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▼ 精神世界旅紀行～現状 ＧＭ 2014/02/18-18:58:44 [316]
   ┗ 最初の問題。 エル 2014/02/18-19:36:37 [318]
      ┗ 少女と夢魔は向き合っ.. クルス 2014/02/19-23:54:55 [321]
         ┗ 手段は選ばない。 エル 2014/02/20-08:42:31 [322]
            ┗ 一通り、黙って話を聞.. クルス 2014/02/20-21:41:48 [324]
               ┗ いざ参らん。 エル 2014/02/20-22:44:25 [325]
                  ┗ 男は少し考えて クルス 2014/02/22-20:18:54 [333]
                     ┗ 奇声発声。 エル 2014/02/22-21:28:36 [334]
                        ┗ （耳元キーン クルス 2014/02/23-00:40:48 [335]
                           ┗ 借りてきた犬。 エル 2014/02/23-14:39:53 [337]
                              ┗ 精神世界旅紀行～序章 常闇の森 2014/02/23-17:56:04 [340]
                                 ┗ 緊張。 エル 2014/02/23-21:58:23 [341]
                                    ┗ 異界渡り クルス 2014/02/24-22:04:56 [344]
                                       ┗ 精神世界旅紀行～序章 ハイト 2014/02/25-19:01:48 [346]
                                          ┗ 迷う暇無し。 エル 2014/02/26-22:57:33 [348]
                                             ┗ 行く先に居たものは クルス 2014/03/02-23:33:43 [349]
                                                ┗ 必要なのは。 エル 2014/03/04-00:35:14 [351]
                                                   ┗ 精神世界旅紀行～序章 ハイト 2014/03/04-22:24:22 [353]
                                                      ┗ 一縷の望みを掛けて。 エル 2014/03/05-02:13:46 [354]
                                                         ┗ エルの返答を聞けば、 クルス 2014/03/10-01:10:37 [357]
                                                            ┗ 必死！ エル 2014/03/10-09:36:20 [358]
                                                               ┗ 精神世界旅紀行～序章 ハイト 2014/03/12-17:45:59 [361]
                                                                  ┗ 交差。 エル 2014/03/13-19:05:16 [364]
                                                                     ┗ 少女の決断に男は、 クルス 2014/04/02-23:55:20 [367]
                                                                        ┗ 精神世界旅紀行～序章 ハイト 2014/04/04-22:52:04 [368]
                                                                           ┗ 10秒の後 エル 2014/04/09-06:10:36 [369]
                                                                              ┗ 悪魔の目論見は、どう.. クルス 2014/04/14-00:16:22 [370]
                                                                                 ┗ 暫しお待ちを。 エル 2014/04/14-00:37:43 [371]
                                                                                    ┗ ようやく、半歩を達成.. クルス 2014/04/15-23:53:54 [372]
                                                                                       ┗ どうしましょう。 エル 2014/04/24-21:45:47 [373]
                                                                                          ┗ 閑話相模 2014/04/27-04:31:19 [374]
                                                                                             ┗ はた、と男は動きを止.. クルス 2014/04/28-03:54:23 [375]
                                                                                                ┗ お誘い。 エル 2014/04/30-22:13:05 [389]
                                                                                                   ┗ 葛藤相模 2014/05/01-02:10:53 [390]
                                                                                                      ┗ 精神世界旅紀行～序章 GM 2014/05/10-19:05:34 [392]
                                                                                                         ┗ 精神世界に行く前に。 エル 2014/05/12-07:11:31 [393]
                                                                                                            ┗ 回答相模 2014/05/13-22:58:26 [396]
                                                                                                               ┗ Re:回答 ＧＭ 2014/05/15-07:22:41 [398]
                                                                                                                  ┗ ぐるりと辺りを見回し.. クルス 2014/06/15-03:54:34 [403]
                                                                                                                     ┗ 精神世界旅紀行～序章 GM 2014/06/15-15:32:24 [404]
                                                                                                                        ┗ ほっと一安心。 エル 2014/06/17-07:43:29 [405]
                                                                                                                           ┗ 侍従相模 2014/06/17-23:33:39 [406]
                                                                                                                              ┗ 悪魔の彼女の寝顔を .. クルス 2014/06/22-02:51:44 [407]
                                                                                                                                 ┗ はじまりの。 エル 2014/06/25-17:45:57 [408]
                                                                                                                                    ┗ 静謐相模 2014/06/28-03:59:06 [409]
                                                                                                                                       ┗ ﾁﾗと白い女の背を見.. クルス 2014/06/29-00:35:27 [410]
                                                                                                                                          ┗ 願わくば。 エル 2014/06/29-23:40:38 [411]
                                                                                                                                             ┗ 切願相模 2014/06/30-03:14:08 [412]
                                                                                                                                                ┗ 精神世界旅紀行 GM 2014/06/30-07:54:40 [413]
                                                                                                                                                   ┗ 確認を。 エル 2014/06/30-13:46:40 [414]
                                                                                                                                                      ┗ Re:確認を。 GM 2014/06/30-20:30:42 [415]
                                                                                                                                                         ┗ 懐かしの精神世界にて.. クルス 2014/07/07-00:20:30 [416]
                                                                                                                                                            ┗ いざ出発。 エル 2014/07/08-00:45:47 [417]
                                                                                                                                                               ┗ 精神世界旅紀行 GM 2014/07/11-23:13:04 [418]
                                                                                                                                                                  ┗ ぉや、と瞳を丸くして クルス 2014/07/12-23:03:14 [419]
                                                                                                                                                                     ┗ Re:ぉや、と瞳を丸く.. GM 2014/07/18-19:52:36 [424]
                                                                                                                                                                        ┗ やってみます！ エル 2014/07/19-11:11:37 [426]
                                                                                                                                                                           ┗ 12時の方角へ クルス 2014/07/20-14:07:14 [429]
                                                                                                                                                                              ┗ 精神世界旅紀行 ＧＭ 2014/07/20-15:35:40 [431]
                                                                                                                                                                                 ┗ 繋いだ手は片時も離さ.. クルス 2014/07/20-23:15:59 [436]
                                                                                                                                                                                    ┗ Re:繋いだ手は片時も.. GM 2014/07/21-19:06:03 [439]
                                                                                                                                                                                       ┗ そこが同じであろうと.. クルス 2014/07/22-00:56:10 [443]
                                                                                                                                                                                          ┗ 扉の向こうへ。 エル 2014/07/24-09:31:29 [449]
                                                                                                                                                                                             ┗ 精神世界旅紀行 GM 2014/07/24-21:10:59 [451]
                                                                                                                                                                                                ┗ ノブに手を掛け、開い.. クルス 2014/08/01-00:03:17 [463]
                                                                                                                                                                                                   ┗ 迷いは無い。 エル 2014/08/02-08:34:43 [465]
                                                                                                                                                                                                      ┗ 精神世界旅紀行 GM 2014/08/09-14:09:10 [467]
                                                                                                                                                ┗ 一方 白い女 2014/07/19-10:27:37 [425]
                                                                                                                                                   ┗ 応答相模 2014/07/20-14:15:08 [430]
                                                                                                                                                      ┗ Re:応答 白い女 2014/07/20-16:11:43 [432]
                                                                                                                                                         ┗ 欺瞞相模 2014/07/20-18:51:36 [433]
                                                                                                                                                            ┗ Re:欺瞞 白い女 2014/07/21-21:14:32 [441]
                                                                                                                                                               ┗ 捕捉相模 2014/07/22-21:58:19 [444]
                                                                                                                                                                  ┗ Re:捕捉 白い女 2014/07/23-20:15:17 [446]
                                                                                                                                                                     ┗ 愚臣相模 2014/07/25-04:36:55 [453]
                                                                                                                                                                        ┗ Re:愚臣 白い女 2014/07/26-10:07:57 [455]
                                                                                                                                                                           ┗ 咀嚼相模 2014/07/27-07:52:32 [457]
                                                                                                                                                                              ┗ Re:咀嚼 白い女 2014/07/30-08:57:40 [461]
                                                                                                                                                                                 ┗ 嚥下相模 2014/11/03-21:56:47 [506]
                                                                                                                                                                                    ┗ Re:嚥下 白い女 2014/11/08-10:08:10 [507]
                                                                                                                                                                                       ┗ 一陣相模 2014/11/11-07:24:09 [508]
                                                                                                                                                                                          ┗ Re:一陣 白い女 2014/12/05-20:52:00 [509]

精神世界旅紀行～現状 2014/02/18/18:58:44 No.316

ＧＭ

　──かの悪魔の精神世界を探るべく、夢魔と少女は立ち上がる。

　２月半ば、未だ冷たい空気が世界を包む中、エルとクルスは共通の目的を持ち顔を会わせる事となる。時狭間なりエルの部屋なり、互いに都合の良い場所と時刻で良いだろう。
　今回の目的はハイトの精神世界を探索する事。併せて、ハイトの意識を失わせる事だ。
後者の目的を改めて開示する理由は至極簡単。あの悪魔は、夢魔に精神世界に侵入された日から一睡もしていない。
無論侵入されたという確証は悪魔にはないが、クルスの言動から疑惑は抱いている。故に、寝ないという強攻策を取った。
意識が途絶えるタイミングがないという事実は、夢魔であるクルスなら容易に入手できよう。

　悪魔が意識を失わなければ、精神世界へは入れない。
精神世界へ入れなければ、探索も出来ない。
ならばどうするか──　
顔を会わせた二人が、先ず解決しなければならない問題。

最初の問題。 2014/02/18/19:36:37 No.318

エル

ハイトの精神世界に入る為には、ハイトの意識を失わせる必要がある事を、このワンコモドキはまだ知らなかった。
恐らく夢魔との会合は、館の裏庭、噴水の前か。
ハイトの意識の話は、そこで聞くことになるだろう。

