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美しい夢と幸福な夢
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美しい夢と幸福な夢
2019/05/19/17:34:00
No.689
語り手
E-Mail
ダリアとミリアナ。
穏やかそうな二人なら、静かで和やかな時間が流れるのだろうと思いきや、唐突にミリアナが、外野の騒ぎの火種になる事を口にしてしまうのだった。
「…。お姉ちゃん。男の人のことばかり考えてると、お勉強に集中できないね。」
「…え?」
ミリアナの無垢な言葉…けど、内容はあまりにも衝撃的…にダリアは驚いた様子で目を見開き、時間が止まったように固まってしまう。
そして、それは聞き捨てならないと、すぐに炊事場から大声が飛んでくる。
「なになに!?お姉ちゃん、好きな彼でもいるの!?」
ビアンカの嬉々とした興奮気味な大声を皮切りに、娘たちも続く。
「わー!お姉ちゃんお姉ちゃん、好きな人いるの??聞かせてーぇ!」
「あ、お姉ちゃんも…好きな人、いるんだ…。」
ナタリーヌ、ロザンナも興味深々だ。
そして、ミリアナはダリアに何か言おうとしていたようだが、皆の食いつきを見て、ぽ~っとした顔で皆を眺めている。
「もぉ…こぉらぁ?わたしは、結婚しないんだから。私にはもっと大事な目標とか、やりたい事とか、色々あるんだから。」
ダリアは洗濯槽に身を乗り出して来たビアンカ、ナタリーヌにおっとりとした中に何処か儚さを孕んだ言い方をしながら、ゆるっとしたデコピンをちょいちょいっと二人にやる。
当然ながら、そんな弱いデコピンはあまり効いてない。むしろ、弱々しいデコピンから何を感じ取ったのか二人とも、威勢がさらに良くなった。
「あ!お姉ちゃん嘘!きーかーせーてーよーぅ。」
ナタリーヌが洗濯槽に顔を乗っけて、むくれた顔になる。
「え~…?嘘じゃないよ?私には、目指すべき道がちゃぁんとあるんだからね。」
ふわ~っとした笑顔でナタリーヌを包み込みながら、やはり、儚さの含まれたような、切なさを帯びたような言い方のダリア。
それに対して、洗濯槽の傍までやってきたビアンカは訳知り顔でうんうんと頷きながら。
「むふふふ。ママンにはわかるぞお姉ちゃん?心に嘘をついてるのね?」
全てわかっていると言わんばかりに、ビアンカは洗濯槽に肘を乗っけて、両手に顔を乗っけて、うんうんと頷いて、全てお見通しだと言わんばかりに爽やかな笑顔を浮かべている。
「…も~~、違うよぉ……。」
少しだけ目を泳がせてから、困った様子の笑顔を浮かべているダリア。
「お姉ちゃんは、立派な人になるの……ちゃんと、神様が愛してくれてるから大丈夫。」
ミリアナが、きゅっとダリアの二の腕を取ると、真っすぐにつぶらな瞳で見上げる。
「え、あ、うん…。」
面食らったダリアは、目を瞬かせ、それから、神妙な顔で頷いた。
「この子、時々、こうなるのよね。」
ラピスにビアンカは、にこにこと話しかけて来る。
「いっそのこと、修道院に連れて行こうかと思うのよね。いつも神様の事ばかり話してるし。」
「ビアンカ、ミリアナを修道女にするの?」
「うーん。そこまでは考えてないんだけどね。けど、この子が結婚するより、ずっと神様の事を考えて居られる生活が幸せなんだってわかったら、そういう道に進ませてあげた方がいいかなぁ~ってね。まだ、お見合いとか、そういうの考えるのはずっとずっと先だし……色々と参考になるような経験はさせてあげたいなって。」
「すごい。ちゃんと色々と考えてるんだねモリリン。」
「ふふ~♪えらいでしょ。…それで、お姉ちゃんの片思いの彼については聞かせてくれないのかな?」
「特にそういう人は……。」
いないんだけどな…。と言葉が続くのかもしれないが「えぇーー!」「えーー!」と、ビアンカ、ナタリーヌの声で最後まで言えず。
「そりゃ、色々な男の人と知り合う機会もあるから、素敵な人だな、と思う時もあるし、優しくされて嬉しいなって思う時もあるけど…。」
