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アルブムの見る夢
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アルブムの見る夢
2017/05/23/23:21:49
No.586
アステル☆
<<<「ボクの奥さんと一緒に来たんだよ」「ボクの奥さんと一緒」「ボクの奥さん」クの奥さん」の奥さん」ん」
>>>
ジオの言葉が身体の内側で何度も反響した妖精は、甘美な衝撃に自分自身を強く抱きしめた。
そのまま暫く余韻に浸っていたが、ジオの視線を感じて閉じていた目を開くと、正に妖精の理想な笑顔がそこにあって。
困りながらも嬉しさに表情を蕩けさせてしまう。嗚呼――。
「どうしよう、ジオ。 まだ志半ばだというのに、もう私! 私はここで溶けてしまっても良いかもしれない……っ!」
――こんな台詞が飛び出すくらい、この妖精は一瞬で駄目になった。
何がそんなに琴線に触れたのか。普段のアステルを知る身としてはちょっと違和感を感じるだろうが、とにかく駄目だ。
この妖精、今は使い物にならない。
そしてジオの視線を追って一度はアステルが居る位置を見はしたものの、そこに誰も見つけられず、
ゲオルグは怪しげな者を見る目でジオを見つめ直す。
ジオから見て妖精は姿隠しの類を使ってはいないが、どういう訳か妖精は彼に認識されていないようだ。
ゲオルグが話を続ける中、我に返っていそいそとジオの隣に座りなおした妖精は、居住まいを正してジオに再度おねだりする。
「さ。いいぞジオ。これで彼らにも私が認識できる筈だ。もう一度私を彼らに紹介してくれ。」
勿論この台詞もゲオルグには届いてない。
『どういうこと!?』という表情に、妖精は一瞬きょとんとして、次に胸を張って『どや顔』を披露してくれた。
「ヒミツッ☆」
思わずイラッ☆と来る爽やかな笑顔だ。ちなみにジオもたまに妖精に見せる表情だ。答え合わせにはまだ早い。
自分に見える形で姿を顕した妖精に、ゲオルグが驚きをあらわにソファを立ち上がる。
アステルを数秒凝視して、やがて驚きが去るとアストレアを呼んでゆっくりとソファに座りなおした。
「――っ! ……アストレア! ちょっと来てーっ!」
「なぁにあなた。 まだ夕ご飯の支度の最中なのに。」
前掛けエプロンで手を拭きながらやってくるアストレアに、
ジオから聞かれた時狭間に接続した後の話を一先ず置いてゲオルグがアステルを手で指し示す。
瞬間――部屋を閃光で満たしながら幾つかの『試し』をアステルに強行したアストレアは、一つの結論を得た。
「そこに居る彼女、アストレアに見える? 実体はある? それとも幻影?」
「まさか……。 っ! ……彼女、『アルブム』だわ。
本来なら顕界に姿を顕すことが無い、私を内包する私の上位互換。私の母体。でも、だからこそこんなこと『ある筈がない』。
この世界、この宇宙の全て、過去も未来も現在も同時に見定めるあなたは、『現在』の視点は『私』を通して得ている筈。
――それが何故、ここに? アルブムなのに一個の人格を持っているあなたは『何』?」
「彼女は、ジオの奥さんだそうだよ。」
「ジオ……お客さん?」
混乱するアストレアは視線をゲオルグとジオとの間で交互に往復させ、最後にじっとアステルに向ける。
真剣に見つめるアストレアに、微笑みで応えるアステルが暫くの沈黙を保って、やがてアストレアが詰めていた息を吐き出した。
「……分かったわ。」
「何か分かったのかい? アストレア。」
「ええ。でもあなたには秘密。1つ言えることは、やっぱり私にはゲオルグが居れば十分で、満たされてるってこと。
あとちょっとでご飯ができるから、そろそろ話を切り上げてきてね。出来立ての方が美味しいから。」
「……うん。分かった。」
アストレアが台所に向かったあと、ゲオルグは困ったような、だけど確信を含んだ笑顔をジオに向けた。
「…………。僕にはさっぱりなんだけど。――ジオは何か分かったかい?」
※アルブムについての参考:母による妖精の情操教育。
(
http://t-mirage.sakura.ne.jp/bbs/smt_bbs.cgi?action=show&txtnumber=log&mynum=206&cat=21&t_type=tree
)
語弊を恐れず言うなら、三重世界トリエイジスは究極的には永劫回帰を基本に構築される世界だ。
次の周回へ変遷するトリガは、トリエイジスの基盤を担う新たな妖精が誕生したその瞬間であり、
妖精が増えた瞬間から、一周前の世界に輪をかけて複雑な世界が再構築される。
ただし新しい周回の始まりは前周の上書きではなく、樹木の年輪が育つ様に層になって重なり、
そのため、生した記憶のない妖精(前周や来周の子や孫)が現在の周回に存在することになる。
主体,相対,客体の役割を持って互いに観測を補完しあうために、世界は同時に3つ重ねて構築され、
陸と海と空を備えるという形で1つの世界の構築に最低限必要な妖精はA、B、Cの3グループだ。
A~Zまで綺麗に増えていった場合、構築される世界はより優先される法則が安定し複雑な世界を支えられるが、
妖精ピラミッドが歪になった場合は、その歪が魔に纏わる現象として現れる。
この基準に照らせば、ゲオルグとアストレアとの間に設けられた妖精は、確かにBグループが多い。
その理由がジオが想定するものか否かは、更なる調査が必要だろう。
バレンタインは続く。
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