みゅぅ、と眉間に皺を寄せて、暫し考え込んでいた娘は、真剣な面持ちで、夢魔の整った顔を見上げた。

「クルスおにーさん、ハイトおねーさんに会えへんやろか。
ハイトおねーさんに会えたら、エル、何とかでけるかもしれへん。」

考え考え、言葉を紡ぐ。

少女と夢魔は向き合って 2014/02/19/23:54:55 No.321

クルス HOME

（（あの強情女……））

件の悪魔の精神世界に入り込んでから早数ヶ月。
それ以降彼女とは顔を合わせていないが、隙あらば更なる探りを入れようと機を伺っていた夢魔は
とある事実から彼女の思惑に気付き、同時に閉口して少女の元を訪れることになった。
元来堪え性のない男からすれば、これでも気長に待った方だろう。
が、これ以上待つのは得策ではないとの判断を下して。

「――と、いう訳だ。あの女、行方を晦ましただけでなく
　探られることを警戒して、あれから一睡もしてないらしい」

忌々しげに舌打ちし、噴水の前で腕を組みﾄﾝﾄﾝ、と爪先を鳴らす。
いつものように唐突に犬耳の少女を訪れた夢魔は、自分の「監視」の成果をそう語った。
返される言葉には、しばし考える素振りを見せて、

「…あいつの気配や魔力は記憶している。どの道ハイト自身を捕えなければ話は進まないだろうな。
　あいつの世界を探すか、別の世界に逃げ込んでいるなら異界渡りをするか……
　しかし会って、どうするつもりなんだ、エル？」

あの気丈な性格では、そう易々と説得に応じるとも思えんが。と腕を解き、問う。

手段は選ばない。 2014/02/20/08:42:31 No.322

エル

夢魔の言葉にｺｸｺｸと頷きながら、両手の拳をきゅっと握り、むぃ、と口をへの字に曲げる。

「ハイトおねーさん、むっちゃ優しいよって、説得やと絶対うんって言ぃへんと思うん。
せやからちょっと強引に行かな。
強硬手段取ったるわ。」

そこから娘は自分の考えを説明する。

「─エルの魔力、お日様属性やねんの。んで、眠たなるんは、セロトニン…インドールアミンの一種になんねんけど、生体リズムとか神経内分泌とか睡眠とか体温調節なんかに作用するんよ。んで、脳内伝達物質の分泌や抑制や生成を促す効果があんねんけど、細胞膜にあるレセプターに直接魔力でもって働きかければ細胞質がエネルギーの消費や変換を行いやすくなる筈なん。せやから、ミトコンドリアとリボゾームに反応する魔力を流せば眠らずには居られへんと思うわ。何日も寝てへんねやったら環境は整ってる筈やねんし。」

アホにしか見えない子から専門用語満載の言葉がぽんぽん飛び出す。

要約すると

「ハイトに向けて眠気を誘う身体機能をUpさせれば眠らせることが可能だろう」

と言う事らしい。

一通り、黙って話を聞いていたが 2014/02/20/21:41:48 No.324

クルス HOME

「なるほど分からん」

魔術など生まれた時から感覚でしか使ったことのない夢魔は、
少女の意外かつ豊富な知識をこの一言で済ませやがった。

（（優しい　ねぇ……））

思うところは色々あるようだが、まぁ敢えて否定はすまい。
取りあえずは最後の、「眠らずにはいられない」の箇所だけ理解できれば十分だ。

「なら探すか、あの女を」

そうと決めればこの夢魔は早い。
エルに向けて手を伸ばし、まずはこの世界で。と笑った。

いざ参らん。 2014/02/20/22:44:25 No.325

エル

探すか、の言葉に、ぱたたたたっと勢い良く尻尾が揺れ、躊躇の欠片も無く男の手をきゅぅ、と握る。
これにとって目の前の夢魔は、既に呼び名の通り、兄の様な存在になっていた。
つまるところ、激　懐　き　。

「うんっ！」

元気良く頷けば、何処から探す？と首を傾ける。

「んーと、相模さんも居場所しらへんのかなぁ？
後は、あっちの怖いトコとか？」

瘴気の渦巻くかの地の方を、指差した。

男は少し考えて 2014/02/22/20:18:54 No.333

クルス HOME

「………」

ぎゅ、とされた。
確かに自分から手は伸ばしたが、一瞬何とも言えない顔になって。
純粋無垢を絵に描いたような少女の瞳が、ちょっと眩しい。

「先に相模に当たるべきだろうな。あいつの家は知ってる。行くぞ」

言うが早いか、男はエルの手を引き、ひょぃと横抱きにする。
背にﾊﾞｻﾘと蝙蝠の翼を生やし、地を蹴った。

目指すは昔一度訪れた、猫耳の少女が店番をする異世界の薬屋。

奇声発声。 2014/02/22/21:28:36 No.334

エル

「相模さんの場所、判──」

手を引かれ、引き寄せられた次の瞬間、地面から足が離れれば、言いかけた言葉は途中で途切れ、奇声に変わる。

「ぅひょーっ？！」

はっし！と夢魔の胸元をしっかり握り、思わずぎゅっと瞑った目を、恐々と開く。

次に見えたのは、高みから見える遥か下の景色だろうか。

「きゃーきゃーきゃー！」

慣れない空中散歩に、ビビリまくりのワンコの口からは悲鳴は上がりっぱなしになった。
店に着くまでに、夢魔の耳が無事でありますように。

（耳元キーン 2014/02/23/00:40:48 No.335

クルス HOME

「喧しい」

耳元で叫ばれれば、片手を離し何の躊躇いもなくエルの口に自分の手を突っ込んだ。
少女のことは気に入ってはいるが、子供のようなキンキン声は苦手なのだ。

森の境目を抜け、以前と同じ方法で、異世界にぽつりと立つ薬屋を訪れる。
ドアを潜れば猫耳としっぽのついた、和装を纏う、
艶やかな黒髪の少女が出迎えてくれるのだろう。
「相模に会いに来た」と言えば快く彼の部屋、屋根裏へ通される。
久方ぶりに会う彼は変わりないように思えたが、
ハイトの名を出せば無表情の面にも変化が現れるのだろう。

「ハイトを探している。居場所を知っているなら、教えてくれ」

教えろ、ではなく教えてくれと言ったのは、一応これなりの配慮だろう。
問いには是が、ならば連れていってくれと頼めば、再びYesの返事を　得た。
彼女と主従契約を結んでいる彼は、彼の悪魔の元へ二人を転送できるのだと言う。

借りてきた犬。 2014/02/23/14:39:53 No.337

エル

「Σ！　　　…もご。」
手を突っ込まれれば、途端に大人しくなった。
というのも迂闊に叫べば（叫べるかは兎も角）手を齧ってしまいそうで。

程なく無事に目的地らしい店に辿り着けば、夢魔の後に続き店へと足を踏み入れる。
興味深げに店を見渡し、お口にチャックのまま夢魔についていき、案内された屋根裏で久しぶりの悪魔の女の使い魔たる男の姿を見れば、連れ添ってきた夢魔に対して同様に、冬毛でもこもこになっている尻尾をぱたぱたっと元気良く揺らし、嬉しそうに目を輝かせた。

今はまだ再会を喜ぶ状況じゃない、と、夢魔の言葉にこくこくこくっと『お願い！！』っと目で訴えつつ、頷いて見せる。

彼の是の返答を聞けば、視線を夢魔へと移動させ、こっくり、１つ、頷いて見せて。

精神世界旅紀行～序章 2014/02/23/17:56:04 No.340

常闇の森

　見据えた目的を果たすべく、忠臣を訪ねんと夢魔と少女は異世界へ出向く。
　狼青年は二人の要望を聞き入れると、本契約の効力を以って悪魔が身を潜める場所… 常闇覆う深遠へ、一陣の風を吹き込ませるのでしょう──

　二人が次に目にする光景は、薬屋の屋根裏部屋ではなく、仄暗く鬱蒼とした森の中。
碧緑の木々が空を覆い隠す程に生い茂り、その根元ではやっと足元を照らす程度に輝く夜光の花が、その花弁を綻ばせている。
鼻を利かせれば土や木々の匂いに混じって、腐臭や血の匂いが感じられるし、耳を澄ませば葉擦れの音に混じって、唸りや呻きが聴こえてくる。
更に、慣れたものなら大して気にはならないだろうが、慣れぬものには不浄な空気──所謂、瘴気というものが澱みながら漂っているのが判る。

　…それから。
夜光花の光か、或いは木の葉の合間から漏れる月光によってか、或いは地面を踏む感触や匂いによってか
二人が立つ地面には、大きな血溜まりと数々の細切れ肉が残されている事も、伝えておくとしよう。

緊張。 2014/02/23/21:58:23 No.341

エル

一瞬の後、視界に広がる景色に、ぴこぴこと耳を揺らし、小さく眉を下げる。

どこか、物悲しい場所だと思った。
寂しい場所だと感じた。
夜行の花は美しく、漂う瘴気や血の匂いや腐臭は、恐ろしくはあったが。

こんな所に、一人で居るんだろうか？

少し怯えるように、傍の夢魔の袖口を半ば無意識にぎゅっと握ろうと手を伸ばす。

「ハイトおねーさぁん…？」

まるで迷子の子犬の様に、母と慕う悪魔の姿を探し、娘は視線を巡らせた。

異界渡り 2014/02/24/22:04:56 No.344

クルス HOME

まさか初っ端で手掛かりが掴めるとはと思いつつ、風に運ばれ異界を渡る。
己が夢に入り込む時のような浮遊感――

次に瞬きをした時には、辺りの空気は一変していた。
瘴気漂う、血と腐臭に塗れた地。懐かしい空気と足元への感触に、
男はｽｩ…と金の瞳を細める。
袖口を握られれば、その手首を掴みぐぃと引き寄せ、腕の中へ。

「離れるなよ、エル」

いつの間にか生み出した魔力剣を右手に、少女へ釘を刺し歩を進める。
より強く血の匂いのする方へ、より低く魔物たちの唸りが聞こえる方へ。

――ハイトの気配や魔力は、感じられるだろうか？

精神世界旅紀行～序章 2014/02/25/19:01:48 No.346

ハイト

　歩を進めるまでもなく、気配や魔力を探れば直ぐにでも感知できる。
二人の進行方向から凄まじい速さで向かってくる、悪魔と、もう一つの誰かの存在を。
　クルスが感知するが早いか否か、悪魔の魔力は大きく膨れ、分散し、其々が前方── エルとクルスがいる方向へと飛び交った。
刹那二人の中空を、白い生き物に跨った何者かが疾風の如く過ぎ去り、その後を多数の火炎弾が追う。
どうやら悪魔から放たれた魔力は、あの追尾式の火炎弾だったらしい。

