化…?」と未知の単語に目を白黒させながら、頭を捻り続けているようだ。
つまり、どういう事だろう?と。

「ええと、ほら、空気に触れると。…その、体液だから…。」

ますます、言いづらい様子で、言葉たどたどしくなるダリアに、ビアンカは「うむむむ!」と額に手を当てて唸りながら、なんとか理解をしようとしている。
やがて「あ、そうか。」と、表情を明るくした。

「ひょっとして、愛し合う時に?」
「そう。血液を作り出す何倍ものエネルギーが必要で…それらすべてを魂の覚醒や、アクシオトーナルライン…霊なる神経経路…の活性化に利用するべきで…でも、むしろ、男性性と女性性の結合こそが究極の高みに昇り詰めるのに必要と言う考え方もあるみたいだけど…私としては……。もう、この話はいいんじゃないかな。」

盛り上がっているのはビアンカだけで、ロザンナやナタリーヌは「ふぇ…。」とか「難しい~~!」と言う反応を見せているのだった。

「モリリンお姉さん、もっと聞きたいなぁ…。」

なおも食い下がるビアンカ、ダリアは洗濯槽の壁に背を預けながら「うーん。」と困ったような笑顔を浮かべている。

「よくわからないけど、男の人の事を好きになっちゃだめなの?」

ナタリーヌが不可解そうな顔で首を捻っている。

「愛する事は悪いことじゃないけれど、生命液を浪費する恐れがあるし、意識を”絶対”や”セフィラ”、それにマントラム…神秘の言葉…等に集中する必要があるから、あまり、色恋沙汰を求めない方がいいし、厳しい考え方だと異性との接触を避けるべしとする考え方もあるくらいだから……簡単に言うとね、子供を作るための命の力…これを額の辺りにあげて宝石のように結晶させないといけない…それから、そのために精神を毎日毎日、集中して、たくさんの魔術的なテーマについて考えないといけない…。」


穏やかに、ゆったりと、ゆったりとした語り口。
それは、まるで、小さな小さな生徒に、優しく教える先生のような姿だ。

「だから、この道を行く者は、独身である事が望ましい……もちろん、早くに結婚をして、子供を育て上げてから高みに至ろうとする人たちもいるけれどね。」

そう言って、にっこりとしながら、人差し指を立てるダリア。
人生の最高の幸せを手にしながら、窮極の境地に達した人もいるのだ、と。

「じゃあ、お姉ちゃんも、そうしたらいいんじゃないかなー。」

ビアンカは、真っすぐな視線をダリアに向けている。明るい顔ではあるものの、強い希望がその態度には込められている。

「寿命を迎えるまでに、できるだけやれる事はやっておきたいから……。それに、私、エリクシルと言う……偶然かもしれないけど、聖杯の名に由来する家名の家に生まれてきて……ダリアも、花の名前でもあるけれど、いにしえの言葉では”神なる枝”っていう意味になるみたいだし、なんだか、運命を感じちゃうのよね。」


そして、人差し指を自分の胸の中心から、額にサッサッと上下に動かす仕草をして「生命液が材料となり、聖杯となる器官が脳の中心に形作れ、エリクシールが心臓に注がれた時、完全なる人間が、神人が誕生する…。」と、半ば独り言のように、何処か瞑想的な様子で呟く声は、不思議な魔術の詠唱のようで、聴く者を何処か知らない世界へ誘って行きそうだが、ビアンカの娘たちの息を飲ませたり、ほぅ、と吐息をつかせることはできても、その母にはそれよりも、もっと強い想いがあるらしく、相変わらず笑顔のままに、何処か茶化すような口調で。

「お姉ちゃん…。素敵オーラ出してるけど、モリリンからすると、真面目過ぎて、トキメキが足りないぞぅ。」

にこにこと洗濯槽に両腕を乗せながら、ダリアを強い眼差しで見つめているのだが、ダリアはそれに気づく事無く、淡々とやはり詠唱のような独り言を、半ば瞑目しながら水面に目線を落としながら続けている。

「”絶対”に至り、魔術の秘儀を極めれば、この世の全ての幸福が儚くなる程の至福が待っていて……宇宙の法則を知り尽し、天界の法則に乗っ取ることにより、この世の元素を支配できるようになり……。」

いつか、そこに到達しよう。
そのために、日々日々の時間と命を捧げよう。
固まった決意、固定された道、もう後戻りはない。
儚く幻想的な表情は、もはや、この人はそこに至るしかないのだろう、という、そんな雰囲気を醸し出しているのだが……。



「ダメダメ、そんなのダメ。」
「えええ~~??」

バッサリそう言い切ってダリアに迫るビアンカ、そして彼女の胸の中心を貫かんばかりに人差し指を突き付ける。
ダリアからすれば、目の前にいきなり指が突き付けられて、びっくりである。
唖然とするダリアに、ビアンカは言い募る。

