「いらっしゃい」
無愛想な声がカウンターから掛かる。若い―――その割にはどっしりと、重たい雰囲気を持った男が、客を迎えていた。
「こんにちわ、ベイクスさん」
「おう、久しぶりだなアリーズ」
入ってきたのはライカンスロープの少年。男―――ベイクスは彼の姿を目にすると少し口元が緩み、不器用だが温かみのある微笑を作った。
「お久しぶりです、確か・・・あれからもう3ヶ月ですね」
カウンターの席へとつきながら、アリーズは懐かしむような視線を店内に向けていた。
「そんなに経つのか、早いな」
言いながらミルクを注ぎ、出す。
「あ、ありがとうございます。・・・ええ、僕もそう思います。結構昨日の事みたいな感じですけど」
コップを受け取り、一口飲みながら、まだ幼さが残る顔で笑顔を見せた。
「で、試験はどうだった?」
「ばっちり、です」
ベイクスがぶっきらぼうに投げかけた質問に、アリーズは少しの間を置き、にこやかに答えた。
それを聞き、ベイクスは微笑むと彼の頭をくしゃっと撫で、
「そうか、おめでとう。それじゃぁ・・・」
と言いかけた時、店の扉が開いた。
「・・・いらっしゃい」
すぐさま手を離し、いつもの無愛想な声で客を迎える。
それを皮切りに、他の客がどやどやと入ってくる。店はあっという間に賑やかになってしまった。
「わっ・・・ なんだかすごいですね今日は」
「まったくだ。まぁ儲けが増える分には良い事だが」
一気に変わった光景に驚くアリーズ、それに苦笑するベイクス。
「それじゃ、僕はこれで・・・」
人が多いところが苦手なのか、ただ疲れが溜まってるだけなのか、アリーズは飲みほしたコップを返し、そそくさと立ち上がる。
「ああ、ゆっくり休めよ」
小さい、けれどどこか大きな彼の背中に声をかける。
「はいっ・・・ ベイクスさんも、お仕事頑張ってください」
振り向き、自分には無いものをたくさん持っている先輩に向けて一礼をする。
―――さて、どうやって祝ってやるか。
騒がしく、可笑しく、どこか厄介な・・・ けどそれが魅力的に見える日常を眺めながら、ベイクスはそんな事を考えていた。
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