　白い影は二人の上を通り過ぎたかと思えば、寸刻の間に炎を受け撃墜されるが、そこに駆け付けるなどの暇も二人に与えないまま、地面に落ちた人物の傍へと悪魔は降り立った。
漆黒の翼にて空を打ち、血に濡れた大地を踏んで、先端が槍のように尖った尾をぬるりと揺らしながら。
ジリジリと焼け付くような魔力は未だ悪魔の周囲を旋回しているようで、近付けば砂漠の炎天に曝されたかのような熱気を受けるかも知れない。

　悪魔はそちらに近付くなどの動きは見せず、ただ黙然と地面に転がったまま呻く白い影を見下ろしている。
やがて少しの間の後、僅かに、そしてゆっくりと、顔をそちらへと向け、右側の深紅の瞳だけを寄越した。

　「…… まったく …… 次から次へと …」

　肩越しなだけに表情の全ては窺い知れないが、少なくとも、普段の笑みを浮かべてはいないようである。
漸く紡がれた言葉も緩慢で、低い声調だ。

　悪魔の右手に提げられた白刃が　鈍く煌く

迷う暇無し。 2014/02/26/22:57:33 No.348

エル

「ッきゃーーーっ！？」
探るまでも無く高速に過ぎ行く疾風に、思わず悲鳴を上げた。
ぎゅっと閉じた目を次に開けた時、その視界に飛び込んできたものは、会いたくて焦がれた親と慕う彼女の、見知らぬ表情と声音だった。

どくんっと跳ね上がる鼓動と、内巻きについ無意識に巻いてしまう尻尾を押さえつける。
逆の片手は、自分を包む夢魔の男の腕へと添えて。

「クルスおにーさん、お願いします…っ」

身を守る術など、持ち合わせていない。
だから、夢魔に頼った。
自分は出来る事をするだけだ。
魔力は全て捧げても良い。
命は微かなろうそくの芯の先に灯った明り程度残れば良い。
疑問も不安も全部飲み込んで、じっと件の悪魔を見つめながら、祈る様に手を組んだ。

胸の奥に、小さく。
光が、灯る──。

行く先に居たものは 2014/03/02/23:33:43 No.349

クルス HOME

（（前方から、来る――！））

その魔力が膨れるのを察知すれば、咄嗟に腕に纏ったストールをエルに被せる。
一瞬視界が塞がれるだろうが、すぐ後に起こる熱を持った爆風から、彼女は免れることは出来るだろう。

離れていても、ﾁﾘﾁﾘと肌を焼くような強大な魔力。
けれどその瞳と、声と、面を見れば男の肌はｿﾞｸﾘと粟立つ。
恐怖でも危機でも悪寒でもなく、探し求めた彼女を見つけた喜びと――彼女ではない気配への、純粋な好奇とで。
男の手に赤く、燃えるような色の剣が宿った。

「……エル、何分要る？」

この女を落とすまで。それまで己が盾になる、と。
それから――今引っかけたストールを、絶対手放すなとも言い添えた。
少女の答えと聞くと同時に、これを中心とした周囲の温度が急降下して。
炎へ、熱へ対抗するつもりか、ﾋﾟｼｯﾊﾟﾘｯと辺りの空気が割れ、地が血と肉塊ごと凍てつき始める。

必要なのは。 2014/03/04/00:35:14 No.351

エル

「１０、数える間、頑張ったってっ！」

手放すなの言葉には、こくこくっと頷いて見せた。
大きく息を吸い込めば、あの日、悪魔の異変を聞いた日から、馬鹿の一つ覚えに只管高めた魔力を全てかき集める。

記憶を辿り、ずっと前。
魔法を覚えたばかりの頃に、迂闊に放った陽の魔力が持つ眠りへ誘う自然の力を。
彼女を眠りに導いた、あの陽の魔力を自らの体に巡らせ、太陽の効力をそのまま自らの体で具現化させる。
溢れるのは、陽の持つ効果。向ける光は件の悪魔へ。

彼女の体がその光に触れることが叶えば、あの日と同様に彼女の体自身が持つだろう、脳内から強い眠りへ誘う信号が流れるかもしれない。

『お願い、上手く行ったって───！！』

娘の願いは、届くだろうか。

精神世界旅紀行～序章 2014/03/04/22:24:22 No.353

ハイト

　視線の先に彼が居る。
その傍らに、彼女が居る。
なれば、己が何よりも先に成すべき事は二通り。
だが結論は、睡りを断った時から決めてある。

　１──
左足を軸に振り返りながら愛剣に魔力を込め、反転の勢いを加えて夢魔へ射出。防御せず喰らわば、身を断つ鋭さの剣圧を。

　２──
強く地を蹴り、距離を詰められるならば詰める。剣圧の後を追うように、迅速に。

　夢魔が周囲に冷気を放ち、少女がその身に陽光を湛えるならば、最早悩む暇など在るまい。
成さねばならないのだ。懐の時計の秒針が１０を数えるまでに。己の意思がある内に。

　地に伏す者も纏う熱気もそのままに、悪魔は深紅の隻眼を二人へ向ける。
未だ、意識が途切れる様子は見えない。

一縷の望みを掛けて。 2014/03/05/02:13:46 No.354

エル

元より、危険は承知の上だった。
恐らく傍らの夢魔も同様だろうと思った。
無力に等しい娘にできるのは、ただ傍らの夢魔を信じる事だけ。

自らの持てる魔力を、1滴残らず出し尽くす。
そう、決めていた。

溜め込むだけ溜め込んだ陽の力を向けながら、
半ば無意識に、大きく息を吸い込んで
悲鳴にも近い声で、大好きな大好きな人の名を呼んだ。

「ハイトおねーーーさーーーんッッ！！！」

力が尽きるのが先か、件の悪魔が眠りに落ちるのが先か、
夢魔の首が飛ぶのが先か──

エルの返答を聞けば、 2014/03/10/01:10:37 No.357

クルス HOME

「十秒、なッ！」

目の前の悪魔にも聞こえるように、そう、まるで宣戦布告でもするかのように声高に叫ぶ。
何分だ、とか大口を叩いたが、実のところこの悪魔を相手に、己の力で十秒も稼げるかどうか――
だがそれでも男は無駄に自信満々に、それを宣言して見せた。

剣に込められる魔力を感じれば、最小の詠唱で、一瞬の術を前方に展開する。

「凍て付け！！」

自身の声を術の要として生み出したのは、ブリザートのような、空気を凍らせるそれ。
向かい来る剣圧に、思い切り叩き付けた。
二つは空でぶつかり、互いを弾いてﾊﾟｧﾝｯ！と破裂音を響かせるだろう。
後を追いかけてきたのなら、少なからずその衝撃は身に受けるだろうか。

それにも構わず距離を詰めてくれば、炎の刃で以って迎え討つ。
右手で剣を振るい、躊躇いなく下段から横腹、胸、肩へと斬り上げる。
防ぐなら鍔競りになるかもしれない。

いずれにせよ、僅かでも女の足が止めることが出来れば、
男は左腕の中の少女に命令する。

「エル！そのストール、ハイトにぶつけろ！！」

彼女に被せた、聖属の気を編み込んで織られたそれ。
魔力を、特に闇の力を宿すものには強力な痛みを以って動きを鈍らせるもの。
かつてハイトが己の纏うそれに触れたかけた際、その気に気付き身を引いたのを男は覚えていた。

今の彼女にどれ程の効果があるのかは分からない。
が、尚も数秒は足止め出来るはずだと考えて――

必死！ 2014/03/10/09:36:20 No.358

エル

「はぃっ！！」

クルスの言葉に必死こいて眠りへと誘いながら、言われるがままに、タイミングを見計らい、ハイトに向けて被せて貰っていたストールを投げた。
距離があれば難しいが、此方へ向かってきているのであれば、ストールは彼女に届くかもしれない。

精神世界旅紀行～序章 2014/03/12/17:45:59 No.361

ハイト

　あの子が叫んでいる。

　でも、もう
　
　5pmC6ZaT44GM44Gq44GE

　３──
夢魔が放った冷気と剣圧が弾き合い、その衝撃が間に生まれる。
当然軌道上にいるこちらもその余波を浴びるが、右手に提げた愛剣を炎に変え、炸裂。更なる推進力を得、衝撃波を半ば強引に突破し二人の眼前まで。
炸裂した炎が悪魔の右腕を覆い、大きく、激しく、燃え盛る。

　４──
覚悟を秘めた夢魔の剣閃が胴へ迫り、更に魔の者にとっては脅威となろうストールがエルの手から投げられるが、構わず進む。

燃え立つ魔手が最早ヒトの形を成していない事は、正に火を見るより明らかだ。
獣のそれよりも何倍も大きく禍々しい右腕から逃れる術がないのなら、ストールと、夢魔が放った刃ごと、二人は魔手にて鷲掴まれる事となる。
片手の斬り上げで魔手を防げるというのなら、その剣を握り込み、振り払って、二人を引き剥がそうとするだろう。

　悪魔が意識を手放す様子は、未だない。

交差。 2014/03/13/19:05:16 No.364

エル

その手が鷲掴みにせんと伸びてくるのなら
無謀とも言える行動に出ようと足を踏み出した。

色々な事が脳裏を駆け巡る。

叱ってくれたこと。
向けてくれた微笑。
色々教えてくれた事。
宝物のエプロン。

判っている。自分は馬鹿だ。
なら、とことん馬鹿で良いじゃないか。

いつも逃げ続けた少女は、魔手が己を鷲掴みにする前に。
あえて業火に飛び込んだ。

そのまま、思いっきり、
彼女に抱きつこうと手を伸ばして。

「ハイトおねーさん、大好き。
どないになっても、大好き。
せやから、エル、ええよ。
ハイトおねーさんに、全部上げるよって…」

死とか、怖いとか、そういう思いは
全部吹き飛んでしまっていた。
死ぬ気は全く無いが、不思議と躊躇はしなかった。
投げつけた布ごと、件の悪魔に腕を、伸ばす。

少女の決断に男は、 2014/04/02/23:55:20 No.367

クルス HOME

相手は怯む様子も見せない。以前とはもう、違うのか否か。
たった十秒が、何て長い…

「エ…」

剣でか、あるいは魔術でか。迫りくる手に対する策を巡らせるほんの一瞬の間に、
ふっと腕の中の感触がなくなる。
視界に薄茶の髪が揺れ、流れていく。
まっすぐ女に伸ばした腕も、金の瞳にはっきりと映って。