熱心に話を促されているせいか、思わず、ポロポロとそんな事を何気なく言い出すダリア、するとビアンカの瞳がきらりと光り。
「さすがお姉ちゃん。まさか逆ハーレムを狙っているとは……想像以上にお姉ちゃんは勇者だね…うんうん、お母さんは嬉しいぞ。」
うんうんと腕を組んで半ばふざけた調子で半ば優しい雰囲気で頷いてるビアンカ。
「お姉ちゃんはハーレムを作るの~?ナッちゃんおはなし聞きたい~♪」
一方で、その娘はわくわくした顔だ。瞳をキラキラさせながらナタリーヌはダリアに詳しい話をねだる。
「あのねぇ……。私だって、こう、街角のカップルみたいにイチャイチャしたり、羨ましいなぁって思う時はあるよ、そりゃぁ…。だからって、ハーレムとか作りたいんじゃないんだからね~…?」
「うんうん。」
「うんうん。」
ハーレムだ何だと身に覚えのない事柄をでっちあげられてウンザリしたのか、嘆息しながらついつい弁明を始めてしまうダリアに、興味津々に相槌するビアンカとナタリーヌ。
ロザンナは、ぽーっと両手を胸の前で祈るように絡めてダリアを見つめているのは、恋の話の予感に胸をときめかせているからだろうか。
「なんだか、辛そうにしてる男の人を見かけたら、優しくしたくなる時だってあるし、人に求められると、つい、優しくしたくなる時だってあるしさ。」
「うんうん!」
「うんうん!」
何でもない事のように、むしろ、ハーレム等という何処か楽し気だったり、いかがわしげな響きなどよりは、もっと苦味を帯びたような、生活の垢に塗れたような語り口である。
それでいて、不思議な事に、その苦味に包まれた中身の方は、重くもなく軽くもなく、淡々とした…そう、当たり前の何か…人が重荷を負うのは働く事同じくらいに当たり前のような…というような、そんな彼女の言葉の響きなのだが。
相槌を打つ二人の女子…一人は母親だが…は、ますます瞳をきらきらさせている。母親の方はむしろ、ランプの火力が上がって行くかのような勢いで、瞳が爛々と輝いている…。
「料理を作ってあげて喜ばれれば、もっと美味しくしてあげようとか…また作ってよって言われたら、また作ってあげたくなるしね…。」
「そうだよね!」
「そうだよね!」
フッと笑みを漏らしながら、眉を苦笑いするように下げるダリアの顔は、なんだか、仕方がないなぁと言いながら、だらしのない誰かの世話を焼いているかのような表情で、まるで彼女が誰かの家で同じように「仕方がないなぁ…。」と言う顔をしながら、その誰かのために料理を作ってあげている事を彷彿とさせる顔つきで、それがますます、聞き手の母娘のテンションを上げていくのだった。彼女たちの後ろでロザンナが「ふわぁぁあ…。」と、桜色に頬を染めている。
「応援してあげるとすごく喜んでくれたら、また応援してあげたいと思うし…話を聞いて、楽になったよ、って言われたら、もっと彼の事をわかってあげたいと思うしさ…。」
優しく包み込むような表情でそう語るダリア。
ビアンカは相槌を止めて、満足げな表情でうんうんと頷いている。
ロザンナは瞳が、とてもとても、キラキラしている。
「……。やっぱり、誰かを大切にしてあげてる時が、なんだかんだで、幸せだし…。」
優し気で、愛し気で、慈しみという名の赤子をそっと抱いているかのよう。
ダリアの顔は優しい。声もまた、柔らかなもの。
赤子を抱えた母のように。
それでいて、穢れを知らぬ、無垢な少女のように。
否、むしろ、無垢な少女には到底浮かべられない、それは。
まるで、涙を流し続けてきたが故に、かえって赤子よりも心を洗われてしまったのかもしれない。
その清らかな顔は、優しい顔は、赤子のようにと言うよりはあまりにも、幾星霜の積み重ねを滲ませていた。
「出かける前に、身だしなみを整えてあげてる時の、何処かホッとした顔が、なんだか、とてもね。優しい気持ちにさせられるのよね…。」
穏やかな表情で、柔らかな表情で、語るダリアの顔は恋する乙女というよりは…。
「お姉ちゃん。もう、それ嫁だよ…。」
しみじみと言うビアンカ。
「別に…普通だよ。」
苦笑いをするダリア。どうも、本人にとっては周りは自分の行為をおおげさに受け止めているように感じられているらしい。