「いい?女の子はね、幸せになるために生まれてきたの。寂しく一人で生きるなんてダメだよ。愛する人と一緒じゃない人生だなんてやっぱり寂しいよ?モリリンはお姉ちゃんに幸せになってもらいたいな。お姉ちゃんもね。女の子なんだからさ!」

もはや茶化すでもなく、明らかに説得するような調子でビアンカは、笑顔で高らかに言えば、その横でダリアをじっと見ていたナタリーヌは右手を振り上げて。

「そうだそうだぁ~!女の子は幸せになるために生まれてきたんだよ!お姉ちゃんも幸せになるんだ~!」
「え、えーと……。」

笑顔を浮かべて言葉を失うダリア。どう返せばいいのかと途方に暮れている。
そして、ついには、後ろで祈るように指を組み合わせていて見守っていたロザンナまで「お姉ちゃん…。ロっちゃんもお姉ちゃんの幸せを応援してるね…。」と、控えめな可愛らしい声で言って、きりりと口元を結んで「ファイト。」と言わんばかりに、両手を握り拳にして、頷いて見せた。

これには、もう、どうしていいかわからない。
ダリアの表情は複雑なものだ。嬉しいようでもあるけれど、何処か困っているようでもある。

「……ううん。」

悩まし気に額を寄せるダリア。まだ迷いがあるのか、それと、ビアンカとその娘たちの想いにどう応えたらいいのか悩んでいるのか。

「男に抱かれる幸せを知りなさいダリア。知るのぢゃ。」

何故か最後の方は可愛らしいおじいちゃん口調になるビアンカ。
その口調に少し吹き出し気味になり、思わず楽し気に口元を抑えるダリア。

「……。も~、なあに言ってるの~?」

何処か切なそうな顔で目を細めて俯くと、ビアンカの頬をぺちっと叩くダリア。「いちゃい!」とビアンカはおおげさにダメージを受けてよろめいた。
ふう、と吐息をつくダリアの表情は、何処か憧れた甘い幻想を置き去りにしてきてしまった乙女のような、甘く蕩けてそれでいて、何処か切なげな表情を浮かべていて、額を寄せて思い悩む。

「私は…。」

言い掛ける。甘く幸福感に満ちた夢に手を伸ばそうとするかのように…もう一度、置き去りにした幻想を取り戻しに、道を引き返したいと言おうとしているかのようだったが。
不意にその言葉の続きは、静かな声に遮られた。

「ダリア。迷わないで。純潔を保ち、子供の心を保つあなたは妖精の国に行くのよ…。」

不意に顔を出したイシルウェンが、物陰に佇む様は、まるで亡霊…いや…本当に妖精がダリアを化かしに……いや、迎えに来たかのようである。
まるで神話やフェアリーテイル(妖精伝説)の世界から、そのまま姿を現したかのような、大自然の荘厳さを伴った迫力のようなものを醸し出していて、思わず皆、息を飲んでしまうのだった。
妖精の娘はあくまで淡々と静かにしているものの、甘い幻想と愛の希望に満ちていた空間を、一気に神話の深奥に漲る命の叫びに満ちた空間へと変貌させてしまった。
なるほど。確かに、彼女は幻想的で美しい…だが…。

「イシルん怖い。」
「きゃぁあぁ~~~♪」

ビアンカがぞっとした顔でイシルウェンに振り返り、げんなりと言った。その一方でナタリーヌが怖がってるのか喜んでるのか、嬌声をあげながらジャンプジャンプと飛び跳ねている。

「ええ、怖がりなさい。私は人間に恐れられるまごうことなき聖なる森の声よ。我が名はイシルウェン。ダリア、人間の声ではなく、私の声に耳を貸しなさい…。」

物陰から、厳かにのたまう銀の妖精の姿は、まるで神話の一場面のようだ。そして、物陰からゆっくりとダリアに近づいて来る様子は、やはり、死者の国…否、妖精の国からのお迎えのようで。「イシルって、やっぱり濃いキャラだよね。」と、思わずダリアに呟かせるような迫力に満ちている。「私は本気。」「うん、知ってる…。」と、そんな掛け合いをしていると、ダリアは楽しそうに笑顔を浮かべた。それでいて、何処かホッとしたような。まるで日常が戻って来たかのような、そんな表情。

「お姉ちゃん、私。応援してるね。幸せになろうね。」

ロザンナが乙女な瞳全開で、ぎゅっと胸の前で両手を握って。ファイト、と、ダリアを励ました。

「……あはは……。ありがとう、ロッちゃん。」

困ったように眉を下げて…嬉しいような、悩ましいような…そんな顔で感謝を述べるダリア。

「はい♪」とロザンナは嬉しそうな笑顔を花がそっと咲くように浮かべる。

「寂しい時は、わたしが一緒にいるよ、お姉ちゃん……。」

今まで黙って見守っていた一緒にお風呂に入っていたミリアナが、ダリアの手をそっと優しく握った。

「うふふ。ありがと。」

ダリアは穏やかに笑みを溢れさせて、そっとミリアナの頭を慈しむように撫でた。

「神様と私が、いつでもお姉ちゃんの味方だよ。」

ミリアナは無垢な瞳でダリアの手を取って、じいーと見上げている。
ダリアの表情は……胸を打たれたような顔、衝撃を受けたような顔、目を見開き、額をぎゅっと寄せて、口元を結び、それから…。ふわりと優しい表情になり。