迷う間はない。男は同時に地を蹴り、背中の羽をはためかせ、
悪魔の腕を頭を跳び超えて、その背後へ回ろうとする。
炎の剣を消し去り、代わりに創り出したのは氷柱のような氷の剣。
己の属性ではないそれは炎のそれに対し強度は格段に落ちるが、
構わず炎を纏う悪魔の肩に、腕に向けて斬りかかる。
重ねて短い詠唱を、最速で。

少しでも夢魔の剣が悪魔の腕に触れたならば、
そこを中心に凍て付く氷柱が悪魔の炎を鎮火し、
その身を貫こうと襲うだろう。

精神世界旅紀行～序章 2014/04/04/22:52:04 No.368

ハイト

　こちらへ飛び出した少女。
　こちらへ迫る夢魔の斬り上げ。
　二人を捕えんと振り上げた我が右手。

それぞれが同時に衝突するとなったら、果たして、傷付くのは、誰だろうか。

　───　５

　ストールが少女の手から離れるのとほぼ同時に。
逃げるでもなく、隠れるでもなく。
彼女は向ってきた。
刃も持たぬ両手を伸ばし、全て捧げるとまで告げて。

　───　　６　　　

　迷いなど捨てた筈だった。己が望んだ事を実現する為に、全ての躊躇は払った筈だった。

　───　　　７

　だが、どうだろう。

　───　　　　８

　眼前でその願望が斬り崩されようとすると、この身体はまるで言う事を聞かないのだ。

　───　　　　　９

　人間以上に愚かだ。もしこの光景を第三者視点で見ていたならば、間違いなく私は嗤っていた。

　───　　　　　　１０

　「結局、誰よりも覚悟が足りていないのは自分だったのだ」と──

　業と燃えていた炎は既に絶えていた。
瞬間的に機転を利かせた夢魔の剣撃、凛と凍える一振りの刃は瞬く間に悪魔の業火を鎮め、その肩をざっくりと貫いたのだ。
斯くして魔手は消え去り、少女の抱擁も容易に届く事となる。ストールが届いたか否か、風向きにより変化するのだろうが、どちらであろうと悪魔の意識は深い闇へと沈んだまま浮上してくる事はない。

　串刺しになったままぐったりとする寝顔は決して安らかとは言えないが──　一先ずは、二人の目標を一つ、達成出来た事に違いはなかろう。

10秒の後 2014/04/09/06:10:36 No.369

エル

伸ばした手は、そのまま彼女に届くと同時に、ぎゅぅっと思いっきり抱きしめた。
ぬるりとした血の感触に、不安で心臓がばくばくとする。

「クルス、おにーさんっ」

涙目で、彼女の肩越しに夢魔の顔を見上げる。
術は上手くいったらしい。

…とりあえず、止血したい。

悪魔の目論見は、どうやら上手くいったらしい。 2014/04/14/00:16:22 No.370

クルス HOME

賭けではあった。が、奇妙な確信もあった。

この二人が共にいるところを、自身は見たことはない。
母のようだと笑う少女の慕情は、もしかしたら一方的なものかもしれない。

けれど男は不思議と、女はこの少女を傷つけまい、と思っていた。
それはひょっとしたら、己も彼女の温かさに絆された者の一人であるから――かもしれない。

「――ﾊｯ」

それは息を吐いたのか、あるいは笑って見せたのか。
ぱしっと空に舞うストールを回収し、ハイトには触れぬようにして。
氷の刃で貫いた肩からは、芳しい鮮血がどくどくと溢れ出ている。
下手に抜くと惨状が予想されるため、そのまま剣から手を離し、
エルに代わって彼女を抱き留めようとする。

「…よくやった、エル」

くしゃ、とハイトの肩越しに茶の髪を撫でよう。
止血、だな。と小さく呟いて。

暫しお待ちを。 2014/04/14/00:37:43 No.371

エル

夢魔が彼女を抱きとめれば、自分はそっと手を解く。

ふわふわと頭を撫でられれば、えぐーっと涙が零れ落ちそうになるのを、ぐっと堪えて、夢魔の言葉にこくこくと頷いた。

通常の魔力により塞ぐ止血と違い、彼女自身の身体機能を促進させる治癒法は、完全に血を止めるまで時間を有する為、お気に入りのリボンを解いてしっかりと傷口をきつく押さえ込み、その上で彼女の自己治癒力を上げて止血を試みる事にする。

「剣、抜くよって。ハイトおねーさん、しっかり支えたって？」

意識を集中させ、細胞単位に意識を巡らせ、寸分たがわず刺された軌道を辿るように、剣を抜こうと試みる。
無事に抜ければ一瞬血飛沫が舞う事になるだろうが
瞬時に血管を押さえ込み、破けた血管を1本1本修復したい。

傷を完全に塞ぐことも傷跡を残さない事も出来ないが
とりあえず、出血だけは止められるかも。

治療の時間は、そう長くはかからない。
ものの数分で終える様。

ようやく、半歩を達成した感。 2014/04/15/23:53:54 No.372

クルス HOME

少女の泣きそうな顔に、ふっと夢魔は表情を和らげて。
常なら見せないような柔らかな笑みをエルに向けた。

「あぁ」

ハイトの身体を後ろ抱きにして固定し、頷く。
己の身をどうこうするならともかく、
誰かを癒す力はこの悪魔は持ち合わせていない。
エルにすべて、任せるようだ。

血が噴き出せば顔や腕に生暖かいそれが降り掛かるだろうが
気にすることはなく。
ﾍﾟﾛと口の端に付いたそれを舌で拭い、少女の術が止血するのを見つめて。

「……さて、これからどうするか」

目的は勿論、彼女を、そしてあの青年を
眠りに就いた悪魔の精神世界に連れていくことだけれど。
ハイトは恐らく、しばらく目覚めないだろう。
取り急ぎ、相模に報告に行くべきだろうかと。

どうしましょう。 2014/04/24/21:45:47 No.373

エル

「…ん、せやね…」

不安げな面持ちで、大好きな悪魔の傷を塞げば、眉を下げたまま夢魔を見上げた。

「此処から相模さんに連絡でけるんやろか…？」

ぶっちゃけ自分が居るこの場所が何処なのかさえサッパリ判って居ない子は、困惑の表情を浮かべた。

連絡が可能ならば、彼女の使い魔たる彼にも同行してもらえれば、それはとても心強いのだけれど、と。

閑話 2014/04/27/04:31:19 No.374

相模

───時計の針は、幾許かの刻を遡る。

輝く少女と夢魔の青年を送り出した男は、小さな小さな世界で一人彼等を見送った。
同行する事は赦されていなかった。
（否、同行する訳にはいかなかった。）

かちこち、柱時計の音が静かに響く屋根裏部屋で、その男は一人ソファに腰掛けていた。
身動ぎひとつせず、鼻を衝く鉄錆の匂いだけが傍らに在った。
（否、思考だけは息の根を止めたい程に活発だった。）

唯、只、顔色のひとつも変えず其処で愚犬は主人を待った。
（否、待っていたのは彼等の帰還か。）

待つ事だけは、赦されていた。

───休題。

主の御身が氷の刃に貫かれたその刹那、男は初めて身動ろいだ。
（この愚かなる忠臣には、主人に隠している事がある。）

数珠を嵌めた片手を持ち上げて、動く指が宙に光の文字を連ねた。
そうして現れたのは、白い鳥。
光を溢して羽ばたくそれは、瞬く間に風に巻かれて世界を渡る。

───現在。

男の名を呼んだ少女の前に、光る鳥は唐突に、ぱっと姿を見せるでしょう。
それは、あの狼男と全く同じ気配を持ったもの。

少女と夢魔の青年に、彼等の言葉を待つようにじっと視線を投げ掛ける、白い鳥。

はた、と男は動きを止める。 2014/04/28/03:54:23 No.375

クルス HOME

「……そういや、そうだな」

考えてみれば、ここって何処だろう。
ハイトを追うことに必死で、今更になって思い至るという不覚。
以前、これが訪れた彼女に関する世界のいずれかなら、
何となく戻れるんじゃないかと根拠のないことを思いながら、
傷の塞がった彼女の身体を横抱きにする。

……柔らかな肢体はちゃんと、規則正しい呼吸をしているだろうか？

「ん？」

と、突如現れた、この世界には些か相応しくない白い鳥に金の瞳を瞬かせる。
その気配は、彼の青年と同じもの。
本人ではないだろうが、彼の何らかの力によるものだろうと、
ぽつりとその名を呟く。

「相模、か…？」

お誘い。 2014/04/30/22:13:05 No.389

エル

不意に現れた白い鳥に、一瞬びくぅーっと尻尾が膨らんだ。
が、直ぐにその見知った気配に、手を差し伸べる。

「──相模さん？
…あのね、ハイトおねーさんの中に行ってこよう、思うん。
ちょぉお怪我させてもーたけど、ハイトおねーさんに、やっとこ眠ってもらえたよって。
多分、今しか行かれへんと思うん。
相模さんも、一緒に行かへん…？」