なるほど、確かに世話焼き女房のように異性に接しているのは事実なのかもしれないものの、ダリアの語る様子からは絞っても絞っても甘酸っぱいロマンスの味がする甘露が出て来る様子がないように見える。
「あまりにも朝、起きてこないから、寝坊するよって、軽くゆすり起こしてあげてる時とか、なんだかとても幸せで…。」
「ぐふっ…!」
「はうはう…。」
「いいなー、いいなー!ナッちゃんもお姉ちゃんに起こしてもらいたいなー。」
その瑞々しい優しさに満ちた話し方が、あまりにも衝撃的だったらしい。
ビアンカが苦悶の声をあげてのけぞり、ロザンナの膝がくだけそうになってふらふらになり、ナタリーヌが別の意味で羨ましがり、犬が尻尾を勢いよく振ってるかのように目を輝かせている。
「お姉ちゃん……もう、その男の人と結婚しちゃいなヨッ!」
「しちゃいないヨッ!」
ビシィッとダリアに指を突き付けるビアンカと、その真似をするナタリーヌに言われて、ダリアはわけがわからないという風に、それでいて何処か楽しそうに笑みをこぼした。
ロザンナは「ダリアお姉ちゃん、素敵です…。」と、甘いデザートをたっぷり食べてトロトロにとけた顔になりながら、そんな事を言うので「ロッちゃん、一体、何を想像しているの…。」と、くすくすと笑うダリア。
「でも、お姉ちゃん、絶対にいい奥さんになるよ。いいお母さんにもなれる。それに、自分でも誰かを大切にするのが幸せって言ったじゃない。」
ビアンカは熱心な面持ちで、ダリアに言い聞かせるようにする。何とか友人の心を変えたいのか、明るい調子ではあるものの、熱心な様子だ。
ロザンナも後ろでうんうんと、口元をきりりと結んで頷いている。
「お姉ちゃんは、結婚しないのー?」
ナタリーヌは不思議そうにダリアの顔を見つめている。
「私は……。…今よりもより魔術の高みを目指したいの。全ての魔術と宗教の理想とする、窮極の境地に……届かなくても、そこに向かって行きたい…。」
ぽつぽつと語り出す様は、何処か遠く果てしない地平線を眺めているかのようで……それでいて夜明けの星を眺めているかのように清々しい顔。
それを見ても、ビアンカはなおも「結婚してから、いくらでも目指せばいいじゃない。なんだったら、旦那さんにも手伝って貰って。」と、にこやかに結婚を勧めるビアンカ。
「…そのためには生命液を結晶化させなければならないから、男の人と交わらない方がいいの。」
微妙に言いにくそうな何とも言えないになるダリア。
ビアンカはそれを眺めながら、顎に手を当ててじっと考え込む。
「ふーん…。その生命液って……。」
「……。体液の事で、食事で得た栄養や、生命エネルギーが豊富に満ちているから、損失をするとまた作るのに多くの食物や時間や生命力が必要だから、できるだけ保存するのが望ましいし、窮極の高みまでたどり着くには、完全に保存されなければならなくて……。」
「なんの体液?」
「……。ほら、その、酸化させると行けないから……。」
追及されると、困ったように目を泳がせながら、何処か遠回しな言い方をする。
ビアンカは「酸化…?」と未知の単語に目を白黒させながら、頭を捻り続けているようだ。
つまり、どういう事だろう?と。
「ええと、ほら、空気に触れると。…その、体液だから…。」
ますます、言いづらい様子で、言葉たどたどしくなるダリアに、ビアンカは「うむむむ!」と額に手を当てて唸りながら、なんとか理解をしようとしている。
やがて「あ、そうか。」と、表情を明るくした。
「ひょっとして、愛し合う時に?」
「そう。血液を作り出す何倍ものエネルギーが必要で…それらすべてを魂の覚醒や、アクシオトーナルライン…霊なる神経経路…の活性化に利用するべきで…でも、むしろ、男性性と女性性の結合こそが究極の高みに昇り詰めるのに必要と言う考え方もあるみたいだけど…私としては……。もう、この話はいいんじゃないかな。」
盛り上がっているのはビアンカだけで、ロザンナやナタリーヌは「ふぇ…。」とか「難しい~~!」と言う反応を見せているのだった。
