突然だが、人間にとって必要なモノとはなんであるか知っているかい?
愛、名誉、金、食料・・・ まぁ、色々とある。
勿論それぞれが正解ではある。しかし今回の正解ではない。
・・・別にもったいぶる必要もないので、お教えしよう。
それは紙で出来ている。
それはジャバラで、不器用な子供でも仕組みが分かればすぐ作れる。
当るとよい音が響くがさして衝撃はない。
さて、分かったかな?
まぁ答えを言うだけでは面白くないので、実例をお見せしよう―――
「あーーーもーーー!!」
いつもの館のいつものホールで、ミストは金切り声を上げた。
ぶかぶかの帽子が落ちるほど頭を振り、髪をかきむしる。発狂の一歩手前のような状態である。
周りに居た他の店員や客は、彼女の行動に引いたり驚いたり、興味が無かったり、様々な反応をした。
「おいおいどうしたミスト。そんなに怒ってるとエネルギーが減ってなけなしの胸がへごっ!?」
スパーンッ! と心地よいハリセンの音と共に、通常セクハラわんこ―――狼亜人のデュバイドが大の字に倒れた。
「ったく、お前はいつも一言多いな・・・」
そんな相棒を眺めながら、何時ものようにヴァインが嘆息する。
「いでで・・・ ちょっとしたジョークじゃんかよ」
頭をさすりながら起き上がるデュバイド。その言葉にミストは反応を返さなかった。
ヴァインが口を挟む。
「ともかく、何があったのだ?」
「・・・ウチ、大赤字なの今。なんか知らないけど売上金が根こそぎ無くなってるんだ」
「穏やかではないな・・・」
事の大きさを想像し、ヴァインは眉をひそめた。
「うん。でも一応足は付いてるんだ・・・」
言いつつミストは持っている紙を見せた。
「なになにぃ・・・・・・ これであなたも理想のバストをぉ?」
文を読み、呆れるデュバイド。ヴァインもやれやれと肩をすくめた。
「問題は、誰がこんなのを店の金を使って買ってるかって事! 絶対捕まえてお金取り戻す」
「へぃへぃ、がぁーんばってくだーさい」
既にやる気が無いのか、デュバイドは適当に相槌を打った。
彼女もどうでもいいのか、それに対する言葉は無かった。
「さて、と・・・ まずは店員をあたるか」
「・・・非常に言い難いんだが」
と、今まで黙っていた店員の一人が声をかける。
「ん、なに?」
「その紙に書かれてる商品全部・・・ ミストが買ってきたのを見たぞ」
「・・・・・・え?」
硬直。
世界が止まる。
いや、時計の針は動いてるのだが、その言葉が響いた空間は完璧に停止した。
数秒。
周囲の冷たい目線が、ミストに刺さる。
「・・・やれやれ、大ボケをかまして大墓穴か」
深々と溜息をつくヴァイン。
横でデュバイドは剣舞の如き動作でハリセン(当社比二倍)を取り出し構える。
「い、いやこれはレニに頼まれて買って―――」
「問答無用ぉぉぉぉーーーーっ!!!」
スパァァァァァァンッ!!!
この日、歴史に残るほど美しく壮大なハリセンツッコミが炸裂した。
・・・と、まぁそんなわけだ。
そう! 我々に必要なモノはずばりハリセン!
人生、いついかなる時につっこむタイミングがくるか分からない。その時のために、手製でも市販のものでも、ハリセンは一本持っておいたほうが良いだろう。
「・・・おい」
さて次は・・・・・・ んぉ? なんだヴァイン。
「なんだじゃないだろ・・・ 何をやっておるのだお前は」
いや、なんか面白いもん見つけたから、暇つぶしにちょっとな。
「はぁ・・・。どうなっても知らんぞ、俺は」
にっひゃっひゃっひゃ、だぁーいじょうぶ。誰にも見つかりゃしねーって。
「ふぅーん・・・ ボクってこーゆーキャラなんだ」
おぅ。いや別にお前だからって訳じゃねぇんだが、別に祥でもよか・・・ ん?
「へぇ・・・」
ミッ、ミスト!? お前何時の間に・・・!? ってかその手に持っている刀とにじみ出ている怪しいオーラはなんだ!?
「ミスト? ハハハ・・・・・・ 誰の事?」
・・・なに!? まさか!!
「ふんっ!」
げぶぉッ!?
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