白い鳥へと呼びかけた。

葛藤 2014/05/01/02:10:53 No.390

相模

青年と少女が呼んだ名に、白い鳥はひとつ頷くような素振りを見せた。

様々な感情が混ざり合う瞳で、少女と、青年が抱く主の姿を見比べて、
差し伸べられた指先に、ちょんっと白いクチバシを触れさせる。

『……“俺”が、其処に立つ事は赦されておりやせん』

返答は、二人の脳内に直に響く類のもの。

『唯、お二人が潜られる間、主殿の身体をお護りする程度の事は出来るかと』

声音には、何の感情も無い。
唯、淡々と告げたかと思えば白い鳥はしゅるりと溶ける。
溶けた白い何かが地に降りて、陽炎のように銀狼へと形を変えた。

精神世界旅紀行～序章 2014/05/10/19:05:34 No.392

　二人が無事目的を果たし、忠臣との合流も仮とはいえ適ったところで、いくつかの情報と返答を記そう。

　一つ。
現在三人（二人と一匹？）がいる世界は、悪魔が日頃より入り浸っていた別邸、常闇の城が存在する碧の森の深層。
相模は勿論、一度訪れた事のあるクルスでも、当世界の匂いだの何だのを記憶しているなら、いつでも思い出す事が可能だろう。

　二つ。
悪魔はきちんと息をしている。
そして落ち着いてその姿を見ると──もっと早くから気付いていても不思議はないが──左目に眼帯をしている事が判る。
力の抜けた肢体は尚軽く、ひんやりと冷たい。

　三つ。
エルとクルスが悪魔との邂逅を果たした際、炎によって撃墜された人影。
跨っていたと思われる白い生き物はその場から消失しているものの、当人は未だ地に伏したまま、意識を失っている状態。火傷を負ってはいるが、生きてはいる。

　勿論、全てスルーして頂いても構わない。

精神世界に行く前に。 2014/05/12/07:11:31 No.393

エル

恐らく、崇拝していると言っても過言ではない彼女の片目を覆う眼帯には、直ぐに気付いて居ただろう。

ぐったりとする彼女と、離れた場所で倒れている人物を交互に見やる。

「相模さん、ハイトおねーさん、おめめ何で眼帯しててん？　…相模さん、なんや知ってはる？」

彼女のしもべたる男に問いかけながら、おずおずと倒れている人物の方へ近づいて見る。
怪我の具合が酷ければ、先に火傷の応急処置だけをさせて頂こうと。

回答 2014/05/13/22:58:26 No.396

相模

この狼男の幻影に判別出来た事象は、提供通りに三つ。

此処が、常闇の城が存る森であること。
主人が、まだ此処に“存在”していること。
誰かが、地で息をしていること。

少女の問い掛けに、ちらと主人を見上げてから銀狼は首を横に振る。

『生憎、今の主殿に関して俺が知る事は御二方より劣るかと』
（尚、この銀狼による強制的な主従契約の関係で、繋いだ細い糸を手繰るように眼帯で塞がれた目の状態を確認する事は可能だろうか）

無防備に謎の存在に近づく少女を見ても、銀狼は微動だにせず主人を抱く夢魔の傍を離れない。
唯、視線だけは少女へ注がれている。

今は意識を失っている“誰か”が、覚醒と共に万が一にも少女へ敵意を向けようものならば
その喉笛へ喰らい付く準備だけは忘れない。

まるで彫像のように耳尾も動かさず、銀狼は少女の行動を見守るばかり。

Re:回答 2014/05/15/07:22:41 No.398

ＧＭ

（何の事はない。眼球はある。　ただ、深層へ向う過程で本人のものではない異質な何かの存在を感じられるかも知れない。真っ黒い影のようなものが、ゆっくり、ゆっくり……蜘蛛の糸を手繰るかの如く、緩慢に侵食している）

ぐるりと辺りを見回して 2014/06/15/03:54:34 No.403

クルス HOME

目の前で鳥から狼に姿を変えた相手に、おぉ。と金の瞳を瞬かせ。
元よりここが何処か気付いてはいただろうが、改めて周囲を見やった。

悪魔の彼女の左目を覆う眼帯には、対峙した時から気付いてはいただろう。
膝を着き彼女の身体は膝に乗せる形にして、
そっと眼帯に手を掛け、外し、瞼に触れてみようとする。
記憶を辿る夢魔の力を指先に込めながら。

その下は、別段怪我をしてるだとかそんな様子はないだろうか？
相模を見やり、エルを見やり。少女の向かう先に倒れる誰かを見やる。

「エル、迂闊に近づくな」

誰かの元に行くことそのものは止めないが、
そちらに向けて自身のストールをぽぃと投げ付ける。
聖属の気で織られたそれを、「纏ってろ」と短く告げて。
最も、傍らの白銀の狼は、何かあればいつでも喰らい付ける準備はしているようだが。

精神世界旅紀行～序章 2014/06/15/15:32:24 No.404

　眼帯を外せば、いつも通りの──ただ、ちょっと悪夢にでも魘されているかのような──寝顔が出来上がる。
瞼に触れようとそれは変わらず、また、眼球はきちんとある事が夢魔の指先に伝わる事だろう。
怪我をしているという様子も、ない。

　少女が倒れている人物へ近付いてみたならば、短い白銀の髪と白を基調とした衣服、そして華奢な体躯の女性であること等から、以前どこかで出会った事のあるような既視感を覚えるかも知れない。
何れにせよ、白と赤で纏められた衣服は泥と血で汚れているものの、当人の自然回復力とやらが上手く働いているのか、それともそういう魔術でも施してあるのか、既に多くの傷は癒えつつあるという状況だ。
少女が手を煩わせるまでもなく、じき目を覚ますだろうと判断できよう。
　もし仮に敵意を持ってこの倒れている女に近付いた場合、白く大きな四足獣が青炎と共に現れ、牙を剥く事になるが── 様子を伺うのみならば、警戒の必要も特にあるまい。

ほっと一安心。 2014/06/17/07:43:29 No.405

エル

クルスの言葉に１つ頷き、ストールが投げられればありがとう、っと受け取り、しっかりと身に纏う。

倒れた少女に近づいて少女の様子を伺えば、お怪我は治ってきているご様子。
敵意は微塵も無い為、獣に会う事は無さそうだ。
ほっと安堵の笑みを浮かべれば、とたた、っと夢魔の元へと駆け戻ってくる。

「大丈夫そうやった」

準備は万端、いつでもいけます！と夢魔の顔を見上げた。

侍従 2014/06/17/23:33:39 No.406

相模

蜘蛛の糸が垂れるが如く、主人の中に揺蕩う何か。
“それ”は何時の日か、主人が己に語った存在なのでしょう。
二人が主人の中へ潜るならば、それが牙を向く事もあろうか。
動かぬ表情でも心中には一片の曇りが顔を覗かせて、細い細い繋がりの先に在る何かから意識を逸らさぬように心掛けよう。

ストールを纏った少女が無事に戻れば、後は夢魔の青年に任せる所存。

主人の中で揺蕩う何か。
そして、白い女への警戒も怠らず。
夢魔の青年と少女が主人の内部へ潜る間、念の為を考慮して外部からの護衛に務めるのみ。

銀狼は相も変わらず彫像の如く、彼女らの傍らでひたりと佇み動かない。

悪魔の彼女の寝顔をじっと見つめ 2014/06/22/02:51:44 No.407

クルス HOME

「………」

あまり夢見は良くなさそうな彼女の寝顔を見れば、僅かに眉を潜める。
元々不機嫌そうな顔が、輪をかけて不快そうなものに。
怪我はないようなら指を離し。身を屈め、閉じた瞼に口づけを一つ落とそうとする。
戻ってくるエルに顔を上げて。

「そうか。なら行くか。
　……ん？何かその女、前にお前が話してた奴に似てないか？」

さて、と気持ちを切り替えたところで視界に映った地に伏せる女の姿。
以前少女が語った、ハイトについて知るらしい女の特徴に多々当てはまる気がして。

はじまりの。 2014/06/25/17:45:57 No.408

エル

夢魔の言葉に頷いて、どこかで見た気がした彼女の方を振り返る。

「ぁ、うん。なんやどっかで見た気ぃしててん。
多分あの時のおねーさんやと思うわ。
まだ戦ってはったんや、ね。」

白い、白い女性。
それは確かにどこか見覚えがあり、あの時の女性の様だった。

しゅん、と眉を下げ、クルスを見上げ。
それから視線を相模へと向けた。

「相模さんは、あのおねーさん、知ってはる？」

特に何か此処で必要となる情報が得られないのならば
今はハイトの中に行く事を優先すべきか。
夢魔の傍らに寄り添うようにしながら、問うてみた。

静謐 2014/06/28/03:59:06 No.409

相模

少女と青年のやりとりも、これは只々静かに聞いている。

『まだ戦ってはったんや、ね。』

そう語った少女の声で、あの白い女は主人の敵かと己の認識を改めた。
問い掛けには少し考えて、首を横に振る。
もしも出逢った事があったとしても、赤の他人がこれの記憶に残ることは少ない。

「息の根を止めておいた方が良いのなら、そうしやすが。」

殺意もない淡白な口振りで、そう指示を仰ぐのみ。
盾になるべくして来ただけの愚犬は、主人の中に潜るタイミングはお二人に任せる心算。

ﾁﾗと白い女の背を見て 2014/06/29/00:35:27 No.410

クルス HOME

「目覚めて何か聞き出せるようなら、任せる。
　意識のないこいつに剣を向けるようなら殺せばいい」

ﾋﾗﾋﾗ手を振り、軽い口調で相模に一任するらしい。
それと、と己に寄り添うようにする少女を指して

「こいつの身体の番も、頼むぞ」

エルの身体を腕に引き寄せ、ハイトの身体に屈み込む。
「行くぞ」と短く告げ、眼帯を外した瞼に触れよう。
目を閉じてろと少女へ向けて、己のまたその身を相手の意識に滑り込ませるべく瞳を閉じた。

二人の身体を魔力が覆ったかと思うと、陽炎のように揺れる男の姿。そして不意に、

ﾌｯ。

それは幻のように、消えた。
同時に少女の身体も、傍らのハイトに覆い被さるように崩れることだろう。
彼女の意識だけを連れて、いざ　精神世界へ。

願わくば。 2014/06/29/23:40:38 No.411

エル

出来ることなら、誰かが死ぬのは見たくはない。
口を開こうとした所で、頭の上から夢魔の声が聞こえる。
紡がれたそれを小さく耳を浮かせて聞けば、自分はそのまま何も言わずに居た。