「モリリンお姉さん、もっと聞きたいなぁ…。」
なおも食い下がるビアンカ、ダリアは洗濯槽の壁に背を預けながら「うーん。」と困ったような笑顔を浮かべている。
「よくわからないけど、男の人の事を好きになっちゃだめなの?」
ナタリーヌが不可解そうな顔で首を捻っている。
「愛する事は悪いことじゃないけれど、生命液を浪費する恐れがあるし、意識を”絶対”や”セフィラ”、それにマントラム…神秘の言葉…等に集中する必要があるから、あまり、色恋沙汰を求めない方がいいし、厳しい考え方だと異性との接触を避けるべしとする考え方もあるくらいだから……簡単に言うとね、子供を作るための命の力…これを額の辺りにあげて宝石のように結晶させないといけない…それから、そのために精神を毎日毎日、集中して、たくさんの魔術的なテーマについて考えないといけない…。」
穏やかに、ゆったりと、ゆったりとした語り口。
それは、まるで、小さな小さな生徒に、優しく教える先生のような姿だ。
「だから、この道を行く者は、独身である事が望ましい……もちろん、早くに結婚をして、子供を育て上げてから高みに至ろうとする人たちもいるけれどね。」
そう言って、にっこりとしながら、人差し指を立てるダリア。
人生の最高の幸せを手にしながら、窮極の境地に達した人もいるのだ、と。
「じゃあ、お姉ちゃんも、そうしたらいいんじゃないかなー。」
ビアンカは、真っすぐな視線をダリアに向けている。明るい顔ではあるものの、強い希望がその態度には込められている。
「寿命を迎えるまでに、できるだけやれる事はやっておきたいから……。それに、私、エリクシルと言う……偶然かもしれないけど、聖杯の名に由来する家名の家に生まれてきて……ダリアも、花の名前でもあるけれど、いにしえの言葉では”神なる枝”っていう意味になるみたいだし、なんだか、運命を感じちゃうのよね。」
そして、人差し指を自分の胸の中心から、額にサッサッと上下に動かす仕草をして「生命液が材料となり、聖杯となる器官が脳の中心に形作れ、エリクシールが心臓に注がれた時、完全なる人間が、神人が誕生する…。」と、半ば独り言のように、何処か瞑想的な様子で呟く声は、不思議な魔術の詠唱のようで、聴く者を何処か知らない世界へ誘って行きそうだが、ビアンカの娘たちの息を飲ませたり、ほぅ、と吐息をつかせることはできても、その母にはそれよりも、もっと強い想いがあるらしく、相変わらず笑顔のままに、何処か茶化すような口調で。
「お姉ちゃん…。素敵オーラ出してるけど、モリリンからすると、真面目過ぎて、トキメキが足りないぞぅ。」
にこにこと洗濯槽に両腕を乗せながら、ダリアを強い眼差しで見つめているのだが、ダリアはそれに気づく事無く、淡々とやはり詠唱のような独り言を、半ば瞑目しながら水面に目線を落としながら続けている。
「”絶対”に至り、魔術の秘儀を極めれば、この世の全ての幸福が儚くなる程の至福が待っていて……宇宙の法則を知り尽し、天界の法則に乗っ取ることにより、この世の元素を支配できるようになり……。」
いつか、そこに到達しよう。
そのために、日々日々の時間と命を捧げよう。
固まった決意、固定された道、もう後戻りはない。
儚く幻想的な表情は、もはや、この人はそこに至るしかないのだろう、という、そんな雰囲気を醸し出しているのだが……。
「ダメダメ、そんなのダメ。」
「えええ~~??」
バッサリそう言い切ってダリアに迫るビアンカ、そして彼女の胸の中心を貫かんばかりに人差し指を突き付ける。
ダリアからすれば、目の前にいきなり指が突き付けられて、びっくりである。
唖然とするダリアに、ビアンカは言い募る。
「いい?女の子はね、幸せになるために生まれてきたの。寂しく一人で生きるなんてダメだよ。愛する人と一緒じゃない人生だなんてやっぱり寂しいよ?モリリンはお姉ちゃんに幸せになってもらいたいな。お姉ちゃんもね。女の子なんだからさ!」
もはや茶化すでもなく、明らかに説得するような調子でビアンカは、笑顔で高らかに言えば、その横でダリアをじっと見ていたナタリーヌは右手を振り上げて。
