「・・・良く降るな」
背もたれにおっかかりながら、ヴァルシードは窓の外を眺めていた。
梅雨の始まりを告げる雨、朝から長々と続く神の雫は大地に潤いを与えてくれる有難いものだが、長く降っているとどうもうざったく思えてくる。
「ふぅ・・・ あ、ヴァル」
買出しから帰ってきたのだろう、買物袋を抱えているミストが扉を開けて入ってきた。
「おう。今日の雨は長いな」
「まぁね・・・ それにしても珍しいね」
「? 何がだ?」
買物袋を厨房へ運び、後をお願いするとカウンターへ戻ってくるミストの言葉に、ヴァルシードは少し首を傾ける。
「これ」
彼女の指差した先にある物、蓄音機。古びたレコードが回り、古めかしい曲を流していた。
「ん。ああこれか・・・ なに、知り合いに貰ってな、仕舞っておくのもなんなんで掛けてみたところさ。邪魔なら外すが」
「いや、いいよ。人間の音楽も嫌いじゃないから」
「そうか」
椅子から少し腰を上げてたヴァルシードはまた深く座りなおす。
「あ、何か飲む? 紅茶しかないけど」
「うむ、貰おうか」
「ん」
手際よく準備し、紅茶を入れる。立ち上る煙は、雨音のせいか少し冷たい印象を受けた。
「はい」
「ん。ありがとう」
受け取り、口をつける。
今日の紅茶はどこかしょっぱい味がする。おそらく雨のせいだろう、なんて結論をだしてみる。
「ねぇヴァル、これ何の曲?」
じーっと蓄音機を見ている彼女が聞いてきた。
「これか・・・ 確か、種族による差別を無くそうとかなんかで、有名な歌手が歌った曲らしい」
「ふぅん・・・ そんな事しても無駄なのに、人間のやる事はやっぱ分かんない」
「そうか? 俺は無駄とは思えないけどな」
視線を彼のほうに向ける。
「変わったのかな・・・ ボクは」
「・・・どうした? 急に」
「いや、なんとなく思っただけ」
苦笑するミストに、ヴァルシードは浅い溜息を一つし、口を開く。
「変わらないものはない、変わりたくないと思っても変わってしまうさ。ただ、どう変わるかは、自分で制御出来る」
紅茶を一気に飲みほす。
「だから、お前がこうなりたいと思えば、きっと良い方向に変わっていくさ」
「ん・・・・・・ 頑張ってみるよ」
「ああ」
微笑む二人の顔を、隠すように、外の雨は強まった。
蓄音機から流れる音も、途切れてきた。
―――怒鳴られたら 笑い返そう
侮辱されたら 褒め返そう
銃を向けられたら 銃に握手をしよう
我らから 変わっていこう
大丈夫 大丈夫
トランペットの音は 途切れないから
いつの日か
全ての者が 手を取り合う日を
その日を夢見て
私は 私は歌い続ける
I'm Singing Jazz―――
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