行くぞ、の言葉にぴんっと緊張が走り、こくり、と1つ、頷いてみせる。

「相模さん、ハイトおねーさんの事、お願いしますっ」

一声、声をかければ、ぎゅっと夢魔にくっついた。

見える景色はあの時と同じものだろうか。
意識は夢魔に連れられて。
体はその場に倒れこむも、それに気付く事は無さそうだ。

切願 2014/06/30/03:14:08 No.412

相模

青年の言葉と、小さな少女の反応。
ゆるり、と瞬きひとつ。

「了解でさあ。」

白い女の対応も、それぞれから頼まれた二人の身体も。
二つの指示に一言で答えたらば、後は二人を見送るだけ。
各人の顔を順に見詰めてから、主人の中へと潜り込むまでを静々と頭を下げて見送った。

青年の姿が消え、少女の意識が離れる頃、顔を上げる銀狼は
倒れ込み掛けた少女の身体を、ふかふかの毛皮もとい背中で受け留めた。
意識の無い主人と寄り添わせるように、そうっとそうっと地面に降ろす。

眠るように並んだ二人の顔を見下ろせば、ぺろ、と少女の鼻先を舐めてから
もふ、と主人と己の額を重ね合わせて、擦り寄った。
力なく垂れた尾が、一度だけ小さく揺れる。

「……お願いしやす。」

どうか、ご無事で。
三人揃っての帰還を願いながら、二人に傷ひとつとて付くことの無いよう身体をお護り致しましょう。

青年と少女が無事に果たされますように、此れにて暫しの静観。

精神世界旅紀行 2014/06/30/07:54:40 No.413

　斯くして、少女と夢魔は悪魔の精神世界に至る。

　精神世界に入れば、そこは以前クルスが見た通りの真っ暗闇。
視界一面黒で塗り潰されていて、物体の輪郭すら見えない状況だ。
夜目が利いたとしても、この空間ではやはりどうやら通じない。
目を開けているのか、閉じているのか。ここが音すら聴こえない場所だったなら、己が存在しているのかどうかすら疑わしくなりそうな──そんな空間。
しかし靴裏からは、固い床の感触が確かに伝わってくるだろう。

　進むか、退くか。
何れにせよ、出口はもうそこにはない。
離脱を試みるならば、夢魔の能力に頼る他に、今のところはなさそうだ。

確認を。 2014/06/30/13:46:40 No.414

エル

感覚だけ、と言うか。意識だけ、というか。
未だ本人は何となく体ごと移った様な気分で居るようで。

まずは色々試してみる。

ぎゅっとくっついていた夢魔の体の感触は、感覚としてあるだろうか。

「クルス、おにーさぁん？」

声を掛けてみる。
上手く声は出るだろうか。
自分の声は聞こえるだろうか。
クルスにその声は伝わるだろうか。

Re:確認を。 2014/06/30/20:30:42 No.415

（今のところ、２人の五感が制限されるような事象は起こっていない。声が出るか否か、触覚があるか否かは、クルスの能力次第だ）

懐かしの精神世界にて。 2014/07/07/00:20:30 No.416

クルス HOME

目を開けば、そこはあの黒の世界。
冷たい床の感触に、不安げに己を呼ぶ少女の声。
くっつかれれば、確かにその身は現実世界と変わらず、
否より鮮明にくっきりと低い体温ごと感じ取ることができるだろう。

元々男はこういった世界の存在。
今居るのが他所の庭だろうと、視界は閉ざされていようと、
存在ごと消されでもしない限り、それは揺らぐことはない。

「エル、俺はここにいる」

安心しろとでもいうように、ぽん。と記憶にある位置の少女の頭を撫でて。
ストールは未だ彼女に纏わせたまま。思う処はあれこれあるが、今はそうしておこうと。

「視界以外は活きてるか？　何ともないなら、行くぞ」

現実世界に生きる人間にとっては、長くいて気分の良い場所ではあるまい。
さて―――以前と同じ方法で、あそこへ辿り付くことは出来るだろうか？
唐突に男は固い地面に横たわり、手探りで件の扉を探してみる。
エルとは片手を繋いで、離れることがないようにしながら。

いざ出発。 2014/07/08/00:45:47 No.417

エル

声が聞こえれば、ほっと安堵の笑みが浮かんだ。
ぽんっと触れた感触に安心する。
此処は、大好きな人の中。
傍にはやっぱり大好きなおにーさんが居てくれてる。
だから、平気。怖くない。

「うんっ。だいじょーぶ！」

元気な声で返事を返す。
片手はしっかり夢魔の手を握り、もう片手はその袖をきゅっと握って。
夢魔が進むのに合わせ、着いて行こう。

精神世界旅紀行 2014/07/11/23:13:04 No.418

　クルスはその場で這い、手探りで扉を探し始めた。
が、伸ばした手は床を叩いたり空を切ったりするばかりで、扉の感触は一向に伝わってこない。
どうやら、ここに扉はないらしい。

ぉや、と瞳を丸くして 2014/07/12/23:03:14 No.419

クルス HOME

ここではなかったか、あるいは例の扉は移動したのか。
むぅ、と眉を寄せ――見えないけれどエルを見やって。

「前に‘見せた’時に少し話したか。奇妙な場所に通じていた扉……
　どこかにあるはずだ。まずはそれを探さないとだが…　お前、何か感じるか？」

問いつつ、己も瞳を閉じて。
記憶にあるあの場所の気配、魂の残滓、この身を焼いた炎の何かを感じ取れないかと探る。
エルにストールを預けている今、これの魔力は抑制も枷もない状態。
それでもこの空間では無意味なものだろうか？

Re:ぉや、と瞳を丸くして 2014/07/18/19:52:36 No.424

（では、微かに魔力の溜まり場の存在を感じられるかも知れない。１２時の方向、ここからやや離れた場所だ。以前、クルスがそうしたように、少し歩く必要がありそう）

やってみます！ 2014/07/19/11:11:37 No.426

エル

ひょっとすると、これより先にクルスの方がその魔力の存在に気づくかもしれないが。
クルスの言葉に、はゎっと見えない目を周囲へと巡らせる。
半ば無意識に集中した意識に、その魔力の存在が触れる事になりそうだ。

「えとえと…。ぅん、あっち！あっちになんか感じるわ！」

にぎにぎ、っとクルスの手を握り、その方角を示そうと。

12時の方角へ 2014/07/20/14:07:14 No.429

クルス

その何かを感じ取るのは、どちらが早かっただろうか。
いずれにせよ二人は魔力の存在を感じ、互いに口を開くことになる。

「お前も感じたか。……あっちだな」

そう顎で示すも見えまいが、握る手に応え、ｺﾂと一歩歩き出す。
気配は常に感知しながら、件の溜まり場に辿り着くまで。

精神世界旅紀行 2014/07/20/15:35:40 No.431

ＧＭ

　２人は暗闇の中を歩き出す。
ひたすらに魔力の感じる方へ進んでゆくのだろうが、曲がっているのかまっすぐなのか、昇っているのか下っているのか、上下左右の感覚が狂いそうにもなるかも知れない。

　そうして少しした後、漸くそれは現れる。
現れると言っても、視界一面黒で塗り潰された状態故に、どんな色の扉でどんな素材なのか、そして、扉との距離も把握することは難しいかも知れない。
普通のペースで歩き続けているのなら、でんっと扉に体当たり、なんてことも。

　特に何かアクションを起こすでもなければ、扉を開けるのも良いだろう。

繋いだ手は片時も離さずに 2014/07/20/23:15:59 No.436

クルス HOME

「……エル、平気か？」

己は元々「こっち」が住むべき世界ながら、
それでも上下左右どこともつかない空間は初めてのもので。
それでも自分は2度目だが、少女の方は…と表情も伺い知ることはできないものの、
その身を案じ、問い掛ける。

そうしていたらば唐突に、ｺﾞﾝｯ！　と額を何かにぶつけた。痛い。

「～～～～っ！！　ぁ、これか」

幸い、エルにその瞬間は見られなかったろうが、
繋いだ手の感覚が一瞬緩んだようには感じられたかもしれない。
声ならぬ声を上げた後、ぺた。ぺた。ともう片方の手で行く手を塞ぐそれに触れて。

これは、あの時訪れた場所と同じだろうか。
目を閉じ探ってみて、それを感じることは出来るだろうか？

Re:繋いだ手は片時も離さずに 2014/07/21/19:06:03 No.439

（扉の隙間と思しき部分から、魔力が溢れているのがわかる。当時訪れた場所か否かは、開けてみるしかなさそうだ）

そこが同じであろうと違う場所であろうと 2014/07/22/00:56:10 No.443

クルス HOME

隙間から漏れ出る程の魔力。
その扉は、あの時のものと同じようでもあり違うようでもあり。

どうやら、開けてみなければ分からなさそうだ。
なら、開ける選択肢以外あるまい。
今は何もまだ、手探りの状態なのだから。

「エル、行くぞ」

傍らの少女に声を掛け、いざ。扉を開こうと。

扉の向こうへ。 2014/07/24/09:31:29 No.449

エル

平気か？の声に、うん！元気良く返事を返す。
意外と怖くは無かった。
だって此処は、大好きな人の中。
傍にはやっぱり大好きな人が支えてくれている。
安心しているようで、引かれるままにトコトコ歩く。

ｺﾞﾂﾝと言う音は聞こえなかったが、緩む手と
一瞬詰まった様に聞こえた声に顔を上げた。

…突っ込んじゃいけない気がした。
きゅ、と手を握りなおせば、もう一度うん、と頷く。

「扉？　うん！！」

頑張ります！！
逆の片手をぐっと握って、こくこく！っと頷いた。

精神世界旅紀行 2014/07/24/21:10:59 No.451

　夢魔がノブに触れれば、それはレバータイプだという事が判る。
音もなく口を開けた扉の先には、過去訪れた通りの場所が広がっていた。

　悪魔の意識の中の、遥か深層。
本人の意思ある内は決して踏み入る事を許さないであろう境界線の向こうの、宇宙を思わせる無重力の世界。
無限とも見えるその空間、広がる闇に果ては無く、数多煌く星々でさえ距離感を狂わせる要因の一つとなり得よう。
そして、遥か前方に存在する一際燦然と輝く星と、黒く濁った靄のようなものが魔力と一緒にこの空間に遍く渦巻きながらその光へと吸い込まれていく様子も、当時と何ら変わらない。