「そうだそうだぁ~!女の子は幸せになるために生まれてきたんだよ!お姉ちゃんも幸せになるんだ~!」
「え、えーと……。」
笑顔を浮かべて言葉を失うダリア。どう返せばいいのかと途方に暮れている。
そして、ついには、後ろで祈るように指を組み合わせていて見守っていたロザンナまで「お姉ちゃん…。ロっちゃんもお姉ちゃんの幸せを応援してるね…。」と、控えめな可愛らしい声で言って、きりりと口元を結んで「ファイト。」と言わんばかりに、両手を握り拳にして、頷いて見せた。
これには、もう、どうしていいかわからない。
ダリアの表情は複雑なものだ。嬉しいようでもあるけれど、何処か困っているようでもある。
「……ううん。」
悩まし気に額を寄せるダリア。まだ迷いがあるのか、それと、ビアンカとその娘たちの想いにどう応えたらいいのか悩んでいるのか。
「男に抱かれる幸せを知りなさいダリア。知るのぢゃ。」
何故か最後の方は可愛らしいおじいちゃん口調になるビアンカ。
その口調に少し吹き出し気味になり、思わず楽し気に口元を抑えるダリア。
「……。も~、なあに言ってるの~?」
何処か切なそうな顔で目を細めて俯くと、ビアンカの頬をぺちっと叩くダリア。「いちゃい!」とビアンカはおおげさにダメージを受けてよろめいた。
ふう、と吐息をつくダリアの表情は、何処か憧れた甘い幻想を置き去りにしてきてしまった乙女のような、甘く蕩けてそれでいて、何処か切なげな表情を浮かべていて、額を寄せて思い悩む。
「私は…。」
言い掛ける。甘く幸福感に満ちた夢に手を伸ばそうとするかのように…もう一度、置き去りにした幻想を取り戻しに、道を引き返したいと言おうとしているかのようだったが。
不意にその言葉の続きは、静かな声に遮られた。
「ダリア。迷わないで。純潔を保ち、子供の心を保つあなたは妖精の国に行くのよ…。」
不意に顔を出したイシルウェンが、物陰に佇む様は、まるで亡霊…いや…本当に妖精がダリアを化かしに……いや、迎えに来たかのようである。
まるで神話やフェアリーテイル(妖精伝説)の世界から、そのまま姿を現したかのような、大自然の荘厳さを伴った迫力のようなものを醸し出していて、思わず皆、息を飲んでしまうのだった。
妖精の娘はあくまで淡々と静かにしているものの、甘い幻想と愛の希望に満ちていた空間を、一気に神話の深奥に漲る命の叫びに満ちた空間へと変貌させてしまった。
なるほど。確かに、彼女は幻想的で美しい…だが…。
「イシルん怖い。」
「きゃぁあぁ~~~♪」
ビアンカがぞっとした顔でイシルウェンに振り返り、げんなりと言った。その一方でナタリーヌが怖がってるのか喜んでるのか、嬌声をあげながらジャンプジャンプと飛び跳ねている。
「ええ、怖がりなさい。私は人間に恐れられるまごうことなき聖なる森の声よ。我が名はイシルウェン。ダリア、人間の声ではなく、私の声に耳を貸しなさい…。」
物陰から、厳かにのたまう銀の妖精の姿は、まるで神話の一場面のようだ。そして、物陰からゆっくりとダリアに近づいて来る様子は、やはり、死者の国…否、妖精の国からのお迎えのようで。「イシルって、やっぱり濃いキャラだよね。」と、思わずダリアに呟かせるような迫力に満ちている。「私は本気。」「うん、知ってる…。」と、そんな掛け合いをしていると、ダリアは楽しそうに笑顔を浮かべた。それでいて、何処かホッとしたような。まるで日常が戻って来たかのような、そんな表情。
「お姉ちゃん、私。応援してるね。幸せになろうね。」
ロザンナが乙女な瞳全開で、ぎゅっと胸の前で両手を握って。ファイト、と、ダリアを励ました。
「……あはは……。ありがとう、ロッちゃん。」
困ったように眉を下げて…嬉しいような、悩ましいような…そんな顔で感謝を述べるダリア。
「はい♪」とロザンナは嬉しそうな笑顔を花がそっと咲くように浮かべる。
「寂しい時は、わたしが一緒にいるよ、お姉ちゃん……。」
今まで黙って見守っていた一緒にお風呂に入っていたミリアナが、ダリアの手をそっと優しく握った。
「うふふ。ありがと。」
ダリアは穏やかに笑みを溢れさせて、そっとミリアナの頭を慈しむように撫でた。
