見上げれば太陽。快晴だ。
潮薫る街道。港に面した道独特の風が吹き抜ける。
海の方を向けば、漁に出る船、準備している船、水上げしている船などが見えた。
逆を見ると、様々な店が軒並み連なり、客と店員で賑わっていた。
東西南北津々浦々と並べられた商品を、ただ見ているだけでも価値と満足が得られそうなほどだ。ふらっと立ち寄ればとたんに夕方になってしまうだろう。
交易、貿易が盛んな都市ならではの光景だった。
「で、何故に俺が持たねばならんのだ?」
暖かい日差しの中、不釣合いなロングコートを羽織っている男、デイトナが前方へ呟いた。
両手に買い物袋をぶら下げて。
「だってボク1人じゃ重いんだもん。それにこれからまだ買う物もあるし・・・ 手伝っても損は無いと思うよ?」
その前方、大きな帽子と、体格に余るほどのローブを身に纏った中性な顔立ちの女性、ミストが淡々と答えた。
「生憎と忙しいんだが」
「そうは見えなかったけど?」
「休んでたからな」
「ならいいじゃない」
淡々と会話は続く。日差しが暑い。
ただでさえ厚着をしているのだ、いい加減汗も出てくる。
「ふへ・・・ どっか涼めるとこないかな」
小さく舌を出しながら、ミストが呟く。
「適当な店に入ったらどうだ? 冷房管理はある程度されてるだろう。繁盛してる場所は」
「そうしたいけど、この道以外知らないんだ。探しながら歩くのもいいだろうけど、余計な時間は食いたくないの」
くるりとデイトナの方を向く。その勢いで大きな帽子が傾いた。
少々滑稽だ。
「だったら早足か、影を歩く事だな」
なら脱げよ、と言おうとしたがそれだと自分も同じなのであえて飲み込み、別の言葉を並べた。
「そうする・・・ ん?」
頷き、前方を向いたミストは、ふと首を傾げた。
見覚えのある後姿が目に、聞き覚えのある声が耳に入った。
「どうした?」
「ん。さっき知り合いの姿が見えたんだけど・・・ 月かな、ちょっと追いかけてみる」
「そうか。んじゃ俺は先に戻っておくぞ」
「あ、そうしてくれると助かる。ありがと」
「ではな」
双方頷き、それぞれの方向へ足を進める。
「・・・最初からこうしておけば良かったな」
日差しを背に受けながら、デイトナは小さくかぶりを振った。
潮風というのは、時々良いものだ。
街の活気はまだ消えそうになかった。
-END-
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