　扉は開けど明かりは漏れず、今２人がいる真っ黒空間は真っ黒のまんまである。故に扉の形状や、真っ黒空間の全容が照らされる事はない。

　一歩踏み込めばそこは無重力。進むか止まるかは２人次第。

ノブに手を掛け、開いた先には 2014/08/01/00:03:17 No.463

クルス HOME

「あぁ……ここだな」

久しく目の前に広がる光景に、これが以前、
彼女の精神世界で訪れた場所だと傍らの少女へ暗示して。
ﾁﾗと横目で、見ることは叶わねど手を繋ぐエルの方を見やる。

……気懸かりなことは多々あれど、躊躇っていては始まらないか。

「無理は、するなよ。取り込まれるか取り残されるかすれば
　その後どうなるのかは俺も分からん」

一言。少女を制してから、ｽと扉の向こうへ踏み出そうとする。
少女もそれに倣うだろうか。あるいは待ったをかけるだろうか？

迷いは無い。 2014/08/02/08:34:43 No.465

エル

聞こえた声に、顔を上げる。

「うん！　上手く行くかわからへんけど
やるだけやってみるよって…

クルスおにーさん、お願いします！」

連れて行って、と、きゅ、と繋いだ手を握る。

精神世界旅紀行 2014/08/09/14:09:10 No.467

　宇宙空間へと身を乗り出せば、無重力という不思議な感覚が二人を包む。
だが精神世界であるが故、推進力は夢魔の夢魔たる力によって制御可能だろう。そうでなければ、延々この星空を漂う事になるかも知れないが、夢魔の意思により脱出可能ならばその心配も不要か。

　前方には変わらず強く煌く光がひとつ。もし近付くのなら、最終的には二人の身体を丸々呑み込む程の大きな輝きを放っていたのだと判明する。
　加え、霧か砂煙か、とにかく黒く濁りきったものが、魔力と一緒にこの空間に濛々と遍く渦巻き、その光に吸い込まれていくのも同時に見えよう。
黒い渦は、まるで突風のように二人の横を通り過ぎ光に向かってゆくが、それに触れた場合、渦の正体が何なのかを捉える事が可能だ。
ただし、幾千幾万、数多の怨嗟の声が混じり合った負念をその身に受け、無事でいられるかどうかの確証は持ちかねる。

　さて、太陽と向き合ったかのような眩しさの中心に目を凝らすと、そこにあるのは一冊の本。
表紙は閉じているが、魂に触れられるスキルを持っているのなら、干渉する事が出来るだろう。
　そして当空間に滞っていると、周囲に渦巻く負念が救ってほしいと懇願するかの如くその身に纏わりついてくる。
汗まみれでベタベタになった肌に通気性０の服がペタペタくっつくような感覚に見舞われつつも、長いことこの負念に絡まれていると、精神的か身体的か個人差あれど宜しくない不調が出てきたり、最終的には闇に呑まれてしまうだろう。

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

制限時間：１人３レス
闇に対する抵抗力などのスキル所持者は任意で＋１レス補正可
（尚、クルスのストールに対する黒い靄の反応は、前回と同じのようだ）

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

追記：制限時間を「１人３レス」から「１人３回まで行動可能（闇に対する抵抗力などのスキル所有者は任意で＋１回。脱出行動は回数消費なし）」に修正させて頂きます。箇条書きで構いません。
暗闇空間まで一旦戻って相談する、というのも可能です。その場合は、行動回数は消費されません。（ただし行動回数は回復しませんので、ご留意ください）

一方 2014/07/19/10:27:37 No.425

白い女

　夢魔と少女が悪魔の精神世界に潜り込んで少しした頃。
途絶えていた魔物の気配と、横たわる白い女の意識が戻るのはほぼ同時期だった。
身動ぎをして微かな呻き声を上げながら、じり、と上体を起こした女が真紅の瞳でまず最初に見たのは、悪魔と、それに寄り添う見知った少女。
苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、次に傍らの銀狼を睨むと、凛とした声でこう言った。

　「…お前もそいつを庇うのか」

現段階では殺気の類はないようだが、顔色からするに、返答次第といったところか──

応答 2014/07/20/14:15:08 No.430

相模

ぴん、と頭上に立つ銀狼の耳が動く。

二人を見送ったのも束の間、周囲でざわめく気配と白い女の覚醒。
身を起こす女の挙動を一つとて見逃さぬよう、獣の瞳が無遠慮な眼差しを投げ掛けた。

さわり、風が吹く。

確認めいた女の言葉に、銀狼が口を開くまで、置いた間は不自然に数呼吸。
一度は、答える必要など無いと判断した。
しかし、主へ潜る間際の少女を思い返す。
脳内で、己の行動と意図を置き換える。

「……、俺は、二方をお護りするだけでさあ」

鳶色の瞳に、感情は無い。
獣の声音に、澱みは無い。

警戒だけを怠らず、淡々、と答えた。

Re:応答 2014/07/20/16:11:43 No.432

白い女

二方。
狼が言い澱む事なく確かにそう言ったのを、女はきちんと聞き届けた。
では、残る一名は誰か？
確認作業を、女は言葉でなく行動で示す。

魔力の消耗、疲労、或いは手傷による失血か。やけに重く感じる体を出来るだけ直ぐに立ち上がらせ、傍らに現れ出でた真白き使い魔と共に銀狼と、草地の上に横たわる二人の元へと歩み寄る。
途中まで感情の読み取れない鳶色の瞳をじっと睨んでいたが、二人の横をぐるりと回り、悪魔の頭上で立ち止まる頃には、その視線も落ちていた。

薄茶色の髪の、犬耳少女。
妄信的に悪魔を慕い、信じきっている少女。

少女は少女であり、他の誰でもない少女。

ほんの僅か、哀れむように目を細めてから、真紅の双眸は悪魔を捉える。
左手を胸倉へ伸ばし、掴んで、引き摺り出す心算だ。

欺瞞 2014/07/20/18:51:36 No.433

相模

女の動きを視界に留めて、地へ座していた銀狼も同様に腰を上げる。

鼻を衝く鉄の香り。
その血から、女の種族は把握出来るか。
己よりも大きな使い魔の姿に、警戒は一際強く。
女と対面の位置を保つように、狼も動く。

主人の頭上への移動、少女を見下ろす動き。
ざわり、銀色の毛並みが僅かに逆立った。

女の腕が動く。
跳躍は一瞬。
地を蹴った銀狼は主人へ伸びる女の腕を遮る如く、間に身を割りこませようと試みる。
牙を剥き、あわよくば女の手首を喰い千切らん心算で。

Re:欺瞞 2014/07/21/21:14:32 No.441

白い女

治り掛けの生傷、そして衣服に付着した血の匂いからは、複数のものが感じられる。
ひとつは猫、ひとつは魔物、ふたつはヒトに似たもの。
そこから女の種を探るのは簡単ではないが、少なくとも２人以上の血が混じっているのは確かなようだ。

銀狼が女と悪魔の間に割って入れば、それはすんなり上手くいく。
更に手首に咬み付くのなら、それもすんなり上手くいく。
傍らに控えた白い獣も、銀狼が動くなり威嚇の唸りを喉の奥から鳴らし、牙を剥き出しにはしたものの、それ以上は何もしない。

左手首の皮を破り、肉を裂き、そして骨まで断たんとする顎の力に女は表情を険しくする。
例え痛みを感じない身体であっても、そうしただろう。

「……心中も厭わんか」

鳶色を再び捉えた真紅には、憂いと哀れみと、そして悔恨の色が浮かんでいた。

　銀狼は、女の手首を食い千切るだろうか

捕捉 2014/07/22/21:58:19 No.444

相模

あっさりと、女の白い肌は銀狼の牙を受け入れた。

鼻で確かめた血の香り、舌で確かめた血液の味。
銀狼の知識の中に、該当する種族は無い。
唯、女が人間では無いらしい事だけを理解した。

獣の威嚇には尖った耳を向けたのみ、鳶色の瞳は彼女を見据えて離さない。
抗う様子が無い女に、銀狼は躊躇いなくその顎へ力を込める。
手を引かぬようならば、ごり、と骨が軋む音を立てて牙を受け留めるか。

しかし、牙の侵入は其処で止まる。

『心中』

女を見る銀狼の瞳が魂を得た如く、じわりと怒気に似た色を滲ませた。
喉が低く震え、唸りを上げる。

ざわり、不自然な風が吹く。

銀狼は口を開かない。
女の肉へ牙を食い込ませた儘、異なる色の瞳を交わす。
彼女の瞳が湛えた感情と、言葉の意図を問うように。

Re:捕捉 2014/07/23/20:15:17 No.446

白い女

手は引かない。ただ、伸ばした手をぐ、と握り締めるのみ。
収縮した筋肉と骨が悲鳴を上げながらも銀狼の牙を留めたか──　否、その前に、銀狼が牙を留めたか。

怒りに燃える一対の鳶と高さを合わせるように左膝を付き、音沙汰なかった風を一身に受けながら、浮かべた色の理由を説いた。

２対１という不利にも見える状況下でさえ悪魔を守るという銀狼の固い意志は、かつて命を掛けて悪魔を救おうとした犬耳の青年を彷彿とさせる事。
このまま悪魔に尽くせば、遠からず銀狼も青年と同じように身体ごと命を焼かれ、魂の欠片も残らないだろう事。
悲劇が再び起ころうとしている今、やはり「あの時」何を置いても悪魔を殺すか封じるかするべきだったのだと後悔した事。

そう、確かにあれは心中だった。あの時確かに、悪魔も同時に燃え尽きた。
だが悪魔は死すれど何事もなかったかのように、同じ姿形で蘇ってきた。

不義理の上に立つ悪魔に尚も付き従うと言うのなら止めはすまい。
己に悪魔を殺す程の力は最早なく、また銀狼を殺す理由もない。
もし近々悪魔を、そして銀狼を殺す者が現れるのだとしたら、それは紛れもなく悪魔本人で、銀狼自身だ。