「神様と私が、いつでもお姉ちゃんの味方だよ。」
ミリアナは無垢な瞳でダリアの手を取って、じいーと見上げている。
ダリアの表情は……胸を打たれたような顔、衝撃を受けたような顔、目を見開き、額をぎゅっと寄せて、口元を結び、それから…。ふわりと優しい表情になり。
「ありがとね。ミィちゃん。」
そう言ってミリアナの頭を撫でるダリアの表情は、とても清々しい。
「よかった。ダリアの迷いが晴れて。ミィちゃん偉い。」
相変わらず亡霊か何かのような雰囲気のままにイシルウェン。握り拳を胸の前でぎゅっと握りしめている。
淡々としているのでわかりづらいものの、手に汗握る想いだったのかもしれない…と思わせられる仕草だ。
「ダメダメ。お姉ちゃんの相手はわたしが見つけたげるね。女の子は幸せにならないと~。」
ビアンカはうきうきと弾んだ様子で、しかし柔らかながらも断固とした調子で言うと「あ、そろそろ温いよね。待っててね~。」と言って、炊事場の方に引っ込んでいく。
どうやら、お湯を継ぎ足しする事になるようだ。
ラピスは手伝いたいと申し出るなら、それを手伝うことも出来る。
「いい旦那さんと巡り合って、子供たちに囲まれて……そんな幸せを知らないまま、ダリアが寂しく年老いていくのは、見たくないね。」
炊事場で大鍋から水瓶に湯を移す作業をしながら、ビアンカは本人たちに聞こえないように、呟いているのをラピスは聞けるかもしれない。
そして、ラピスとビアンカは洗濯槽に湯の入った水瓶を持って行って、お風呂の中に継ぎ足しする。
自分と同じ幸せを、
大好きな人に知って欲しい。
幸せを知っているから、誰かに同じ幸せを見つけて欲しい。
そうして、自分と同じ気持ちになって欲しい。
それは…――――。
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ダリア=E
2017/05/06-21:08:04
[581]
┗
一日の始まり
瑠璃色の空
2017/05/16-21:28:48
[582]
┗
紺碧の空気を垣間見て
ダリア=E
2017/05/21-21:58:11
[584]
┗
一日の始まり
瑠璃色の空
2017/05/27-21:09:06
[587]
┗
お泊りのお誘い
ダリア=E
2017/06/04-21:50:19
[590]
┗
一日の始まり
瑠璃色の空
2017/06/05-22:36:27
[592]
┗
静かに熱く、照れくさ..
ダリア=E
2017/06/11-15:35:25
[594]
┗
一日の始まり
瑠璃色の空
2017/06/11-21:24:13
[595]
┗
ドゥオーモ前広場
ダリア=E
2017/06/17-10:13:16
[596]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/06/20-21:09:37
[600]
┗
お喋りな広場の人々
ダリア=E
2017/06/26-00:38:00
[601]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/06/28-20:21:20
[602]
┗
カツレツ談義
ダリア=E
2017/07/02-20:02:32
[603]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/07/05-00:05:53
[604]
┗
都会の風景
ダリア=E
2017/07/09-20:36:41
[605]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/07/13-23:41:33
[606]
┗
都会の風景と人々
ダリア=E
2017/07/17-17:36:39
[607]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/07/29-21:54:02
[608]
┗
街の風景に惹かれる少..