「ありがとね。ミィちゃん。」

そう言ってミリアナの頭を撫でるダリアの表情は、とても清々しい。

「よかった。ダリアの迷いが晴れて。ミィちゃん偉い。」

相変わらず亡霊か何かのような雰囲気のままにイシルウェン。握り拳を胸の前でぎゅっと握りしめている。
淡々としているのでわかりづらいものの、手に汗握る想いだったのかもしれない…と思わせられる仕草だ。


「ダメダメ。お姉ちゃんの相手はわたしが見つけたげるね。女の子は幸せにならないと~。」

ビアンカはうきうきと弾んだ様子で、しかし柔らかながらも断固とした調子で言うと「あ、そろそろ温いよね。待っててね~。」と言って、炊事場の方に引っ込んでいく。
どうやら、お湯を継ぎ足しする事になるようだ。
ラピスは手伝いたいと申し出るなら、それを手伝うことも出来る。

「いい旦那さんと巡り合って、子供たちに囲まれて……そんな幸せを知らないまま、ダリアが寂しく年老いていくのは、見たくないね。」

炊事場で大鍋から水瓶に湯を移す作業をしながら、ビアンカは本人たちに聞こえないように、呟いているのをラピスは聞けるかもしれない。
そして、ラピスとビアンカは洗濯槽に湯の入った水瓶を持って行って、お風呂の中に継ぎ足しする。



自分と同じ幸せを、



大好きな人に知って欲しい。



幸せを知っているから、誰かに同じ幸せを見つけて欲しい。



そうして、自分と同じ気持ちになって欲しい。



それは…――――。




未収録シーン 2019/05/26/18:29:48 No.690  
語り手  E-Mail 

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そしてお風呂を上がり、寝間着に着替えて。


「ふう、さっぱりしたね。やっぱりお風呂は毎日入らないとダメだね~。」

「ラピスはご両親と暮らしてた頃はお風呂とかよく入ったの?」


「ダリア、ラピス。」

「あれ?イシル?」


「私はいつでも、ベジタリアンの福音を広めるために現れるの。」

「すごい、イシル。」

「もっと褒めて。」

「イシル、すごい、えらい。」

「うれしいな。」


イシルウェンは褒められて満足そうだ。



「それでね。これをどうぞ。」


カフェオレのようなものを入れたマグを二つ差し出すエルフ。
それは……。

============================================


それは……穀物コーヒーです……。
尺の都合もあるけど、夏に暖かい飲み物かぁ…と考え直し、カットすることになりましたシーンです。
これを書いていた時が冬だったもので、つい。
穀物コーヒーは、投入で割って飲むと、美味しいし、和みます…飲み過ぎに注意!



異なる複数の吐息とざわめき 2018/12/04/21:10:28 No.677  
記録者不明  
ここに、誰に記録されたのか、誰のものなのか、いつできたのか
なにもわからぬ書がある

ただ分かることは、伝説であるとも実在しないとも現実に存在するとも言われるある亜人達と、その仲間達の記録らしい、というだけ

いや、ただの物語かもしれないが…


人知れず、いつの間にか紙に記されるものは誰のためのものなのか、誰に向けるものなのか
何の目的なのか

いづれでもないのかもしれない
建国の英雄を探して 2018/12/04/21:23:39 No.678  
  
皇記歴102年 霜深の月 21日

昨日夜分はかなり冷えていた
そこから朝にかけて日が照ったせいで水が蒸発し霧が出ている
俺だけならどうということはないのだが、何者かに接触した際に向こうから何かに誤認されることもある
…まぁ、この広い浅瀬でそのようなことも滅多にないのだが

しかし、状況が状況なだけに、もし接触する者があるならばそれはターゲットか敵だろう

――――――――

ある依頼で探している、建国の英雄がこの地に居ると聞きつけ、遠路はるばる海岸線をひたすらに歩いてきた

…というくだりもこれで何度めか

期待してはいないがそろそろ当たりを引きたいものだ…
事のあらまし1 2018/12/05/17:54:32 No.679  
  
ロフォス戦役から…もう4年か。

ソルロトー大陸から海を隔て東、セメラン大陸の北西部の海岸にいる。
中央部から外れて北だが、南部から暖かい海水が流れるため思ったより気候はゆるやかだ。

今から約20年前にこの大陸を揺るがした大戦が終わり、その残り火も燻るのみとなった…筈だったが、何の因果か俺と相棒はその再燃の火種となるかもしれない、そんな存在を探して回っている。

…個人的には、

それらは見えないだけで既に地面のしたで燃え広がり…俺達はそれを消し止める素材を探しているのではないか

そう感じることもある


いや、確信する


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