合間、問いが来れば女は平静に答える。
拒絶されれば語るも止める。
ただし手首を食む顎の力に断裂せんとする意志が見えれば、その腕は瞬く間に氷塊化し、砕く事はおろか、牙を抜く事も難くなる。

　一対の真紅に宿る感情は奥底まで仕舞われた。
憐情も、後悔も──　痛みすら諦めたかと思わせるかのように。

愚臣 2014/07/25/04:36:55 No.453

相模

静かに語る女の声を、銀狼が遮る事は一度も無かった。

時折、相槌を打つように尖った耳が揺れるだけで、紡がれる全ての言葉を受け入れた。
今や鳶色の瞳は冷まされ、鎮めた激情の後に残るのは取り戻した意志ばかり。

本能にも近い感情を、獣の脳で言語化する。

そろ、と女の手首を解放すべく狼は動く。
断裂とは正反対の行為ならば、女は相変わらず目立った行動も取らないか。
女から視線は逸らさずに、肉を、筋を裂いた牙を抜く。
当然のように傷も残るのであれば、ほんの一舐め、その手首へ舌を這わせようともするだろう。

そうして、血塗られた獣の口を開いて彼女に応えよう。

「……心中なんてモンじゃぁ、ありやせん」

血塗られた獣の口は、そう言葉を切り出した。

先ず第一に、己の命とは主人の存在そのものである事。
故に、主人の死とは己の死と同義であって、もしその時を迎えたとて心中と呼ぶなど己には烏滸がましい。
（銀狼はいつかの墓を脳裏に浮かべ、ほんの一瞬、初めて白い女から視線を外して主人を見た）
例えば己の命で主人に未来が与えられるのであれば、魂の消失とて厭いはしないと。
（主人が死すれば己の生きる意味とて消失するのだから、それが不義理な筈があろうか）

そして、「あの時」とは何時か、何が起こったのか、真っ直ぐに女を見据えて銀狼は問う。

愚臣である己と違い、主人を救うべくして動く二人…否、三人が居るのだと。
彼等の為に、情報を求めよう。

Re:愚臣 2014/07/26/10:07:57 No.455

白い女

牙が離されるなら女は特に何もしない。
ひと舐めされればそれも受け、すっと手を引き立ち上がるだろう。
白い獣も、剥き出していた牙をしまった。

滴る鮮血もそのままに、銀狼が語るをじっと聞く間は瞬きを繰り返す程度の動作。
たまに何かを考えるように視線を逸らしたりはするものの、それを発する事は終ぞなかった。

そして「あの時」について言及されれば、女は長く息を吐き、次のように聞かせる。
真っ暗闇の海の上、二度の夜明けを思い出しながら。

数年前、突如悪魔は己等が住む魔導界に魔界の魔物を放ち、襲撃を始めた。街や村は蹂躙され、多くの人々が犠牲になった。
ご丁寧に倒してみせよと宣戦布告までしてきたが、異形とまで化したあの勢い、本気で魔導界を滅ぼすつもりだったのだろう。
異世界で縁のあった仲間達と、各国の主戦力と協力し合って対抗し、結果、その心臓を貫いたのは悪魔の僕たる犬の獣人だった。
だが悪魔が絶命する瞬間、凄まじい力の収縮と破裂が起こり、爆発して、青年の剣と焼け焦げたゴーグルだけが後に遺された。
遺品は己の友人が回収し、魔導界は平穏を取り戻したが──

今も尚悪魔が生きていて、しかも過去に一度別件で魔導界に姿を現しているのだというから油断ならない。
今回はこうして別世界に入り浸っているようだが、何かしでかそうとしている事だけは確かだろう。

　最期の時まで付き従わんとする銀狼を留める言葉など持ち得ない。
なればせめて、真実を語ろう。

咀嚼 2014/07/27/07:52:32 No.457

相模

女が立ち上がれば必然的に見上げる姿勢で、解答を耳にする。
語られた過去はまるで欠片のようで、良いとは言い難い獣の頭で噛み砕く。

主人が己に語った言葉を思い返して、忘れていた瞬きをひとつ。

女の語った「それ」を行ったのは「主人」の意志か、「何か」の意思か。
「それ」を繰り返さぬ為の今ならば、主はきっと……──
鳶色の瞳が閉じて、開く。

重ねて問おう。
正攻法では勝ち目が無い事は、間違いないのだろうと確認を。
それでも、青年が心臓を貫けば一度は終焉を迎えられたのかと。
そして、主人に巣食う「何か」に心当たりは無いか。

以上の三点を、淡々と銀狼は口にした。
己の為すべき事は、既に決まっていようとも。

Re:咀嚼 2014/07/30/08:57:40 No.461

白い女

銀狼の問いに、女は一瞬の間双眸を細める。
杞憂であろうとなかろうと、三つ以上の返答を口にせねばなるまい状況が、此処にあるのだ。

細めた瞳を伏せ、咬み傷の治癒を始めながら女は傍の木に寄りかかり、更に言葉を紡ぐ。

　終止符を打ったかどうかは、悪魔本人が健在である以上己の口から真実を語ることは出来ない。
ただひとつ言えるのは、悪魔の中に未だ隠れているであろうものが、以前と少し質が変わったように思えるという事。
悪魔が魔導界を襲った当時、感じたそれは生物という認識が持てたが、今は生き物でも死者でもなく── そう、何か、無機質なもののように感じるのだ。
故に、今現在悪魔の中にいる「何か」が、魔導界にて発現した異形たる竜そのものであるかは判らない。

　そして、無難に戦力を固めて挑むにしろ、意表を突く手段を取るにしろ、悪魔の力の源となる負念や闇の類はゼロに近い方が好ましい。
魔導界での一戦では混沌に陥った各地から負念を吸い上げ、己が魔力としていた為に手を焼いた。
それらを全て遮断するか、吸収される前に別のものに換えてしまうか、何かしら手段を講じなければ長期戦は避けられないだろう。

開いた瞳は地面から銀狼、そして横たわる少女を捉え、また銀狼を映した。

冷たい風が吹き込めば、葉擦れの音と共に血の匂いや獣の唸りが女と銀狼の間を通り森の奥へと走り抜けていく。
鬱蒼と覆い茂り暗雲のように星空を覆い隠していた木々が、僅かの間、さっと払われた瞬間だった。

嚥下 2014/11/03/21:56:47 No.506

相模

この銀狼は利口だとは言い難く、狡猾にも程遠い。
尖った耳は女の言葉を余さず拾う事しか出来ず、愚鈍な脳はその言葉を記憶する事しか出来ない。

それでも、鳶色の瞳を真っ直ぐに白い女へ据えた儘、考える。考える。

どれだけ考えたとて明確な解など見えず、主の言葉に従う事で生きてきた獣には至極、難しくも久しい行為。
結局、思考として残ったのは最後に聞いた言葉の部分。

吹き抜ける風を追うように、ざわり、と周囲で風が巻く。
眠り続ける主人と少女を中心にして、白い女までを囲うように、風の障壁が木々の枝葉を揺らす。
それは強い魔物にまで効果があるものでは無いだろうけれど、万が一の足止めにはなろうかと、その程度の防壁。

「…身体を、移動させる事は？」

何か問題があるか。
血塗られた獣の口で、それだけを尋ねた。

Re:嚥下 2014/11/08/10:08:10 No.507

白い女

風の障壁が己が身を巻き込んで展開されるのを感じ取れば、靡く白銀の髪を癒えた左手にて軽く掻き分け、寄りかかっていた木から背を離した。

　「勝手にしろ、私は追わん。それに、そうする事で何か他の問題が起きたとしても、大した役には立てんだろう」

探さねばならない奴もいる。
そう付け加えながら、傍らに控えさせていた使い魔にひらりと跨る。
　主人を乗せると同時に青い炎球を四肢に浮かべ、地より数十ｃｍ程浮遊した使い魔が、ほんの僅かな間、作り物のような真白き双眼にて銀狼を見詰めたかも知れないが──　元より眼球の存在が危うい容貌だ、ただ向いている方向に銀狼がいただけ等と思う事もあるだろう。

この白い使い魔は、主人の意思以外の意味を何かに込める術など持ち合わせてはいないのだから。

一陣 2014/11/11/07:24:09 No.508

相模

白い女の動きには何を言うでもなく、鳶色の瞳が見守るばかり。
返答に応える代わりに、その双眸がゆるりと瞬いた。

『探さねばならない奴』

その単語にだけは獣なりに訝しげな面持ちで、言葉なく疑問を投げ掛けたものの、白い女を乗せて浮く使い魔を止めはしない。
果たして、目が合ったように思えたのは錯覚か否か。
それでも僅かに頭を下げて、会釈のような動きで彼女らを見送ろう。
風は白き使い魔を阻みはしない。
宛らそよ風のように、吹き抜けるだけ。

風の壁は緩やかにその範囲を狭め、主人と少女を囲うまでに収縮を遂げた。
ざわ、と鳴る風の音。

何ら障害も無いならば、少女と主人は銀狼と共に昏い森から姿を消す事でしょう。
行き先は、とある忘れ去られた世界。

果たして、上手くいくものか。

Re:一陣 2014/12/05/20:52:00 No.509

白い女

声無き疑問には答えるべくもなし。
浮遊した使い魔がぐ、と強く地を踏んだかと思えば、それは瞬く間に木々をすり抜け、空高くまで駆け上がる。
風も銀狼も、引き止める様子がなければそのまま女は使い魔と共に何処かへと去りゆく事だろう。

悪魔と少女に吹き巻く風を阻むものはここにはいない。
夢魔の能力に何ら影響が及ばないというのなら、無事銀狼の目指す地へと転移できよう。
が──
もしかしたら、夜の明けぬこの森を抜けようその瞬間、結界の力が僅かながら感じられるかも知れない。
感知すらば悪魔が張った常駐型の結界であることが判ろうが、感知したか否か、結界の質を知ったか否かはお任せ。