ダリア=E
2017/08/06-20:41:12
[609]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/08/30-23:49:16
[610]
┗
荷馬車や馬車が行き交..
ダリア=E
2017/09/03-22:17:05
[611]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/09/13-21:27:18
[612]
┗
歩行者を待つのは何時..
ダリア=E
2017/09/17-15:35:48
[613]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/09/29-13:06:25
[614]
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おばあちゃんお金ない..
ダリア=E
2017/09/29-21:14:03
[616]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/10/11-21:11:04
[617]
┗
レイエ・ディチェンド..
ダリア=E
2017/10/15-22:27:00
[619]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/10/20-21:45:05
[624]
┗
おばあちゃんのして貰..
ダリア=E
2017/10/21-15:10:16
[625]
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始まりの一日
瑠璃色の空
2017/10/24-19:59:17
[629]
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頼もしい子だわね!
ダリア=E
2017/10/28-19:54:24
[630]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/11/03-22:30:36
[634]
┗
都の森の入り口
ダリア=E
2017/11/04-23:18:15
[635]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/11/11-21:54:15
[640]
┗
おばあちゃんのカゴと..
ダリア=E
2017/11/12-21:21:38
[641]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/11/19-20:25:39
[643]
┗
太陽のような笑顔(そ..
ダリア=E
2017/11/23-19:15:43
[645]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/11/26-19:39:43
[647]
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聖母子像の祠
ダリア=E
2017/12/03-23:08:41
[651]
┗
始まりの一日
瑠璃色の空
2017/12/20-22:10:03
[653]
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聖母崇拝、慈雨の面差..
ダリア=E
2017/12/24-21:14:52
[654]
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始まりの一日
瑠璃色の空
2018/02/04-20:04:06
[657]
┗
天使祝詞
ダリア=E
2018/02/11-12:29:44
[658]
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始まりの一日
瑠璃色の空
2018/03/01-13:45:50
[663]
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夕方の遊歩道の景色
ダリア=E
2018/03/04-17:44:13
[664]
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遊歩道の脇道の一つの..
語り手
2018/07/01-21:33:24
[666]
┗
以前の依頼者
語り手
2018/07/08-19:42:25
[667]
┗
今日の晩御飯、片づけ..
語り手
2018/07/22-13:07:53
[668]
┗
食事の様子、ベンゾー..
語り手
2018/07/29-13:42:14
[669]
┗
遊歩道の先
語り手
2018/08/05-20:38:54
[670]
┗
少女の親切が導くもの
語り手
2018/08/15-17:06:00
[671]
┗
時代
語り手
2018/08/15-17:07:47
[672]
┗
キャンドル・ナイト
語り手
2018/09/02-19:01:52
[673]
┗
シルヴァ―エルフと働..
語り手
2018/09/24-18:07:55
[674]
┗
お風呂の準備、支度が..
語り手
2018/09/24-18:14:18
[675]
┗
ビアンカ宅のお風呂
語り手
2018/10/28-18:22:37
[676]
┗
ビアンカ宅のお風呂2
語り手
2019/01/06-21:02:24
[680]
┗
眠りに落ちる前に
語り手
2019/03/24-20:08:49
[681]
┗
夜明け前
語り手
2019/03/24-20:11:57
[682]
┗
森の祝福、暁の光
語り手
2019/04/30-12:18:03
[683]
┗
鐘楼、詠唱、赤光
語り手
2019/05/04-12:37:55
[684]
┗
地上の星
語り手
2019/05/04-13:56:49
[685]
┗
久遠に刻まれる時
語り手
2019/05/05-18:53:08
[687]
┗
受け継がれる光
語り手
2019/05/05-19:48:40
[688]
済
┗
お出かけの装いは
語り手
2019/05/05-17:25:41
[686]
┗
美しい夢と幸福な夢
語り手
2019/05/19-17:34:00
[689]
┗
未収録シーン
語り手
2019/05/26-18:29:48
[690]