->  嫌いじゃぁないね -きび団子-  <-
date->  Fri May 28 23:36:54 2004


「やれやれ・・・ 災難続きで疲れた」
「それはこっちの台詞だ」
 ゆるやかな山道に二つの人影、燃えるような赤髪が目を引く少女、麟樺と、ロングコートを羽織った水浸しの男、デイトナ。
「ま、水も滴る良い男って事で」
「許さん」
「冷たいねぇ」
「かぶった水が十分に体温を奪ってくれたおかげだな」
 そんな掛け合いをしつつ、歩を進める。夏が近づいているとは言え、流石に北の地方はまだまだ寒い。
「・・・温泉にでも入りたい気分だ」
 身震いする。厚手の服がすべて水浸しなのだ、水分はたっぷり入っており体力と体温を一気に奪ってくれる。
「いいねぇ温泉・・・ でもこの季節に入るってのは・・・」
「俺は今の状態だから入りたいのだ」
「嗚呼、なるほど」
 当事者の麟樺は他人事のように納得する。
デイトナは、もう慣れているのかそれ以上言うことは無かった。

「お・・・」
 それから数分、麟樺の目がある一点で止まった。
「何か見つけたのか?」
「ん。あれ」
 彼女の指差す方向を、デイトナも見てみる。
「ほぉ、茶屋か。今時珍しいな」
「ちょうど小腹がすいてきたところだ。食べてこうか?」
「勿論、お前のおごりだぞ?」
「・・・はいはい」
 デイトナに苦笑を返しながら、二人は茶屋へと足を運んだ。

 茶屋は少しくたびれた雰囲気が似合う。それで店員がお年寄りなら尚更・・・ とこれは誰が言ったか今は気にしないでおこう。
 出されたのは団子と温かいお茶。お店のご好意で、デイトナのコートと上着を乾燥させてもらう事になった。
「ん・・・ 久しぶりに食べたけど、やっぱり美味いわ」
「こういう素朴な味は、都会では見かけなくなったからな」
 団子の味に、二人は舌鼓を打った。
「まぁ俺はこっちの方が有難いが・・・」
 お茶を流し込む。じんわりと熱が戻り、生き返る心地がしてくる。
「はは、まぁそりゃそうだろうね」
 彼の様子に、麟樺は両手に団子の串を持ちながら軽く笑う。
「まぁな・・・ というか食いすぎだお前」
「別にいいでしょ。私のお金なんだから」
「そうだがな。俺の皿から取るなって事だ・・・ というよりお前こういうの好きなんだな」
 意外、と言いたげな表情をする。
「ん? そうかな?」
「うむ。何かこう、お前の場合は濃そうだ」
「分かんないよ」
 苦笑しながら、続ける。
「・・・でもまぁ、こういう味は嫌いじゃないよ。なんだかこう、暖かいじゃない」
「ほぉ〜・・・」
「・・・なにさ?」
 デイトナは何故か流し目で彼女を見ていた。
「いや、そういう言葉が出るとは思ってなくてね。正直驚いた」
「・・・旦那は私をどーゆー風に見てるんだよ」
「言おうか?」
「想像がつくからやめとく」
「妥当だな」
 そんな談笑をしつつ、日はすっかり落ち、空は夕焼け色になっていた。
「さて、すっかり長居してしまったな」
「そろそろ行くか。あ、これ包んで」
「まだ食うのか・・・」
「お土産だよ、おみやげ」
「なるほど。んじゃ先に行ってるぞ」
 団子を包むのと、会計に少し時間がかかるのを悟り、デイトナは先に歩き出した。
「迷子になるなよー」
 その後ろで、麟樺が皮肉混じりに言葉をかけてきた。彼はただ手を振って答えるだけだった。